表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
村おこし編
40/97

第39話 軍師、ちょっと本気を出す

『すまん軍師。ガランティーヌの暴走でほとんどのオークがそちらへ逃げ出した』

 軍曹の報告に、私は思わず眉間を押さえてしまった。

「彼は、なにを、やったんだい?」

『一匹のオークの腹部を裂いてはらわたを抜き――』

「あ、そこまででいいよ」

 気分が悪くなりそうだし。

『――とにかく、嬉々として何体も調理(・・)しているところを目撃したためか、恐慌状態に陥った』

『何体か相手にしてるけどダガーじゃ無理ー! 一体だけ倒せた!』

『我も二体を倒すので精一杯であった』

 四世紀から十一世紀ごろに欧州で広く使われ、五世紀ごろに活躍したかのアーサー王が持っていたとされるエクスカリバーの形状もコレ(・・)であったという説がある。

 それほどまでにありふれた片刃の剣であり、“深く傷を負わせる刃”の意味を持つナタとも包丁とも取れる形状をした武器、スクラマサクス。

 ランディが竜殺し(ドラゴンスレイヤー)となったとき、暗殺ギルドが採用し始めた「鬼包丁」を使った際の感想から、これがいいのではないかと薦めてみたんだけれども、

(こうなるなんて予想できなかったよ!)

 刃物を握ると性格が変わる人がいるというけれど、彼は包丁を握ると性格が変わるのかもしれない。

「現場はどうなっているんだい?」

 私は急ぎ街の入り口へと走る。アリスが工事を終えているはずだ。

『先ほどから聞こえていると思うが、ガランティーヌは鼻歌まじりに調理中(・・・)だ』

 ああ、たしかに気分がよさそうな鼻歌が聞こえてきているよ。

 ――そら恐ろしいね、この状況で調理をするだなんて。

『指揮官と思われていたダークエルフは倒した。何を言っているか分からなかったが、問答してやるつもりはない。そうしたら軍師の言うとおり、我先にと逃げ出している。キングは邪魔な部下を斬り殺しながら、だ』

 阿鼻叫喚、といったところだね……!

『ジョージは虫の息である。どうやらオークキングの目の前だったらしい、HPポーションと≪リジェネレイション≫、盾と防具の性能でどうにか耐えていたようであるが、防具も盾も完全にボロボロである』

『お姉ちゃん、早く早く!』

「今向かっているよ」

『――あ、レン。今下処理が終わったんだけど。豚の丸焼きって、皮をパリッパリにして焼くのと、腹にもち米詰めて焼くの、どっちが好み?』

「どっちも願い下げだよ! 私は菜食主義者(ベジタリアン)だと言ったろう!?」

 今の今まで調理に集中していたらしい。

『あー、そうか……じゃぁあとで竜殺し(ドラゴンスレイヤー)様にでも食わせるか』

「元はエルフだよ!?」

『今は豚じゃねぇか?』

 ――どこか感覚がズレてしまっているランディに怖気を感じてしまった。


    [to be next scene...]


「お姉ちゃん!」

「遅くなったよ」

 はっ、はっ……と息を切らしてしまう。現実での私はあまり運動が得意な方じゃないんだ。ゲームとしてのリソースであるSTがほとんど減っていなかったとしても、リアルの私は相当な距離を走った気がするよ。

「――工事は完了しているね」

 街の入り口より百メートルほど遠くへ行ったところは、所々に飛び石を敷いているような状態になっている。肉眼でも分かるぐらいに、それなりに大きな石がそこかしこに埋まっていた。

『軍曹より斥候役を頼まれたクロウである』

 そう報告する彼の言葉の間に、≪ステップ≫と≪フレイムボム≫が入る。合成獣(キメラ)との戦いを見ていた限りでは、機動力を考えるならきっとクロウが一番だったんだろうね。

『オークはエルフの襲撃も受けている。オークキングは矢を受けても止まることがない。数としてはほぼ減っていないな』

「どれくらいだい?」

『五十ほどである。キングが数体、普通のオークが二十数体ほど減ったようで――そろそろ森を抜けるようである』

「ありがとう。君たちはクエストを受けていないからすぐ撤退するんだ、せめてエルフの隠れ里に。念のためジョージも連れて行ってくれ。生きたまま報告させないと、クエスト達成とならないかもしれないからね」

