第43話 役立たずな私と問題児たち
――さて、結果から言うべきだろうね。
一対十。圧勝だったよ、ランディキリヤ組がね。
「ふぐっ……ふぇえ……」
ちなみにヘルフリート君は開幕早々に剣が折れた。一匹目を切った瞬間に、ばきっと、根元から。
あとは動きの早い蛇を追いかけて、殴ろうとしては避けられる――何十回と逃げ回られたあたりで涙目になって、ランディからの十匹狩ったというコールを受けて終了という運びになった。
そういえばキリヤはかなり機嫌の良さそうな顔をしている。純粋に勝ったことが嬉しいんだろうね、鼻歌交じりにスキップをしているよ。
「――ああ、スキップって言ってもジャンプに近いから全力出せるし、走るよりは遅い。そんでリズム感も養えるから、ゲームで歩くのに慣れるのにはいいんだ」
「へぇ」
「年取るとスキップできなくなるしな……」
「できないんだ?」
「いや俺はできるよ? 二十歳だし! まだ二十歳だし!」
ちょっと必死だね。
「……まぁ、なんだ。キリヤは運動神経いいな。二人同時だったから手が回らなかったんだろうな、あの様子だと。ムギがやらせてた二週間の走りこみで足の慣らし運転のほとんどは終わってたみたいだし。そろそろ普通に歩けるとは思う。そうなったら問題児のレベルが低くなるな」
それでも問題児なのか……。
「やっぱりリアルで歩けないって、問題なの?」
「かなりな。生まれつきの障害者はまったく歩けないこともあるぞ、そもそも脳が歩き方を学習してないらしいからな。クソ幼女とムギが言うには、当時はカリキュラムも試行錯誤の連続だったらしい」
「へぇ」
「キリヤはアリスと同じで事故だったらしいし、ゲームだって割り切ってるから歩けることへの恐怖は薄かったのも助かったわ」
「その手の問題って、ゲームでもやっぱりあるんだ?」
「挙げたらきりがないぐらい」
「そうなんだ……というか、アリスのこととか、キリヤちゃんのリアルをよく知ってるね?」
「子供ってひねくれてても純真だからな」
「詐欺が心配になるね」
「クソ幼女みたいに捻じ曲がっててくれりゃぁ不安はないんだけどな……」
ランディはいつもさり気なくアリスを貶めてくるね……まぁ、彼なりの愛情表現なんだろうけど。
「で、歩けるようになってもまだ問題児なの?」
「そりゃぁ、子供に悪影響を与えたとかで。リアルのほうで親が運営に苦情出して、主に関わってる俺らに注意が飛んで――ってまぁそんなところかな」
「というか、悪影響を与えるなって言っておきながらよくこういうゲームをやらせるよね。首が飛んだり内蔵が飛び出したりで……」
「ゲームのレーティングを思いっきり下げれば酷くはないぞ? 首を刎ねても即死ダメージは入るけど体と繋がったままだし、内臓は見えない。剥ぎ取りしたときのアイテム入手は確率になって――って、まぁ某狩りゲーに近くなるな」
「へぇ」
「確実に欲しい部位が取りたけりゃレーティング上げるのが一番だけどな」
「そういう目的でレーティングをあげて大丈夫なの? 対象年齢の問題がでるんじゃないかな?」
「レーティングは十八禁とZ指定以外はあくまで推奨であって、保護者やプレイヤーに任せるっつー現状が問題なんだな」
「保護者の責任が私たちに飛んで来るのかい!?」
「そうだよ。このゲームは子供ってだけで問題児なんだよ」
とんだ責任転嫁じゃないか。
だからムギさんが自分のギルドのメンバーにお願いしても、依頼を出してもなかなか人が見つからなかったのか。
そうすると、知り合いだから近藤さんを関わらせたんじゃなくて、悪影響を与えるようなプレイヤーと関わらせないように暗殺ギルド自体を巻き込んだのかも……。
あんな雰囲気なのに、案外したたかなんだな、ムギさんって。
「なんだか、今時の教師みたいだね」
「まぁな――ところでこないだアリスの件で俺に苦情が寄せられてきたってGMから注意勧告されたんだけどなんかしたか、レン」
「普段、どういう風に生活しているか手紙を送ってるだけだよ?」
「そうか……一応注意してくれよ? アリスの証言がなかったら俺、結構ヤバかったし」
「ヤバかった? どうなるんだい?」
「よくてアカウント凍結、最悪削除。つまりログイン不可だな」
「……ごめんよ」
「初心者ギルドの時代からムギの押し付けとか、アリスの事でいろんなGMと付き合いがあったからな……顔覚えられてなかったら一発レッドカードだったわ」
前も思ったけれど、運営と顔見知りってすごいな、ランディって……大半が従妹のせいなんだろうけど。
「ま、そういうわけでヘルフリートのほうは慰めておかんとな」
「大人げないことやっておいてかい?」
「どうしても手っ取り早く問題児のレベルを普通の子供レベルに下げないと、あのままじゃぁ話すら聞かないからな。武器は壊れる物だって説明もしなきゃならんから……まぁ俺の剣を目の前で叩き折って見せれば納得するだろ」
