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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
デスゲーム編
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第3話 資本主義です

「≪ファイアーボール≫!」

 聞いている限りでは魔法使いはデメリットばかりだと思っていたが、実際に使ってみるとなかなかどうして快適だ。

「≪ファイアーボール≫!!」

 魔法使いになる上で重要なMPだが、この回復速度はどれくらいかとランディさんに聞いた。彼はすぐさま「MPの回復速度は一秒で一レベルの魔法一発分」であることを教えてくれた。

「≪ファイアーボール≫!!!」

 そして魔法使いの基本テクニック――宣言が終わるまでMP消費がないという仕様から、わざと魔法名をゆっくり宣言することで詠唱時間と回復速度のバランスをとる。

 つまり無限に魔法を連射できるのだ。あとはファイアーボールで相手をのけぞらせながら後ろに少しずつ下がって距離を確保する……狙えるのならば足にダメージを蓄積させるなどと言った方法もあるらしいが、今はこれで十分なほどだ。

 これは魔法使いを選んで正解だったかもしれない!

「≪ファイアー――」

「いや、もうMOB死んでますから」

「――と、そうか」

 魔法は発動体の先から発射される。暴発を防ぐために決められたポーズの発射体勢を取らなければならないのがネックだったけども。

「しかし意外とあっけないな」

 チュートリアル戦闘用の小さなゴーレムに≪ファイアーボール≫を打ち込んだのは十発だ。時間にして、十秒程度。近接を選びショートソードで攻撃した場合、通常三十発は叩かなければならないらしい。

「このゲームは基本的に、同コスト同DPSですからね」

「DPS?」

「DamagePerSecondの略称で……まぁ秒間いくらダメージを与えるか、という意味です。最弱攻撃力のダガーと、最高攻撃力のハルバードを比べた場合、取り回しやすさから、ダガーで戦ったほうが敵を早く片付けられる、ということだってあります」

「つまり、単発ダメージばかり考えると、返って弱くなる、ということかい?」

「ですね。DPSを同じようにそろえることで、全員が全員同じ武器しか使わない、なんてつまらない状態を作らないようにしているんですよ。まぁ、DPSにはプレイヤー個々人のスキルが密接に関わってくるところでもあるので、練習を重ねればもちろんハルバードのほうが強い場合もあります。で、魔法の場合は十二個しかないスキルスロット一つを潰して、詠唱時間やMPの消費をしているためDPSはかなり高い、というわけです」

「じゃぁ遠距離武器も強力だって言っていたのは、矢を消費しないとダメだから、そのDPSというものは高く設定されているということかい?」

「そういうことですね」

「へぇ……でも、そうすると伝説の武器とかそういう類が存在しないのか。ちょっと残念だな」

「伝説の武器が存在したら、つまりは誰かが勇者になるじゃないですか。その他の人間はたんなる背景に成り下がりますよ? 参加者全員が平等なんですよ。まぁ、個々人の強さについては例外ですけどね」

 つまりほぼ平等に作られてはいるが、それでもゲームの中で一種の階級社会が出来上がっている、ということなのだろう。

「まぁそのおかげで、初心者もベテランも、ほぼ同じ土俵だってことです」

「お金があれば、の話だね?」

「……まぁ、資本主義ゲームであることは否定しませんよ?」

「世知辛いねぇ……」

「でも十把一絡げの投売りダガーでも、きちんと扱えれば強いんです。最強武器はなにかという議論には必ずと言っていいほど名前が挙がる武器ですから」

「じゃぁヘタに高くて強い武器よりもダガーのほうがいいのかな?」

「そこは個々人の感性とプレイスタイルによりますね。地形や敵MOBとの相性ももちろんありますが、チュートリアルで渡されるショートソードを長年愛用している古参のプレイヤーもいますし」

「……最強の武器って、なんなんだい?」

「それはもちろん、自分自身(プレイヤースキル)じゃないですかね?」

「身も蓋も無いね……」


 チュートリアル戦闘は思ったよりも手早く終わった。魔法使いを選んでくれたおかげでこっちもドン引きするような攻撃を披露する必要がなくなった。いや~、強いね、魔法。

 初心者ギルドでの経験で≪ファイアーボール≫の特性――彼女はのけぞりだと勘違いしているみたいだが、実は小さなノックバック――に合わせ、距離を一定に保つための引き撃ち、これを一秒に一回というペースを崩さず撃てば、遠距離を持っていない敵MOBなら、タイマンで負けることなどまずない!

 よし、俺の仕事終了! あとはあのクソ幼女に引き渡す。そして今日の食材を狩ってこなければならない!

 とりあえず「生態系システム」というMOBを狩れる上限が存在する以上、今から熊狩りに行ってもおそらく、小熊しかいないだろう。こいつらが大熊に成長するまで一日、そこから小熊が生まれるまで半日……小熊まで殺ってしまったら今週はもう二度と熊肉が手に入らない……ヘタをすると、いくら狩っても大丈夫なネズミや蛇しかメニューに並べることが出来ないんだよなぁ。

 ネズミはたまに病気持ちだし印象の問題もあって、店の評判下がるしやめておきたいところだから、少し遠出して森の川蛇かな? アレは臭みがなくてウナギみたいな味だからそれなりに人気あるし、幸か不幸か今日は大量虐殺セットだ!

