第42話 役立たずな私と大人気ない彼
「は~い、ごたいめ~ん」
ムギが呼んだのは、ギルドのメンバーなんだろうね。つけていない人もいるけれど、若葉マークの腕章をトレードマークにしていてるのが初心者ギルド、もしくはそれの手伝いをしている人たちの特徴らしい。
彼らがくるまで、そういった協力してくれそうな人の基本的な知識はランディが色々と教えてくれた。
「はーなーせーよー!」
一人は、数人係で取り押さえられながら運ばれてくる。
暴れん坊の腕白小僧、といった感じかな。デフォルトからはいじっていない純粋な黒髪黒目。生傷の絶えなさそうなイメージがある。
生意気そうにつりあがった目に、わめき続ける大きな口から時々覗く犬歯も鋭い。恐竜というか怪獣というか……そんな感じだ。
一番体力の有り余っているような小学生ぐらいの男の子だし、この子の先生になった人は苦労しそうだな。
「大丈夫」
と、もう一人のほうはよたよたと歩いてきている。足取りはしっかりしているんだけれど、どうもバランスが悪いというか……なんだろう? リハビリ中の患者さん?
――ランディはソレを見て、なぜか頭を抱えている。
年は、さすがにアスールかそれよりちょっと下ぐらいだと思うけど、女の子は見た目ではちゃんと判断できないか。
目の前に年齢と外見が一致していない例もいることだし。
なんとなく男子に混ざってドッジボールやサッカーをやっているような、快活そうなイメージだ。
意志の強そうな光を放つアーモンド形の瞳に、小さな口からのぞく犬歯も鋭い。やせ我慢しているせいかぎこちないけれど、いつも不敵な笑みを浮かべていそうな口元。
目と髪の色は深い赤色に変更されていて、ポニーテールの先が肩甲骨くらいまで伸びている。たぶん、下ろしたら腰に届くかもしれない。
どこか肉食獣というか、ネコ科の肉食獣を連想させる女の子だ
「裕福なトコのガキと? もう片方はなんだ、おい。Bランクとかじゃねぇよな?」
「Bランクだよ~」
Bランク? なんだろう?
「看護師に回せ看護師に……!」
看護師が必要、ということはアリスのような一種の障害者かな? 歩きづらそうにしているし、下半身不随?
でもゲームなら普通に歩けるハズなんだけれどな……?
「看護師さんの数ってすくないんだも~ん。リアルのほうでもやってるのに息抜きのゲームでまで……なんて考えている人がいるから、なかなか、ね~?」
確かに激務らしいし、看護師の仕事じゃないようなことまで頼む患者も年々増加していると聞いたことがある。
そういう仕事の息抜きに来てまで看護しなきゃならないなんて考えたくもない、という気持ちは分からないでもないかな。
「いい加減はなせー! 一人で歩けるっつーんだよ! 俺は勇者だぞー!?」
男の子のほうはさっきから勇者だとか叫んでいるけれど。このゲームって勇者っていないんじゃなかったかな……?
勇気のある者、という意味で使っているんだったらいくらでもいると思うけれど、たぶんそうじゃないんだろうね。
「うんうん、分かってるよ~? でも勇者さまが世界を救うためには戦わなきゃ~。それでうってつけの師匠を探してきたのよ~?」
「師匠なんていらねーよ! レベル上げりゃいいんだからよー!」
「レベルを上げるのに効率がいいのが師匠さまなんだよ~? 経験値いっぱいい~っぱいくれるよ~?」
ムギさんたちは何を言っているんだろう?