『任せてもらおう!』

『了解した』

『はーい!』

『あ、豚はどうする?』

「その場に! 置いていくんだ!」

『もったいねぇ……』

「一度チャットを切るよ、何かあったら連絡をくれ。私はこちらの迎撃に集中しよう」

 パタン、と懐中時計を閉じた。

「お姉ちゃん、とりあえずどうなるの?」

「罠にかけた後で、焼き払う」

 ここから森まで、歩いて十分もかからない程度だ。森を抜けて走っていたということは――

「見えた!」

 アリスが声を上げた。小高くなった丘に土煙が上がる。

「協力してくれている、暗殺ギルドのゴーレム部隊のみなさん」

 私はタイミングを計るように、手を上げた。

 向こうも、こちらの街を目視しているはずだ。目標がこちらに移るだろう。

「任意で詠唱を(・・・)破棄して(・・・・)ください(・・・・)

『了解!』

 私は赤い魔導書をかばんから取り出した。

「≪セット≫」

 魔法の飛距離を伸ばす魔法を詠唱する――オークがこちらに土煙を上げながら、飛び石を埋め込んだゾーンに差し掛かった。

『≪詠唱破棄≫!』


 飛び石が消え、数十体のオークがぽっかりと口を空けた穴へと落ちていく。


「落とし穴に落下確認!」

 ゴーレムで作った落とし穴に、ゴーレムを埋めて作った飛び石の落とし穴だ。≪詠唱破棄≫すればゴーレムは一瞬で消え去るからこそ、アレは任意で発動する罠として作用する。

「≪エクスプロージョン≫――≪ファイアウォール≫――!」

 羊皮紙で作られたページが一枚、シュゥウウと炭化して風化する――その次のページに配置した、ウォール系をすぐに詠唱する。

 合計三枚。

(大丈夫、物語(フレーバーテキスト)の保存用は別に取っておいてある……だから、大丈夫)

 それでも、目の前で燃え散っていくページには心が痛む。

「――吹き飛ばすよ?」

 私の目の前、足元に横一列、火種がくすぶるような煙が立ち上っていく。

「私の後ろに隠れていないと、装備が壊れてしまうからね?」

 そしてオークの先頭よりややこちらよりに、炎が凝縮していくようなエフェクトが発生する。それでも図体の大きいオークはこちらを目指して走ってくる。

「三、二、一――」

 自分の目の前に、ぼぅ、と発生する≪ファイアーウォール≫。

 そして七十八メートル先――そこからすさまじい轟音が広がるように発せられる。

「うおっ!?」

 暗殺ギルドから派遣されたゴーレム隊の一人が思わず耳を押さえた。爆発音と呼んでしまうにはおこがましいほどの轟音。

 ビリビリと空気を振るわせるその衝撃はまるで、近くで核爆発でも起きてしまったかのようだ。

 世界が真っ赤に染まる。


 人型をした炎は言う。「これが、我が怒りである!」 ――火の精霊


 ≪ファイアーウォール≫が、私に当たる爆風を相殺し続ける。

 それでも火の精霊の怒りは収まらない。大気の振動が、入り口近くの建物たちの雨戸やドアを震わせて蝶番のネジを緩ませたか、がたり、と倒れる。

 攻撃判定のない、爆風によって起こった風がそのドアを遠くへ吹き飛ばし、他の建物にぶつかって砕け散る。

(すさまじい……!)

 音も聞こえない、呼吸ができない。もし≪ファイアウォール≫で相殺し続けなければ、私は一瞬で蒸発していたかもしれないと思わせる破壊力。

 ――そして空間は巻き戻る。

 巨大な爆発が起こった際に起こる、吹き戻し、という現象だ。核爆発できのこ雲ができるのはコレが原因になると本で読んだ。

 爆心地が一瞬で真空状態になるため、爆心地へ向かって突風が発生する――!

「――――ッ!?」

 誰かが叫んだ気がする。けれども今は耳がバカになってしまっている。見れば、ゴーレム部隊の数人が宙を舞っている。

 けれども、その人たちにかまっている状態じゃない、かまえる状態でもない。

 私たちはひたすらに体を寄り添いあいながら、その場に踏みとどまり続けた。

 うしろから飛んで来る木片の飛礫が私たちの体に突き刺さるのを、ただひたすらに耐え続けた。


    [to be next scene...]


