名前がない
歩き始めて、すぐにわかったことがある。
子供は、黙っていられない。
「ねえヴァルト、あれなに?」
子供が指さした先に、平原の向こうに突き出た灰色の柱のようなものがあった。遠くてよく見えないが、おそらく送電塔か監視塔の残骸だろう。戦前の建造物が、各地にまだ骨だけになって立っている。
「塔の跡だ」
「とう?」
「高い建物。中には入れない」
「なんで?」
「壊れてるから」
「なんで壊れたの?」
「……昔の話だ」
「ふうん」
五歩ほど黙って歩く。ヴァルトがようやく静かになったかと思った頃に、また声がかかる。
「ねえ、あっちの草、こっちの草とちがう」
見れば確かに、歩いてきた方角に生えていた草と、今踏んでいる草は形が違った。背丈は同じくらいだが、葉の幅が広い。色も少し濃い。ヴァルトは普段そんなことを気にしたことがなかった。草は草だ。踏んで歩くものだ。だが子供は一つ一つの違いに目を留める。
「色がちがうでしょ。こっちの方がおいしそう」
「食うな」
「食べないよ。おいしそうって言っただけ」
子供は不服そうに口を尖らせたが、すぐに別のものに興味を移した。地面に転がっている白い石を拾い上げて、しばらく掌の上で転がしてから、ヴァルトに差し出した。
「はい」
「……なんだ」
「あげる」
「いらない」
「きれいなのに」
「荷物が増える」
子供はしばらく石を見つめてから「じゃあ、ここに置いとく」と言って道の端に石を置いた。何かの目印のように、丁寧に置いた。
「帰りに拾うから」
「帰らない」
「帰らないの?」
「ああ」
「ずっと前に歩くの?」
「…………」
「ヴァルト、どこに行くの?」
同じ問いだった。昨日の朝、廃墟の中で聞かれた問いと同じだ。あのときは「散歩」と誤魔化した。今はもう誤魔化す相手ではなかった。
「……わからない」
正直に答えた。わからないのだ。本当に。東へ歩いている。それだけの理由は——いや、理由すらあるのかどうか怪しかった。地上を歩いている。西が飽きたから東へ向かった。それくらいの脈絡しかない。
「わからないの? 大人なのに?」
昨日も同じことを言われた。花の名前を知らなかったときと同じ調子。大人なのに。子供にとって、大人は何でも知っている存在なのだろう。
「大人だからわかるとは限らない」
「じゃあ、大人はなにがわかるの?」
「…………」
答えられなかった。大人が何をわかっているのか。少なくとも自分は、何もわかっていなかった。花の名前も、行き先も、自分がなぜまだ歩いているかも。
「まあいいや」
子供はあっさりと話を切り上げた。
「じゃあ一緒にわかんないとこ行こう」
軽い口調だった。深い意味などないのだろう。行き先がわからないなら、わからないまま行けばいい。それだけのことを、それだけの言葉で言った。
だがヴァルトの足が、一瞬だけ止まった。
一緒にわからないところへ行く。その言葉の響きが、妙に胸の奥に残った。七年間、一人で歩いてきた。行き先のわからない旅を、一人で。それは罰のようなものだと思っていた。自分がそうするべきだから、そうしている。一人であることは、刑期のようなものだった。
だが子供は、それを「一緒に」と言った。わからないことを、共有できるものとして差し出してきた。
口の中に、苦いものがこみ上げた。笑いに似た、しかし笑いではないもの。顔には出さなかった。
「……勝手にしろ」
「うん」
そうして二人は歩いた。
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昼を過ぎた頃、暑さが増してきた。
平原には日を遮るものがほとんどない。空は薄い雲がかかっているだけで、太陽が高い位置から容赦なく照りつけていた。灰混じりの土が熱を吸い、地面から陽炎のような揺らぎが立ち上っている。遠くの景色が蜃気楼のように歪んでいた。
