第35話 エルフの森、最悪の予感
2012/11/07 読みやすさを考慮し行間隔を150%→200%に。
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「あー、テステス……聞こえるかい?」
『こちら軍曹、感度良好だ』
『クロウである。聞こえているぞ』
『アスールでーす。森の中、案外と太陽が差し込んでいるよ、方角ばっちり!』
『あー、軍師。俺はガランって名乗ったほうがいいか? それとも呼ばれてる通りランディって言ったほうがいいか?』
「ガランはバカガランで言いと思う」
『よしクソ幼女、あとでシメる』
「うん、感度良好だね」
これはチャットというものらしい。コールとはまた違った機能だ。親を決めて、親がチャットを切らない限りは参加者全員が会話できる。
親以外ならカバーを閉じたままでも通信できるのも魅力だ。問題はコールされても繋がらないことと、コールと同じく参加者同士の声だけしか聞こえないことかな。
「今のところ南にきちんと進めているんだね?」
戦力外である私とアリスは一度街へと戻ってきていた。宿屋の一室で、暗殺ギルドから提供された森周辺のおおよその地図を広げている。
けど、この地図が正確とは断言できない。地図を作成するスキルがないらしいからだ。
複数スキルを組み合わせて得た情報から作成したものだから、もちろん昔のような測量技術よりは正確だろう。ただし、エルフが出てきた関係で変化している可能性がある。
本当に、ないよりはまし、程度にしかならない。
『方角はアタシがちゃんと修正してるよ、作戦通りだね』
『狼などの危険なMOBはまだ現れていない。時折、額に宝石のはまっているタヌキのようなキツネのようなわけの分からん動物が木の上に止まっている程度だ』
「額の宝石という特徴から言うと、カーバンクルだね。伝承では猿らしいけれど。その宝石は幸運を招き寄せるといわれているよ」
『マジでー!?』
「絶対に、捕まえようとしては、ダメだからね?」
『い、イエス、マム……』
「じゃぁ、誰でもいいから、そこから山かなにか見えないかな? 方角さえ分かれば二点法でおおよその位置が割り出せるから」
『木に登らねばムリだが、やるか?』
「じゃぁいいよ」
本当は、エルフの隠れ里の位置を把握するためにやっておきたい程度だからね。ここで無理をする必要はない。
「でも暗殺ギルドも嘘ばっかり教えるね。村があるとか言っといて……村なんてどこにもないじゃん」
「あったのかもしれないよ。少し前まではね」
突然、エルフが出現して村を乗っ取ったのなら、辻褄は合わないこともない。あるからあったに変わるから、大きな違いだけれども。
「そもそも、そこに狩りに行かないとエルフがいたことなんて分からなかったはずだよ。あるいはプレイヤーか漁師が漁をして殺されたから判明したか……もしかしたら、実は隠れ里が元村だったりね」
『まっさかー』
『いや、あるんじゃね? 暗殺ギルド、隠れ里のハズなのに道知ってたんだぜ?』
「得意の人海戦術……は敵愾心すっごい上がっちゃうか」
「まぁ、今更だね。聞いたら引き返せそうにもなくなるよ、きっと」
『であるな。利権が絡むとうっとうしくなって敵わん』
そういう意味ではなくて、暗殺ギルドの持つ隠れ里の一つだった、という可能性もあるんだけれども。
ま、言わないほうがいいよね。
「それじゃぁもう一度確認だ。アスールが常に方角を確認。できるだけバラバラにならないようにすること。あとはそのまま南を目指してくれ」
人は真っ直ぐ進んでいるようでも、少なからず左右どちらかにずれて歩いてしまう。森で迷う原因の大半はこれだ。
なのでアスールに時計で方角を確認する方法を教え、常に南へ進むよう指示したのだ。
『了解した』
「エルフの隠れ里に着いたら、そこにいる竜殺しと協力してクエストのクリアを目指す……実に単純だ」
『軍師よ、敵の予想はつけられるか?』
「つけられるわけないじゃないか」
とはいうものの、エルフに関係のある魔物はいくらかは候補がある。しかも近距離では分が悪いという情報だけではイマイチ判断がつかない。
おそらく相性のいいと思われる後衛職は、この森を抜けるには相性が悪い。魔法も弓も使えない、ただひたすら駆け抜けていくしかない。
そして運よくクエストに参加できるとしても、森と言う遮蔽物の多い環境から、邪魔にしかならない可能性もある。
やはり前衛だけで突破が最善手としか考えられず、私は前衛組だけで突撃することを作戦にした――本業じゃないのに勝手に決めていいのかなぁ?