「吹き戻し現象が起こるとは思わなかったよ……」

 アレは本当に戦術級なのかな?

 むしろ戦略級核のレベルじゃないのかな?

 ≪セット≫がないと私ごと巻き込まれるよね?

 ダメージでアイテム類が全滅するとしても、吹き戻しで上空に打ち上げられたら落下ダメージで死んでしまうんじゃないかな?

 ――私の魔導書を最初に作ったクロウはみんなに「ごめんなさい」しなきゃならないね。

「……とりあえず、被害報告を」

 いまだにクラクラする。

 大気が震えている気がする。

 飛んでいった数人は、落下ダメージで瀕死だ。回復役(ヒーラー)が必死にダメージを回復させていく。

「よ……四名ほど落下ダメージで瀕死です。後ろに隠れていた数名は木の破片が刺さって軽症、多数ですね……街への被害は、それほど大くはないです。ただ、ドアや雨戸がなくなった家が十数件に及びます……住民は、あらかじめ非難ずみで、けが人なし……です」 ダンダラコートがところどころ切れた沖田総子さんが答えてくれた。

「敵側は?」

「目の前をご覧になってください」

「――とても、大きなクレーターができているね」

 十メートル級ゴーレムを埋めていた落とし穴が消し飛んでいる。これは酷い火力だ。

 もっと威力が低いものだと思っていたんだけれども、それは過小評価だったみたいだ。みんなが≪エクスプロージョン≫を止めようとする理由がよく分かったよ。

「オークは爆心地で直撃を受けているはずですので、ほぼバラバラになったか、ギリギリで生きていても吹き飛んだ際の衝撃ダメージや、落下ダメージがトドメを刺すでしょうね」

「今更ながら、魔導書型が強いって言われている理由が分かったよ……」

 吹き戻し対策に≪ロックウォール≫を使ったほうが良かったかもしれない。二枚張りすれば完全防御できるんだから。

「こんなバカな火力なんて持て余しますから。普通の魔導書型はもっと大人しくて、もっと小技を効かせるタイプなんですけれどね」

「確かに、持て余すね」

「ちなみにこの巨大なクレーターはどうするんですか?」

「ゴーレム部隊でならすしかないんじゃないかな……こんな大きなクレーター、どうしようもないよ、私には」

 半径七十八メートル、深さは十メートルよりも深いだろうね。これを埋める大量の土を用意しないことにはどうしようもない。

 その土を運べるのはゴーレムぐらいなものだしね。

「こういう地形変更も、メンテナンスで直らないのかな……?」

「一応、徐々にですが元に戻りますよ? 十週間はかかりますけれど」

「二ヶ月半もかかるのか……」

「計測ギルドの見解によれば、七十八レベル級≪エクスプロージョン≫はそれくらいかかるとのことです。その間に一般人(NPC)にならず者指定される可能性がありますが」

「それは困るね」

 私は思わず苦笑してしまった。

「図書館に本を読みに行けなくなってしまうよ」

 私はこの巨大クレーターを多少なりともマシにする方法を考えて――私にはその知識がないことに気付いた。

「ある程度はならそう……街がオークに破壊される最悪のケースは避けられたんだし。私は甘んじて悪名を背負うことにするよ」

「とりあえず傷口を広げることになっちゃうけど、クレーターの周囲から土を集めて使っちゃおうよ、あの丘からとか。アレ、上るの面倒くさいし」

「そうですね……ゴーレム部隊、クレーターをある程度マシにしますよ。動けるものから作業に移ってください」

『り、りょうかい……!』

 総子の指示でのろのろと動き始めるゴーレム部隊の人たち。

 まだダメージが抜け切っていないみたいだった。

「さて……とりあえずオークは壊滅させたし、クエスト達成したかどうかも確認しなきゃいけないし――暗殺ギルドのマスターとも会話しなきゃいけないよね」

 今後の事と、そして今までの事について、ね。


    [to be next scene...]


