第22話 合成獣
「第一回ギルド会議ー」
やる気のないマスターの掛け声と共に、朋友の店にて、我らはいつまでも第一回から変化しないギルド会議開会宣言を聞いた。
ちなみにマスターと朋友と我のみの会議は「第一回ギルド首脳会議」である。
「本日の議題は分かってると思いますがー、気がついたら引き受けてた暗殺ギルドさんからのスキルジェム集めとー、新しく出来た村の防衛任務でーす。ちなみに報酬はギルド運営資金を引いた分を含めて一人一Mでーす」
「待ってくれ」
「はい、お姉ちゃん」
「ドラゴン一頭で私が貰ったお金より、ずいぶんと高くないかい?」
「次のメンテまでの契約だからね、拘束時間が三日。日割りで計算したらドラゴンより低いよ、拘束時間もそっちのほうが短いし」
脳をジュッとすればいいだけのマスターならば、確かに拘束時間は短いほうであるな。まぁ、食事しに狩場へと出た「はぐれ」を狙った場合ではあるのだが。
巣に突撃した場合の、ポーションの消費分も考慮すればトントンの金額である――ただし軍曹殿を除く。
「ちなみに倒した敵は――」
マスターの時計が鳴る……ふむ、最近この世界でも活動をし始めたアイドルグループの新曲であるな、また変えたようだ。
「――ごめん、ちょっと出てくる。説明続けてて、バカガラン」
「分かってるよクソ幼女」
共に一言だけ、いつもの罵りあいを交し合う。うむ、仲がいい事はいい事だな! マスターは朋友がデスゲーム事件以降に増築した、化粧室へと駆け出していった。
「どこまで言っていきやがったっけ……ああ、倒したMOBの話だな。ドロップはこっちが貰っていいんだと。まぁ当然だよな、俺らが倒してんだから」
「次は、現状参加できる人数の確認な。一応俺は参加できる。クソ幼女は検査だったかなんだったかで明日の午後からになるな」
「我も参加可能である」
「私が説得した手前、参加するつもりだよ。夜以外はね」
「アタシは今日とおんなじで午前中部活ー、午後組ね。あとママがうるさいし朝起きれなくなるかもしれないから、夜中遅くまでは無理かなー?」
「私はこれから落ちる。明日明後日は日中だけだと考えられる」
「ん、今日は終わり?」
「仕事関係だ」
確認が取れたのはアリス、朋友、我、レン、アスール、タロス。この場にいる全員である……しかしタロスの職がイマイチ掴めんな。社会人なのは分かるが。
「ふむ。お父さんは警察官、シスターは社会人であったな。夜に来るやもしれん。手紙を残していくか……どこの宿に泊まっているかは知っているか? 朋友よ」
「まぁな。なぜか俺に泊まってるところ教えていくんだよ、みんな」
それは事実上この店がギルドハウスとして機能しているためである……などと言ったら我らは出禁になるやもしれんな。
それを悟ってか、誰もが口を閉ざしている……なるほど、鈍感なのもたまには役に立つ。
「浪人はどうであろうな?」
「アイツ最近連絡してこないところをみると、今更になって必死に勉強しているんじゃねぇの?」
「常日頃から少しずつ勉強をすればいいものを……まったく、来年も浪人するのではないか?」
東大を目指すその志は評価するべきなのだろうがなぁ……。
「最後は軍曹殿であるが……」
「前インしてきたときに言ってたけど、明日あたりから休日に入るんだと。やっぱ自衛隊って不定期なんだな」
「軍曹殿が来るのか……頼もしいな」
「単独行動してもらったほうが効率が良さそうな人だし、たぶんそうしてもらう可能性があるけど」
「そういえば、私はまだ全員と会っていないね」
「確かにそうであるな。まぁ、ゲームであるからして。現実の事情でそのままフェードアウトするものもいる。このまま会わない可能性も無きにしもあらずではあるが」
「それはそれで悲しいね……」
「まぁ、無意味に娯楽は揃っている世界である。死んでいなければよほどのことがない限りは野球観戦しにインしてくることもある、いずれ出会うだろう……そう、運命のようにな!」
「はいはい中二は黙ってようねー」
……演技とはいえ、最高に格好いいセリフを言ったつもりなのだがな……やはり子供には分からないか。
「私がいない間、私のロボは好きに使っていい。というか、使ってくれ。今回は量産を目的に開発してあるものだから、感想がほしい。マニュアルはここに置いていく」
タロスはかばんから、「操縦マニュアル」「整備マニュアル」「困った時のマニュアル」……などなど、一冊が三百ページ以上はあるものを五冊ほど机に乗せて、その上に小銭を置いた。ちなみにコーヒー代である。
「機体の場所は暗殺ギルドに聞いてくれ。私は表通りにある馬車の看板のところに泊まっている」
「お、おう……お疲れ」
朋友が戸惑いがちに声を上げた。あわせて、我を含めた全員が「お疲れ」と声をかける。その言葉を背中に受けながら、タロスは店を後にした。
「……ロボは置いていこう。タロスに乗ってもらう。手紙も置いていく」
「で、あるな」
「異議なーし」
「私も、機械は苦手だからね」
などと言いつつマニュアルを読み始める軍師……なぁ、本なら何でもいいのか?
