第25話 ゲーマーの敵
「第一回ギルド会議ー」
私はいつも通り開会宣言をした。
「昨日はよく眠れたかな? 今朝はとりあえず、手に入れたスキルジェムを確認して、そのあとどう動くかを考えようかと思います」
「つーか検査どうしたクソ幼女」
「こんな朝早くからじゃないし。ちょろっとやるだけ~。ちゃんと時間は見てるよ」
あの後、宿屋のカウンターに無言で立っているNPC――彼女は錬金術師が造れる錬金術スキル最高峰の一つ、人造人間――にチェックアウトの旨を告げてお金を払うと、私たちは酒場に向かって、そこの奥にある丸テーブルに陣取った。
「それじゃぁガラン、スキルジェム出して」
「へぇへぇ」
ガランはレザーコートの内ポケットから小さな皮袋を取り出して、数十個ものスキルジェムをジャラジャラとテーブルの上に転がした。
形状は正八面体、いわゆるひし形ね。透き通った綺麗なサファイアブルーの宝石で、この宝石の中にスキル名が書かれているんだけど。
「ルーペ持ってきてる人ー?」
すっごい細かい! そりゃぁ、懐中時計の文字盤にセットできるくらいだもんね、大きさは五ミリぐらい?
計測ギルド「ISO」が≪測量≫スキルを駆使して作り上げた一メートル基準棒? ってのから定規を作ってるらしいけど、精度はちょっとわかんない。
まぁ、タロスも関わってたし大丈夫かもしれない……不純な動機だったけど。
「私が持っているよ」
「さっすがお姉ちゃん!」
そうして一個一個確認していく……あー、めんどい! 鑑定スキル持ってたらパッと頭の中に浮かんでくるんだけど、持ってる人いないしな~ウチのギルド……スキルなしじゃ自分の知識で見るしかないし!
軍曹ですら「これだけはダメだ」って投げ出すほどだもんね~……人外でもさじを投げる細かい作業……拷問だねっ!
「……っていうかなんで私だけしか確認してないの?」
ルーペは、最初に貰えるアイテムだったりするのだ。時計屋でも買えるしね。
「俺、近接戦闘職だから。戦闘でルーペ壊れるかも知れねぇし、店に置きっぱなしにしてる」
「同じ理由である。もっとも我は、鑑定屋に持ち込むのだがな」
「私は今、アリスに貸しているよ?」
「っつーかクソ幼女、お前はなんで持ってねぇんだよ」
「うっさいバカガラン! こないだロストしたまま買い忘れただけだもん!」
「というか、倒しすぎたのが悪いんじゃないかな?」
「うっ……」
こんなちっちゃなスキルジェム、MOBの体のどこにあるの? って思ってる? 答えは心臓の上あたり。普通の生物にはない「スキルジェム胞」ってのがあるの。単にジェム袋とかって呼ばれてる。ちなみにゴーレムみたいなのは額か胸に、見えるように嵌めこまれてたりするよ。その状態だと鑑定スキル無効化されちゃうから、倒すまでお預けってヤツだね。
ちなみにレベルが低いMOBはたくさん持ってることが多くて、レベルが高いMOBは逆に少ないことが多いね、そのかわりレアなのが入ってるときがあるけど。
で、倒したときに破けちゃうとスキルジェムがどこに行ったか見つけるのに苦労するんだよねー、そもそもジェム自体にダメージが入ると壊れちゃうけど。ちなみに、狼の群れの分は私の魔法でジェムごと焼き払っちゃったのが多いからこの程度の数で済んでたりする。
頭だけジュってしないでよかったー……どうせ目的のジェム落とさないし。
「とりあえずコレとコレは筋力でコレとコレとコレは……あーめんどくさい! こっちはお目当てのスキルジェムじゃありませんでしたっ!」
じゃらじゃらっと、ちょっと乱暴に皮袋に入れた。
「で、一応残ったのが……ん~……あー、やっと見つけたー! 一個目ー!」
ルーペ越しに覗き込んだ宝石の中には、ちゃんとシステマティックって書いてあった。なぜか日本語、なぜかカタカナ。NPCに出す謎言語じゃないのが不思議っ!
「あと二十個以上あるな」
「中に彫ってある文字の長さがコレぐらいのヤツより分けてよ」
「ヘタにその中に目当てのが混ざってたらどうすんだ。運良かったら合成獣からいくつか取れるんだし」
合成獣は心臓が三つあるからね~……ああいう人造物とかって解体スキル持ってる人がやらないと、思っても見ないところにあるジェム袋潰すから、ガランが解体持ってて助かった感じかな。
「二個目……三個目……っと」
スキルジェムを何個かより分けていく。システマティックを必要としている人は一人だけらしいから、スキル構成の法則から最低四個。
「――……はい、最後の一個は見つかりませんでしたー! ちくしょー物欲センサーめぇ!」
「ああああああああ! いちたりねぇええええ! 妖怪いちたりないめぇえええええ! 物欲センサーめぇえええええ!!」
「妖怪退散! 妖怪退散っ! センサー爆破するがいいっ!」
「……妖怪いちたりないって、なんだい?」
最後に見ていた≪ポイズンバイト≫のアーツジェムを皮袋に戻して、ヤケクソ気味に叫んだ。
「あー……合成獣もう一匹か」
「野良見つかるかなぁ……」
「……物欲センサーってなんだい?」
「難しいのではないか? アレは忠誠心が高すぎると戻ってこようとする。その時に討伐されてしまっている可能性もありうる」
そう! つまり! 今この瞬間にも合成獣は倒されてるってこと!
