第53章 年末年始 その2
雷鳥は福井駅で一度停車し、その後、鯖江駅、武生駅に停まったあと、敦賀駅まで行った。敦賀駅で祐希は電車を降り、そこから小浜線で約1時間かけて小浜駅に向かった。成人式以来会っていなかった、村本が駅まで迎えに来ているはずだった。
村本「祐希、こっちこっち。」
祐希「おお、啓介、久しぶりやな。成人式以来やん。」
村本「なんか、恵も帰ってきてるって。昨日、電話あったぞ。」
祐希「東京で会ったよ。実はな、新井が同じ会社に入社しててさ。」
村本「ああ知ってる。昨日、恵から聞いたわ。あいつも川崎に住んでるらしいな。」
祐希「そうそう。まあ、俺とは別の寮やけど。」
村本「新井って全然帰省しねえんだよな。連絡もねえし。元気してるんか。」
祐希「まあ、あいつはいろいろ嫌な思い出が多いんだよ。」
村本「そやな。あいつには、何も悪いところなんてないのに、世の中理不尽だよな。」
祐希「で、今晩はどこか店押さえてるんやろ。」
村本「まあ、とりあえず、家まで送ったるわ。」
村本と祐希は車に乗り込み、祐希の実家へと向かった。家には、母親と妹がいた。
祐希「啓介、何時に店予約してるんや。」
村本「7時に梅原や。直接向こうに集合や。」
祐希「わかった。ほんならあとでな。」
実家で少し休んだあと、母親に店まで車で送ってもらった。店には午後7時ちょうどくらいに到着した。店に入ると、すでに村本、西村、三田、加藤の4人が揃っていた。
加藤「祐希、久しぶりやな。成人式以来やんか。」
祐希「真希、元気そうで。なんか、痩せたか。」
加藤「おお、祐希は気付いてくれたか。結構、ダイエット頑張ったんよ。」
村本「祐希、まあ座れや。」
三田「おまえ、恵に聞いたぞ。アメリカに行くんやてか。」
村本「そや、なんか大学に行くらしいで。」
西村「今日はお祝いの酒にしよか。」
祐希「なんだよ、みんな知っているんか。耳が早いな。」
村本「そんなもん、恵の耳に入ったら、あっという間やわ。」
三田「ええやんか。そういういい知らせは、すぐにみんなに広めなな。そんなもん、祐希の心だけにしまってたら、もったいないわ。」
加藤「やっぱな、祐希は優秀なんよ。うちらとは、脳みそがちゃうわ。」
西村「そやで。うちが勉強で勝てんかった、唯一の同級生やし。」
祐希「もう、そんなんええから。俺の酒頼んでくれや。」
村本「せやったな。マスター、ビールひとつ追加で頼むわ。」
加藤「なんか、新井に会ったらしいな。」
西村「それがさ、新井って祐希と同じ会社に入ったのよ。」
三田「あいつは確か、高専にいったんじゃなかったっけ。」
村本「そや、あいつは高専に進学したはずや。中学の卒業以来会ってないわ。」
西村「実は、東京で3人で飲みにいったんだよ。」
村本「おお。東京生活楽しんでますなー。で、あいつは元気なんか。」
祐希「あいつ、彼女できたんだよ。東京で。」
西村「え、そうなの。初めて聞いたわ。」
祐希「そうそう、社内恋愛ってやつや。東京の女の子と付き合うてるわ。」
加藤「で、その子はかわいいんか。」
祐希「まあ、真希にはかなわんけど、それなりにな。」
加藤「そら、うちのほうがべっぴんやろ。そんなん言うまでもないわ。見てや、この出るとこ出てまっせボディー。」
全員、相変わらずの様子だった。唯一、中嶋だけがまだ帰省していないようだった。
祐希「雅はどうしたん。」
加藤「あいつは料理人やし、今が書き入れ時やんか。そんなん、帰省どころやないわ。」
西村「せやったな。でも、忙しいことはええことやんか。」
村本「せやな。まあ、あいつは京都やし。時間あるときは、ちょくちょく帰ってきてるしな。」
加藤「祐希と恵やわ。東京からやと、結構かかるやろ。」
祐希「そや、金も時間もそれなりにかかるよ。」
西村「ほんでも、今年の秋ごろから、祐希はアメリカいくしな。そんな簡単に帰ってこられんし。」
三田「つうか、なんでいきなりアメリカなんや。なんか、社内でやらかしたんか。」
村本「お前、なんか社長の娘に手出したとか、そんなんか。」