ともあれ、念のためにHPポーションは大量に持たせてあるし、あとは彼らを信じるだけの段階になってしまったのだからしょうがない。
「何かあったら逐次相談してほしい。こちらもある程度は目星をつけておくことにするよ」
『了解した。このまま進むことにする』
「みんなに任せたからねー?」
[to be next scene Side Galantine...]
――んで、俺たちはとある探検隊もかくやという速度で森を南に突き進む。
方角を知るスキルを誰も保有していないから、時計の短針を太陽の方角にあわせて……という原始的な方法で方角を確認しつつ慎重に、そしてできるだけ素早く移動を行っているのだ。
「いいか、山道は歩くんじゃない。泳ぐんだ」
そういう軍曹は、まるでクロールか平泳ぎか、両手を先行させ木を上手に捕らえながら、転ばないように先行していく。もちろん、枝は掴まない。折れる可能性があるからだ。
軍曹が行っている移動を真似て、俺とクロウは続いていく。
「あー、ちょっとズレてるっぽいよー、方角。もーちょい右、一時の方角」
そしてアスールは俺に背負われながら、方角がずれてきたことを指摘する。
「了解した」
逃げるのに利用できる≪ステップ≫が可能で、かつあの強行軍では実力を伸ばしきれなかった俺は、常に方角を確認する役割のアスールの運搬役だ。
理由は、どれだけ頑張っても剣道のクセが抜けきらなかったことにある。愛用の三尺八寸の攻撃力ならともかく、ダガーでは一撃にかけるような俺のスタイルにはまったく合わない。
一応、レンに薦められてダガー以外にも武器を用意したけれど、これを振るってもイマイチな戦闘になりそうな気がする。そもそもダガーの練習しかしてねぇし。
それにいくら軍師だからだとはいえ、格闘技の知識なんてないはずだしな。
――遠くで遠吠えが聞こえた。
「……狼か」
「気付いてますかね?」
「どうだろうな」
『絶対に攻撃をしてはいけないよ』
懐中時計からレンの声が響く。
「武器も使わず傷つけず、どうやって切り抜けるのだ? 我には少しもいい案が浮かばん」
『狼が嫌いそうな臭いでも使えればいいんだけれどね、でもそうすると、敵対行為としてみなされる可能性が高いかな』
「森の熊さんとかいそうだよねー」
「縁起でもねぇな」
「泳ぐように移動するのは格闘技にも応用できる。泳いで切り抜けろ」
「軍曹殿はいつもムチャクチャであるなぁ……」
「無茶ではない。感覚は受け流しやパリィに近い。今のうちに泳ぐ感覚を掴んでおけ」
「押忍」
「朋友は真面目であるなぁ」
「お前も真面目にやらんと死ぬぞ?」
「十分承知している。だから最終的に朋友と軍曹殿が抜けられればいい。我は囮になろう。我の屍をこえて行くのだ!」
「バカを言ってないで……」
先頭を行く軍曹が急に立ち止まる。何かを見つけたみたいだった。
「軍曹殿?」
「……生き残るぞ、熊がでた。ツキノワグマのような見た目だな。誰か知っているか?」
「MOB名が出るわけじゃないんで、それで通用するかと」
「そうか」
遠くを見るように立ち上がっていたツキノワグマがこちらを見定めて前足をついた。
そもそも熊は最初から突撃するタイプじゃない。腐葉土で滑りやすい足場と、木々に囲まれているからだ。
だから自慢の筋力と見た目に反した俊敏力で一気に接近してくる。
そのため自分の間合いに入るまで、じっくりと機会を見定めるように、じわりじわりと歩いてくる。
「フラグ回収、乙である」
「縁起でもねぇこと言うから」
「アタシのせいかー……」
アスールが俺の背中から降りた。
「全員、散らずにすり抜けるぞ。横並びに駆け出し、一気に逃げる。真ん中は自分が担当する」
『道に迷っても、できるだけ南を目指してくれ。森の形状からそのほうが最短距離で森を抜けられるハズだ』