野良は肉食の獅子と蛇、草食の山羊がいるから、動物の豊富な森に引っ込むんだけど……この習性がまた合成獣が倒される理由にもなるんだよねー。
あとは合成獣の元になった生物が住んでいたところとかだけど……なんでもかけ合わせられるから合成獣って言うんだよね~。
「あの……」
「「「ネットで検索っ!」」」
「わ、わかった……」
妖怪いちたりないとか物欲センサーのせいで思わずお姉ちゃんに怒鳴っちゃった。くそっ! 妖怪いちたりないめっ! 物欲センサーめっ! どこまで私たちの目の前に立ちはだかるんだっ!
――ま、実際にそれがどういうモノなのかは全然知らないけどね、私も。
「あ~……どーするー?」
ぐてーっと私はテーブルに突っ伏した。
「なんか案あるひとー?」
「ふむ……とりあず軍曹殿の進捗も聞かなければならないのではないか?」
「あー、無駄無駄。なんか今朝留守電確認したら『すまん、状況を完了できなかった。責任を取り大陸十周の罰を自分に科す』だってさー」
空っぽシリーズは無色透明なので一発で分かるのだ。あの軍曹も見ただけで分かるって素晴らしいよね~。
「大陸十周って……大陸どんだけ広いと思ってんだよあの人外……」
ちなみにこの大陸は、敏捷フルスロットで端から端まで「走って」横断すると丸一日かかるぐらいらしい。海の向こうもあったりするから、その広さは押して知るべし……!
「ちゃんと『そんなこといいからさっさとジェム集めて帰ってこい』って命令しといた。……いま最北端の石碑のとこにいるんだって」
「軍曹殿……!」
「はぁああああ……帝立錬金術研究所、行くかぁ?」
「ああ、あのタロスの同類のところ?」
――この世界で野良になった合成獣が見つかる理由の一つとして、錬金術師が一部に非常に人気が高い職業だから、っていう理由がある。
その最たる理由が、人造人間が作成できること! いわゆる不気味の谷現象ってヤツが起きないから、すっごい自分好みのNPCが作れて、しかも自分に限りなく都合のいい性格に出来るって言えば……あとは分かるよね?
そしてそんな高度な知性を持つ人造人間を維持するには錬金術スキルをほぼフルスロットしないとならないんだよね。だから自衛用に合成獣が造られるのだ。
「行くしかないかー」
「んじゃ支度してさっさと行くか……あ、あそこに行くとなると顔隠さなきゃならんかな? 俺」
「もう大丈夫なんじゃない? っていうか私そろそ――」
ごとん。
「アリスっ!?」
突然糸の切れた人形のように、テーブルに額を打ちつける姿を見て私は慌てる。
なんだ?
何が起こったんだ!?
急いでログアウトして確に――
「あー、強制切断されたっぽいな」
「――え?」
冷静にランディは時計を確認する。
「……って、検査の予定時間おもっくそオーバーしてんじゃねぇかよ。あのバカ」
「となれば、こってり絞られて帰ってくるであろうな」
というよりランディ、どうしてアリスの検査時間とか正確に知っているんだ……?
「知ってたのなら、教えてあげても良かったんじゃないのかい?」
「そんな義理はない。っつーか、スケジュール管理はきっちりとさせんと廃人になる」
「廃人!?」
「ネットスラングである。いわゆるゲームにどっぷりはまり込んでリアルをないがしろにしている人のことだ。実際に人間性が壊れるわけでは……いや、ある意味壊れてしまっているか」
第一種特例でも廃人と呼ばれるのかな……呼ばれるんだろうね、寝るか強制切断されるまでゲームにどっぷりだったら。
「っつーか誰が宿まで運ぶと思ってんだっつーの……」
ランディは、アリスの体を手馴れたようにお姫様抱っこする。アリスは、まぶたを閉じて眠り込んだような安らかな顔をしていた。
びびっびびびびっ!
アリスの体の中から警告音のような、けたたましい音があたりに響く。酒場の人たちが、一斉にこちらを向いた。
――犯罪者を見るような目で。
「……このクソ幼女、ハラスメント設定で警告音設定していきやがったな……!?」
「すごい、音だね……」
「GMが呼び出され暗殺ギルドが動き出すな……というか、うるさくてかなわんぞ朋友よ。一旦下ろせ」
「だよな……っつーかあのクソ幼女め、毎度毎度……」
毎度の事らしい。
「なんだか、その、すまないね?」
「もうほとんどGMに顔覚えられてっから、どーでもいいんだけどな?」
アリスを下ろす。だが、犯罪者が逃げるまで警告するために鳴るのが仕事の警告音である。しばらく鳴り響いて……、
「――失礼します、GMです。ハラスメントコールを受けて飛んできました」
……パッと目の前にテレポートするかのようにやってきたのは、体中に傷があるむくつけき筋肉の冒険者。背中には本当に一体なにに使うのか、非常識なほど馬鹿でかい大剣を背負っていた。
「って、またあなたたちですか……」
また、らしい。
「コレ宿屋まで運びたいんですけど、一時設定切ってもらえません?」
「はいはい……はい、五分間だけの解除ですから急いでくださいね?」
「へーい、毎度すんませーん」
「こんなことが無いように、いい加減セーフティリストに登録してもらうなりしてください。彼女の意地悪を指摘するのも彼氏の責任でしょうに」
「よし、表出ろクソGM。こんな幼女はオレの趣味じゃねぇ!」
「はいはい、それじゃぁ私は仕事がありますので」
「あっ! 待てコラ!」
言うが早いか。冒険者GMは一瞬でかき消えてしまった。
「…………きつく、叱っておくよ?」
「そうしろ。っつーか、サブマス権限使ってでもそうさせる」
アレどうにかならないんですかね? 逆○しかり○玉しかり、ハイ○ードアタックしかり……