ヴァルトは平気だった。七年間歩き続けた体は、暑さにも寒さにもある程度耐えられるようにできている。だが子供は違う。
振り返ると、子供は三歩ほど後ろを歩いていた。口を閉じている。珍しかった。朝からずっと喋り通しだった口が、閉じている。額に汗が浮いていた。足取りが遅くなっている。
ヴァルトは立ち止まった。
「水」
水筒を差し出した。子供は受け取って、一口飲んだ。二口目を飲もうとして、手を止めた。水筒の中身を揺すって確かめてから、蓋を閉めてヴァルトに返した。
「いっぱい飲んでいいのに」
子供は小さく首を振った。
「ヴァルトの分なくなる」
昨夜の干し肉と同じだ。自分の取り分を気にするのではなく、相手の分を気にする。六つか七つの子供がそういう気遣いをすること自体は、珍しいことではないのかもしれない。教えられれば、子供は覚える。だがこの子供は誰にも教わっていないはずだ。親もいない、名前もない。それなのに。
「いいから飲め」
「でも——」
「水はまた見つける」
子供はしばらくためらってから、もう一口だけ飲んだ。それでもまだ遠慮していた。
ヴァルトは周囲を見渡した。平原の東寄りに、かすかに色の違う一帯が見えた。草の緑が少しだけ濃い。水脈が地表に近い場所かもしれない。
「あっちに行く」
「なんかあるの?」
「水があるかもしれない」
「わかるの?」
「草の色が違う。水がある場所は草が太い」
「へえ」
子供は平原を見渡して、目を細めた。
「ヴァルト、すごいね。大人のわかること、一個見つけた」
皮肉ではなかった。心の底からそう思っている顔だった。ヴァルトは何も答えず、方角を変えて歩き始めた。子供がついてくる。足取りは相変わらず遅かったが、さっきよりは元気が戻っていた。
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草の色が濃い場所に着いたのは、午後の半ばだった。
予想は当たっていた。小さな窪地に水が溜まっている。湧き水だろう。周囲の草が膝丈ほどまで伸びていて、ここだけ別の季節が来ているようだった。水は澄んでいて、底の砂が見える。水面に空が映っていた。
「わあ」
子供がまた声を上げた。この子は何かを見つけるたびに「わあ」と言う。飽きないのだろうか、とヴァルトは思った。
子供は窪地の縁にしゃがみ込んで、水面を覗き込んだ。映った自分の顔に向かって「こんにちは」と手を振っている。
ヴァルトは水筒に水を補充しながら、その様子を横目で見ていた。水に毒がないかは匂いと色で判断する。この水は問題なさそうだった。口に含んでみる。冷たく、かすかに土の味がする。悪くない。
「ヴァルト、飲んでいい?」
「ああ。手で掬って飲め」
子供は両手を水に浸けて、すくって飲んだ。何度も何度も。よほど喉が渇いていたのだろう。水が顎から滴って、服の前を濡らした。
「つめたい」
「飲みすぎるな。腹を壊す」
「大丈夫。おなか強いもん」
根拠のない自信だった。だがヴァルトは言い返さなかった。
窪地の周りに腰を下ろし、少し休むことにした。子供は草の中にしゃがんで、何かを見つけたらしく動かなくなった。
「ヴァルト」
「なんだ」
「虫がいる」
「……そうか」
「小さい。緑色の」
「触るな」
「なんで?」
「刺すかもしれない」
「刺すの? こんなに小さいのに?」
「小さいからって安全とは限らない」
子供は虫をじっと見つめていた。指を一本だけ近づけて、触れない距離で止めて、それからそっと引っ込めた。
「大丈夫。刺さなかったよ」
「触ったのか」
「触ってない。触ってないけど、刺さなかった」
理屈になっていない。だがこの子供の言葉は、いつもどこか理屈の枠の外にある。言葉の意味と、意味の向こう側が、ずれている。