『最悪死に戻っても責めないからねー?』
「聞いたか貴様ら、軍師とマスターの暖かいお言葉だ。奮起しろ」
「押忍」
「うん」
「応!」
『あ、でも熊の足なら車ぐらいの速度は出るはずだよ。すぐに追いつかれる可能性があるけれど』
「木に登るしかあるまい」
『熊は木登りも得意なんだよ……死肉も食べるから死んだふりもNGだね、本当ならにらみ合いしながらゆっくり後退するのが正解だよ』
「リアルではな……」
十分距離を詰めたと判断したか、ツキノワグマが一気に駆け出してくる。≪ステップ≫でも使っているかのような瞬発力だ。
「――総員突貫!」
「「「おおおおおっ!」」」
森の木々をすり抜けるよう、一気に横並びとなる。
教えは頭の中に、心は冷静に、体を熱く――常に戦えるように身構えておく。
(ここぞとってときに狙われるのは、俺だしな)
野生動物型は基本的に、一番近いキャラクターの、スキルの最大レベルが低い順に狙っていく。
「≪フレイムボム≫――≪ステップ≫!」
だが最大レベル十二というメンバー中最低のクロウの機動力は頭がおかしい。≪ステップ≫で真上は不可能だが、だいたい六十度ぐらいなら跳べる。
さらに≪フレイムボム≫を発生させて加速するのだ、遅いほうがおかしい――木々に当たるか当たらないかのギリギリのラインを見極めて、発動体に使っているショートソードの柄を爆発させる。
ぼんっ、と一メートル程度の小爆発。加速しながら飛距離を伸ばし、空高く舞い上がる。
フレイム系だからこそのダメージ極小。そして本来の性能であるノックバック大を利用した動き。劣化≪エクスプロージョン≫の扱いが本当に上手い。
「ふははは! さらばだ!」
最初に囮になるとほざいておきながら最速で太い木の枝へ着地、そのまま≪ステップ≫を繰り返しての行軍だ。逃げ足だけを考えるならばギルド中トップだろう。
――これだから魔法剣士は!
「グォオオオオ!」
軍曹はなんの奇もてらわない。ただ熊の真正面に突撃をする。
プロボクサーのジャブ以上の速度で、熊がフック気味に爪で攻撃をしてくる。一撃貰えばただではすまない。
「ふん」
その攻撃をまったく意にも介さない。予想の範囲内すぎるといったように鼻で笑う。
平泳ぎのように相手の攻撃にあわせて手の平を突き出し、肘辺りを軽く押さえて攻撃を外側へといなしながら背後にすり抜けていく。
「さて、年長者としておくれを取るわけにはいかんな」
その後は≪ステップ≫のような一瞬で最高速に達するようなスキルもなく、ただ先ほどと同じように木々の海をひたすら泳ぐように突き進む。
ただし確実にスピードを上げている。その姿は一匹の大蛇のようだった。
「自衛隊の訓練は伊達ではないぞクロウ!」
いくら熊でも、軍曹の後を追うには苦労するだろう。先ほどよりも行軍速度が上がっている。いくらトップスピードが速いとは言えど、この森の中でそれが生かせるのは近距離までだ。
――これだから現役自衛官は!
「ガランティーヌ! アスール! 早く来い!」
「押忍!」
「オーッス!」
同時に走り出しても先頭に出るのはアスール。地元が雪国と滑りやすい悪路に慣れている分の差だ。
「ガァアアアア!」
二人も逃がしたのだ、苛立つのも分かる。だがアスールにとってはその分やりやすい。
「≪リジェネレイション≫!」
「グォオオオオ!」
爪で引っかかれる瞬間に発生する自己治癒魔法。ボクシングのピーカーブスタイルで強引に突撃。脇の下をすり抜けるような動きだが、背中の肉を抉られる。
ビリビリと外套を破られながら負傷するが、それを自己治癒で回復しながら強引に抜けていく。
痛みというものが希薄なゲームだからこそできる突破方法だった。
「ガランさんあと任せたー!」
――これだから狂戦士は!
