第32話 軍師、作戦会議
「じゃぁ紹介するね」
私たちの丸テーブルは一応四人がけということになっているらしい。最後の一席に背筋を正したまま座る軍曹を見てから、アリスが切り出した。
「こっちは私のお姉ちゃんで」
「レンです」
すっと頭を下げた。
「レン、いい名前だ。よろしく」
「こちらこそ。前回のメンテナンス直後からになるから、無作法だけれどもよろしく」
「みんなからは軍師って呼ばれているよ」
「軍師か、了解した」
「私はそれを引き受けたつもりはないんだけれどね」
何度言っても、誰も訂正しようとしない……あ、いや、ランディは違うか。名前でもあまり呼ばれないけれど。
「で、こっちは軍曹。本職は自衛隊さんで、いろんな装備を持ってるよ」
「自分の数少ない趣味だ」
「なるほど。銃剣を使うと聞いていたけれど、剣だったのが疑問だったんだ。ようやく解消したよ」
つまりコスプレイヤーか。そういえば髪型とかラノベの主人公に似てい……いや年をとりすぎだね、どうしても若作りにしか見えない。体はまぁ、自衛隊らしく鍛え抜かれているから、少年系が似合わないというのもあるんだろうけど。
あとは目が鋭すぎて怖い、まるでナイフみたいだ。自衛隊というより職業軍人じゃないのかなとも思える。自衛隊ってみんなこうなのかな?
「あ、軍曹はあだ名ね。名前、すっごい長いし」
「長い?」
「好奇心と遊び心で、失敗した。フルネームは落語のアレだ。寿限無。まさか全部ひらがなでいけるとは思わなく、不覚をとった。自分への戒めも込めてこのまま続けている」
となるとの名前は百文字を超えるのか……そもそもこのゲームの文字制限っていくらなんだろう?
中世風ファンタジーだから、貴族みたいな長い名前に対応させようとしていたのかもしれない……けど設定では異世界トリップ系の――考えるのはやめておこう。
「チャレンジャーだね」
「チャレンジャー……いい言葉だ。自分は何事も向上心は大切だと考えている。向上心こそ人を成長させると常々そう思っている」
早くも脳筋臭がしてきたなぁ。自衛隊だと聞いて少し期待していたんだけれども。
「なんて呼べば?」
「好きに呼べばいい……そして笑えばいい」
めんどくさい人だな!?
「いや、軍曹と呼ばせてもらうよ。みんなに合わせてね」
「そうか、了解した」
アクの強そうな人だなと思いながら、私は軍曹と固く握手を交わした。
[to be next scene...]
「第一回ギルド会議ー」
おなじみのセリフが店の中に響いた。営業終了後の店内には、私たちのギルドしかいない状況となっている。
「本日の議題は森に出来た村のお話でーす。ジェム集め重視で放置してきたヤツね……詳しくはお姉ちゃんから」
「私に振るのかい!?」
「軍師が気付いたのだ。我たちより、軍師のほうがよく分かるというものだろう?」
「軍師や参謀が状況を説明、作戦を提示する。それにゴーサインを出すのはトップのすること。当然のことだと自分は考えるが?」
「話聞いてないからな、俺とアスールは」
「そーだねー」
「私は軍師じゃないって言っているのに」
まず、私はエルフについての所見を語る。
次に、魔法などによる遠距離攻撃が使えない可能性があることを伝えた。
最後に、ドラゴンクラスかそれに次ぐ難易度の戦闘を強いられてしまっている可能性を説明し――改めて私は軍師ではないと力説した。
「総括すると、テリトリー内を冒すような行為はしてはならない。その可能性の一つとして、樹木に一切の傷を負わせてはならないということ。そのため攻撃範囲が自然と広くなる魔法や、遠距離武器を使用してはならない。最終的には竜殺しクラスの近接戦闘力を必要としてしまう。ということだな? 軍師」
「最後に何を話していたか思い出して欲しい。決して軍師ではないと言ったはずだよ?」
「自称と他称は違う。自分はそう思うし、自分以外に頭脳がいるのは心強い」
いや、軍曹。貴方は絶対に脳筋だ。
「しかし」
ランディを見る。
「よく竜殺しとなった、褒めてやろう」
「あざッス」
