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剣と魔法の物語  作者: 神楽風月
デスゲーム編
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第13話 ミブウルフという怪物

 イベント中のためか、少なからず町には緊張感が漂っている。鍛冶と温泉の街なのだから、本来ならばこの街に来る人間は大抵お客様のはずだ。

 なのに、歓迎ムードはどこにもない。ただひたすら、ピリピリとした視線が私たちに突き刺さってくる。

「……なーんかヤな感じだねぇ」

 アスールの言うとおりだ。

 先頭を歩く、浅葱色をしたダンダラ模様のレザーコートに「誠」の一字を背負った集団――暗殺ギルドがいなければ、この雰囲気もさらに強まっていたかもしれない。

 いや、彼らと来たから、逆に警戒心が高まっているのかもしれない……ギルドマスターが直接来たということは、この町で何かが起こることは確定されたのだから。

「支部に部屋を用意してやった。まずは休憩だ」

 いかついギルドマスターが、懐中時計片手にそう言った。

「マジで? いやー、トイレっていっつも混んでるから助かったわ。アレに並んでたら何時間待たされるか分かったもんじゃねぇし。もうハラ減ったわ、マジで」

 縛られていては主催者だと疑われる可能性も考慮してか、さすがに街の中でまで縛られてはいない。完全に顔を隠したランディがやれやれといった口調で答えた。


 ランディは今回は、インナーもフルレザーだ。丈の長いレザーコートまで着込んでいる。防御力の上昇と炎の吐息(ドラゴンブレス)対策として、軽装類では炎耐性の高いレザー装備を重ね着しているらしい。腰の後ろにクロスするよう、サーベルを吊るしている。

 ――レザー以外を着たことがあったかな……いや、うん、あったな。

 チュートリアルが遠い過去の記憶に感じてしまう。まだそんなに日にちは経っていないはずなのに。

 アリスは魔法の威力を殺したくないらしく、いつも通りだという。真っ白なローブに、光の加減で紋様が浮かんで見える。銀色に変更された髪も相まって、全身が白い。魔法の杖も聖職者が持っているような、どこか厳かささえ感じる一品で、まるで司祭のような印象さえ受ける。

 クロウは思うところがあったらしく、装備を一新している。黒一色なのは変わらないけれど、厚手の布の服を上下セットで着込み、その上からファーのついたこれまた厚手の布製コートを着用している。靴も手袋も、徹底して厚手の布製だ。武器はショートソードとヒーターシールドなのは変わらないが、以前よりもあらゆる耐性が大きく下がっているだろう。アリスと同じように光の加減で見え隠れする刺繍が入っているが、彼のものは呪文のような複雑な文字が縁取られている。

 お父さんはまるで軍人だ。ジャケットのように襟を折り返しているから若干警察官の制服に見えなくもないが、私は絶対に騙されない。腰に軍用みたいなサーベルまで吊り下げてまでいては、言い逃れなんて出来ないだろう。そして極めつけは、肩に背負うフリントロック式マスケット銃。まるで近代中世の歩兵のようだ、どう見ても軍人にしか見えない……聞けば、狙撃手に憧れて警察官になったとか。

 アスールは、宣言どおりサーベルと布の防具だけど――青をメインにしたプリーツスカートにスパッツと、タートルネックのタンクトップはどう考えても防具じゃない。いや、徹底して動きやすい格好にしているだけなのかもしれないし、実は耐性が優秀なのかもしれないけれど、私にはまったく判断がつかない。とにかく、かなり私服に近いし、露出が大きい。サーベルやその上に羽織っている白いフード付きの外套が逆に浮いている気さえする。

 タロスさんは――まぁ、タロスさんだ。ロボットで戦うのだから着替える必要がないらしい。本人は「レザーのツナギをパイロットスーツにしたかったんだが……」なんてほざいているけれど、探しても見つからなかったらしい。どこまでファンタジーを壊すつもりでいるのだろう、この人は。