風が吹いた。草が波打つ。窪地の水面にさざ波が立って、映っていた空が歪んだ。子供は立ち上がり、風に向かって手を広げた。服が風に膨らみ、金髪が後ろに流れた。
「風って、どこから来るの?」
「……遠くからだ」
「遠くって、どこ?」
「海かもしれない。山かもしれない。わからない」
「また、わかんないだ」
子供は笑った。ヴァルトが何かを知らないことが、この子供にとっては面白いらしい。馬鹿にしているのではない。「わからない」という答えそのものを楽しんでいるように見えた。ヴァルトにとって「わからない」は不全であり、欠落だった。だが子供にとってそれは、まだ見ていないもののことで、これから出会えるかもしれないもののことだった。
「ねえ、風に名前ってあるの?」
「…………」
「東からくる風と、西からくる風、ちがう名前?」
「あるかもしれない。知らない」
「じゃあ、この風なんていうのかな」
子供は目を閉じて、風を受けていた。金髪がさらさらと揺れている。しばらくそうしてから、目を開けた。
「シエ」
「……なんだ」
「シエって音がする。この風」
ヴァルトは黙って聞いていた。風の音。確かに、草を渡る風は音を立てている。さわさわ、あるいはしゅう、あるいは——シエ。言われてみると、そう聞こえなくもなかった。子供が勝手に決めた音だ。だが、不思議と座りが良かった。
「シエ」
もう一度、子供が言った。今度は風ではなく、自分自身に向かって言っているようだった。
ヴァルトは子供を見た。子供はこちらを見ていなかった。目を閉じて、風の中に立っていた。
「……お前、名前がないと言ったな」
「うん」
「呼ぶときに不便だ」
「べつに不便じゃないよ。おじさんって呼ばないでしょ、わたしのこと」
確かに、まだ一度も呼んでいなかった。呼ぶ必要がなかった。二人しかいないのだから。
「つけてもいいか。名前」
子供は目を開けた。驚いた顔ではなかった。不思議そうな顔でもなかった。嬉しそうでもなかった。ただ、じっとヴァルトを見ていた。風が金髪を横に流している。灰色がかった青い目が、午後の陽に照らされて明るく光っていた。
「いいよ」
「……シエ」
「え?」
「シエ。風の音みたいだからって、今お前が言っただろう」
「わたしが決めたの?」
「お前が名前を出した。俺はそれを使うだけだ」
子供は——シエは、しばらく口を動かさずに考えていた。それから、自分の名前を確かめるように、小さな声で唱えた。
「シエ。シエ……、シエ」
三回。段々と声が大きくなる。最後の一回は、はっきりと。
「シエ!」
平原に向かって叫んだ。両手を広げて。風がその声を攫っていく。草が揺れる。声は風に溶けて、どこまでも飛んでいくように見えた。
振り返ったシエの顔は、笑っていた。歯を見せて。目を細めて。
「ねえ、聞こえた? 今の」
「……ああ」
「わたし、シエだよ!」
ヴァルトは何も返さなかった。ただ、立ち上がった。
「行くぞ。シエ」
名前で呼んだ。初めて。なんということもない響きだった。風の音と同じくらい、自然に口から出た。
シエは、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「うん!」
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午後が傾き始めた頃から、平原の様子が変わった。
草の間に、朽ちた構造物の残骸がちらほら見え始めた。石の土台、鉄の棒、割れた瓦。かつて集落があった場所だろう。建物の姿は残っていないが、地面を掘れば基礎が出てくるかもしれない。人が暮らしていた痕跡が、草の下に眠っている。
シエはそういうものを見つけるたびに立ち止まった。石を拾い、鉄の棒に触れ、瓦の破片を裏返して眺めた。