「次はアスールか……」
「いやアタシはお断りしたいかなーなんて……ははは」
「メンテナンス明けに行くか」
「マジでー!? いやアタシ部活で午前中いませんから!」
「……そうか」
これ以上称号持ちを増やしてどうするつもりなんだろうと思うけれどね。
「ところで軍師は全員のスキルを把握しているのか」
「だから私は軍師じゃない。だからしてない」
「それではダメだな。一度全員のスキルを把握しておくべきだ。己を知り敵を知れば百戦危うからずという言葉がある。軍師ならば分かるだろう」
「分かるけれども、それを初心者に求めるのはどうかと思う」
というかこのゲームは脳筋率が高すぎるきらいがある気がする。
「全員のスキル構成を変更する必要が出るな……どうだろうマスター、軍師も自軍の戦力を知らず策を練るのはきつかろう?」
「そうだねー。とりあえず、今いる人だけでも報告していこうか」
アリスは咳払いを一つ。
「私は≪ブラスターレイ≫≪魔法詠唱短縮≫≪MP増加≫が二十六レベル。三発だけ、二十六レベル級の≪ブラスターレイ≫が一レベルの速度で撃てるよ」
「俺は≪解体≫四十二、≪料理≫三十一、≪ステップ≫五。今あるバフ料理は攻撃力増強に自然治癒増強。んで特殊なのがいくつか」
「我は多いぞ? ≪冥府より来たりし暗黒の瘴気よ≫および≪煉獄より来たりし灼熱の劫炎よ≫十二、≪シャドウボルト≫十、≪グラビティ≫九、≪ロックウォール≫八、≪魔法詠唱短縮≫七、≪シールド≫六、≪ステップ≫五、≪ソード≫四、≪フレイムボム≫三、≪ファイアーボール≫二。詠唱短縮によって七レベル以下は一レベル級の魔法となっている」
「アタシは前言ったままだねー。≪マナ増強≫七十二、≪リジェネレイション≫五、≪ブリザード≫一。MP量も増やして、自己治癒時間延ばしてあるから意外とタフだよ」
「自分は≪召喚時間延長≫七十六、≪サモンバイコーン≫二だ。二本角の馬を召喚し、主に移動のために使っている」
「念のため私も言っておこう。私は≪解読≫フルスロットの、魔導書型魔術師だ」
とりあえず聞いたことのないスキルがあるけれど、名前から大体想像できるようにはなってきた。
「とりあえず魔法が使えないと仮定するなら、アリスと私は現状で戦力外かな」
「自分も銃が使えない。まぁ、普段からほとんど使わない。いざと言うときの保険程度だな」
想定が正しければ、実質的に戦えるのはランディ、クロウ、アスール、そして軍曹か。
「森の木々の密集度はどれくらいだい? 一番狭いところでいいから」
「あー……どれくらいだっけ?」
「俺の三尺八寸ぐらいじゃねぇかな? よく覚えてないけど」
「実物があったほうが分かりやすいかもね、ちょっと見せてくれるかい?」
「あ、アタシが取ってくる。同じサイズだし」
「お願いするよ」
アスールが住宅部へと引っ込んでいく。
「大体どれくらいになるの?」
「一メートルと十四センチだな、端数抜きで。実際は一メートルと十七センチぐらいになるけど」
「さすがに剣道の知識があると早いね」
「結局六年も続けたし、中学ん時からずっと三尺八寸だったしな」
尺をセンチ法に直すと端数が出てくるので、こういったすぐに出てくるものは非常にありがたいな。
「――持ってきたよー」
急いで取ってきたのか、アスールがテーブルにソレを置いた。彼女は青がよほど好きなのか、鞘や柄に使われている布まで青一色だった。
「……実際に見ると、意外と狭いな」
「で、あるな……我のショートソードよりは長いが」
NPCが売っているショートソードの規格はおおよそ六十から八十センチだ。
ちなみにクロウの剣は目測八十センチ程度になる。
「人の腕の長さってどれくらいか分かるかい?」
「計ったことがないな」
「一メートル程度じゃね?」
「ランディ、おおよそ正解」
「おっ?」
そして、ランディとクロウは、武器の刃渡りだけならほぼ同じ長さになる。若干ショートソードのほうが短い程度だね。
「鎖骨と鎖骨の間から、中指を伸ばしたまでの長さはおおよそ人間の身長の半分なんだ。ランディは身長いくつ?」