レベル? ゲームでレベルが上がると強くなるって聞いたけれど、あいにくとこれはスキル制という名前のゲームらしいんだけどな。
レベルを上げすぎてもあんまり意味がないってこの間私自身が実感したんだ、間違いないはず……だと思う。
だってまだよく分かってないしね。
「……マジで?」
「まじまじ~。私より強いよ~?」
ランディがボソッと「嘘つけ」と言った。
ああ、見た目に反してやっぱり強いんだ、この人。
「チッ、しゃーねーなー」
それにしても、一児の母の貫禄というか、扱いが上手だなぁ。
「キリヤさんも、こっちの男の子はキリヤさんみたいな子を何人もみてきたベテランさんだよ~?」
「大半はお前に押し付けられて、だ……」
連れてこられた二人にはやっぱり聞こえないように、でもムギさんにあてつけるようにぼそりと呟いた。
「とりあえず座って座って~」
丸テーブルの向こう側に、ムギを挟むようにしてキリヤと呼ばれた女の子と、一人の男の子が座った。
男の子のほうは態度が悪くて、頬杖なんかついてそっぽを向いているところを、
「お師匠様は怖い人なんだよ~? 食べられちゃうかも~?」
なんて子供を脅かすような、おどけた様子を交えながらきちんと叱る。
それで男の子が頬杖をつくのをやめるところがやっぱり子供に慣れている母親のなせるわざ、というものなんだろうね。
――私、まったく経験が無いのだけれど?
「じゃぁ改めて自己紹介ね~? こっちの男の子は、ヘルフリートくん。勇者志望の男の子~。小学校四年生~」
「ふんっ!」
勇者なのに“ヘル”フリート……って小学四年生!?
(ねぇ、ランディ。VR機器ってすごく高い気がしたんだけれど?)
(子供を役者にしたい親とか、裕福層のガキとかお嬢様が欲しがってんだったら稀にあるんだよ。たっかい買い物になるけどさ)
(なるほど)
スキルを使えば下手な先生に教わるよりは上達するだろうね。ランディも元々は料理の練習のつもりだったって言ってたし。
「そしてこっちの女の子が、キリヤさん~。同じく小学四年で~、Bランク~。だけど気にしないで付き合ってあげてね~?」
小学生か。いくつくらいだろう? 最近の小学生の女の子は成長が早いし。
――と、それより。
(ランディ、Bランクって?)
(初心者ギルドで使ってる第二種の隠語)
(第二種?)
(アリスよりは酷くないけれど、日常生活に支障をきたす程度の障害者だな。盲目とか聾唖とか……この子は下半身不随だと思う。歩きづらそうだし)
(ゲームだから普通に歩けると思うんだけれど、歩き方を忘れてしまうのかい?)
(忘れるのは歩き方じゃなく力加減。しかもゲームで身体の能力自体が上がってんだ、そういうケースの場合はむしろ全力で走らせたほうが安全だな。疲れるけど加減も掴みやすくなるし)
(なるほど)
だから力の加減に集中してて、よたよた歩いてたのか。
特に小さい子供であるほうが力の上昇量が大きくなる傾向だからだろうね。私の場合はちょっと体が軽くなったかなといった程度だったけれど。
「ん~、さっきからお姉さんの前でひそひそ話は関心しないぞ~?」
「依頼受けたヤツに事情の説明してんだよ!」
「そっか~」
「え、この弱そうなおばさんが?」
おばっ……いや、相手はまだ小学生だ……耐えろ……私……!