「んで俺はなーんもできねぇよ!」
≪ステップ≫の飛距離ではクロウのように木の上を飛び跳ねていくことは無理だ。
木々を三角跳びのように飛べればまた話は別だが、アーツには若干の硬直がある。五レベル程度ならば普段は無視できる程度だが、三角跳びはできない。
相手の苛立ちは最高潮。クロウを除いて、突破していったメンバーの中で一番能力の低いのは俺だ。
そして一番近いのも俺。
このレザーメイルとコートは斬撃には比較的耐性があるけれど、比較的程度なんだ。アレの爪はそれをやすやすと切り裂くだろう。
(≪ステップ≫で頭上を抜けて硬直終了直後に≪ステップ≫を――は無理か。狭すぎるし)
レベルが低ければ実用的でなく、高すぎると何かに激突するから閉所に弱くなる。それが≪ステップ≫だ。
(って、なると――)
また軍曹から叩き込まれた基本中の基本にお世話になることになるしかない。
まぁ、軍曹の言う基本中の基本といえば――
「ガァアアアアアアア!」
――相手の懐に飛び込むだけなんだけどな!
(死ぬ――ッ!)
恐怖を感じながらも人力ステップ――と言うよりはただの飛び込み前転だ。出掛かりにあわせて懐の攻撃範囲外へ逃げ込む。
背後で、ぶぅん、という風を切る音が聞こえた。
「めっちゃくちゃこぇええええええ!」
心臓がバクバク言う。心拍数が突然上がるものだから、異常を知らせるアラートが聞こえる――だけど許容範囲!
熊なんぞ何度も何度も何度も何度も……自分の店に肉を卸すためにサシで戦ってきた相手なんだ。これとドラゴン十頭、どちらかましかと聞かれれば、熊に決まってる!
「あんま俺を置いていくなよお前らぁあああ!」
足場が悪くて転びやすいなら、手も使えばいい。無様だけど、土を指先とつま先で捕らえて一気に、
「だぁあああっしゃあああああ!」
追撃が来ないうちに脇の下を地面すれすれで抜けて、立ち上がる。
「≪ステップ≫!」
あとはスキルを使って全速力で逃げるのみ!
「テメェら足速すぎなんだよぉおおおお!」
熊から追われないよう、なるべく軍曹の通った狭い木々の隙間を手を使ったり時には転がったりして、無様だろうが駆け抜ける
――凡人には凡人なりの動き方ってものがあるんだよ!!
[to be next scene Side Len...]
『――死者および負傷者ゼロ、要再訓練者二名。損害はアスールの外套のみ、全員熊を撒いて合流を完了した』
要訓練者、とはたぶんランディとアスールなんだろうな。特にランディはすごい叫んでいたし、アスールは≪リジェネレイション≫も使ってたからきっと強引に突破したんだろう、彼女の外套が破壊されているようだしね。
「そうかい。よかったよ」
とにかく、ツキノワグマからはなんとか逃れられようだ。私とアリスはほっと胸をなでおろす。
「でもあまり声を上げるのは関心しないね。それで狼の群れが寄って来たら詰みかねない」
『悪ぃ』
「まぁ今回は狼に対する威嚇になったって考えよう? そうしないとやってらんないよ、お姉ちゃん」
『そうだといいんだがな』
『狼の習性なんてわかんねぇしな』
「まぁ、その時になったら考えよう。今は熊から逃げられたことを喜ぶべきだ」
現実だったら考えられないけれど、さすがは竜殺しの率いる攻略部隊だね、素直に感心するよ。
『あー、軍師よ?』
「クロウ? なにかあったのかい?」
『我は今、熊から逃れ木の上を走っていたのだが』
「何か見つかったのかい?」
『オークがいた』
「オークか」
予想していた候補の一つだ……実に最悪の展開になるかもしれないね。
『だが』
「死んでいた、かな。無数の矢か、魔法で殺されている。たぶんそれなりの数の死体があるんじゃない?」
『おおっ? なぜ分かった?』
『いや、オークって魔物でしょ? そりゃーエルフでも倒すでしょー?』
「っていうか、この森ってオーク出なかったんじゃなかったっけ?」
『そういやそうだな。俺いつもここで熊狩りしてたけど見かけたことはねぇや。今週は色々あって来れなかったんだけど』
