第24話 話をしよう
我らは、必死の思いで荷馬車を押しながら――野生のキメラが豊富にいると思われる「錬金術師の街」の宿に戻ってこれた。
まぁ、もっとも。
ここは街というより、村なのだがな。
スクロール職人にスクロール作成を頼み、余分なアイテムは――特にただのアクセサリーとして使おうとしていた山羊の角などは――そこにいた卸売り業者にまとめて売り払った。
そうこうしているうちに夕方になってしまった。宿に戻って私服に着替え、食事を取った我らは、よくよく考えればまだまだ初心者である「大禁呪の魔女」に知識をつけてもらおうという話になり、彼女の部屋へと集まることとした。
「話をしよう」
パチンッ――我は指を鳴らす。
「≪地獄より――」
「お姉ちゃんだめぇえええええ!?」
「死ねッ中二!!」
マスターは取り押さえるように強制中断し、アスールは抜き身のサーベルで我を袈裟懸けに斬りつけて木製の床板にひれ伏させた。PKスキルが入っていないだけに我は大丈夫だったが、私服は容易く切り裂かれてしまった。
朋友は呆れたように、ベッドに腰掛けたまま肩をすくめる。助けてくれてもいいのではなかったのだろうか?
「ううむ……ネタの分からんヤツらめ……」
痛くはない、痛くはないのだが……反射的に「痛いっ!」と思ってしまうのが人情である。我は斬られた場所をさすりながら起き上がる。
「まずは魔法についてであるな。まぁ、ちょくちょくと説明はしてあるのだが」
「ああ、なぜかよく聞いているよ? 『大禁呪の魔女』かい? いい二つ名じゃないか。実に、常識を知らない君たちに何をしても問題が無いように聞こえるいい名前じゃないか」
出会った時から表情がほぼ変わらぬ彼女の顔が、無理やり笑顔をつくるようにヒクヒクと痙攣している。
――これは、あれだ、とてつもなく怒っているな。
「魔導書を開いてくれたまえ、ページはどこでもいいが絶対に詠唱をしてはならない」
「それは、まぁ、君の態度次第だと言えるね」
彼女はそのまま、彼女専用の魔導書を開いた……そこは「禁呪」がうちの一つ、地属性固有魔法があった場所のように思えるのだが……?
「我は実際に読んだことはないのであるが、スクロールの中身は魔法の名前とその概要などが乗っている。解読レベルに合わせて内容の詳しさや、魔法の効果がどうなるかが変わるそうだ」
「うん……そうだね、確かに色々と書いてあるよ。例えばこの魔法は、≪アースクエイク≫であるとか、私を震源地にして震度八の地震を起こすこととか……あとはフレーバーとしての設定や詠唱まで書かれてあるよ。戦うための武器だと思って放っておいたけど、なかなかどうして面白いね」
――やはり≪アースクエイク≫であったか……頭が痛くなってくるな。
単純な地震であるがゆえ、それ一発で街ひとつを壊滅させることすら可能な狂っている魔法なのだ。
というか、震源地は地割れが起きるレベルである、術者自身も立っていられないどころかOPK判定で死ぬ可能性すらあるというところで既に狂っている。
「月刊カルドロン」では『二十レベル以下ではまったく使えない。ただし高レベルでは絶対に撃ってはならない最狂の魔法』と記されている。
「いいか、絶対に撃つでないぞ? 本来は二十一レベル以上三十レベル以下にとどめ、震度三で相手の動きを阻害する魔法なのだからな?」
彼女がコンセントレイト系を使えば震度十六か、想像の範疇を超えているな……なぜ六発も入れてしまったんだ、我は。
「とにかく、思いつく限りのあらゆる魔法はその中に収めたつもりである。読めば分かろう……軍師が使う魔導書は、もはや禁書として封印されていてもおかしくないシロモノということをな」
「中二、なぜ作ったし」
「夜中のテンションというものは恐ろしいな……」
我の黒歴史ノートの一ページ目を飾るにふさわしい所業であった。
「通常は解読、筆記、主に使う属性のコンセントレイト系、好みでボール系かアロー系で構成するのが魔導書型魔術師である。完全解読特化型ならば、もっと大人しいもので揃える。段階的に魔導書を用意する者もいるな」
「……ちょっと頭がおかしいものだってことは理解したよ。この魔導書と、これを監修したクロウは」
「ちょっとした徹夜でおかしくなっていただけである。特に、その日は満月の夜であったし。きっと月の魔力も関係あるのだろう」