「つーか、顔隠してる変なおっさんとか怪しすぎね? ぜってぇ敵だろコイツ」
「おいおい、まだ二十歳だぜ? 俺は」
生意気な男の子相手に、ランディは表情一つ変えずに答えて見せた。
内心怒っているのか、それとも昔とったなんとやらで、こういう手合いにはなれているのか……私には判断がつかない。
先週の偽者竜殺しの時もそうだけど、あまり表立って怒っているって分からないタイプみたいだし……付き合いの長そうなアリスあたりなら分かりそうかな。
「これでも有名人さんなんだよ~? 竜殺しのお弟子さん~」
「師匠のほう紹介しろよ! 竜殺しのほう!」
「え~? でもな~? ちょうちゃんっておっかないんだよ~?」
ちょうちゃん? 軍曹ってそんな名前だったかな……あ、いや、そういえば軍曹のキャラネームは落語の「じゅげむ」をぜんぶひらがなにしていたんだった。
たしかに、ちょうすけ、だ。
「強いほうが経験値デカいに決まってるだろーが! なんで竜殺しの弟子なんてしょぼいのなんだよ!」
「む~……」
「竜殺しにこだわるのなら、ランディは二週間前に竜殺しになったばかりだよ。名前は公表していないんだけれどね」
「二週間前? じゃぁデスゲームの時のアレ? わぁ、ランちゃんおめでと~!」
「ランちゃん言うな!」
「……あのさ、オレら自己紹介されてなくねぇ?」
女の子のほう、キリヤちゃんが「話が進まない」と言いたげに眉をひそめていた。
というか、女の子の一人称がオレ? 役作り? それとも方言かな? 方言だとするとどこの県だったかな、東北のほうだったと思うけど――まぁ詮索するのは失礼だね。
「失礼。依頼を受けたレンだよ。高校生だ、決して、おばさんじゃない」
「おばさんじゃん」
「……」
「あー、俺は付き添いのガランティーヌな。ガランでもランディでも、どっちでも。ただしランちゃんだけはダメだからな?」
「ランちゃん、可愛いのになぁ……」
「むずかゆいんだよ!」
「じゃ、ガーちゃん!」
「ガランか、ランディで!」
「んじゃおっちゃん」
「ランディにする」
――女の子のほうは礼儀正しいね。でもせめてさん付けはしたほうがいいかな? 年上なんだから。
それにしても、思わず待遇の差が出てしまいそうだよ。
(待遇に差はつけんなよ? 叱るべきときは叱る。な?)
考えを読まれているように、ランディに諭された。
「ええっと……それじゃぁどういう風に指導すれば?」
「この子達の好きなようにさせてあげてね~? ただーし、犯罪はダメ~! あと浮浪者になっちゃうようなこともダメ~!」
「あの、依頼完了後までは責任は持てないんですが……」
「無理はさせんな、完了後もするようなことは教えるな、ってことだよ」
「うんうん、ランちゃんがいて話がはや~い♪」
「なるほど……ちゃんと知識をつけさせればいいんですね?」
「よろしく~」
よっこいしょ、と声を上げてムギさんが立ち上がる。
「それじゃぁあとはお任せしちゃからね~」
「おい待てムギ、ヘルフリートとキリヤにどこまで教えた?」
「おいおっちゃん、ヘルフリート様、だ!」
男の子の方はめんどくさいな……!
「ヘルちゃんは訓練所のゴーレムで何度か戦ってもらって~、キリヤちゃんは思いっきり走ってもらったよ~? ほんの少しだけお小遣いもあげてる~。もうちょっとすればマシになると思うけれど、おてて繋いで歩いてあげたほうが私は安心かも~?」
「大丈夫だよ」
「だーめー、転んでもダメージは入るんだからね~? ランちゃんの許可がでるまでは走るかおてて繋ぐこと~!」
「……わかったよ」
「それじゃぁイサみんにはサービスで私から直接伝えておくから。あとはお任せしちゃうよ~? ランちゃん、レンちゃん、頑張ってね~?」
「ランちゃんじゃねぇって言ってるだろうがー!」
「あはは、じゃ~ね~?」
ひらひらと手を振って、ムギと、初心者ギルドの構成員達は去っていった。
――私たち四人が酒場の丸テーブルに残ることになった。