そういえば私がインした初日のとき熊狩りしに行くつもりだったって言ってたな……あの後は生態系の問題とかいろいろあって熊を諦めてたけれども、ここだったのか。
『なぜか分かったのか? 軍師』
「私の知識と合致するならという前提があるけれど、エルフとオークは同種族だ」
「『『『『はぁああ!?』』』』」
普通はこんなこと知るわけがないだろう。ファンタジーではエルフとオークは別種族として扱われているのだから。
「そもそものオークの出自は、邪悪の王モルゴスがエルフを捕らえ監禁し、苦痛と屈辱を与えて堕落させた結果なんだ」
『ちょいちょいちょい! そんな話アタシ一度も聞いたことないよ!?』
『そも、オークは大陸に広く生息する生物であるのだぞ?』
「だからエルフの数が少ないとも取れるね」
『つまり、その王とやらがエルフをオークに変え続けているからエルフの数が少ないと? 自分にはそう聞こえるが』
「逆に聞くけど軍曹、一つの街でエルフって何人ぐらいいるんだい?」
『街に一人いるかいないかだ』
『三人もいれば多いほどであるな』
「つまりはそういうことだよ。とにかくエルフの隠れ里に向かって欲しい」
『待て軍師。その前に自分たちにできる限りの情報を渡して欲しい。さっきの話は意外と重要なことだ。何も知らなければ状況が悪化する可能性がある』
「じゃぁ向かいながら聞いて、意外と最悪な状況かもしれないよ?」
私は喉の調子を整えるように、咳払いを一つついた。ゲームだから特に意味なんてないけれども、一種の意識を切り替える儀式みたいなものだ。
「いいかい? いろいろとバッサリ割愛するけど、エルフとオークは妖精族だ」
「妖精族って?」
「エルフ、ドワーフ、長靴をはいた猫で有名なケットシー、ゴブリンやオークを指す種族名だよ」
『あんなMOBも妖精族ぅ!?』
『アレって魔物じゃねぇの?』
「妖精族の特徴は耳が尖っていることだからね。それを踏まえればもっともっと多いよ? コボルドとか」
『それはイヌ耳だからじゃね?』
「コボルドは本来ゴブリンと容姿が――って、今は関係ないね。妖精族の性格を伝えよう。子供っぽい、これに尽きる』
『ゴブリンを見れば、むしろ野生に近いような気がするのであるが……』
「でも、ある程度の生産性があって知識がある。そして独特の言語を持っていたように見えないかい?」
『……確かに、連携していたな。主にガランティーヌを目標として』
「子供のイジメと同じだよ。弱い相手に対して徹底して暴虐になれる」
『心、折れるんで、それ以上、やめて』
「おっと、すまない」
ランディの心が折れたら少しまずいね。竜殺しの士気が下がれば戦力も下がってしまう。
「まとめると、妖精族の特徴は尖った耳と子供っぽい性格だ」
『はーい、エルフは子供っぽくないと思うんですけどー?』
「うん、でも考えてもみてくれ。描かれている本によっても違うけれど、基本的に高い知識を持っている、子供扱いされたくなくて色々と知ろうとしているようだね。隠れ里に住んでいる、まるで子供の秘密基地みたいじゃないか」
『……その表現はズルくない?』
「でも、的を射ている」
『見た目は大人、頭脳は子供ということか。厄介な……』
「だから、できるかぎりどういう人柄かを見定めつつ対応して欲しい。決して侮らないこと。エルフ特有のプライドの高さを持っているかもしれない」
『分かった』
今更だけれど、この程度はちゃんと先行した竜殺しの話を聞いておくべきだったかもしれない情報だね。
「じゃぁ本題に戻ろう、最悪な事態になるかもしれない理由だ。これは実に簡単、その邪悪の王か、それに類する何かがいる、ということだ」
『オークキングと同じようなものか』
「むしろオークキングが主力の部隊かもしれない、って言ったら?」
『うっげー……!?』
「いい反応をありがとう、アスール。それなりに強い、って分かったよ」
