第15話 激突
着弾確認のために覗き見ていた望遠鏡の先で起きたことに、目を疑ってしまった。最初こそ「十レベル級の鎧つきか……不細工だな」という印象を持っていたが――アレは、なんだ?
足の下に車でもあるのかと疑ってしまうような、ごうごうと土煙を上げて滑るように襲い来る盾を突き出したゴーレム。
だが、そんな事でうろたえている場合ではない――ドラゴンを倒させるわけにはいかないのだ。
「十レベル級ゴーレム一体! 接近してきます! 速度からして、接触まで約一分!」
俺はギルド「ドラゴン愛護団体」の一人として、二代目のマスターに報告する。美しい女性だ。腰まで届くブロンドの髪と青い瞳をして彫りが深い……ゲーム人口から言えば珍しくもない外国人プレイヤーだ。
「迎撃準備をしましょう」
何が起こったのかは俺しか見えていない。アレの異常性は俺しか知らない。だが、それを伝えたところでやることは変わらないし、数さえ揃えば怖いものなどあるわけがない。
「十レベル級をもう二体召喚してください。もちろん、鎧の装備を急いで。歩兵隊、対ゴーレム戦です、大盾用意。魔法隊は一レベル級≪ファイアーボール≫の弾幕、順に十レベル級≪エアロハンマー≫を使用してください」
『了解!』
あたかも軍隊のように動く。いや、軍隊のように統率がとれなければゴーレム戦は難しい。巨大でありプレイヤーの思うとおりに動く存在は、現実世界の戦車に相当する。
三十数名で構成されたこのドラゴン防衛戦線。たかだか一体のゴーレムを手に入れた程度でたやすく抜けられるものではない――!
(見えた)
意外に思うかもしれないが、無限軌道モードは速度も馬力もある代わりに摩擦の関係でエネルギーの消耗が激しい。ローリングストーンでチャージした分のエネルギーは既に消耗してしまっている。
(十レベル級鎧つきが三体。大盾歩兵二十名。魔法隊と思われるのが十二名と……後方で孤立しているプレイヤーが一名か)
思ったよりも獲物が多い。特にロボットもどきが三体とは僥倖だ――歩兵が多いのも、予想の範疇である。
『≪ファイアーボール≫!』
魔法隊が絶叫するように魔法を宣言する。十数発程度の≪ファイアーボール≫が飛んで来るが、これも私の予想の通りだ。
前面に構えた、盾を持つ腕で何度も衝撃を吸収する。もちろん、フライホイールのチャージは忘れない。
「ふ……ふふ……ふははははっ!」
連続で大量に飛んで来る≪ファイアーボール≫のノックバックは、フライホイールへの回生エネルギーをとても得やすい。そうとも知らず低級魔法を連射するだけの魔法兵には失笑を禁じえない。
「戦うと元気になるなぁ!」
たぎる血潮が、私の中のスイッチを切り替えるようだった。私自身がこれほど攻撃的な性格だとは思ってもみなかったと思いながら無限軌道のギアを上げ、急加速。
このパイロットを襲うこのGこそがロボットの醍醐味! 歩兵を轢き殺すべく突撃する私を止めようと、慌てたロボットもどきが真正面に飛び出してくる。
「遅いんだよぉおおおおお!」
――がぁああん!
拡声器でも使っているのか、不細工な鎧つきから響く大絶叫――それは剣を振りかぶり、ゴーレムに叩きつける。
たったそれだけの行為で、鎧つきのゴーレムが地面にひれ伏す――いや、召喚者が死亡して、鎧だけが地面にめり込んだ。
「なん……だと……!?」
ゴーレムの操作系統は単純な命令を下す方法と、思念で操作する方法がある。
もちろん思念で操作するほうが柔軟性が高い。ゆえに、胸部にコクピットのある鎧が主流であり、コクピット部分は非常に頑丈に出来ている。
――あのゴーレムは、そのコクピットをたったの一撃で潰したと言うことになる。
俺は戦慄する。アレは、やはり、ただのゴーレムではない!