なんとなく、気まずいなぁ……。
「おし! うっさいババァいなくなった! んじゃスライム倒しにいこーぜ! ザコで金稼ぎだー!」
まず最初に切り出したのは、ヘルフリート君だった。
「アホか」
「んだよ悪役!」
「戦う相手は指導任されたヤツが決めるに決まってるだろうが」
「なんだよそれー! 前とかわんねーじゃん!」
「いや、私に振られても困るんだけれど?」
私はMOBと直接戦ったことなんて、本当に片手で数えるほどしかないんだし。
「んで、何ができんの? レンとランディは」
どこか男勝りな口調で、キリヤちゃんが聞いてくる。
「本が読める」
「料理が作れる」
「つかえねー!?」
確かに戦いには役立ちそうにないようなことだよね。
「というか、ランディは普通の剣士だと思うんだけれど?」
「……なぁ。なんかずーっと勘違いされてっけど、俺はごく普通の、後方支援の料理人だぞ? 単に剣道六年間やってたって程度だし」
ごく普通の料理人は竜殺しなんて称号は持たないと思うんだけどな。
しかも軍曹に訓練されていたんだし、合成獣と戦ったときの動きは、決して剣道とは呼べないね。
どちらかといえば時代小説で読むような古流剣術っぽいよ、あれは……軍曹かな? いや、軍曹のせいだろう。絶対に。
そうするとアスールも……いや、私の勝手な予想でアスールの事を勘違いしたくない、今度直接聞くことにしよう。
「と、いうか……どこまで説明されてるのかな?」
「ババァうっせぇから俺様はとりあえず特訓してた!」
きっと、ヘルフリート君は本当に何も聞かずにひたすらゴーレムと戦ってたんだろうね。
「オレは走りこんでた。歩くことに慣れないと何もできないし」
まぁ、キリヤちゃんはしょうがないか。まずは普通に歩くことから覚えないとね。
「何も教えられてない、と……」
本当にどこまでも初心者なんだなぁ。
(……ねぇ、このあとどうすればいいんだい?)
(最初の職業は何を選んだか聞けよ……つーかそんな泣きそうな目すんなっつーの! ナメられると言うこと聞かなくなるぞ?)
(わ、わかった)
私は意を決して二人に向き直る。
「最初は何を選んだのかな? 職業は」
「「金になるから剣士」」
「……」
なんだろう、言葉に、できない。
迷わずに、言った、その言葉が、小学生の口から、出たものとか、信じられない。
(レン、かたまるんじゃねぇよ)
「――はっ!?」
(フォローはするからとりあえず聞いていけ。なんだかんだで言うほど問題児じゃねぇから、こいつらは)
「なんだかそっちのおっちゃんのほうが頼りになりそうだなー」
「確かに、さっきからぼそぼそ助言してるし」
「一応補佐役だからな。昔はムギんところで世話になったけど、強さで言うならレンのほうがヤバいぞ?」
「どこにでもいるおばちゃんじゃねーか」
「――ランディ、撃っていいかな?」
私はかばんの中から茶色いハードカバーの本――「レンの魔導書・地の章」を取り出した。
「それはガチでやめろ! 街が壊滅する!」
「「は?」」
「……そうだね、悪者になりたくないし」
私は魔導書をしまう。
「っつーか、今のなんだよ?」
「ん、魔導書だよ。威力は封印しなきゃならないほど強いよ」
≪解読≫フルスロットであれば、の但し書きがつくけれどね。
「マジで! くれ!」
「あげないし、そもそもヘルフリート君には扱えないよ?」
「そんなん試して見なきゃわかんねーだろ! アイテムなんて誰が使ったって一緒なんだからよ! つーか勇者様に逆らうなよ!」
(……さっきから勇者勇者って、なんだい?)
(問題児のパターンの一つだ。俺様、もしくは勇者様系って言われてる。他の一人用ゲームだと大体主人公って勇者だからだな。某有名ゲームのせいで他人の家に勝手に上がってはなにかしら壊すか盗もうとする)
なんて厄介なんだ……というか犯罪者にしないことって、こういうところも矯正しなきゃならないってことなのかな?