「そこまでするのかい!?」
「武器の耐久力が設定されてるゲームって少ないんだよ。むしろずーっと使えるものだって考えてたってちっともおかしくないからな」
そう言いながら、腰のアルバトロスソード――いや、アルバトロスソード風に装飾したスクラマサクスに手をやった。
鞘の形からも分かるとおり、形状がかなり西洋剣に近くなっている。実際に発掘されるものに近いほうの種類に変更したんだ。
以前は場所が森だったからナタに近いカッターナイフ型を選んでいたけれど、普段使うならこっちのほうが斬りやすくていいらしい。
――私の選んでくれたものを気に入ってくれたのが、すごく嬉しかった。
その時、いつも何かしら助けてくれていたランディに少しだけ恩返しができたような気がしたんだ。
(だからあんまり折って欲しくないんだよね……)
でも私が口に出すことじゃないんだろうね、きっと。
「予備の刀身を一本買っておいてよかったなぁ」
ちなみに刀身以外のパーツは私が竜殺しになったお祝いということでプレゼントしたんだ。
そうしないと軍曹が「包丁に見える」って言って、暴走を懸念して没収しそうになったからね。
――せっかく恩返しができたような気がするのに、それを没収されるなんて嫌だから。
「あとで宅配の依頼でも出すかな」
「宅配の依頼? お使いってことかな。そういうのもあるんだ?」
「まぁ別の街に向かわせることになるから、初心者向けじゃないんだけどな。一般人販売って一口に言っても、その街でしか買えないものってあるから」
「そういうのがあるんだったら、どうして私に教えてくれなかったんだい? よっぽど私向けのお使いじゃないか」
「お前は自分の火力をよーく思い出せ、な?」
「……そうだね」
途中でMOBの大軍に襲われることを考慮した場合、自分にはまったく向かないことだと改めて思い知る。
オリンピアの街の目の前に巨大クレーターを作ってしまったからね……。
「今後は自重することにするよ……ところで」
「あ?」
「今回の結果について、教えてくれないかな?」
ようやく私は本題を切り出した。
「あー、当然の勝利だな」
……やっぱりね。
ランディは、ずっと泣きながらとぼとぼと歩くヘルフリート君の背中を見る。
「金のために剣士選んで、全部売って高い武器買って、そのあと二週間ずっとスキルもなしにゴーレム叩いてりゃあな。まぁよくも二週間も持ったって言いたいところだ。ゴーレム系は初心者用でも切断耐性があるし」
どこか優しげな声だ……でも勝負のほうは計算済み。まったく大人げないね。
「ちなみに、ネズミと蛇はどちらが強いんだい?」
「単なる相性の問題だな。蛇は素早いけど体力がない、ネズミは体力があるけれどあまり素早くない。逆だったら五分かって程度」
「なるほど」
負けるべくして負けた、ということか。
「それで、勝者は敗者に何を従わせるんだい?」
「いろいろと教えるから大人しく話を聞け、だな。剣折れたことも説明しなきゃならんしな。それと」
「と?」
「大切なものがなくなったり壊れたりしたら誰だって悲しい。だから勇者様だろうと他人の家を勝手に漁ろうとするなって教えやすい」
「身にしみて分かりそうだね……でもどうして勇者って他人の家を漁るようなイメージがついたんだい?」
「某有名RPGゲームのせい。他にも有名どころで『殺してでも奪い取る』っていうのがあるぞ?」
「強盗殺人じゃないか、すさまじいね。さすが“勇気ある者”だ」
「犯罪犯す勇気よりも大切な勇気ってあるはずなんだけどな……ま、そういうわけでフォローは必須になったけど、犯罪者にしないためにもな」
「いろいろと考えているんだね」
私だったら、何もかもを全部座学で終わらせてしまいそうだ。
でも、やっぱり一度ぐらい痛い思いをしないと分からないことってあるんだろうね。
「ムギだったらもっと効率よくやれるんだけどなぁ……っつーか結婚十年目でまだ旦那とラブラブかい、まったく……」
「憧れる?」
「今は目の前の事と、店の事で精一杯」
「そうかい……」
だから童貞だとかいろいろ言われるんだよ、ランディ。
「ところで、もうひとつ聞きたいんだけれど」
「ん?」
「もう少し、私にもいろいろと教えてくれないかな? どたばたして、結局ほとんど何も知らないんだし」
「あー……お前は今のままで十分だと思うんだけどな」
「……ダメかい?」
「おあずけ食らってる犬みたいな目ぇすんなよ」
まったく、なんて呟きながら私の頭をぽんぽんと撫でる。
「いずれちゃんと独り立ちしろよ?」
「うん……」
ほっと一息。
「で、これからどうするんだい?」
「そこを考えるのがお前の依頼なんだけど……装備の話が終わったら、まずは金の稼ぎ方だな。教えるべきは」
「……世知辛いねぇ」
「資本主義社会だからな」
[to be next scene...]