「とりあえずPKスキルを買ってくるよ。解読スキルを一つ下げられるしね」
「「「「それだけはだめぇえええええ!?」」」」
ほぼ逃げ場のない七十七レベル級≪エクスプロージョン≫などを撃たれれば我らは死ぬしかないだろう。我には盾があるが、防御範囲から考えて四肢のいずれかが吹っ飛ぶためやはり死ぬ。
火属性耐性のついているレザー系を着た朋友か、≪リジェネレイション≫を使えるアスールがギリギリ生きていられるかどうかと言ったところであろうか? 速射されればほぼ意味をなさないが。
まぁ魔法の射程は三十メートル、≪エクスプロージョン≫は半径がレベルと同じゆえ軍師も死ぬことにはなるな。
とにかく使いづらいものなのである……最大威力の属性固有魔法というものは。
「魔法の威力を下げる呪文はないのかい?」
「無い。というか、低レベルをコンセントレイト系で調節したほうが手っ取り早い」
「じゃぁ魔法を相殺させられないかな? 詠唱のせいでタイミングがどうしても合わないけれど」
「それは無属性固有系統の≪セット≫を使えば可能であるな。思考制御でタイミングや発動地点を操作できる。相殺するならば同レベルの魔法を使うか、同レベルになるまで魔法を打ち込めばいい。汎用性がある故、その中にも五十枚ほど積んでおいた」
「ふぅん……」
軍師はぱらぱらとページをめくり、
「ならウォール系が使えるね。≪エクスプロージョン≫を使うと、私ごと死んでしまうのが問題だったんだし」
「その発想に至るとはやはり軍師か……!」
いざ≪エクスプロージョン≫を使ってもらわざるをえない場合に備え、ウォール系と≪セット≫を積んでおいてよかった……!
ちなみに、ごく普通に使われる戦術である。なぜならば、三十レベル級以上の≪エクスプロージョン≫をどのようにして相殺するかの問題が出るからである。
――大盾で防御する方法も、もちろん存在はするがな。
「思考制御であるが、これはとても簡単である。おおよそ『こういう感じになればいいな』と考えればだいたいそうなる」
「アバウトだね」
「アバウトでも可能なのである。繊細な動きをさせるためには集中しなければならんがな」
稀に、ゴーレムを大量に召喚して複雑な連携を取らせながら戦うものもいる。これはもはや「そういった才能」が必要であるので本当に稀である。段持ち棋士なら練習次第で出来なくはないかも、と言った程度だ。
ただ、特定パターンで動かすだけならば楽だ。色とりどりのドラゴン系魔法を飛ばすエンターティナーや、ゴーレムバックダンサーなどは比較的よく見られる。
まぁ、どちらも思考することに集中しないと難しいため、本人は一切動かない場合が多いのではあるがね。
「単純なことだったら私でも可能そうだ」
「うむ。いずれ生け捕りの依頼がくるやもしれん。その場合は≪ロックウォール≫で石の檻を作り≪スリープミスト≫で眠らせるなど出来なければならないからな。今後は≪ファイアーボール≫だけでは物足りなくなる。属性固有魔法以外を解禁しよう。いわゆる≪エクスプロージョン≫などであるな。六枚しか積んでいないから分かりやすいと思う」
「わかった、読んでおくよ」
「さて、次は属性である」
「いわゆる四大属性に少し足されているね、読んでいると分かる」
「そうだな。地水火風雷光闇無。無属性は混沌属性ともいい、全属性が少しずつ混ざっている。状態異常も司っている」
「うん、読んでる」
軍師は魔導書から一切目を離していない。足を組んで読み続けている……ふむ、順調に「大禁呪の魔女」としての階段を上っていくな!
残念なのが、彼女の服装がブレザーの制服姿だと言うところであろうか? さすがに今はブレザーやサマーセーターなどを脱いではいるが。
しかしネクタイを緩め着崩した姿が色っぽいであるな! ガランも目を逸らしつつちらちらと見ているぞ? ……それよりアスールが狂戦士のような目で睨んでいることにまず気付こうぞ、軍師よ。
「この属性に加えて切断、衝撃、貫通、圧迫属性がある。あわせて十二属性、つまり時計に合わせているのだ!」
「へぇ」
いやそこは「な、なんだってー!」か「なん……だと……!」であろう!?
朋友に目をやる、苦笑いを浮かべていた……くっ!