 そして私は――装備をローブに切り替えた。地下墓地で行ったクエストの報酬で、なんとか千ゴールド手に入れることができたので、ややきつめの白いシャツとスカートだった初心者服にサヨナラして、ゆったりとした着心地のいいローブに切り替えた。クロウが非常に黒を押してきたけれど、魔女になるつもりなんてさらさらない私としては、なんとなく緋色のものを選んだ。


 とにかく私たちは、現状で最高の装備を選択した、と言っても過言ではないだろう――特に私なんて、初心者服よりも厚手の布で出来たローブを着ているのだ、衝撃に対する耐久力が倍以上に跳ね上がっている。

 だがドラゴン相手にはまだまだ心もとない。特にアスールの装備、外套とサーベル以外は改めて考えても、私服じゃないかな……?

「と、いうわけで念のため聞いておきたいんだ」

 ギルドハウスの一室で、ここに来るまでに思っていた疑問をアスールに投げかけた。

「私服だよ」

「私服なのか!?」

 私は驚愕する。

「っていうか、鎧とか動き辛いじゃん? アタシってば、剣道やってても防具が邪魔に感じてイライラしちゃうのよね~」

 ゲームだから別にいいかもしれないけれど……その考えはどうだろう。

「それにこの服なら値引きしてくれるんだよねー、たまに」

 ――ああ、つまり、最強装備、ということだね。

 私は呆れたように笑うしかなかった。


 そして(オレ)は深く息を吐きながら、作戦会議室と呼ばれる部屋に呼び出された緊張を解きほぐそうとしていた。

「つまり、君たちは我が朋友(とも)をドラゴンの巣へ単身放り込む、と。そう言いたいわけであるな?」

 マスターが誓約したものの一つ――朋友は暗殺ギルド預かり、となっていること。

 そして、もう一つ――作戦は暗殺ギルドが立案するということ。

 それが今、最悪の形で襲っているというわけである。

「背中をばっさりとやられたくはない――そういう話だ。この支部全員の総意でもある」

 朋友よ、悪名は思ったよりも根深いぞ……?

「俺はこのギルド全員の命を預かっている。実際に死ぬわけではないのはちゃんと理解している。もちろん、公式イベントだったからやったものであって、悔しい思いこそすれ恨みはしない――ただそれは俺個人の意見だ。トップが個人の意見で動いてはならない」

「刺し違えでも自分で倒したからこそそう思うのであろう? 我にはそう聞こえる」

「かもしれん。だが少数意見はねじ伏せられても、ギルドの総意は変わらない。特に、ドラゴン十体、愛護団体が十数名。ここの人間を使えなければ、これを一度には相手取ることができない」

「他のプレイヤーにも呼びかければいいだろう?」

「ダメだ。暗殺ギルドがやったという事実がなければ、それはギルド自体が弱体化していることを周囲に知らしめてしまうこととなる」

「では我らとの協定の意味はなんだ?」

あの(・・)極悪人ですら(・・・・・・)従うしかない(・・・・・・)。そういう事実は得がたいものだとは思わないか?」

「真実を捻じ曲げるか……!」

「クロウ、ダメダメ。あっちはガッチガチの実力至上主義なんだから」

「そう、伊達に新撰組の二つ名を拝借しているわけではない。ゆえに、俺の意思に関係などない。このギルドは生き物のように意思を持っている。悪人の喉笛に食らいついて殺す、そういう組織なのだという集団意識が働いているのだ」

 暗殺ギルドにおける鉄の掟、血の誓約とはよく言ったものだな。ここまで極まれば、まるで洗脳ではないか。

「朋友よ、降りても構わんのだぞ? 所詮はゲームだ。こんなヤツらに狙われたとて、いくらでもやり直しはきく」

「べーっつに広告塔になろうと俺は関係ねーよ? っつーか広告塔になったほうが俺にもメリットあるじゃん。なぁ、アリ……リー――マスター?」

 朋友がマスターを名前で呼びそうになったのは珍しいな……だが今はそんな事は重要ではない。重要なのはこちらのメリットだ。

「どこにメリットがあるというのだ?」

「現状、司法を司ってんのは暗殺ギルドだろ? このイベントで従っとけば、暗殺ギルドが怖いから悪いことはもうしません、って言える。別に言わなくても多少は改善されるだろ、勝手に向こうが事実捏造してくれるんだし」