ランディは予備の刀身を取ってくるということで一度店に戻ったけれど、私たちが向かったのは訓練所だった。
ここのゴーレムはチュートリアル用だから、何度壊れようとも三十秒程度もすれば逆再生するように復帰するし、安全地帯に逃げ込めばすぐに諦めてくれる。
つまり練習相手に困らず安全に教えられる。ということだ。訓練所と言う名前は伊達じゃないね。
まぁ、チュートリアルエリアだから当然なんだけれども。
「――よう、待ったか?」
ランディは大きな包みと、細長い包みを抱えてやってきた。
「少しね」
「オレは歩く練習してたから、気にするほとじゃねーよ」
「……」
ヘルフリート君だけは返事をしない。ずっと、折れた剣を抱きしめて拗ねている。
「それじゃぁヘルムート、勝者の権利を行使させてもらうぞ? ――大人しく説明を聞け。以上」
「なんだよそれ……!」
ヘルムート君の目に怒りの炎が灯る。
「こっちはバグって剣が折れてんだぞ!? おっさんのせいだ! あんなこと言わなきゃ壊れなかったのに……!」
ランディの言ったとおり、武器や防具は壊れない、と思っていたんだろうね。
ヘルフリート君は他のゲームの知識で考えようとするきらいがあるな……やっぱりこのゲームって特殊なのかな?
――きっと特殊なんだろうね。
アリスみたいな子に、リアルを感じて欲しいってコンセプトらしいから。
でもランディ、その言い方はすこし悪い気がするよ。もう少し柔らかく言えないのかな?
「ヘルフリート、お前さ、武器や防具の耐久力が決まってるゲームってやった事あるか?」
「……たいきゅうりょく?」
ヘルフリート君は意味が分からないといった表情を浮かべて、
「切れ味みたいなもんか?」
キリヤちゃんはなんとなく分かったような顔をする。
――このゲームを始めるまでやっていたゲームのジャンルが違うのかな?
「別ゲームの話してると版権とかなんとかうるさいヤツがやってくるからあんまり明言したくないけど、そんなもんだ。最低まで落ちたら折れる、そういう仕様だと思っとけ」
「なんだよそれ!? バグじゃねぇか!!」
「砥石必須かよ」
「バグじゃねぇよ。あと砥石じゃなくて武器屋や鍛冶師に金払って直してもらうんだ。まぁ人によっちゃ壊れ方に差がでるんだけど……まぁ百聞は一見にしかず、だな」
そしてランディは、アルバトロスソードに似せたスクラマサクスを抜き放った。
「ちなみにこれ、最近別の街で買ったやつな。実はクレイモアよりも高い」
「マジで!? そっちくれんのか!!」
「やらねぇよ」
――ヘルフリート君はさっきから責任転嫁というか、アイテムを貢がれるのは当然だと思い込んでいるようなフシがあるなぁ。
これも勇者様系の特徴? それとも彼本人の性格? 判断がつかない……。
「ちなみにさ、ランディ。クレイモアの値段っていくらなんだい?」
「一万。NPC売りで、この街で一番高かった」
「初心者には大金だね」
ちなみにランディのスクラマサクス自体はクレイモアよりは安い。私がプレゼントした装飾品が総額に下駄を履かせているんだ。
ウソは言っていないけれど、決して本当の事は言っていない。
「見せびらかしかよ!」
「違うわ」
剣の両端を持って――パキン、とそのまま自分の膝で叩き折る。
「「――ッ!」」
その行動に二人が絶句して、私は心が少しだけ痛む。
「見てたな? 武器は使い方が悪いと、こんな風にけっこう簡単に壊れる。服とか防具とか、まぁリアルと同じだな、この辺は」
「なんで壊れるんだよ!」
「壊れなきゃ武器や防具作ってるやつの商品が売れないだろうが」
「じゃぁそれが弱い武器だっただけじゃねーの!?」
「弱くはないぞ。むしろ強いくらいだ。わざわざ使い慣れた前の武器から乗り換えるぐらいにな」
気に入ってくれて、私も少しだけ恩返しできたみたいで嬉しいよ。