「これ、何でできてるの?」
「土を焼いたものだ。瓦という」
「かわら。屋根?」
「ああ」
「この下に家があったの?」
「……たぶん」
「人が住んでたの?」
「たぶん」
「今はどこにいるの?」
ヴァルトは答えなかった。地下にいるのか、死んだのか。どちらかだ。子供に言う必要のあることではなかった。
シエは瓦を元の場所に戻した。拾ったものを、必ず元の場所に戻す。それがこの子供の癖らしかった。
「ヴァルト」
「なんだ」
「ヴァルトは、どこに住んでたの?」
「……遠い場所だ」
「遠い場所って?」
「もうない場所だ」
「なくなったの?」
「…………」
「なくなったから、歩いてるの?」
足が止まりかけた。だが止めなかった。歩き続けた。シエの問いは、いつも矢のようにまっすぐ飛んでくる。狙っているのではない。ただまっすぐなのだ。曲がることを知らないから、まっすぐに飛ぶ。
「……そうかもしれない」
「そっか」
それだけだった。シエは深追いしなかった。追えないのではなく、そこまでで満足しているように見えた。答えの全部を欲しがらない。断片で十分らしい。
歩き続けた。日が傾き、影が長くなる。平原の色が変わり始めている。昼間の白っぽい灰色から、夕暮れの金色へ。草の先端が陽を受けて光り、地面に無数の細い影が走っていた。
シエが歌い始めた。
旋律ではなく、音の羅列。昨日の夕方、廃墟で聞いたのと同じだ。意味のない音を並べて、自分なりの節をつけている。時々、知っている単語が混じる。「かわら」「みず」「シエ」。今日覚えた言葉を歌の中に組み込んでいるようだった。
妙な歌だった。だが不快ではなかった。風の音と混じって、平原の空気の一部になっていた。
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日が沈む前に、野営の場所を決めた。
瓦礫の集まっている一角に、壁が二面だけ残った構造物があった。風除けにはなる。入口から中を確認し、獣や虫の形跡がないことを確かめてから、荷物を降ろした。
薪になりそうな木の枝は見当たらない。この辺りの木は全て焼けたか枯れたかして、残っているのは低い草だけだった。火を使わずに夜を越すしかない。
「今日もご飯、あれ?」
シエが荷物を指さした。干し肉のことだろう。
「ああ」
「かたいやつ」
「文句を言うな」
「言ってない。確認しただけ」
その言い方がどこか大人びていて、ヴァルトは一瞬言葉を失った。シエは気にせず、石の上に座って足をぶらぶらさせている。布靴の下から覗く素足は、今日一日歩いたにもかかわらず、傷ついている様子はなかった。普通なら、子供の足は真っ赤に擦り切れているはずだ。
気にはなった。だが問い詰める言葉を持たなかった。
干し肉を割って渡す。シエは受け取って、今度は齧る前に両手の間で温めるように握っていた。
「ヴァルト」
「なんだ」
「今日、いっぱい歩いたね」
「ああ」
「明日も歩くの?」
「ああ」
「あさっても?」
「たぶん」
「ずーっと?」
「…………」
「ずっと歩くの? ヴァルトは」
同じ問いの形を変えているだけだった。どこへ行くのか。なぜ歩くのか。いつまで歩くのか。子供の問いかけのバリエーションは限られている。だがそのたびに、ヴァルトの内側で何かが軋む。同じ場所を違う角度から叩かれているようだった。
「歩くのが好きなの?」
「好きじゃない」
「じゃあなんで歩くの?」
「他にすることがない」
嘘ではなかった。歩くことは目的ではない。ただ、止まることができなかった。立ち止まれば、考える。考えれば、思い出す。思い出せば——
「ヴァルト、つらい顔してる」
「……してない」
「してるよ。ちょっとだけ。ここ」
シエが自分の眉間を指さした。ヴァルトは思わず自分の眉間に手をやった。確かに力が入っていた。癖だった。考えるとき、思い出すとき、無意識に眉を寄せる。
