第34話 攻略隊、前へ
私がログインすると、既に全員が揃っていた。
「おはよう」
「おはよっ! お姉ちゃん!」
「はよ」
「いい朝である!」
「はよーっす! 部活前だけど来ちゃったぜ!」
「おはよう、軍師。よく眠れたか?」
「ああ、おかげさまで……アスールは時間、大丈夫なのかい?」
「三十分ぐらいならオッケー!」
アスールは軽いノリでサムズアップした――アリスみたいにならなければいいんだけど。
「時間ヤバかったらママから強制切断させられるんで、そうなったらガランさんよろしくおねがいしまーっす!」
「はいはい……ったく」
「時間はちゃんと守るんだよ?」
「分かってるって!」
朝から元気なアスールを見て、私もすこしだけ元気になってきた気がする。彼女はこういうムードメーカーなところがあるね。
「さて、私も朝ごはんにしようかな」
アリスとクロウの間に空いていた一席に腰を落ち着ける。目の前のテーブルには既に、他のメンバーの朝食が並んでいた。
アリスやクロウの朝食はスクランブルエッグにバターロールだ。ジャムはイチゴとブルーベリー、マーガリンもある。
捻くれているのかこだわりがあるのか、ランディはなんと白いご飯に紅鮭味噌汁おしんこ付きという純和食。
アスールはアツアツのコーンスープのみ。
軍曹に至ってはフルポンドステーキがジュージューと音を立てて、食べられるのを待っている。
「アスール以外、みんな朝からなかなか健啖だね。それと見事にバラバラだ」
「私は今日はパンの気分だからねー」
「ゲームの中であるからしてな。こちらなら甘いものが食べ放題である! なので我はジャムをたっぷりとつけていただく! 子供舌と笑わば笑え! そんな事で信念は揺るがん!」
「俺はどーもゲームでもこう、朝は和食じゃないとな。本当は目玉焼きのほうがいいんだけど、それは戦争の火種になるし我慢してる」
「アタシは最近ダイエット中でさー。いやー、こっちでも我慢しないと続かない性格なのよねー」
「育ち盛りならダイエットはあまりしないほうがいいよ」
「メシ作る側からもそう忠告はしてるんだけどな――軍曹には野菜を食ってくださいって言いたいんだけど」
「男なら肉だ。肉しかない」
「ってな」
「まぁ、現実でちゃんと野菜を取っているならいいんじゃないかな?」
「ところでお姉ちゃんはなんにする?」
「そうだね……とりあえずメニューを見て決めようかな」
「軍師、知らないだろうから教えておこう。ここはオリンピアの街。観戦やスポーツ選手など、日本人プレイヤーの地域の中ではもっとも外国人プレイヤーが多い。ゆえに、マイナーなもの以外はほぼ取り揃えていると言っても過言ではない」
「つまり?」
「メニューなど作っていたら非常に分厚くなってしまう。出来ないものはできないとちゃんと断られるから、食べたいものを頼め」
「オムレツとか目玉焼きの焼き方にこだわりがあるんだったらそれも伝えておけよ? 応えられる範囲でやってくれるから」
「なるほど、それはすごいね」
節操がないとも言えるかもしれないけれど、食べたいものを食べられるというのはいいことだ。現実で朝食を食べたばかりだというのに、ちょっと心が躍ってしまう。
「ま。難しいものは街をあげての大量生産になるから、味はそれなりになっちまうんだけどな」
「一人の料理人としては不満かい?」
「いーや? これも料理屋としての一形態だろ」
「よそはよそ、うちはうちってヤツ?」
「なるほど」
店員を呼ぶと、私はちょっと意地悪く言ってみる。
「オレンジジュースとクスクスを」
「クスクス?」
マイナーな料理なので、ガラン以外がよく分からないといった顔をしている。
それを注文した理由は「できない場合の反応が知りたかったから」という好奇心に過ぎなかったけれども、
「かしこまりました」
「――ってできるのかい!?」
意外な反応に私は思わず声を上げてしまった。
「おおかた、どういう風に断られるか見たかったんだろうけど失敗したな」
いつだか買ったのっぺらぼうな仮面の下で、笑いを必死にかみ殺すような声を上げて、ランディが私を見る。