オーク自体がパワーファイターという伝承だから、近接職にとってはかなり厄介な相手、というところかな。
「もうひとつ考えられる最悪の事態もある。それは警戒心が高まりすぎて隠れ里事態に入れないことだ」
『そしたらどーすんのさ?』
「説得しかない。少なくとも漂流者ということで信用を得られるかもしれないけれど」
『時計を見せればいいのか』
「壊されないようにね」
私たちは、世界を平和に導くために異世界から召喚されたという設定なんだ。それを、膨大な知識を持つエルフが知らないわけがない。
「でも、先に竜殺しがいるからこの問題はさして重要でないかもしれないよ。盟約を裏切らない素直な性格なのもエルフの特徴だからね。変な盟約を交わしてなければ、の話だけれど」
『では、戦闘時の作戦は?』
「隠れ里で情報が集まってからの話になるけど。基本は司令官を倒せばいい。オークはエルフよりも知性が下がったせいで、邪悪の王の命令に唯々諾々と従うんだ」
『指揮官が優秀ならば厄介だな』
『ってゆーかそれ普通のオークキングとその群れを倒すときの常套手段なんですけどー』
「なるほど。それはつまり、キングが倒されたら群れは逃げ出そうとするから、で当たっている?」
『よく知っているな? 本当に初心者か?』
「初心者だよ。それに子供っぽい性格って言ったじゃないか。ガキ大将が倒されたら敵わないと思うだろう?」
『なるほど』
『普通そこまで考えてプレイなんてしないけどねー』
「確かにそうだろうね」
けれども、おおよそオークというものに検討がついてきた。いずれ図書館だけでなく、フィールドワークに出る必要があるかもしれないかな。
まぁ、これが終わって、報酬にもらったままランディの家に置きっぱなしにしてある自動人形をどうにかしてからの話だけど。
「ともあれ、ここまで忠実だとアレが起こる可能性もあるね。さて、どこまで伝承どおりかな……」
『アレとは?』
「同士討ちだよ。オークの習性、というより性格の産物だね。粗暴すぎて仲間にも暴力を振るう癇癪持ちの子供と同じだよ」
『なるほど、船頭多くして船山に登る、か』
「まさしくその通り。トップを倒しした場合、キングのような指揮官が多ければ戦場は混乱する。命令系統の衝突でオーク同士での争いが起こりうる可能性は、決してゼロじゃない」
それでも、トップを倒すまではかなり練度の高い軍勢だと考える必要がある。
つまり、装備の制限が加わればドラゴンを相手にする難易度とそう変わらないという予想は実に的を射ていたわけだ。
「うっかりしたら逃げてきたオークがこの街の方向に向かってくるかもね。たくさんいたら目も当てられないよ」
「それは私が暗殺ギルドの支部に伝えてくればいいの?」
「そうだね。私たちは少数のギルドなんだ。常に最悪を想定して、使える戦力は使わないと。数によっては戦術級というのを試してみようかなと思ってる」
私は、あの魔導書を分冊して作ったうちの一つ、炎のように赤い装丁をした本をかばんから取り出した。
みんなから貰った名前を大切にして、装丁には「レンの魔導書・炎の章」と刺繍してもらった。厚さは、ちょっとした辞書サイズに落ち着いている。
「……お姉ちゃん、それ、なに?」
「魔導書だよ、寝る前にいろいろとね。開きづらかったから分冊したんだ」
「『『『『はぁああ!?』』』』」
「――……もしかしてわざと開きづらくしてた?」
「そ、そんなことないよー?」
「あとで問い詰めさせてもらおう。今はとにかく防衛準備だ。周辺の街にも連絡を取り合うようお願いして欲しい」
「うん、なんとかしてみる!」
「よろしく」
「行ってきまーす!」
アリスは、杖を持ってばたばたと走り出していく。
さて……私は私で、作戦を練ろう。
軍師じゃないのに、どうしてこう言う役回りばかりが回ってくるんだろうね?
※神話や伝承には諸説あります。今回はエルフ≒オーク説を採用させていただきました。
書き溜め分放出完了。誤字脱字、ご感想ご意見お待ちしております。