「≪エアロハンマー≫!」
魔法隊の、一人目の≪エアロハンマー≫が炸裂する。大ノックバック性能を持つ、風属性と土属性にのみ存在するハンマー系の魔法だ。
それが盾ごと弾いて、ゴーレムの胸ががら空きとなる。
「≪エアロハンマー≫!!」
一秒ずらして発動するもう一発の≪エアロハンマー≫。狙いは剣を持った肩。同じように大きく上半身が横に回転する。
「≪エアロハンマー≫!!!」
さらに一撃、一撃、一撃――魔術師数名で行う高レベル魔法の連続運用。強力なノックバックを与えつつ、MPを回復させていく。あたかも火縄銃の三段撃ちが如く。
相手の顔や中心を狙わないのにも意味がある。強力なノックバックがあるとはいえ大型MOBは強引に接近してくる可能性があるからだ。だからこそ左右に揺らすよう命中させる、これなら四足歩行だろうが真っ直ぐ進むことはできない。そのまま後退か嬲り殺しを狙える基本戦術だ。
「ゴーレム隊、石つぶてを」
そこへダメ押しの攻撃。アンダースロー気味にゴーレムの腕で大地を削り、広範囲へ石つぶてを発射するオブジェクト攻撃。
さしもの暗殺ギルドでも、この連携を崩すのは用意ではない。たったの三十数名でこの地を守ってきた実力は伊達ではない。
(――と、考えているんだろうな)
確かに断続的に飛んで来るこの攻撃に晒されていては、ゴーレムのような生物的動きを行うものは近づけないであろうし、事実、私のロボもこのままでは蓄積されたダメージによって破壊されるだろう――が、
(このロボは全身が通常よりも肉厚な鋼鉄製、ロボットもどきよりも頑丈にできている。頭部バイザーの幅からして、コクピット内部で生き埋めになる可能性はゼロではないが、土砂の量からして時間がかかる。強力なジャイロ効果で転倒しづらいしそもそも生物的な動きが出来るものじゃない……機械的な動きで受け流せて、エネルギーに変換できる私のロボットに対してのその作戦は、エネルギーチャージをしてくださいと言っているようなものっ!)
一人ずつ順次発動させている不可視の大ノックバック効果というところを考えれば、十レベルから十二レベルの≪エアハンマー≫。威力よりもノックバックに大きく比重を置いたハンマー系のダメージはそれほど高くない――つまりっ!
「その程度の攻撃でぇ! 甘いんだよぉおお!」
フライホイールエンジン接合! 無限軌道全開駆動! サブフライホイールエンジン始動! 空気圧搾――っ!
なっ――!
「キャタピラ駆動だと!?」
ゴーレムは人型に近く、スマートである。だからこそ、あの三頭身のゴーレムのことを「不細工な鎧つきだ」と思っていた。しかし最初に気付くべきだった。あの奇妙な突撃の仕方についてよく考えるべきだった。特殊な鎧ではないかと注意深く観察するべきだった――!
「ゴーレム隊、止めなさい!」
――あまりの出来事に呆けていた俺の代わりに、ただ事ではないと判断したマスターがとっさに指令を出す。
「≪ストレングスアップ≫!」
不恰好な鎧つきの前に飛び出したゴーレム隊のゴーレムに筋力強化の魔法を施す。アレに一レベル程度で効果があるとは思えないが、ないよりははるかにマシだ。
「魔法なんざ使ってんじゃねぇええ!」
――どぅううんっ!
敵ゴーレムから霧状の何かが吹き出し、我々のゴーレムが消滅した。鎧ががしゃんがしゃんと音を立てて落ちる……つまり、また、術者を殺したのだ。
術者を一撃で葬るその魔法が、一体なんなのかはまったく分からなかったが――
「お前だって魔法を使っているじゃないか!」
――俺は、そう言わずにはいられなかった。
OPKするほどの破壊力を得るためにはエネルギーをかなり食うが、サブフライホイールを回転させ、圧縮空気によって砂のような細かい粒子を射出する試作型研磨兵器「グラインダーブラスト」の出来はいいようだ。
本来は歩兵に使用して文字通り大盾ごと削り殺すつもりだったのが――ロボットもどき二機のパイロットを分厚い前面装甲ごと破壊してやったのだから、試験運転としては上々だろう。
だが――
(両腕が落ちるとはな)
発射時の反動が大きすぎたのか受けていたダメージ量を見誤ったのか、発射口ごと削れてしまったのか。いずれにしろ肩に内蔵しているこの武器は、私のロボットの肩を支えていたシャフトにトドメを刺してしまった。
ずしん、と肩から両腕が外れてしまう。
(これでは単なる装甲車だな)
そもそも三頭身にしたのはエンジンサイズの問題もあるが、超重量の盾や剣を装備した場合、ゴーレムのような人型に近い形状では文字通り肩が外れるためだ。
(となると、膝もそろそろ不味いか)
ただ立ち続けるだけでも負担が掛かるのに山道を歩行した。シールドで防御した際は回生エネルギーを得るために負荷を受け続けた。だがゴーレム三体を屠ったという点では上々の成果を挙げたと言えるだろう。
(戻ったら設計を一から見直す必要があるな)
私はつとめて冷静に改良案を練りながら、膝が終わるかエネルギーが尽きるまで轢殺を繰り返すことに決めた。
「うへぇえええ! ぺっぺっ!」
土砂にほぼ生き埋め状態になるとは思わなかった! っていうか、メカフェチのヤツ暴走するとかマジ信じらんない!