頭が痛くなってくるよ……。
「――ちなみにスキルは?」
「スキル? ああ、特技とか必殺技? レベルを上げれば覚えるんじゃねーの?」
「オレはまず走らなきゃならないから、売った金は宿代に消えてるけど……」
じゃぁ別に魔導書のページが燃えるとか、ないか。
「汚さないことと、壊さないこと。弁償してもらうからね?」
「はいはい」
私は地の魔導書を渡した。
「おっしゃー! すっげーもん貰ったー! これで俺さいきょー!」
「あげたんじゃない、貸しているんだ」
試しに撃ってみようとページを開く。
「ねぇ、ヘルフリート君? こんな人がたくさんいるところでそんな撃つようなことはダメだろう?」
「かんけーねーよ! つーか、ヘルフリート様って言え! で、どうやって使えばいいんだ?」
私は深く、そう、深くため息をついた。
確かに問題児だよ、これは……人の迷惑も考えないんだから。
「ランディ……訓練所と街の外、どっちがいいと思う?」
「街の外だな」
「偶然使えたときって、経費で落ちるかな?」
「落とさせるよ、事情は俺が説明してやるから――でもまぁ無理だな、うん、絶対に」
「ランディ、外にいくのか?」
「ああ、そうだ。レンに手ぇ繋いでもらえ」
「分かった」
キリヤちゃんは比較的聞き分けがいいなぁ……障害さえなければたぶん、普通のプレイヤーとしてやっていけるんじゃないかな?
――年上の人に敬語ぐらい使えるようにさせないといけないけれどね。
[to be next scene...]
キリヤちゃんの手を引いて、よちよちとじっくり時間をかけて街の外にやって来た。できるかぎりMOBが少ない、人が通らない芝生のような草原が広がっている。
ところどころに大きめの蛇やネズミが見える――おそらくアレがこのゲーム最弱のMOBなんだろうね。
「魔法は暴発防止のために、決まったポーズと、使う魔法の宣言が必要なんだ」
「魔法の宣言はスキルで省略できるけどな、一応」
「「へー」」
「魔法を使うときのポーズは、まっすぐ腕を伸ばして、杖か本で狙いを定めるんだ。本の場合はページを開いている必要があるね」
「狙いを定めないと手元で発動するからな。爆発系だと自分も巻き込まれるぞ」
「んじゃ――こうか?」
ヘルフリート君は真っ直ぐ腕を伸ばして、≪ロックウォール≫のページを開いた。
「ちなみになんの魔法が入ってんの? この魔導書って」
「ページによって違うけど、ほとんど入っているね。単体から範囲まで。でも≪解――」
「――だから封印指定くらってんだよな」
意地悪な声で、ランディは私の説明を遮った。どういうつもりだろう?
「レン、なんて書いてある魔法なんだ、あのページ」
「暴発したら危ないじゃないか」
「大丈夫だって」
ニヤニヤとした雰囲気が伝わってくる。ウソをつくときは分かりづらいのに、こういうイタズラ心が働いているときは嫌というほど分かる。
まぁ、ウォール系なら暴発しても大丈夫かな?
「……責任は取ってね? ≪ロックウォール≫」
「よっしゃ! ≪ロックウォール≫!」
しーん
「あれ? ≪ロックウォール≫! ≪ロックウォール≫! ≪ロックウォオオオオル≫!」
「ぷっ――はははははっ!」
ランディがせきを切ったように笑い出す。
「な、なんだよおっさん! 笑うんじゃねーよ! っつーか不良品だろこれ!」
顔を真っ赤にして、怒ったように本をたたきつけようとし――ランディがその腕を押さえて、奪い取る。
「残念だけど、これ≪解読≫スキルを持っていないと使えねーんだわ。そこの中に書いてある言語はNPC用の言語でな? 考古学者か暗号解読できるようなやつじゃねぇとスキル無しじゃ読めない。読めたとしても、スキルがないと発動しないんだ。安全装置の一つなんだよ」
ああ、だから「でもまぁ無理だな、うん、絶対に」とか言ってたのか。
……暴発防止のための安全装置がポーズ以外にもあったとか初耳なんだけどね、私は。
「はぁ!? 封印クラスって言ってたのはウソかよ!!」
「レンみたいな本を読むのに特化したヤツが使えば、の話だけどな」
「くっそー! 勇者でもないのに卑怯だぞテメェ!!」
「卑怯とかそういう問題じゃねぇよそういうゲームなんだから」
ひたすら可笑しいといったように笑いをかみ殺しきれていない声で言う。
「ま、こういうことは本当はレンが言うべきなんだけど。スキルってーのは意外と重要なんだよ。最大個数は十二、一つに絞れば最大レベルの七十八、この制限の中でスキルやりくりが必須なわけだ」
「レベルじゃねーの!?」
「オレはスキル制だってことは知っていたけれど」
「キリヤのほうが優秀だな、勇者様よりも」
「くっそー!」
地団太をふむヘルフリート君から魔導書を取り返してくれたランディは、まるで彼を煽っているようだった。
(――と、まぁ勇者様系はライバルがいると意外と伸びる。ライバル心を燃やさせるように煽ってやると扱いはまだ簡単なほうだぞ?)