「クスクスは北アフリカから中東、フランス、イタリア、ブラジルでも食べられてるから思ったより知名度は高いんだ。最近じゃ日本にもそれ用の鍋とか出回ってきてる。もちろん俺ん家にもあるぞ、レンジ用のシリコン製だけどな」
さすがは現役の調理師専門学校生だ、料理にはとても詳しいな。
「ぬぅ! 知っているのかガラデン!」
「ガラデンってなんだよ。いや言いたいことは分かるけど」
「クスクスってなーに?」
「簡単に説明すると、小麦粉をそぼろ状にしてクスクス鍋っつーので炊いたもんだ」
「つまり小麦粉で作ったご飯?」
「大雑把に言うとそうなるけど、個人的には小麦粉で作ったんだからパスタって呼ぶべきだと思う。あとは上になんかかけたり乗せたりするところもあるし、炊き込みご飯風にするところもあるから、バリエーションは多いな」
「おー! おいしそう!」
アリスがどこか期待したような目でランディを見る。そのくりっとした瞳で、キラキラと。まるでお兄さんにお願いする妹のような情景だった。
「……考えとく」
「デレた! 朋友がデレた!」
「うっせぇ、テメェだけ豚の餌食わすぞコラ」
白い仮面で顔は見えないけれど、相当照れているね。この感じは。
実に微笑ましいよ、従妹にこんな友達ができて……ああ、そうだ。こんな嬉しいことを私はうっかり手紙に書き忘れてしまったな。
すまない、ランディ。このことは後できちんとアリスの両親に報告させてもらうよ。お詫びに多少の脚色を加えて、彼女のお父さんの怒りを買ってしまうかもしれないけれどしょうがないよね。
――別にさっきの件で怒っているわけじゃないよ?
「ところで、クスクスはどのように調理しますか?」
「……海鮮風に」
「申し訳ありません。魚介類はもう在庫がございません」
「川魚も?」
「ええ。卸売りにも置いていません」
「今は暗殺ギルドが立ち入り禁止令だしてるからねー。漁師も通してないらしいよ?」
「立ち入り禁止令?」
「軍師、あそこあそこ」
アスールが背中越しに指を刺す。そこには確かに立ち入り禁止令のポスターが張ってあった――なんで萌え絵なんだろう? 万人受けするとは思えないんだけれど。
「――あ、エルフか」
「で、あるな」
思い当たる事といえばそれしかなかった。確かに今は迂闊に刺激したくないね。
「漂流者のみなさんが警備されていまして、漁師さんもこのままだと生活に困ってしまうそうで……討伐依頼を出そうかという話が持ち上がってきています」
一般人とここまで会話するのは初めてだけれど、微妙に人間臭いというかなんというか、よく作りこんでいるなぁ。
生活に困ったら一般人が討伐依頼か……たしか敵愾心だったかな。それが高まってきている、ということになるんだろう。
「――と、長話をしてしまったね。新鮮な野菜でお願いできるかな? 私は菜食主義者なんだ」
正確には、この数日で菜食主義者にさせられたのだけれど。
「かしこまりました。少々お時間を頂きます。お待ちくださいませ」
ぺこり、と頭を下げて店員が下がっていく。
「……思うのであるが、菜食主義者が魚介類を食べていいものなのであろうかとか、そういうことに一切の疑問を抱かなかったな、彼らは」
「いや、菜食主義者って野菜しか食べねぇわけじゃねぇぞ?」
「「「「マジで!?」」」」
ランディの言葉に、私以外の全員が驚いた。
「魚ならオッケーなところもあるし、無精卵ならオッケー、っていうところもある。このあたりは聞いてみないと分からんところだな、宗教とは別に個人の主義主張だったりすることもあるから。料理するときめっちゃ気ぃ使うんだわ、これが」
「ははぁ……難しいものであるなぁ」
「じゃぁ日本人って昔は菜食主義者だったんだねー」
「ところがどっこい。薬食いっつー病人食。滋養強壮にいいってんで猪肉だ鹿肉だ馬肉のだって誤魔化して坊さんも食ってた。これ、豆知識な」
「「「「マジで!?」」」」
「マジマジ」
さらに補足すると薬食いは冬の季語だったりするんだよね。蕪村の「客僧の 狸寝入りや 薬食い」はあまり知られていないだろうけど。
「食い物で怒る唯一の民族、日本人。伊達じゃねぇわ。キリスト教徒から見たら暴食の化身かなにかにしか見えねぇんじゃね?」