 端的に言えば、ジョージがクエストを達成した形になる。かろうじて生きていたジョージには報酬としてエルフの加護が与えられるそうで、森で狩猟をしても大丈夫となったらしい。

 これには熊肉をいままで提供していたランディが怒ったらしいけれど、軍曹に物理的(・・・)に黙らされたみたいだ。

 ――帰り道で狼や熊に襲われるジョージが死なないようサポートしていなければならないのがとても大変だったとは軍曹の談。


 そして私たちギルドメンバーは今、宿の一室にいる。時間はもう夕方を回った頃だった。

 その会見は始まる――偽者の“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”ジョージと、暗殺ギルドマスターの近藤さんを迎えた状態で。


「――少し≪解読≫を落としたらどうなんだ?」

 街の目の前にできたクレーターを見て、引きつった顔をしている……しょうがないじゃないか。

 あんなに威力があるとは思わなかったんだから。

「こればかりは落とせないね、絶対に。読めない本が出てきてしまうし」

 本にも解読可能なレベルがあるらしいんだけれど、どうやらそれの判断基準は運営の胸先三寸、どれがどれほどのレベルが必要なのかがわからない。

 ――なぜか「ももたろう」の絵本が七十八レベルでないと読めないとかね。

 なので、≪解読≫スキルフルスロットは私のアイデンティティだ。

「いざと言うときの抑止力にもなるしね」

「……魔女め」

「変な二つ名をこれ以上増やされたくないね。そもそも私は軍師じゃないし、類似する策士、参謀にも当てはまらない。たんなる文学少女だ」

「少……女……?」

 軍曹が疑惑の声を上げる。本当に人間かどうかも分からない人に言われたくないな。

「言っておくけど少女の定義は七歳前後から十八歳前後までの、成年に達しない女子の事を指すんだよ? 高校生は十分少女の分類、だから私は少女さ」

 と、そんなことはどうでもいいね。

「で、色々と聞きたいことがあるんだ」

「ギルドマスターは私なんだけどねー……」

 アリスが拗ねたように呟く。

 それもそうだ。今テーブルに着いているのは私と近藤さんだけなんだし。

 アリスのギルドを奪うつもりはないけれど、こういう交渉ごとはあまり向いていない気がするんだよね、アリスには。というか、うちのギルドメンバーは。

「村がどこにあったか……は、教えてもらわなくていいよ。真っ黒そうだし」

「真っ先に聞くと思ったんだがな」

「アリス・イン・ネバーランドは暗殺ギルドの下部組織じゃない。変な裏情報を知って後戻りできなくなるなんて嫌じゃないか」

「お姉ちゃん……!」

「ってーかアタシは知りたかったなー」

「好奇心は猫を殺す、とも言うよね? アスール」

「うへぇ……」

 アスールが辟易したように肩をすくめた。

「というわけで、依頼の詳しい事情も省くよ? ――ただ、ジョージのギルドは一体なんだったんだい?」

「PKギルドだ」

 ……暗殺ギルドと、どう違うんだろう?

 私はアリス――ではなく、初めてログインしてから今までに渡って、色々と教えてくれているランディに目をやった。

「現実じゃできないことをやろう、って考えるのは日本人にもいるっつーのと。仕様上、一定時間は死体が残る、ってのが一つだな」

「死体が残ると何かあるのかい? 装備を失った死体になにか価値があるとか思えないんだけれども」

「あー……正確には装備品のロストは死亡後、一分経ったあとなんだ。街中で死んでも、急いで向かえば装備品やアイテムをまるまる回収できる、ことがある」

 ことがある、ということは、回収できないこともあるのか――自分の死体から自分の装備を回収するなんてシュールだね、本当に。

「んで、ちょっと説明を遠回りする。≪PK≫スキルを高くしておくと能力値が下がる代わりにプレイヤーへのダメージが増す。フルスロットならシールド防御越しでもかなりHPを削り取れるから、とっさに防御しても倒せる可能性がある」

「すさまじいね、それは」

「逃げようと思えば簡単に逃げられるんだけどな、全部のステータスが二割ぐらい減少するから。攻撃も遅いし、DPSのロックもかなり強力になる。よっぽどの素人以外なら避けるのも楽だ」

「それで? 説明を遠回りしてまでそれを説明した理由は?」

「まぁ、≪PK≫スキルは暗殺ギルドみたいに抑止力として使う方法。ならず者の懸賞金をゲットするため。剣闘士(グラディエーター)の街なら選手としてセットしておくのがメイン……なんだけど、犯罪者が出るのはゲーム世界でも当然なわけだってことだな」