 ……あ、重量も考えて鎧は変えておくか。攻撃力も低いヤツらだし、軽い革製のほうがいいな。泳げなくなる上に水を浴びすぎると錆びるのも問題だからなぁ、フルプレートアーマーは。

「ま、とりあえずチュートリアルは終了です」

「そうなのかい? 意外とあっけないね。付き合ってくれてありがとう」

「じゃぁ、リーダーに連絡するからちょっと待っててください」

 懐中時計を取り出す。これが携帯電話にもなるってすごくね? カバーを開いて、リーダーにコールする。

『はい、アリスです』

「あー、もしもし? リーダー?」

『ただ今戦闘中です。ピーと言う発信音の後に、名前と用件をお願いします――ピーッ』

 って留守電かよっ! くっそ、一昔前のチャット使ったMMOなら必要なこと残せばいいだけなんだがな~……妙なところで進歩してねぇっつーか、退化したっつーか、せめて発信者のログぐらい残るようにして置けよ開発! いまどきの携帯だって誰が電話してきたかぐらいログに残るっての!

 くっそ……なんか腹立たしいなぁ……!

「俺だ、ランディだ。お前の姉ちゃんのチュートリアル終了、始まりの街に放流するから拾ってやってくれ。以上」

 パタン、とカバーを閉じる。よし、これで心置きなく今日の食材を狩りにいけるな。今日は久しぶりに川蛇の白焼きにチャレンジしてみるか。近くに確か新鮮なわさびも自生してたはずだし、あとは肝吸いもつけて、シメはダシ茶漬けで――

「――ちょっと待ってくれ、放流ってなんだい?」

「え? そのままの意味ですよ?」

「君は何も知らない女子校生をよく知らない街に放り出すのかい!?」

 うっわ、めんどくさっ……PK以外なら別に危険があるわけでもなし、苦手なんだよなぁこういうの……。

「いや、街は普通に安全ですよ? 始まりの街って治安もすごくいいですし」

「まるで言葉の通じる外国に来た感じだから、不安なんだよ……!」

 やめろ! 上目遣いは卑怯だ! 涙目禁止! あと胸! デフォルトの服は上から見ると胸が見え――って落ち着け俺っ! 大丈夫だ! 童貞はうろたえない!

「じゃぁとりあえず装備を整えるまでだからな!」

 どこかクールで知的な雰囲気さえ漂っていた彼女の顔が明るくなる。まったく、何を言っているんだ俺は……。


「はぁーはっはぁ! 魔法使いとは最高のものを選択したようだな少女よ! だがしかし! まだまだ足りぬ! 故に教えてやろう、我が深遠なる魔導のけ――!」

「いちいち話が長いわ黒歴史が!」

 ヤクザキックで腹を思い切り蹴り飛ばす。

「おぐぅ!」

 と大げさな表現をしたものの、ゲーム的にもリアル的にもダメージはゼロだ。PKスキルがないためである。

「ふっ……それでこそ我がライバ――」

「今すぐPKスロットに切り替えてくるから待ってろ」

「あ、すみません。真面目にやります」

 頭痛がするが、紹介しよう……街に呼び出した彼こそは、

「ウチのギルド随一の魔法狂い(中二病患者)、ダーククロウだ」

「フッ……(オレ)は宵闇を飛ぶ漆黒のカラスさ」

 無意味によく分からないポーズを取る。見た目はサーコートを来た全身黒ずくめの騎士だ。腰にはもちろん黒く染め上げたショートソードを佩いており、腕には黒いホームベース型のヒーターシールドを装備している。

 顔は露出しており、黒髪黒目で生粋の日本人だ。特徴を挙げるなら、すごいイケメン。頭の中は残念なのに、キリッとした確固たる意思を持った瞳に、いちいちサマになるようなニヒルな笑い――頭の中さえ残念でなければゲームでもモテただろうな。

 頭が残念なイケメンとして名が通ってるだけにかわいそうだ、同情はしないが……ともかく、初っ端から人選を間違ったとは思うが、今ログインしてんのコイツとクソ幼女しかいなかったわけで。選択の余地などなかった。

「レン、アリスの従姉妹だ。今日が初めてのゲームだ。お手柔らかに頼むよ」

 引くどころかまったく意にも介さないレン。さすがの委員長属性といったところか。

「で、朋友ガランティーヌよ。我は何をすればいいんだ?」

「装備を整えて放流してやりたい」

「君の中で私を放流するのは確定なのかい!?」

「なんて酷いんだ朋友(とも)よ!」

「じゃかぁしいわ! 俺店持ちなの! 売り上げ落ちたら生活に関わるの! 分かる!?」

 敬語で話し続けてるのもなんだかバカらしくなってきたわ……。

「と、朋友よ、そんな、キレなくても、いいんじゃ、ないかな?」

「キレてねぇよ、俺をキレさせたら大したもんだよ。つーかあらゆる生態系が根絶やしになるよ」

「へぇ、よく分からないけど、ランディは強いんだね」

「朋友は、大概の生物なら生きたまま解体するからなぁ」

「えっ……?」

「料理するのに必要なんだよね、牛とかだとさ、解体スキルないと料理に使えない肉しか拾えないから」

 ちなみに俺のいつものスキルは料理二十三レベル、解体十九レベル、包丁十五レベル、筋力十一レベル、ステップ十レベルだ。

 ガッチガチの近接戦闘である現状は生命力やらアーツなどを入れたテンプレートタイプだが、普通に戦う分にはステップで回避し、解体部位を狙って四肢欠損ダメージを与えていく、文字通り「解体」するこっちのほうが手間も時間もかからない――まぁ、非生物のゴーレム系や金属鎧系を着た人型MOB相手であると通用しないのが難点だ。まぁそもそも、対MOBに慣れたプレイヤーならば生態系など軽く崩壊させることが出来るのがこのゲーム、何の自慢にもなりゃしない。

「へ、へぇ……」

 が、相手はそんな事を知る由もない初心者。ドン引かれるのも当然か……くそっ!

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