第14話 進軍
暗殺ギルドに所属する隠密スキルフルスロットの、火山の岩肌に似た色で全身を迷彩色に染め上げた「忍者」達が戻ってきたのは、会議の終わった頃である。
「――というわけで、相手は登山道中腹にキャンプを張ってるみたいなので、ガラン以外は普通に登山道を通ってドラゴンのいる場所まで突撃しまーす。質問ある人ー?」
朋友はこの場にいない。自分用の身体能力上昇系バフ持つ料理をいくつか準備するのと、サーベルだけでは心もとないと言って武器を買い付けに行った。
もちろん、お目付け役たちと共に、であるが。
「はーい、リーダー!」
「はいアスール」
「なんでガランさんだけ置いてけぼりなんですかー? っていうかガランさんなんでこの場にいないんですかー?」
「人質だからでーす。あとはここでしか買えないモノとか買うそうでーす。次なんかある人ー?」
朋友はドラゴンの巣に単身突撃――という情報は伏せられている。理由は言わなくても分かるとおりであろう。
特に、アスールなどは暴走してしまうのではないだろうか?
「私もよろしいですかねぇ?」
「はいお父さん」
「私たちはPKスキルを装着している人がいないと思いますが、まさかPKスキルを強要するということでしょうか?」
警察官としては、ゲームとはいえ人殺しは避けたい。と言っているようだ。
「個人の自由でーす」
「出来ないとは思いますが、暗殺ギルドの無意味な殺害も止めたいのですが」
「主催者が分からない以上、全員死刑にするそうでーす。ちなみに生きたまま捕らえられたら公開処刑だそうでーす」
ドラゴン愛護団体が無意味に街が壊滅するリスクを保っている以上、活動し辛くなるように汚名を被せてしまおうという腹積もりらしい。
「私も」
「はいタロス。ロボの話禁止でお願い」
「いや、禁止されても困る。そもそも私のロボットの横幅だと登山道はほとんど平均台だ。それに道の分岐があったと記憶している」
「ドラゴンのところに向かう道のみなので関係ありませーん。あと中腹はそれなりに広さがありまーす。まぁ、先頭に立って壁になってね。上から岩を転がされたらたまんないし」
「OPK対策の壁役か」
このゲーム特有の言い回しではあるが、いわゆる落石や落とし穴などによるPK方法である。そういった古典的なトラップはもちろん、対MOB戦でも活躍する。
ちなみに崖からの突き落としによる墜落死や湖に沈めての溺死狙い等もここに分類されている。
「だったら私のロボットの下敷きにならないよう注意してくれ。アレは鎧ではなくオブジェクトとして認識されているようだからな」
「重々承知してまーす」
オブジェクトかどうかどのように分類されているかは非常に疑問ではあるが、「常識的に考えて人間が生身で扱えるかどうか」という条件があるのだろうと計測ギルドは言っている。が、ロボットは今のところ彼しか所有していないため解明はされていない。
理由? ≪サモンゴーレム≫スキルのほうが手っ取り早いからである。レベルでサイズを調整できるゴーレムにコクピット付きの鎧兜でも着せればいい。事実ゴーレム系の装備を保有しているギルドはあるのだ。所持理由はもちろん対大型MOB戦。サイズと質量の差を埋められればそれだけで難易度は大きく下がるのである。
純粋に技術力だけでロボットを作ろうとしているタロスのほうが頭がおかしいのだ。
「私は何をすればいい?」
「お姉ちゃんは基本に忠実に、≪ファイアーボール≫連射でお願い。別に当てなくていいから、とにかく撃って撃って撃ちまくって!」
いわゆる弾幕である。弓兵が矢の雨を降らせるのと同様に、魔法兵は≪ファイアーボール≫などを撃つのだ。小ノックバックのあるボール系は、特にそういったことに向いている。魔法は≪ファイアーボール≫で始まり≪ファイアーボール≫で終わるのである。
「でも味方に当てないでね!」
「ぜ、善処しよう……」
自動追尾するスネーク系や、操作可能なドラゴン系以外での味方への誤射はたまにある。そのせいで友達を無くしたプレイヤーもいる――ぼっちは寂しいぞ?