「我らは生まれながらにして七つの大罪が一つを背負うか……!」
「中二さー、ちょっとそういう言い方やめてよねー。アタシまで同類じゃん」
「ともあれ、バチカンに行けなくなりそうな話だな。まぁ、仕事の上でも自分がそこへ派遣されることはないだろうが」
そういえば大勢にまずい料理を出したせいで顔を晒せなくなったとか言ってたね、ランディは。こういうことは身に染みてよく分かっているんだろうな。
「――って、何の話だったっけ?」
「一般人じゃなかったかな?」
「あー……菜食主義者で変な話に広がっていっちゃったね」
「で、あるな」
そしてようやく話は一般人へと回帰した。
「私は初めてあんなに長く会話したけれど、一般人の反応は意外と豊富なんだね」
「軍師は初めてか? 一般人との会話は意外と面白いぞ。ただし、前に話したことはほぼ覚えていないが」
「うむ。我もボッ……一人のときはよく話した。聞き上手ではあるな。とても素直である」
「まぁ、それが限度だがな。タロスならAIがどうの、処理がどうの、と言い出しそうだ」
「ところで、一般人も困ったときはプレイヤーの討伐依頼を出すんだね」
「いわゆるお尋ね者と言うヤツだ。ギルドの資金不足の際に、海外サーバーで何人か殺った事がある」
軍曹……やはり貴方は軍人ではないのかな? いや、軍人だと思う。
「外国人プレイヤーを悪し様に言うつもりはないが、ロールプレイでならず者プレイを行うものも多数存在する。このあたりは国民性の違いと言ったほうがいいだろう……いいか軍師よ。ロールプレイで、ローグプレイだ」
「うまいね」
面白くはないけれど。
「……計測ギルドが一般人を≪隠密≫スキルでストーキングした結果、どうやら一般人はライフゲームのような動きをしているのではないかと考えられている」
ライフゲームとは生命の誕生、進化、淘汰などのプロセスを簡易的なモデルで再現したシミュレーションゲームのことだ。
ゲームと言っても参加人数はゼロ人だけど。
「って、ストーカーしてまで調べているのかい? そのギルドは」
「計測するためには何でもするぞヤツら。かけられるものは命までらしい」
命まで、ってほとんど全てじゃないか。どれだけ過激なギルドなんだろう……?
「その影響なのか、街を行き来する旅人の一般人もいる。それを外国勢はローグプレイで面白半分に殺す。ここはもう、ゲーム文化の違いだ。何をしてもいいということは、現実で行えないことをどんどんやっていいということと同義だからな、向こうは」
「最初期はかなり荒れたもんだよー……あんまり酷い有様だったんで、外国から接続してきた初心者プレイヤーは別のサーバーに送られてるんだ」
「だから外国人プレイヤーをあまり見ないのか」
「であるな。まぁ、こちらにいる海外プレイヤーはおおよそ善人か、向こうでの殺伐とした空気に嫌気がさしたプレイヤーであるからして、危険はあまりない」
「たまに流刑されてくる場合もあるけどー」
「流刑って……」
犯罪者が送られてくるのか、さすがに怖いな……。
「まぁどっかのギルドのおかげで比較的治安がいいから気にするほどヤバいやつはいないな。そういうことが起きたら、あいつら徹底して調査したあげく問答無用で殺して殺して殺しつくして、立ち直れないぐらい装備をロストさせてから強制送還するから」
「ああ、だから暗殺ギルドなのか……」
彼らは自治組織だと主張していたけれど、やり方が過激すぎるね。やっぱり暗殺ギルドがお似合いだよ。
でも、日本の警察(?)はゲームの中でも優秀みたいで安心したかな。まぁ、別に本業が数人混ざっていてもおかしくはないけれどね。
――となると、指紋とか取ってる? というか、どういう調査方法なんだろう?
まぁゲームだし、嘘発見とかそういう調査に便利なスキルがあってもおかしくはないね、リアルに考えちゃダメな部分なんだろう。
「流刑だって強制送還除いて過去に数例あった程度だ。ま、目的を持ってこっちに来る奴らは基本的に必死で日本語勉強してくるぞ。じゃないと何にもできないから」
そういえばあの時の外国人も日本語が達者だった気がするな……ん?