「とどのつまり、強盗ってことかい?」

「そういうことだな」

「強盗集団か……なるほどね」

 うまくお金になる装備を持ったプレイヤーを、気付かれないよう暗殺して装備を剥ぎ取る。それを売ればお金になるし、装備が使えるものであればそのまま手にするのもいい。

 現金があれば奪えばいいということだね。MOBがお金を落とさないぶん、楽に現金を溜めることができるだろうね。

「あとは単純に、よく言う快楽殺人とかそのへん」

「こいつらはその両方だ」

「へぇ」

 どうしてそんな人をこんな依頼に使うんだろうね? うっかり私たちが狙われたらどうするつもりなんだか。

「本来なら通常通りの処分を行うつもりだったが、タイミングがタイミングだった。エルフが見つかったという時期と重なってな……しかも帝都の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)から偶然ドラゴン装備を奪っていた。デスゲーム時で、強制切断を受けたプレイヤーから剥ぎ取ったそうだ。使わない手はあるまい?」

「盗まれた人はなにか言ってなかったのかい?」

「まだ素材はあるし、きちんと処分するなら気にするほどじゃない。だそうだ」

「なるほど――で、今回は司法取引かい?」

「そうだな、初心者を狙った悪質なプレイヤーだったが、流刑の免除で釣った。まぁ、失敗したらそのまま流刑だったが」

「うっわー、久しぶりに流刑って聞いたかもー……」

「――俺たちは海外みたいな無法地帯には行きたくなかったんぐふっ!?」

 後ろ手に手錠をかけられているジョージを、総子さんが蹴り飛ばして黙らせる。暗殺ギルドは≪PK≫スキルを標準装備しているためダメージが入ったらしい。口から血を吹いた。

「黙っていなさい」

「――まぁ、PKが趣味のようだったからな。他のメンバーは剣闘士(グラディエイター)の街で選手にしてやった」

「彼と、依頼に失敗した彼の仲間は?」

「流刑。と言いたいところだが、まぁ剣闘士(グラディエイター)の街に選手登録だな」

「ランディ、剣闘士(グラディエイター)の街ってどういうところだい?」

「今どき時代錯誤にもはなはだしい、奴隷階級のある街だな。犯罪犯して剣闘士の街に選手登録つったら大抵奴隷扱いで戦うことを強いられる。勝てばファイトマネーが出て、最終的にそれで自分を買う。スポンサーがつくときもあるけれどな」

「まさしく剣闘士(グラディエイター)の街だね? というかそういうのは大丈夫なのかい? 人権とか」

「さすがに人権うんぬんはリアルの各方面がうるさいからきちんとしてる。ただ、世界観にあわせて奴隷って言ってるだけだ。たんなる囚人だしな」

 今の時代に慣れている私にとっては、なにか釈然としない。この世界が中世という世界観というところもあるせいなのかな?

「まぁ、いいか」

 人権が守られているのなら大丈夫だろうし、刑務所での服役だと考えれば扱いは悪くないはずだ。

「あとは、なんで私たちに振ったのか」

竜殺し(ドラゴンスレイヤー)二人ならなんの不安もないだろうと思ったからだ。コレが失敗してもな」

「失敗してくれたおかげで、街の前のクレーターだけれどね」

「……何があったんだ、本当に」

「クエストを勝手に受注されたせいで、こちらはオーク以外を攻撃できない状態に陥った。ちゃんとした受注は待っていてくれていると思ったんだけれどね。あとこちらに対する数々の暴言と、軍曹が暴力をふるわれた」