「……例えば≪ファイアーボール≫は火と衝撃属性を持つ」
「書いてあるね」
「アロー系は――」
「貫通みたいだね。貫く系統なら貫通のようだから、お父さんの銃も貫通かな?」
な、なんという読書スピード……! 速読でも習得しているのか彼女は!?
「か、貫通だ。衝撃も混ざると聞いたが……」
「なるほど、衝撃が多いね。銃も、となると爆発したりぶつかるものは衝撃が混ざるのか。ただ圧迫がよく分からないね。文字通りなのかな?」
「まぁ、文字通りだ。圧縮、押す、潰すなどであるな。相手の動きを制限するものが多い、闇属性の≪バインド≫、≪グラビティ≫が該当するであるな!」
よ、ようやく説明できたっ!
「≪グラビティ≫は、我が今日使った魔法であるな。あとはボルト系であるが」
「ああ、読んだ。貫通属性のバーナーみたいな魔法なんだね……噴出しているのに反動がないから、ノックバックのある≪フレイムボム≫を移動に使っていたんだね」
「せ、正解である……!」
「これは劣化≪エクスプロージョン≫なのか……≪バインド≫も劣化≪グラビティ≫だし、他にもありそうだな」
ページをめくる手が止まらない。スクロール一枚にどれほどの情報が載っているのだろうか? 解読フルスロットにしたことのない我には想像がつかなかった。
「最後にアーツであるが……別に言うことはないな」
「そうかい」
「魔法と同じく、STをリソースとして発動するものである。≪ステップ≫がこれに該当するな。アーツは重量によって消費量が段階的に変化する」
「なるほど」
片時も魔導書から目を離していない……むぅ、我よりも魔法に強くなりそうである……!
「≪ステップ≫はスキルレベル分、一歩で移動する。すぐに最高速へ達する。ただし一直線、真上は不可、人間の挙動で可能な範囲でしか動けん」
「ま、当然だな」
朋友が相槌を打つ。主にステップを使っているのは彼であるからして、よく分かっているのであろう。
「魔法と違い瞬間的に発動するのは見ての通りだ、持続するものもあるがな。攻撃力や耐性を一時的に上昇させるアーツも存在するが、自分にしか作用しない。気功みたいなものだ。偏見かもしれんが」
「ついでだ、スキル作成もだな」
「で、あるか……まぁなんてことはない。空っぽのスキルジェムを使えばオリジナルモーションのアーツを作成できる。広く使われるものを作れば『開祖』と呼ばれ、公式化される。これもまた戦士の誉れだが……Wiki情報が膨大になる理由の一つであるな」
「魔法も作れるのかい?」
「そうだな。十秒内に行える行動を記録し、名前を登録する。あとはその登録スキルを宣言すれば発動する。まぁ、パソコンのマクロであるな」
「マクロ、というのは分からないかな」
「ではプログラム、こちらはどうだろう?」
「理解できたよ」
「でも空っぽのスキルジェムって、レシピジェムよりも出回らないんだよねぇ」
「あー、アタシもいろいろ作りたいなって思うんだけどね。軍曹、そういうの許してくれないし」
「我ら三人もツテを最大に活用してようやく一個手に入るかどうかであるからなぁ……早く新しいオリジナル魔法を作りたいのである……我は記録ミスしたものしか持っていなくてな……」
「その魔法はスクロール化できないのかな?」
「無理である。魔導書型の弱点の一つでもある。創作魔法と言ってはいるが、一定のパターンをオート化しているだけなのだ。極論すればマニュアルで出来る。そもそも使用しているスキルをセットしていないと発動すらしない」
「しかも単なるモーションデータだからレベル上げても無意味なんだよな。俺いらんけど」
「で、あるな。スキルアシスト前提で作れば武器のディレイをモロに食らうのもデメリットではあるが……アーツを組み合わせるかスキルアシスト前提でしか作れんのだよなぁ」
「ディレイ?」
「スキルアシストやアーツ下では、強い攻撃はDPS調整のために連続使用できぬようロックがかかるのである。その遅延時間を、ディレイと言う」
「ソードスキル取っ払えばプレイヤースキル次第だな。この辺はリアルで格闘技やってるほうが有利な点だ」
「軍曹殿が軍曹殿たるゆえんでもあるな!」
ちなみに、魔法に関するアーツが存在はする、するが……どうせ魔導書型には無意味なものが多いし、かつ悔しいので、我は黙っていることにした。
軽い説明会でした
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