「なんてギルドだ、貴様らは……!」
暗殺ギルドのマスターは、数十名が肉壁になってくれてたっぽい。土に半分埋もれてる人は、半死状態。
こっちのギルドも、アタシがとっさに壁になったから、ダメージは最小限に抑えられたのが救いかな。
「暗殺者だけだと思えば、ロボット狂いまでいたとはな!」
でもやっぱ、ばっちり印象が悪くなっちゃったっぽい。
「暗殺ギルドに殺されるのもしょうがないかもしれないけれど、タロスはこのイベントが終わった後にちゃんと処罰するからそれで勘弁してくれない? もちろん、ちゃんと罰したってことを確認してもらうために、ギルマスには立ち会ってもらうことになるけど」
「こちらとしては処刑したいところだが、意図していたというより、単なる暴走のようだからな……もっとも、こちらがこうむった被害額や慰謝料、罰金は払ってもらうが」
「借金させてでも払わせるよ」
リーダーの目に殺意が宿ってる……うん、しょうがないよね!
「暴走しなければ、いい人なんですけどねぇ。なんだか下の子を見ているみたいですよ……あ、うちの子はあんなに大きくありませんよ? 小学生ですから」
「お父さんは買いかぶりすぎ」
「まぁ、こんなことをしでかしたんだ。私もその決定には反対しないよ――ところで、アスールはなぜ無傷なんだい?」
「え? あ、そうか初めてだったもんね」
「タネは単純だ、≪リジェネレイション≫という自動治癒魔法を使ったからである」
「そ、たったそれだけ」
この魔法は詠唱時間が存在しなくて、宣言後すぐに発動するタイプ。MPが尽きるまでの間、レベルに応じた回復力を発揮する魔法なのだ!
ちなみに最大レベルの七十八にもなれば「持続時間中は不死身」って言われてるくらいの回復力が見込めちゃったりする。たったの一秒だけだけどね。
「土が柔らかかったから、大きなダメージが入らなかったっていうのも幸いしたんだけどねー」
「確かにあの程度であるならば五レベル級でも間に合うほどではあるな」
「だけどそのせいでMPすっからかんなのよ~」
アタシは試験管に入ってるすっぱいMPポーションを一気に飲み込んだ。これで中腹につくころには自然回復分で全快してるっしょ。
「っていうか服がボロボロだよ、こっちのほうが困っちゃうわー」
ハラスメント防止がONになってるから、みんな下着が見えない程度にボロボロ……まぁ、アタシは露出の多い私服だから、露出度あんまり変わってないんだけどね。マントも無事だったし、たぶんアタシが一番無傷じゃないかな?
「まずは弁償させるかー。それとバカガランが作ってたシュールストレミグだね。五個ぐらい食べてもらおう」
「確か、世界一臭い缶詰だったよね? それは」
「うっわー」
「ご愁傷様、ですねぇ」
「……どうしても俺も立ち会わなければならないのか?」
「立ち会わなきゃ処罰したこと確認できないでしょっ! 私だって我慢するんだから!」
なんだか、ただ単に道連れを作っただけみたいに聞こえるけど、言わないでおこっと。
アニメを見るたびに思います。
「ガ○ニウム合金すげー! あんな鉄の塊みたいな武器振り回しても関節抜けねぇとか! つーか腕だけで総重量いくつだよ!?」
益体のない話ですね。