「そうねー。極悪人が従うしかないほどに強大だから犯罪抑止に繋がるし。ガランは汚名は残るでしょうけど、今よりマシな生活になる。ってところ。あっけなく協定結べたのも、そういうお互いの打算があるのよ」

「しかしだな……」

「いいかげん、昔稼いだ金だけで生活しつづけんのきついのよ。扶養家族いるし、一部の無銭飲食者もいるし」

「ほう……法に触れるとはこちらとしても聞き逃せないな? 誰だ?」

「コレとか、ソレとか」

 非情にも我とマスターを指差す。

「ツケ払いじゃん! ちょっとずつだけど!」

「我もちゃんと月末一括払いで返しているではないか!!」

「返しているのならば無罪だな」

「はぁあああ!? ちょ、控訴! 控訴!」

「棄却する」

 ふむ、当然の勝訴である……ではなくて。

「とにかく、こちらのメリットは分かったが朋友一人でドラゴン十匹を相手取るのは不可能だろう!」

 ドラゴンを同時に十匹相手取るにはいくつか方法がある。

 一番安全な方法は、マスターのような遠距離高火力魔法を叩きつける。貫通力の高い魔法なら、目を狙えば脳を直接焼き払える。脳をやられて生きている生物などいない。MPポーションを大量に消費すればあっという間だ。マスターが単独でドラゴンを絶滅させようと考えたのは、この方法が出来る構成であるからなのだ。

 もっとも、動き回る動物の頭部、さらに言うなれば脳をきちんと狙えるかどうかにかかっているのは言うまでもない。

「そもそも朋友は純粋な近接戦闘型である!」

 近接戦闘は一番危険で、そして純粋に本人のセンスによって決まる。一匹だけなら中堅プレイヤーでもなんとかなるだろう、だがドラゴンはつがいのドラゴンを呼ぶため、とたんに難易度は跳ね上がる。二匹同時は上級プレイヤーでなければ難しい。現に、上級プレイヤーが同時に相手取れるドラゴンの数は四匹、とまで言われている。

 それほどの難易度以上、一人で十匹の竜殺しを完遂すれば、それはまさしく人力チートとまで揶揄されるトッププレイヤーの仲間入りだ。誉れ高き「竜殺し(ドラゴンスレイヤー)」の称号を与えられるだろう――ちなみに、過去に何人かは成功しているし、自慢ではないが軍曹殿もその一人だ。愛護団体ごとマスケット銃の先につけたダガー一本で倒しきっている。

 げにおそろしきかな自衛隊……!

「逃げ回って囮になっていればいい。愛護団体も交えた三つ巴にならないようにしろ」

「逃げ回ってもいいのか……だが、別にすべて倒してしまっても構わんのだろう?」

「朋友よ! それは死亡フラグだ! というか軍曹殿ほどの実力があるわけでもあるまい!?」

「いや、ここはかるーく毒殺で」

「するなっ!」

「えー……MOB相手にも毒殺禁止かよ……」

 料理のレシピには撒き餌など、対MOB用のものがいくつか存在する以上、毒殺も不可能ではない……その方法を最初に思いつくあたり、さすが「史上最悪の暗殺者(りょうりにん)」、その二つ名は伊達や酔狂でつけられてはいない、ということか。

「頼むから、普通にしてよね? こっちにもメンツがあるんだし。っていうか、着せられた汚名と同じ方法で倒すとかバカなの?」

「ただの料理人に多くを求めるんじゃねぇよ!?」

 まぁ、もっともな言い分ではあるな……強い敵相手に真正面から事を構えるなど愚の骨頂、策を弄してこそ、だ。

「しゃぁねぇなぁ……死なない程度に頑張ってみるわ」

「死んでもいいから役割だけは果たせよ、この戦、負ければ真実(・・)を広められなくなるのだからな」

 そうして会議は終わる――かすかな不安を残して。

誤って前々回の話を投稿してしまいましたので訂正しました。

深くお詫び申し上げます

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