「ただいまー」
「おう」
「タロスは?」
「帰った。仕事だとさ」
「そ……あ、軍曹が予定より早く休めるようになったって、連絡来たよ」
「うえっ!? マジでー!?」
「依頼のこと説明したら『なるほど。わかった、レシピジェムは任せろ。明日の朝までに状況を完了する』だってさ」
マスター渾身の、軍曹に嫌なくらい似ている物まねであった。
「大量虐殺が始まるのであるな……!」
馬というよりはもはや軍馬とも呼べる移動手段を持つ軍曹のことだ。疾風怒濤の勢いで虐殺していくことであろう……レシピジェムを保有しているMOBら、終わったな。
「バカガラン、説明は?」
「そこそこだよクソ幼女」
「あっそ」
この二人、もはやツーカーである。
「じゃあこっちも動き始めよっか、システマティックジェム持ってる相手は……合成獣だっけ? だいたい確定してるのは」
「サンドウォームも稀に落とすな」
「そっちは二パーセントだっけ? 計測ギルドの公式見解だと」
「やっぱ合成獣だね。ドラゴン並みのと戦うのは嫌だし、砂漠まで遠いし、うっかりすると脱水症状で死ぬし」
「アレはある意味どこにでも居るからなぁ……ちょっとした世界旅行になる可能性があるぞ?」
「錬金術師に材料持込で造ってもらうか?」
「「MOBを生け捕りにしろとかアホか」」
ふむ……いい案だと思ったのだがなぁ。
ライオン――巨大な獅子と言ったほうが適切だね。その背中に山羊の頭が生えていて、尻尾は大蛇……これがこの世界で言う一般的な合成獣のようだ。
私たちは見つからないよう遠巻きに、のんびりと寝転がるソレをよく観察する。
「本来は自然発生しない生物である」
理由を聞けば、錬金術師が自分の護衛用に造るらしい。
単体の戦闘能力は非常に強い、巨大な獅子のパワーとスピード、山羊の使う闇属性の魔法、大蛇の持つ毒牙と毒霧……それらが同時に迫ってくる。
しかも生命力自体、三頭分。すばらしいタフネスだ。
「じゃぁなんで野放しになるんだい?」
「知性が低いゆえ、うっかり獅子の攻撃や山羊の魔法、大蛇の毒霧に巻き込まれる場合が多いのである」
「あと酷使しすぎたときとかだねー。忠誠心がだだ下がりして、反抗的になったら飼い主に牙を剥くんだ」
「ま、元々三匹のMOBだし、忠誠心の維持に三匹分の金と労力を使うんだ。その分強いから、やっぱ戦闘力が低い錬金術師には人気があるな。忠誠心が高いと戻ってくることもあるけれど、そういうヤツは通りがかりのプレイヤーに殺されることが多いな。生態系崩すし。ああいうのは野生化したヤツだ」
「他のタイプの合成獣もいるけれど、そっちは弱いタイプになるか、強すぎてやっぱり飼い主がやられちゃうんだよねー。弱いのは他の餌、強いのは討伐依頼が出るよ。維持に程よくてそこそこ強いっていうのがああいうタイプってだけみたい」
全員の話を総合すると、反抗的になられると攻撃される。飼い主が死んだときに忠誠心が低いと野生化する。でも強いから手放せない。だから野生化した合成獣はどこにでも存在するというわけか。なるほど。
ということは、ペットにも当てはまるだろうな。アリスのために愛玩動物を飼うかどうか悩んでいたんだが、どうしようか……。
それはともかく。