「百七十ぐらいか? 最近正確に計ってねぇや」
「それでもいいよ、その半分よりちょっと短い程度になる。君の剣は目算での刀身が六十センチと少し。そうすると短く考えても一メートルと六十センチ程度、クロウもそれぐらいの長さにはなるんじゃないかな?」
「ふむ……」
クロウが剣を抜いて、人のいないほうへ真っ直ぐ前に突き出してみる。すかさずランディが剣を肩口にあわせてやり、サイズ差を比較してみた。
「……確かにそれぐらいであるな」
「ここに剣を振る体勢の事も考えると二メートル近くにはなるんじゃないかな? おおよそ二倍だね。まずいつもの剣は使えない可能性が高いよ」
「魔法禁止令どころか武器縛りも入るのー!?」
「メインウェポンを持っていくとしても、サブウェポンとしてダガーを用意する必要があるな……ガランティーヌ、アスール! ダガーを購入してこい、十分でだ!」
「マジか……ちょっと行ってくる」
「いってきまーす」
「ちんたらするな! 駆け足! また鍛えなおされたいか!」
「「さ、サー! イエス、サー!」」
二人が慌てて外へと駆け出していく――って、財布は持っていったのかな?
「我も行かねばなるまいな……ショートソードでは動き辛いし、おそらく二人とも財布を持っていなさそうであるからして」
ああ、やっぱり持っていかなかったのか。
「お姉ちゃん」
「なんだい?」
「ものすごく厄介な依頼じゃない?」
「そうだね」
少なくとも、三人はいつもの実力を発揮できないだろう。特にクロウは魔法自体を使えなくなってしまう。
「軍師、スキルの変更は視野に入れたほうがよくはないか?」
「やめておいたほうがいいと思う。行きと帰りの事を考えなきゃならないし、絶対に使えないとは限らないからね」
「あくまでサブウェポンとしてのダガーか」
「ただ、≪ステップ≫の使い道が限定されるね。上以外って言うけど、こないだクロウの戦い方を見た限りじゃ、少なくとも斜め上には跳べるみたいだし。高いところへの移動に使える公算があるよ」
「よく見ているな?」
「私は基本、戦わない主義なんだ。というか、戦おうとすると止められてきた」
「お姉ちゃんが≪エクスプロージョン≫で一掃しようと考えなければ、止めないんだけどね?」
「軍師……すこし脳筋すぎやしないか?」
「はっきり言って、このギルドの人には言われたくない気がする」
お父さんの戦い方はアスールのおかげで見れなかったけれども、みんなどこか「高火力で殲滅!」って意識があるっぽいしね……作戦としては間違ってないんだけれど。
「タロスは今回はお休みしてもらう必要があるかな」
「ああ、アレじゃぁねぇ……」
「なんだ、またロボットでも作ったか?」
「うん、まぁ、そう」
「なんのこだわりがあるのか分からないけれど、マイナーな動力源のものしか使ってないから、そろそろ普通にエンジンなりモーターなり蒸気タービンなり使ったものでも造れって命令を描いた手紙でも置いておけば、嬉々として居残りしてくれると思うよ」
内燃機関の作成で一度つまづいたせいなのかな、マイナーなものしか造っていない理由っていうのは。
まぁ、そこは聞いてみないと分からないけれど、聞くつもりは一切ないね。
「タロスの扱い方をマスターしたって感じだねー、お姉ちゃん」
「なんとなく慣れちゃったんだ……あ、できれば普通の乗り物を造っておくようにも付け足しておいて。馬車はどうにも速度がね」
「そうだ、軍師。移動はどうする?」
「ああ、今日は強行軍になりそうかも。少なくとも、森の近くにある街までは。アスールが午前中は部活で参加できないんだし」
「なら、あいつらに訓練をつけながら行くか。最短距離をな」
最短距離ということは、MOBの出やすい街道外を走ることになるんだろうね。どれくらいの時間で到着するか分からないけれど。
「ご愁傷様だね」
私には別に関係のない話だったりする。
腕の長さ云々は弓道やってたときに知りました。事実、矢の長さもそれで決めるんで。人生何の経験が影響するか分からんです。