「デスゲームイベントの主催者が大陸の外や、大陸から逃げた場合はどうなるんだい?」
「実はサーバー自体が違うんだよ、お姉ちゃん。運営の許可した船以外だと別サーバーに行けないんだ」
「その上サーバーごとに世界の広がり具合が違うそうだ。だから計測ギルドは世界の端を見てこようとしている。彼らだけ大航海時代だ」
「あと主催者の別サーバー高飛びは問答無用で死ぬことになってる、報酬なしで。そのことも依頼の内容に含まれてた」
私の問いにアリス、軍曹、ランディの順に答えていく。
「へぇ」
私は素直に感心してしまっ……あれ? なにかすごく重要な事を聞き落とした気がする。
「ま、とりあえず今日の午後からについて話さないとヤバくね? アスールの時間的に」
「んー……あと十五分ぐらいならオッケー! それ以上はたぶんママから強制切断食らうけどねー」
「よし、それじゃぁ食べながら作戦会議だね! 軍師! よろしくお願いします!」
「だからどうして私に振るんだい!?」
[to be next scene...]
森までは徒歩で十分もかからない。森の手前付近にちょっと小高くなった丘があるせいで街から直接は見れないけれど、街の南のほうに広がっている。
向かうのはとても安全だった。漁師がいつも使っていると言っていた狭い街道をトコトコと歩いていけばいい、すぐにその森が見えてくる。
「うわぁ……」
そして私は、丘の頂上あたりから見下ろす森の惨状を見て思わずどん引きしてしまった。
「なんだい、アレは」
小柄な人型の岩人形達がいる。ごつごつとした表面をして、首から上がない、というか肩と頭がほぼ一体化している土気色をしたモノがスラロームを組み、街道以外を柵のように森を囲んでいる。
「ゴーレムであるな」
「うっわ、万里の長城みたいだわー」
確かにそう見えなくもない。
「ということは、これ全部、あの城壁の入り口に立っている人がやったのかい?」
ゴーレムの城壁で作った入り口、街道の中央には人がいる。
浅葱色のダンダラレザーコートをキッチリと着込んだ、金髪の女性だ。ここからでもよく分かる縦ロール、そしてそのコートには似合わないレイピアを装備しているように見える。
同時に向こうもこちらに気付いているようで、声を上げずじっと腕を組み、こちらを睨み続けている。
とても機嫌が悪そうだね。
「ありえんな。あの女性が一般的な身長ならば三レベル級、小さくとも四レベル級あるかないかだ。それが三百体以上はいる」
「あの城壁は数人がかりで組んだのであろう。召喚時間延長も含めれば一時間はいけるが、あの数を用意している間に消えてしまっては元も子もないゆえ」
「数を出せば出すほど操作が難しくなるけれど、召喚数に限度はなかったんだったね」
「であるな。それゆえあのように城壁として扱う戦術もなくはない、むしろよく使われる。覚えておいて損はなかろう」
「魔法で作った一夜城、といったところかな……」
「しかり」
「でもまぁ敵対してないし、うちら依頼受けてる側だから襲われる心配はないと思う。あの特徴的なコートは遠目でもよーく分かるしね」
「ま、近づきゃ分かるだろ。気楽に行こうぜ」
「だねー」
いつものレザーメイル装備にレザーコートといういでたちのランディを先頭に、ゆっくりと歩き出す。
軍曹とクロウ、アスールは私とアリスをさり気なく守るように囲んだ隊列をとる……気楽に行こうと言っておきながら、最大限に警戒している雰囲気が伝わってくる。
「ちわーっす、“アリス・イン・ネバーランド”でーす」
「遅いっ! もうお昼ですよ!?」
十メートルほどまで近づいてランディが声をかけた瞬間、彼女が怒鳴り声を上げた……ということは、今後は彼が引き受けることになるのか。
「最終日まで何をしていましたか!?」
「スキルジェム集め。いやー、大変だった。物欲センサーに勝ったのは昨日の夜だったよ。深夜を通して俺たちは――」
「言い訳無用!」
「――別にそんな怒らないで欲しいんだけどな、深夜の二時ごろにようやくついたんだ。俺たちは」
バイザーを下ろして完全に顔を見えなくしているランディのおどけた調子が彼女をイラつかせる。
――これは別に私が立てた作戦ではない。
『相手が怒っていたら、俺が矢面に立つわ』
作戦会議中に言い出したのは、ランディ本人だった。
『顔は覚えられるの得意なんだよ、見せねぇけど』
このギルドで唯一、顔を隠しているプレイヤー。でも少し調べればすぐに顔を割り出せる……それがランディだ。
『ま、いつもどおり、ってやつだな』
一種の、機体にパーソナルマークを施すのと同じ心理作戦だ。人は意外と視野狭窄になりやすいからね、狙いやすい的は思わず狙ってしまう。
「顔ぐらい見せろ!」
「いや、俺ってシャイで……」
「チッ」
「目の前で舌打ちかい!」
「名前はなんといいますか?」
「自分から名乗るのが礼儀じゃないか?」
「チッ……沖田総子。字は、沖田総司の“司”を“子”に変更しただけです」
意外だな、沖田総司という男性プレイヤーがいるものとばかり思っていたけれど。私と同じぐらいの年齢で、少しだけ目つきがきついけれど、とても綺麗な子だ……どこか委員長をやっているような感じがする……腰のレイピアは、有名な三段突きのためかな?