「というかヘルフリート、さっきから罰ゲームの内容、全然守らないとかそれは勇者としてどうなんだよ?」
「バグのせいで負けたんだ! 俺様はおっさんよりすっげー強くて偉い勇者だなんだぞ!」
彼は覚えてないのかなぁ。
ランディは、師匠ということで紹介されてたはずなんだけれど。
「ねぇヘルフリート君」
「んだよ、おばさん」
「……ここで私の魔法の実験台になるのと、大人しく言うことを聞くの、どっちがいい?」
「おいばかやめろ。お前のはマジでシャレにならんから!」
「大丈夫だよ、ランディ。ちょっとお灸をすえる程度さ……そっちの包み、武器なんだろう?」
私は、大きな包みのほうを指差す。
「いや、確かにそうだけどさ……他のやつらに迷惑かかるし、金稼ぎとか教える必要があるのに壊されても問題がな?」
口はあんまり良くないけれど、実に優しいよね。ランディは。
でもいい加減私だって役に立ちたいんだ。
「舐められちゃいけないんだろう? バグもなにもなしに負けたら納得するよね、ヘルフリート君も」
「どうせ魔法使いなんて貧弱な装備しかできないやつに勝ったって嬉しくねーんだけど?」
「君は何でも忘れるね」
私の使う魔法は、ほとんどが封印レベルだっていうことを。
「なんだとっ!?」
「勝負しよう。私に負けたらちゃんと話を聞くこと。あと、特に親しくもない年上の人にはちゃんと敬語を使うこと。そんな口をきいてたら、誰も相手にしてくれなくなるよ」
「ねーよ、俺様は勇者だからな!」
「ランディ、武器を渡してあげて」
「いや、だから」
「渡してあげて」
「……ここ、チュートリアルエリア。他の人の邪魔、ダメ」
「チュートリアルだよ? 大丈夫、一瞬で終わらせるから」
「言ったなこのババァ! おいおっさん! 武器よこせ武器!」
「――ランディ?」
私とヘルフリート君に挟まれて、ランディは深く深くため息をついた。
「問題児どもめ」
「そんなふうにしたのはランディじゃないか」
「誤解を招くような言い方をするな」
「失礼」
私はかばんの中から、黒い装丁の魔導書を取り出す。
「……ランディって大変だな、オレ尊敬するわ」
「この場でそう言ってくれるのはキリヤだけかも知れんわ……」
「ま、一緒にサッカーした仲だしな!」
ランディからヘルフリート君にショートソードが投げ渡される――奇妙な友情を芽生えさせている二人なんてほとんど思考の外だった。
「チッ、しょっぼい剣……で、ルールは? ババァぶっ飛ばせばいいのか?」
「プレイヤーを殺すのにはスキルが必要だからね……そうだね、有効打一発ってところでどうかな? 全力で殴っても、全力の魔法を使っても別に痛くないから、ランディとキリヤちゃんが審判だ」
「え、オレも?」
「ランディだけだと不満を言うかもしれないしね。一発で分かるようにするよ」
「……なぁランディ、オレどうすればいいんだよ?」
「は~……めんどくせぇからちょっと待ってろ、めっちゃ公平なヤツ呼ぶから」
ランディは懐中時計を取り出して、コールし始めた。
[to be next scene Side Galantine...]
「――……経緯は分かった」
俺は呼び出した男に事情を説明した。
「しかしこっちは仕事中だ」
暗殺ギルドのギルドマスター、近藤勇。第三者なんだから、こいつほど公正なヤツはいない。
「じゃぁあいつらどーにかしてくれよ、マジで。迷惑防止条例とかなんか作ってよ……レンがキレたらどーも手がつけられんし」
「お前のお守り不足だろう?」
「アイツの沸点っつーか怒るポイントがイマイチわからねぇんだよ!」
「私は別に怒ってないよ?」
最近分かってきたけどお前怒ってるとうっすら笑うんだよ……いっつもほとんど表情崩さないお前がうっすら笑うんだよ。
怖いわっ!