「他に質問は? ――無いみたいだね。じゃ、兵は拙速を尊ぶって格言どおり、早速動くよー! 暗殺ギルドのほうはいつでも準備万端らしいしね!」
「常駐戦場、というわけですか。さすが壬生の狼ですねぇ」
確かにアレは常に武装状態であるからして、彼らに準備は必要ないであろう。
――用意できた戦闘用料理は非常に少なかった。
始まりの街を出る前にある程度作り上げておいたのは正解だったなと思いながら、腰にぶら下げた皮袋から饅頭を一つ取り出す。
AGI上昇のバフ料理をドライカレー状にして饅頭に包み込んでいる。
「はぐっ……はぐ……っ!」
このエセカレーまん、味はただひたすら辛い。唐辛子だけを食べているようだ。しかも時間が経っているせいかものすごいパサパサ感がする。
「――がほっ!? ゴホッゴホッ!」
いつもの水筒の中身は魔法の≪リジェネレイション≫と同等の効果のある薬湯を入れてある。そのため、辛いからと言ってここで無意味に飲むことは許されない。
「くっそ……」
俺に課せられたクエストは単身ドラゴンの巣へと乗り込むこと。条件は山道を用いず道なき道をひたすらに走る必要がある。
そしてスキルジェムは最大で十二個しかセットできない縛りがある。
俺を警戒している暗殺ギルドはスクロールや呪符などの購入を許してくれてはおらず、さらには魔法使いからの能力値上昇系のバフを貰えない身の上としてはこうするほかない。
――そのため、俺のスキル構成は、料理スキルのフルセットだ。
料理系バフは料理スキルが高ければ効果が高い。つまり今の俺は、敏捷スキルをフルセットしているのと同等だ。
強力ではあるが、弱点ももちろん存在する……バフはひとつだけ、三十秒間のみ、料理であるためそれほど日持ちしない、一定時間内に完食する必要がある、食するにはキツい味や臭いがある、臭いで敵に気付かれる、複数種類の効果を持つ場合はその分だけ効果レベルが下がる……などだ。
その点、魔法を使えば最大レベルを複数種類付与でき、三十秒以上にすることもできる……そのことを考えるならば、このデメリットは非常に大きい。
それを踏まえて、隠密行動をしながらこの山を登りきるには風向きにもよるが、このエセカレーまんを十以上個食する必要があると考えられる。もちろん、水なしで、だ。
「拷問としか思えねぇ……!」
だが、これを使わなければ味方よりも速く、そして愛護団体に気付かれずにドラゴンの巣へと行くのは不可能だ。
俺はハラを括って、新たに買った武器を背負いながら――疾風の如く駆け出した。
私のロボットを先頭にした隊列で、山道を登っていく。
平均台の上を歩くような動きを強いられるが私のロボットはその程度で転倒はしない。もちろん脚部も工夫はしているが、私が試作した完全フライホイール型エンジンにはこの世界でも発生する一つの物理現象が働いている。
ジャイロ効果だ。
簡単に説明するならばコマが回っている間は倒れないように、回転している物体は外部からモーメントを加え続けない限り自転軸を保持し続ける、という現象だ。
体に一本芯が入っているようなものだ。歩行の安定化に一役買っている。
――ずしん、ずしん。
地面がややゆるい、火山灰が積もった土壌だからだろうか? しかしそんな程度では私のロボットを止めることは出来ない。逆に膝関節への衝撃が和らぐのは嬉しい。
「何か見えるー?」
原始的な構造を用いた集音器の一つが拾った声に対し、私は同じく原始的な拡声器を用いて答える。
「なにも」
このロボットの視界確保方法は潜望鏡と同じ原理だ。頭部バイザーに湾曲した銅鏡を備え、コクピット内の銅鏡に映し出している。ちなみに視野角はミラーの構造や位置取りなどでかなり広くしてある。首を動かすエネルギーをなるべく使わないようにするためだ。
「遠くとか見れるんじゃないのー?」
「遺憾ながら、望遠機構は搭載されていない」
望遠機構がない理由は精密機械は近接戦闘用ロボットの激しい動きに耐えられないことと、前提となる電子機器を作成できないこと、そして望遠機構を取り付けるには壊れやすいレンズ等が必要となることなどさまざまな理由が挙げられる。