ハハ、まさかねぇ……?
「ソウシ、ね」
「ふさこ、です! それで、名前はなんですか!?」
「え? 俺、教えるとか一言も言ってない」
「……そうですか、穴だらけにされたいですか」
すらり、とレイピアを抜く――って穴だらけ!? やっぱり三段突きのためか!!
「――ガラン!」
「へいへい……」
アリスの一喝。ランディはしぶしぶと言ったようすで後ろに身を引いた……典型的なダメ人間と、それを御するマスターという構図が出来上がる。
「ごめんなさい、ウチのバカが」
アリスは深々と頭を下げる。これに面食らったのは相手だ。「あんなふざけたメンバーがいるのに……?」といった顔をしている。
「躾はきちんと行ってください……!」
抜いたレイピアは静かに鞘へと納められる――ここまで、ランディたちの引いた図面どおりなんだろうね。
特にアリスはまだ十五歳だし、年齢どおりの顔つきで身長もない。いくら能力に差がないとはいえ、やはり年上や強面のほうが偉いというような風潮がある。
(なるほど、いつもどおり、ね)
だからこそ、今までもこんな猿芝居をうってきたんだろう。
「……喧嘩友達、とはよく言ったものだね」
「喧嘩友達なのはマジだよ」
相手に聞こえないよう小声で褒めてみると、やはりいつものランディだった。
照れて、声が微妙に震えている。
「私たちは見ての通り少数しかいませんので遅れました。こちらがスキルジェムになります」
「ああ、いや、その。こちらこそ頭に血が上っていて……申し訳ないです。ご苦労様でした」
「現状はどのようになっていますか? 遅れてきてこう言うのもなんですけれど、街の漁師からかなり嫌われ始めていますが……?」
「難航している、と言ったほうがいいですね……今、森全体がエルフの領域になってしまっています。私たちが汚名を被らなければ、エルフの討伐が発生するかもしれなかったくらいです」
結構危ういね……。
「森にはどのように入れば?」
「入るだけなら大丈夫ですが、決して動物たちに襲われても危害を加えないでください。あと、森の木々にも傷を負わせないように……狩りや漁などもってのほかです」
「破った場合は?」
「四方八方から矢が飛んできます。死ぬまで攻撃は止みません」
めんどくさいな……狼にも抵抗できないっていうのが痛い。
「目指す方向は?」
「この位置から南へ真っ直ぐ、エルフの隠れ里があります。あとは村長からクエストをクリアできるかどうかがカギになります」
「近藤さんより、他のギルドがいると聞きましたが?」
「数日前から先行しています。何度も死に戻りをしているようですね、竜殺し以外は」
「その方は死ななかったんですか?」
「ええ、うまくすり抜けて、今は安全地帯になっているエルフの里にいるそうです。昨日からそこに滞在しています」
「クエストは受けている、なのに進めていないということですか?」
「はい。クエストをクリアするには戦力不足と判断しているようです。相性が悪いようでして……」
やっぱりか!
「……これは勘ですが、私がここで一般人を追い払えるのは今日が精一杯、というところでしょう。メンテ明けにはならず者指定されているでしょうから、そうなる前にここのメンバーは撤退します」
予想通り過ぎるね。
「タイムリミットはメンテナンスが始まる午前零時――いえ、私たちが撤退するので、せいぜいで十時までです。それまでにカタをつけてください」
「分かりました、こちらにも竜殺しは二人います。私は違いますが……お力になれるよう、努力します」
「ええ、お願いします」
「分かりました――攻略隊、作戦通りだよ。行って」
「了解した」
「うん!」
「任せてもらおう!」
「へーい」
「――ってアナタも行くんですか!?」
ランディは振り向きざまに、彼はバイザーを跳ね上げる。
「行っちゃ悪いかよ?」
もう演技は必要ないといっているような低い本気の声と目で、彼女に応えた。