「……お前がいるからこそ、安心して見張りも何も割かずにすんでいたんだが?」
ああそうだろうな。レンには絶対向かない依頼だもんな。
つーか意外と俺信用されてるのね、お前には。
「引き受けねぇとまた辛いの食わすぞ?」
「貴様……! あの後どれだけ辛かったか分かっているのか……! リアルで頭痛が止まらずインしても口の中の辛さは取れず……!」
そうだろうな。辛味成分のカプサイシンの純粋な結晶より辛いブツだもんな。本来の用途は対MOB撃退用だし。
あんなん食って強制切断食らわないヤツはデスソースで舌が慣れてるヤツぐらいじゃねぇのかな?
「いさみんって子供舌なんだな、強面のクセに」
ん? キリヤと面識があったのか。
まぁムギのことだろうし「こんな怖いお兄ちゃんがたくさんやって来るんだよ~……」とか言うためにわざわざ会わせるぐらいはするか。
「つーか来たんならさっさとやれよジジィ!」
「――引き受けてやる」
「お前も大概大人げねぇな」
キリッとした顔で俺を見られても困るんだけど。
「背中に背負った誠の一字にかけて公平を期そう」
ヘルフリートがよっぽどの格闘技の達人でもなければ、レンに勝つことって無理だろうしな。
ホント大人げねぇわ。
「軍師、一応言っておくが街を破壊するような大禁呪は禁止だ。自分の称号を忘れたわけではあるまい?」
「勝手に呼ばれているだけじゃないか」
「ヘルフリート少年、彼らに大人しく従っていたほうが身のためだがいいか?」
「はんっ! 貧弱な魔法使いが勇者に勝てるわけねーだろ! こんなババァ倒してさっさと俺は旅に出る!」
「では両者、離れて」
近藤の言うとおりに、おおよそ十メートルぐらいの距離に離れる――宣言と詠唱時間が発生する魔法使いにとっては若干不利な距離だな。
迂闊に魔法を使えば自分も巻き込まれるし、相手が素早い動きをすれば魔法が当たらない。そもそも魔法が発動する前に切られる可能性がある。
しかも魔導書型は通常の魔法使いと違って、使う魔法のページを開いて狙いを定める。一行程多いのだ。
コレは負けるかもしれんな……つーかヘルフリートがこの街から離れたら即戻ってくるだろうしなぁ……あー、どうフォローするかなぁ……。
「尋常に――はじめっ!」
って始まったし。
「だぁああああああ!」
ヘルフリートは大きく剣を振りかぶって突撃する。もちろんスキルはないが――切っ先が届くのに一秒もかからないだろう。
――が、
「≪バインド≫」
レンの既に詠唱は完了していた――って早撃ちってレベルじゃねーぞ!?
「ああああ――げふっ!?」
芝生の上で柔らかいけれど、それでも重力が増した状態で転んだんだ。
ヘルフリートが口から血しぶきを吐く――かろうじて生きていると信じたいな。
「う、うごけねぇえええ……!」
「三十秒間はそのままだよ。ついでにダメージも入ったね。飛び上がっていたら確実に死んでいたところだったんだけれど、よかったね? さて、何でトドメを刺してあげようかな……」
レンが改めて別の魔導書を取り出そうと――
「やめ、やめ! ドクターストーップ! HP確認できないけど、ぜってぇダメージすんげー入っているから!」
――あ、レン嫌そうな顔しやがった。
分かるんだよほとんど顔色変えないけど! お前機嫌が悪いと微妙に目が細くなるって分かってんだよ!
「……命拾いしたね? ヘルフリート君?」
ガチ殺しにかかってたー!?
「見るまでもないというか、酷いな……勝者、軍師」
「近藤ぉおおおおお! 宣言遅いんだよぉおおおおお!」
コイツマジでもう一度毒殺してやろうか、おい。
「私は軍師じゃないよ、レンだ」
「……暗殺者、もう少しちゃんとコイツの手綱を握っていてくれないか?」
「今でさえアリスで手一杯なのにかよ……」
従姉妹揃って厄いな……!
「ランディ、なんか手伝うか? オレ」
キリヤは優しいなぁ、マジで。
「お前はもう少し女の子らしい口調にしたら、モテるかもな」
「ロリコンかよ。ったく、小学生口説いてどーすんだよ……へへっ」
「ロリコンじゃねぇし口説いてもねーよ、普通に褒めただけだよ……」
つーか、まだ十一時なんだよな……問題児三人かかえてどーすりゃいいんだ、俺。




