第29話 ※ゲームとリアルは違います
「ロボフェチ……戦車使ってまで牽引してくるとか、執念すごすぎ……」
「褒めるな」
「褒めてねーよ」
どこかランディとそっくりの口調で、アスールが罵った。生活の拠点、というより泊まっている場所が彼の店で、ずいぶんと長いこと店を手伝ってきたのだから似てくるのも当然なのかもしれないね。
ああ――結果だけを言うと。軍曹以外、私たちは揃うことが出来た。
あのあと街中まで戦車で来たタロスがランディに殴り飛ばされたり、時間を守らなかったアリスを怒ったりと忙しかった。
最後にログインしてきたアスールが開口一番「なにこの修羅場……?」で我に返った私たちは、そのままオーガベアーを討伐するため、クロウが聞き込んできた巣と思われる洞窟へと向かうことにしたんだ。
そして今、私たちは錬金術師の街の北側にいる。戦車で来た。ここからは森林が広がっているため、小回りのよさや戦力的な点から、タロスの牽引してきた機体を使っての移動をするつもりだ。
「では、お披露目しよう」
ばさぁっ、と。牽引されていた荷台のシートを取り払う。そこには仰向けに横たわったにび色に輝くロボットがあった。
「ダイエットに大成功した感じだね」
以前のロボットは、ドラム缶にドラム缶をつなげたような三頭身だったけれど、今度のはきちんと人型然としたメリハリのついた三頭身だ。ただ膝下にはいろいろ詰め込んでいるから、腫れて膨らんだような形になってる。
「前作の技術をフィードバックし作った。動力源もスターリング機関に変更した。私はゲリュオーンI型と呼称している」
「その割には三身一体じゃないね」
「詳しいな」
ゲリュオーンはギリシャ神話のヘラクレスが試練の途中で戦った、牛の群れを守る怪物だ。三つの頭に六本の腕を持って、ギリシャ重歩兵のいでたちで戦ったとされている。
「さすがに頭部のかざりは羽ではなく鉄製だし、ヘルムにはバイザーもつけた。似て非なるものだな」
「モヒカンみてー」
「アスール」
「はいはい、ごめんなさーい」
「いい。デッドウェイトなのは分かっている。だが角付きはロボのロマンだ。それに小型軽量化も成功した。なら、あの程度のウェイトならかえってちょうどいい」
彼の言うとおり半分ぐらいにサイズダウンしている――小型化は科学者としての常なのかな? 携帯電話だって、最初はかばんサイズだったと本で読んだことがあるし。
「試作型は基本になる十レベル級ゴーレムを仮想敵にしていた。そのため馬力や装甲、それを支えるための形状だった。しかし今回は量産化とコストダウンを目的とし、身長を下げた。同時に関節にかかる負担が少なくなり、計算の上では以前よりは壊れづらいはずだ」
「もうゴーレムでいいじゃん」
「ロボットもどきに興味はない――結果として設計から全て見直し、新造。そのためデータが欲しくて使ってもらいたかった。特に軍師、火力過多だ。乗れ」
「断るよ」
「なぜ?」
「まず、マニュアルは読ませてもらった。興味深い技術書としてね」
「なら分かるだろう、動かしやすいようにした」
「いや無理だよ!?」
普通のロボット系ファンタジー小説みたく、ペダルとコントロールスティックという方式でも困るのに、何を考えてかこのロボット、一輪車と同じくパイロットの体重移動で歩くっていうわけの分からない方法で、
「そもそも、これ止まれなさそうなんだけど?」
ブレーキが、ないのだ。
「……あれは今から十数年前の出来事だった」
「それは必要な話かい?