「……別に、何でもない」
「そう? じゃあいいけど」
シエは干し肉を齧り始めた。変わらず硬そうだった。だが昨日よりは慣れたのか、噛む速度が少し上がっている。
陽が沈みかけている。壁の残骸の上端から、最後の光が差し込んでいた。赤みを帯びた光が、瓦礫の地面を染めている。シエの金髪が赤く光って見えた。陰影が深くなり、小さな顔に大人びた影が落ちる。一瞬だけ、見た目通りの幼子ではない何かに見えた。
ヴァルトは目を逸らした。
「明日、もう少し東に行けば集落があるかもしれない」
「集落って、人がいるところ?」
「ああ。地下にいる。穴の街と呼ばれている」
「行くの?」
「食料が少ない。補充しないといけない」
「ヴァルト、人に会うの嫌?」
「…………」
「嫌そうな顔してる」
「してない」
「してるよ。さっきと違う顔。こっちの方が嫌な顔」
ヴァルトは何も答えなかった。この子供は、表情を読むのが妙に鋭かった。感情を表に出さないことには自信があった。七年間、必要のない感情は全て奥にしまい込んできた。だが子供にはそれが通じないらしい。見ていないようで見ている。知らないようで知っている。
暗くなり始めた空に、星がぽつりと灯った。昨夜と同じ星だろうか。それとも違う星か。七年もの間、空を見上げながら歩いてきたのに、星の名前すら覚えなかった。花も、草も、風も、星も。名前を覚えることに意味を見出せなかった。
シエは毛布にくるまり、昨夜と同じように壁際に寄った。今日は自分でちゃんとくるまれている。学習が早い。
「ヴァルト」
「……なんだ」
「おやすみ」
「…………」
「ね、おやすみって言って」
「……おやすみ」
「うん。おやすみ」
満足したように目を閉じた。呼吸がすぐに深くなる。子供は眠りに落ちるのが速い。昨夜と同じだ。ヴァルトはそのことに安心する自分がいることに気づいて、少し困惑した。
安心。その感情が自分の中にまだ残っていたのか。
壁に背を預ける。夜の風が吹き抜ける。冷たい。だが昨夜ほどではなかった。体が慣れたのか、気候が穏やかなのか。あるいは——
隣に誰かがいると、夜は少し短く感じる。そういうことだろうか。
考えすぎだ、とヴァルトは自分に言い聞かせた。
この子供を連れて歩いていることに、意味はない。一時的なことだ。拾った子供の面倒を見ているだけだ。次の集落に着けば、誰かに預ける。そうするのが正しい。自分は一人でいるべき人間だ。一人で歩き、一人で終わるべき人間だ。
だが——
そう思いながら、毛布が子供の肩からずれていないか確認している自分がいた。
七年前の夜を思い出した。あの夜も、空は晴れていた。星が出ていた。そして自分は、命令書を手にしていた。第七式終結呪法。発動手順。対象座標。術式の起動は翌朝。
あの夜、眠れなかった。だが止められなかった。止めるべきだったのかもしれない。止められたのかもしれない。止めなかった。
翌朝、全てが燃えた。
子供の泣き声が聞こえた。一瞬だけ。すぐに途切れた。
ヴァルトは目を閉じた。
今、隣にいる子供は、あの子供ではない。あの火の中で失われた子供たちとは何の関係もない。だが毎晩、暗闇の中でその記憶がやってくる。炎の色。叫び声。そして、静寂。全てが焼けた後の、あの静寂。
シエが寝返りを打った。毛布の中で、小さく「ん」と声を漏らして、また静かになった。
風の音だけが、続いている。
明日も歩く。明後日も。その先も。どこまでかはわからない。何のためかもわからない。ただ、今は——
今は、二人で歩いている。
ヴァルトは目を開けた。暗い空を見上げた。星が増えていた。花の名前は知らない。草の名前も知らない。風の名前も。だが今日、一つだけ名前が増えた。
シエ。
風の音。