「……コイツだけは流刑にしておいたほうがいいかもしれん。ゲームの取引ですらちゃんと守れやしないヤツは現実でもロクなことをしないからな」

「――謝る! だから助けてくれ!」

「俺の店の料理が一品減った件について触れてくれよ」

菜食主義者(ベジタリアン)な私にとって肉料理が減るのは好ましいね」

「ちくしょう」

「それより、流刑ってそんなに恐ろしいものなのかい?」

「軍師、自分は言ったはずだ。ロールプレイで、ローグプレイをしている奴らだと」

「笑えないね」

 二重の意味で。

「そういえばさー、ゲイのひとからレイプされかけたって話があるらしいよー? 同性同士だとハラスメント機能に穴があるんだってー」

「大変だね」

 アスールの話に、私には関係のない話だと思――わないほうがいいね。

 今後はソッチの趣味を持った人に注意しなきゃならなくなってしまったよ。

「コレの処分は流刑か奴隷かだが」

「人道的に奴隷で」

「ありがとう!」

「ただし他の人より縛りを強くしておいてほしい。私たちの事を恨んで狙われるのは嫌だしね」

「そんなっ!?」

「わかった」

「今度炊き出しに行ってやるよ」

「ぜひお願いしよう」

「意外とやさしいね、ランディ」

「いや、んなわけねぇよ?」

 ランディは時計を確認する。

「ん~、そろそろ夕飯だな、ゲーム内の。弁当作って来たから食ってけよ」

「……断る」

「断るなよ」

「ランディのご飯はとても美味しいから、食べていくといいよ――ああ、私は肉なしで」

「――っていうかまだ疑問があるんだけど!」

 アリスが、我慢仕切れないといったふうに口を開いた。

「村って結局作るの?」

「そこは本当だ。だからこそジェム集めもしてもらった……本当はさっさと隠れ里に向かってもらえれば良かったんだが」

 村は実在しなかった、と言っているようにも聞こえる。

「まずはエルフとの盟約を交わす必要が出る、できるかどうかは知らんが……コレにはもうしばらく働いてもらうことにする。もちろん、ウチの方針でな」

「壬生の狼の掟は、史実じゃ恐ろしすぎて失禁した人がいるらしいけれど?」

「失禁はしないだろう。ゲーム内では(・・・・・・)排泄がない(・・・・・)からな」

 強面の顔がニヤリと笑う――恐ろしい鉄の掟は存在するのか。

「じゃ、そろそろメシだな」

「……断る!」

「毒なんぞ入ってねぇよ!」

 そう言ってランディは、かばんから赤いお弁当箱を取り出して、一人ひとりの前に配膳していく。

 飲み物も、木のコップも、わざわざ用意してくれていたようだ。水筒から香りのいいウーロン茶が注がれていく。

「わざわざフルスロットして全力で作った。自信作の中華弁当だ」

 蓋を開けてみれば、確かに中華風のお弁当だった。エビチリとか、シュウマイとか……私の分はきちんと魚と野菜と白いご飯だけだったのは助かった。

「……断る!!」

「ちょっとー? かたくな過ぎないー?」

朋友(とも)は普通に店を持っている、わざわざ毒入りなど作るわけがないだろう。特に、暗殺ギルドのギルドマスターに対してはな」

「近藤さん」

「むぅ……」

 いやな汗を浮かべながら、ランディとお弁当を何度も見比べる。

 そんなにトラウマになるようなまずい料理だったのかな?

「……仕方あるまい」

「ん」

 ランディは自分の木のコップにウーロン茶を注いで、近藤さんについっと突き出す。

「乾杯だ」

「……乾杯」

「かんぱーい!」

「いえーい!」

 かつんかつんと木のコップがぶつけられていく音が響く。

 そしてみんな、一気にそのウーロン茶を煽って――


「「ぐはぁあああ!?」」


 ――近藤さんとジョージさんがむせたと思ったら、そのまま強制切断したかのように、がくりと崩れ落ちた。

「こ、近藤さーん!?」

 総子さんが駆け寄って、近藤さんを揺さぶる――反応は、ない。

「貴様っ! 毒を盛ったか!?」

「毒死だったら一発で分かるだろ。それは強制切断状態だ」

 彼は自分のコップをくるりくるりと回しながら、

「関係のない話だけどさ、辛いのって普通に感じるじゃん? でも辛味って味はないんだよ。辛味ってのはただ、痛覚を(・・・)刺激している(・・・・・・)だけなんだぜ? 痛覚が抑えられてるゲームなのに不思議だよなぁ?」

 ――なんて恐ろしいモノを作り上げたんだ、彼は。

「ハバネロエキスをスキルで混ぜて作り上げた辛さ七十八倍――二千万強スコビル値、カプサイシンよりも辛いウーロン茶だ。思わず強制切断(しょうてん)してしまうぐらい美味かろう?」

 まるでこんな依頼を受けさせた報いを受けさせてやったといわんばかりの、いい笑顔を浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