「出張から帰ってきた父が、おみやげを買ってきてくれた。どこの民芸品だったか……なくしてしまったが、それは今でも覚えている」
話を聞いてくれていない……とりあえず魔導書の準備はしておこう。
「その民芸品は二足歩行する人形のおもちゃだった。頭を小突いてやると、倒れそうになる、それがやじろべぇのようにバランスを取ると、片足が振り子のように前に出て……頭を揺らしながらそれを繰り返して歩くんだ。とても可愛らしい動きだった。当時はロボットアニメにどっぷりでね、二足歩行するというだけで私はとても喜んで、毎日毎日、それであきもせず遊んだものだ……ロボットのおもちゃを、同じように改造しようとして壊してしまい、わんわん泣いた覚えがある」
すごく懐かしそうに話してくれている。うん、すごくいい話だね。そしてだいたいの理由は分かった。
でもそこまで話す必要ってあったのかな? 私はいつでも使えるように、≪ファイアーボム≫のページを開いた。
「つまり?」
「私の思い出を元に、ロボットに対する熱い魂で創意工夫して完成させた機動システムだ。パワーアシストと私の魂で動くこれは上り坂にも負けな――」
「今ちょうど≪ファイアーボム≫のページを開いているんだ、さっさと君が乗って動かせ。ロボットごと灰にするよ?」
「――……了解した」
心なしか冷や汗をかいているように見えたけれど、うん、気のせいだね。
「――さて、作戦を説明しよう」
タロスの操るゲリュオーンのパワーは意外とすごくて、私たちと、クロウに≪シャドウボルト≫で切断してもらった五メートルはある木を余裕で担いで乗せて、さらに私たちが乗った台車を引きながら歩いている。
このゲリュオーンの力の源であるスターリング機関――スターリングエンジンとも言うね――気体を加熱すると膨張して冷却すると収縮する現象を利用したものだ。
温度差さえあれば動くから、熱するどころか冷やしてもいい。だからとても静かだし、爆発させるガソリンエンジンよりエコだ。
しかも変換効率は脅威の四十パーセント、ガソリンエンジンがその半分程度だと考えればその熱効率変換の高さが分かってもらえると思う。
問題は出力を得るためには温度差を大きくするか、大型化するしかないってことだけど――技術書を見る限り、ゲリュオーン自体がほぼそのエンジンと同義なんだよね。
煩雑だけど原理さえ分かれば単純化できるエンジンとはいえ、それを人型にするって結構すごいよね、タロスの情熱って。
「今頑張って作ってもらっているのは、私が本で読んだことのあるマタギの盾だ」
「いや槍っしょ」
「杭じゃね?」
ゲリュオーンが木を掻き分けながら、荷台を引いていく。ガタゴトと揺れているけれども、順調にその太い棒が出来上がっていく。
「おおむねその認識で間違いはないよ? だってこれ、巣穴の前に突き立てて使うんだ」
「お姉ちゃん、それ、檻だと思う……」
「なぜか盾って言われてるから、それに習って言ってるだけだよ」
「訳がわかんないんだけど!」
「私もだよ。あと、熊は骨格上引き寄せることしか出来ないんだ。それを巣の前に突き立てておけば、引き抜くこともできないし、押して開くこともできない。アリスの言うとおり、まさしく檻さ」
「そこを魔法で仕留めるのであるか?」
「基本的にそうだね。マタギは、そうして閉じ込められた熊をマタギ刀で作った槍で『えいっ』って突き殺すんだ」
「へ~」
「タロスは力持ちだし、これで深く刺せる。抜ける心配はないね」
「力仕事ならロボの仕事だ」
「いやタロス本人の仕事だろ、筋力フルスロットだし」
「我もそう思う」
「いや、ロボの仕事だ」
頑固だな……でも作戦通りにいけば別に問題はないか。
「しかし……これが軍師のいい考えであるか?」
「そうだね。巣穴にいることが前提だけどね、いなかったら戻るまで待つだけださ。少なくとも、眠りには戻ってくるだろうしね」
――ばきばきばきばきぃ!
「なぜだっ!」
私はいとも容易く盾を破壊される様をみて、思わず叫んでしまった。
ここに来る前に、ちゃんと本も読み返してきたって言うのに!
「まぁベアハッグってヤツだろうな」
「引く力が強いということは、ハグの力も強い、ということであるな……嫌な予感が的中したのである。というかフラグ回収乙である」
「本の知識役にたたねー」
「はーいみんなー? もうしょうがないから戦うよー? タロス壁ー、前衛三人はトゲに注意してちくちく攻撃ー、私かお姉ちゃんが頭を≪ブラスターレイ≫でチンするから、足止めよろしくー」
「「「「はーい」」」」
「ガァアアアアアアア!」
巣の前にあんなものを作られて怒っているのか、ベアハッグで壊れきれなかった根元の部分は、片腕を振るい爪でバキバキと壊していく……考えてみれば当然だね?
「では、ゲリュオーンI型の力、そして新装備を試させてもらおう!」
がごんっ、とソレをロックしていた鞘が、六十度ぐらいの角度で開いた。
「ゲリュオーンソォオオド!」
機体の軽量で関節の耐久性に十分な余裕が出来たからこそ振り回せる、身長とほぼ同じ長さの大剣を背中から取り外して、ドイツ剣術の鋤の構えを取った。
なぜ叫んだかは分からない。それより現状の確認が重要だしね……落ち込んでないよ?
「唸れ! 我が特機魂!」
タロスってロボットに乗ると性格変わるなぁ……キュィイイイイイインって、剣からチューンソーみたいな音がする。確か機体からの動力供給で、刃部分に備えたワイヤーが高速で動いて、糸鋸みたいになるんだっけ。ドラゴンの鱗も切り裂ける、対ゴーレム鎧用の装備ってマニュアルに載ってた気がする。
まぁ、通常の質量剣みたいに使えるように、片側の刃の部分だけだったはずだけど。
「一! 刀! 両! だぁああああん!」
大剣を剣道の脇構えっぽく水平に構えて、≪ステップ≫みたいなモーションで一気に距離を詰める――ああ、これが勇者系ロボット小説にある必殺技というものか、生(?)で見る日がくるとは思わなかった。
「ガゥ!」
でもよく考えたら勇者系ロボがいきなり必殺技を使って当たった試しってないよね。ましてや元気な相手に、そんな大振りな攻撃って――あーあ、予想通り下を潜り抜けられちゃったね、かすりもしない。
ギャギャギャギャギャギャ――!