(なるほどね)
「んじゃ、キリヤは俺と走るぞ。途中でモンスターを倒しながらな」
「え? スキルが重要じゃねぇの? さっきランディ言ってたことと違うんだけど?」
「魔法以外は本人がリアルでやってたことが使えるんだよ」
「だからランディは剣道やってたから≪ソード≫スキルを入れてないんだったね」
「完全にスキルが無意味ってわけじゃないんだけどな――ま、ちょっと金も稼ごうか。キリヤはサッカーやった事あるか?」
「男子に混ざって何度かやったことあるぜ? 今はもうできないけど……」
「リアルでできないならこっちで楽しめ。ネズミがボールだ。思いっきり走って全力でシュート! 芝生で柔らかいから、よっぽどじゃないと転んでもダメージはないから、転ぶことを恐れないこと。骨折もまずないしな。とにかく全力疾走で歩く感覚を掴むんだ」
「分かった」
「ちょっと、私たちはどうすればいいんだい?」
この依頼を受けたのは私だけれど、正直どうすればいいかわからない……。
「泣きそうな目ぇすんな。背中に立派な剣背負ってんじゃねぇか、ヘルフリートはよ」
「ヘルフリート様だ!」
そういえばあまり気にしなかったけれど、ヘルフリート君は背中に大剣――クレイモアを背負っている。
彼自身の身長が百三十センチぐらいなのに、刃渡りは一メートルはある、走るのにも邪魔そうな気がするような大剣を、切っ先受けと止め具だけの、刀身がむき出しになるホルダーで背中に帯剣しているのだ。
「初心者にありがちなタイプだよ。スキルジェム二種類と盾と剣を売れば一応、それだけは買えるし」
「初心者じゃねーよ! 俺様は勇者だぞ!」
「どうせ宿代はムギが出してたんだろ? 勇者じゃなくてたんなる子供じゃん」
「なんだとー!」
ランディ、いくらなんでも煽りすぎじゃあ……?
「俺に認められたかったらその剣で蛇を十匹狩ること。制限時間は、キリヤがネズミを十匹狩るまで。つまり、競争だな」
「よーし、受けてやろうじゃんかよ!」
――あ、乗った。
「ちなみに罰ゲームも用意してあるぞ? 敗者は勝者の言うことを聞く、だ」
「ただのおっさんごときにぜってぇまけねー!」
「フハハハ! 俺に勝てるかな小僧!」
いいのかなぁ……あのランディのことだし、きっとネズミのほうが弱いはずなんだけどなぁ。
というかそのセリフ、悪役と言うか――クロウみたいだ。
「んじゃ、不正しないようにそっちはレンが見張ること。OK?」
「ん、分かった……助けられてばかりだね、ランディには」
「別に助けてるつもりねぇよ。生意気なガキの鼻っ柱へし折りたいだけだ」
「ランディって大人げねぇー」
「まだ学生だからな。まあ二十歳だけど」
照れ隠しだっては分かっているけれど、キリヤちゃんの言うとおり確かに大人げないね。私より年上のくせに。
「んじゃレン、なんか合図」
「私がかい?」
「お前の依頼だろうが」
「それもそうか」
なんだかランディに任せているとすごく安心するから、すっかり自分の依頼だとは思わなかったよ。
「じゃ、よーい……ドン!」
そしてランディとキリヤが走り出し、ヘルフリートが抜剣して蛇に向かって駆け出していった。
……私、本当に役立たずだなぁ。