「有効な戦術は?」
「遠距離から獅子、ヤギ、蛇の順に潰すことかなー? 獅子を潰して動けなくして、遠距離手段持ってる山羊を潰して、蛇をしとめるの。間違っても胴体に当てちゃダメね、ジェムはそこにあるから」
「ゴーレムで殺す方法もあるな、ほとんど相打ちになるけど」
「軍師は間違っても≪エクスプロージョン≫を撃つではないぞ? 下手をすればジェムごとバラバラ、原形をとどめるようズラしたとして、周囲の被害が大きくなりすぎる」
「強力すぎるのも問題なんだね」
「当然である」
厄介だなぁ……。
「姉さんはここから狙撃できるかい?」
「狙えるね。脳みそチン出来る……って言いたいんだけど、したら山羊頭から反撃が飛んで来るかな、二発目撃つのと同時に。獅子頭が潰れても山羊と蛇は健在だから、接近戦が挑めないんだよね~。魔法は迎撃されて意味なくなるし」
「私もアリスと同じ魔法が入っているはずだから、使おうか?」
「待て。魔導書型の弱点は弾数制であることだ、ポーションで回数を回復することが出来ない。そして軍師に渡した魔導書には≪ブラスターレイ≫は六発しか積んでいない。マスターが回復している間に撃ってもらわなければならない可能性も考慮し、温存が望ましいと我は考える」
「なるほどね、道理だ」
「本来ならばあらゆる魔法の使い方、効果を教えてからのほうが良かったんだがな……知識の無い状態では、知っている魔法しかうまく扱えまい。ゆえに、今は≪ファイアーボール≫のみの制限をかけさせてもらいたい」
「よく分からないものを使うのはこっちも怖いしね。わかったよ」
「軍師は物分りが良くて助かる」
「私は軍師じゃない……ところでランディは? 解体できる?」
「相手のレベルが入れてるスキルレベル以上っぽい、ちっとも『線』が見えねぇ。元の骨格は四つ足のヤツと同じはずだからやれなくはないけど、クリティカル発生しないから、いつもの三尺八寸サーベルじゃちょと難しい。ついでに近づくと毒がきつい」
「何気に隙がないね……」
私は少しだけ考え込む……アリスとタイミングを合わせて≪ファイアーボール≫が望ましいかな?
「ねぇ、アタシには聞かないの?」
「アスールは無差別魔法か自己治癒魔法しかない近接だから難しいと思うよ。ヘタをすると周囲の魔物をおびき寄せてしまい、自爆覚悟の≪エクスプロージョン≫を撃つ必要が出てくるね」
「ですよねー」
「では、ここは我に任せてもらおう」
「出来るのかい?」
「ふふふ……我はあの地下墓地以降、スキルの見直しを行った。魔法による下準備こそ必要ではあるが、練習も積み、合成獣程度ならば楽に仕留められると断言しよう! 新生魔導騎士……いや、魔法剣士の力を、とくとご覧あれ!」
そういえばクロウの戦い方を見ていなかったな……でも自信があるっていうのは頼もしいね。任せることにしよう。
「それじゃぁ、アタッカーはクロウ。私とアリスは後衛からの狙撃。ランディとアスールは牽制だ。二人は不用意に近づかないこと、いいね?」
「ウィ」
「はーい」
「いいよー」
「分かった」
「じゃぁ、カウントファイブで作戦開始だ」
「ではその間に詠唱をさせてもらおう」
そしてクロウは、私の聞いたことのない魔法を唱えた――