巣穴に使ってた洞窟の上の、岩肌がゲリュオーンソード(の対金属用刃部)によって削られて、切り裂かれていく。スゴイ威力だなぁ……そういえば総重量っていくらなんだろう? あ、途中で止まった。糸が切れたみたいだ。根元まで深々と刺さっているよ。抜くのに苦労しそうだなぁ。
「く……避けるとは卑怯だ……っ!」
その破壊力だと避けなきゃ死ぬし、そもそも正直な攻撃をしすぎなだけだと思うな。時代小説だと「一瞬の交錯で~」で相手は死ぬだろうけれど、タロスは存在自体ジャンルが違うし、そもそも格闘技の経験無いって言ってたから当然か。
「――んのバカがっ!」
ゲリュオーンの後ろから攻めようとしていたのに、単独行動を取られてそのまま攻めざるを得ない、いつもの三尺八寸を八相に構えたランディや、
「やぁあああああああ!」
同じ武器を両手に広げて構えるアスール、
「≪冥府より来たりし暗黒の瘴気よ≫……≪シャドウボルト≫!」
そして魔法を纏わせたショートソードを持ったクロウさんが三方向から攻める。
アリスは私の隣で狙いを定めているけれど、思うように頭だけを狙い打つことが出来ないみたいだ。
ヘタをすると帰りの足が亡くなるしね。
「がぁああああ!」
距離が離れているうちに、熊は腕をふるってそのトゲを飛ばす――って、飛ばした!?
「ってぅおおおおおい!?」
複数発のトゲが真っ直ぐ飛んで来るのを、足を止めて叩き落し、≪ステップ≫で後方に下がって回避して、さらに横っ飛びにごろんと転がりながらもう一度避ける。
「トゲを飛ばしてくるであるか!?」
その攻撃を見たクロウは後方へ≪ステップ≫、ボルト系の弱点である「実体がない」という点において打ち落とせるかどうか分からないためだろうね。
「フラグなんか立てるから!」
「アスール突っ込め! 首! 内股! 脇から肩!」
「りょーかーい! ≪リジェネレイション≫!!」
ああ、「解体線」が見えるのか。ということは四十二レベル以下なんだ……うーん、どうして逃げられたんだろう?
「ガガガッガガガッガガガガッ!」
短く吠えながら、熊が頭をかきむしる。細かな毛が周囲に飛び散って――
「――あたたたたたたたたたたぁ!?」
自動治癒もちのアスールが慌てて後退した。血みどろだけど……ゆっくりと怪我が治っていく。まるで逆再生みたいだな。
「ちょっとアレなにー!?」
「たぶん、タランチュラが威嚇のために刺激毛を飛ばすのと一緒だね。空気中を漂うトゲですごい痛いから、動物も慌てて逃げ出すんだ」
「知っているなら早く言わぬか軍師よ!」
「蜘蛛は合成されていなかったから考慮外だったんだよ」
だけど、なるほど、だからか。
「ああやって接近を阻みながら、トゲを飛ばして逃げたんだろうね。実に厄介だよ」
「つーか≪リジェネレイション≫終わったー! アタシもう役立たずー!」
「私もゲリュオーンソードが抜けず……!」
「「「「素手で戦えバカ!」」」」
四人の心が一つになったね。でもあの巨体だと普通にジェムごと……そういえばなんでそのことを考慮に入れずに突っ込んだんだろうね、タロスは。
「軍師殿! 何か策は!?」
「お姉ちゃん! このままじゃジェムごと焼き払っちゃうことになっちゃう!」
「私は軍師じゃないし、策なんてないよ」
「そん――!」
私は魔導書を開く。
「≪バインド≫」
任意の地点に発動する魔法を唱える。それと同時に燃え尽きていく魔導書のページを確認することなく、私は熊を見据える。
「ガ――!」
「≪セット≫≪ウォーターボルト≫――ファイア」
任意地点に魔法を設置する≪セット≫と――ピンポイントで攻撃できて状態異常が死体に影響のない≪ウォーターボルト≫を組み合わせて、バシュッ、と首を消し飛ばした。
「「「「――え?」」」」
「≪詠唱解除≫、と……」
無策って嫌だな、そう思いながら私はすべての魔法を解除した。
「……あれ、どうしたんだい、みんな。見ての通り、終わったよ?」
「お姉ちゃん」
「なんだい?」
「何で最初から使わなかったの?」
「≪バインド≫は魔法レベル以下の筋力レベルまでしか拘束できないんだよ?」
「いやそれでも能力値減少があるからすっげぇ助かったんだけど……」
「むしろ、今のは普通に作戦だ」
「こんなの作戦じゃなくて力でのごり押しだよ、三枚も使うのって効率が悪いんじゃないのかな? 私は魔法に限りがあるし」
というか、なんでみんな当たり前の事を聞いてくるんだろう?
マタギの話ですが……とある民族学の先生から聞いたお話です。本当にそうしたかどうかはさておき――ゲームとリアルをまぜっこにしてはいけません。そんなお話。
書き溜め分投稿終了。ご意見ご感想、誤字脱字報告などなど……いろいろひっくるめてお待ちしております。