加藤「いやいや、祐希はそんなんようせんわ。村とか正樹とはちゃうって。」
祐希「いや、あのこんなロングコート着てな、いきなりバッと前を開いてん。もろにブツを出したってん。」
西村「なにそれー。でも、ちょっと見てみたいかも。」
加藤「ちょっと、祐希、ここで再現してや。うちらの前で。」
村本「うわー、俺は見たくねえー。」
三田「俺も、遠慮しとくわ。」
祐希「するわけないやろ。何を期待しとるんや。」
そうして話をしているうちに、どんどんと料理が運ばれてきた。
祐希「またや。お前ら、頼みすぎやって。もう、テーブルの上いっぱいやんか。」
加藤「恵が手加減なしに頼むからね。」
三田「それでさ、こいつ全部残さず食うもんな。」
村本「そうやった。また割り勘負けやわー。いつも、あとから気がつくし。」
西村「いやー、でも食いもんは、田舎のほうが断然美味いな。安いし、新鮮やし、でかいしな。もう、言うことないわ。」
三田「やっぱ東京って高いんか。」
祐希「そもそも、飲み屋の席がめっちゃ狭い。」
村本「狭いって。こう、ぎゅっと寄り添ってみたいな感じか。」
祐希「そうそう。なんやろ、長野でも友達に聞かれたんやけどな、ふつう4人用のテーブルって思っている大きさのところに、6人座らされるみたいな。」
西村「そう、狭いよね。でな、時間制なんよ。2時間で入れ替えなんでって言われるんやわ。」
三田「そんなんゆっくりと飲まれんやんか。」
村本「そら、相当狭いな。味とか値段とかどうなん。」
西村「まあ、そら高いわよ。同じ値段なら量が少ないし、同じ量なら値段が高い。」
加藤「いや、そんなん考えたら、田舎最高やな。」
祐希「いや、それは比べたらあかんわ。それと、コンビニに駐車場ないしな。」
三田「ええー、コンビニどうやって行くんや。」
西村「そんなん、都内の一等地にあるコンビニなんか、駐車場なんかあるわけないやろ。」
加藤「そらそうかもな。電車あるしな。うちらは、車で移動が当たり前になってるもんな。どこ行くにも、とりあえず車やもんな。」
祐希「東京やと、車無しでも全然生活していけるもん。そんなん、車なんか持っててみい、駐車場だけでどえらいとられるもん。」
三田「やっぱちゃうな都会は。俺は、そんなとこよう住まんわ。」
加藤「いや、正樹ほど都会が似合わん男もおらんし。」
村本「いやー、俺も無理やわ。福井市でさえ都会やって思うのに、そんなん東京なんか行ったら発狂するわ。」
祐希「遊びにこいよ。いろいろと、見るところはあるよ。ディズニーランドとか行こさ。」
加藤「ディズニーランドには行きたいわ。あとは、興味なし。だいたい、うちら中学の修学旅行で1回行ってるもんな。」
三田「俺さ、あんときめっちゃ怖かったもん。」
祐希「なんでや。」
三田「だって、お前考えてみ、東京で知らんおっさんにさらわれたら、二度と帰ってこれんって思ったもんな。ようさん人おったやんか。」
村本「正樹は言うことが、いちいち田舎者なんだよ。そんな、修学旅行に来てる男子中学生なんか、誰も誘拐せんって。」
西村「言えてる。どこから、その知らんおっさんが出てくるんやって。わけわからんわ。」
そうは言いつつも、西村の箸は止まる気配がなかった。
祐希「恵、美味いか。つうかおまえ、どんだけ食うんだよ。」
村本「相変わらず、底なしの胃袋やな。」
加藤「私、恵が食べているのを見ているだけで、なんかお腹いっぱいになってくるわ。」
三田「しかし、お前いつもそんなに食って、なんでその体形を維持できるんや。」
西村「もう、めちゃ幸せやわ。何食っても美味しいわ。」
祐希の同級生は全員何も変わっていなかった。だが、ある意味、それが彼には居心地がよかった。田舎に帰省して、仲の良い同級生と飲んで、食って、積もる話をして。これ以上の喜びがいったいどこにあるのだろうか。今や、祐希には、ここ小浜にも、長野にも、そして東京にも、居心地の良い時間をすごせる仲間ができていた。それは、彼にとってかけがえのない財産だった。