つまり、徹底的して原始的な構造のものしか装備できないのだ。
「ロボフェチは使えないなぁ……」
「君は知識を蓄えたまえ」
かくも二足歩行型近接戦闘ロボットとは非常にデリケートな存在なのだ――などと己の技術力の限界に嘆いていると、集音器の一つがゴロゴロと何かが転がってくる音を拾う――正面か。
少しのラグ、そしてソレがモニター上に映し出される
「岩だな」
「ローリングストーン!?」
「私にはそう見える」
私はロボの左腕に装着した巨大なヒーターシールドを構えた。モニターの端から端まで確認したがどこにも斥候役が見えない。完全に背面に回られたか、もしくは望遠鏡を持っているかの二択だと考えられる……しかしロボの後続はちょっとした大部隊だ、ここにのりこむ愚は犯すまい。つまり遠くから我々の姿を確認しただけの可能性が高い。
(おおよそ十メートル級の岩石。投擲には筋力フルスロットが数名……いや、それよりもゴーレムがいい)
そしてゴーレムを使うのであれば甲冑を装備させるだろう。それはつまり私の大嫌いなロボットもどきだ。それを私の試作型ロボットが駆逐すれば科学技術の素晴らしさに目覚め同士が増える可能性がある……っ!
(エネルギーは十分だな)
まだ名前も付けられていない試作型の実験機ではあるが、たかが同サイズの岩石を受け止められないわけがない。
その程度の試験など、とうの昔に実行ずみだ。
(それどころか投げ返せもするが――いや、ここはむしろ実践的な駆動試験を行うか……!)
初の実戦試験。降って湧いたチャンスに思わず口元が緩み、舌なめずりしてしまう。
なんと素晴らしい日! なんと素晴らしいタイミング! この日からこのゲームの世界の科学技術は大きく発展することとなろう!
そしてその要因となるのは我がロボットの優位性を見たものたちすべてだ!!
そう! みなが巨大ロボットに憧れ! 所有し! 剣と魔法の時代に終止符が打たれるっ! ――これからの時代はロボットだ! 科学万歳! くたばれファンタジィィイッッ!!
(ふぅ……。そのためには少々暴れまわる必要があるな。この攻撃にてエネルギーをチャージさせてもらおう)
狭い山道でしっかりと踏ん張るため、足を一歩前に出す。
「あの岩を利用したら、すまないが突撃させてもらう」
「ちょっと待て、単独行動は許さんぞ!?」
「っていうか利用って何!? 投げ返すの!?」
「少し離れることだ。それと、以後集音器をカットする。私の鼓膜が破壊される可能性がある」
「はぁ!? ちょ、タロ――!」
何か言いたそうではあったが、私は無視した。ローリングストーンは既に目の前。シールドにぶつかる――
(脚部無限軌道のロック解除)
――衝撃!
(回生ブレーキング起動……)
強い衝撃力によってカカト部分のキャタピラが駆動し、フライホイールの回転数が跳ね上がる。数メートルの後退、悲鳴らしき声が聞こえる気がするが私にとってはそれも想定の範囲内だ。
(上々だな、いい具合にチャージできた)
しかしローリングストーンはいまだ完全に止まってはいない、私のロボットを押し込んでくる。
(だが、もう十分だ)
ここで腕を駆動させてほんの少しだけ盾を斜めにする。あとは岩が勝手に軌道をずらしながら転がっていく――後続のメンバーに少しもダメージを与えることはない。
「突撃する。巻き上がる土砂に注意しろ」
何か絶叫が聞こえた気がしたが――なに、気にすることはない。新時代の幕開けにはいつも何かしらの犠牲がつくというものだ。
歩行モードから無限軌道モードに切り替える。私のロボットは腰に佩いた剣を抜き放ち、すさまじい勢いで後方に土砂を巻き上げた。
前方に盾を突き出し剣を弓矢の如く引き絞る。確かこれはドイツ剣術における「第六」の構えだったな……などと益体のないことを考えながら私は、白き騎士姿の我がロボと人機一体となりて、全力戦闘を開始する――っ!




