第43章 男と男の勝負 その2
野口「千波さん、ちょっといいですか。」
千波が会社から帰宅しようと、会社の表門を出ようとしたときに、突然野口に声をかけられた。
千波「あら、野口さん。ひょっとして、パンチパーマのこと。」
野口「え、なんでわかるんですか。」
千波「やっぱりね。山ちゃんから聞いたんでしょ。」
野口「ええ、びっくりしちゃって。ちょっと、ご飯でも食べながら、お話しませんか。」
千波「ええ、いいわよ。どこに行く。」
野口「なんか、先日、山下君に連れて行ってもらった店でいいですか。ときどき、千波さんも一緒に行くお店だって。」
千波「ああ、豚汁屋かな。」
野口「あ、そうそう、それです。円山さんがいつも豚汁定食を食べてるってお店。」
千波「いいよ。あそこ、おいしいしね。」
千波と野口は会社の駐車場に行き、野口の車に乗り込んだ。
野口「すいません。なんか、突然お誘いしちゃって。」
千波「いえいえ、いいのよ。いつでも、誘ってよ。」
野口「千波さんも、祐希さんから聞きましたか、例の話。」
千波「聞いたわよ。アホだよねー、あいつら。」
野口「私はびっくりしちゃって。」
野口は車を出すと、駐車場を出て通りに出た。会社から約20分の道のりである。外はまだ明るく、帰宅する人たちの車で通りは混んでいた。二人は先日の海水浴の話で盛り上がっていた。山下と野口も先日の花火大会には行ったらしかった。店に到着し、店内に入った。店内はそれなりに混んでいたが、2人用のテーブルにすぐに案内してもらえた。
千波「で、パンチパーマだったよね。」
野口「あれって、本気なんですか。」
千波「なんか、山ちゃんと円は、やる気満々みたいだよ。でも、祐希はかなり憂鬱な顔していたけど。」
野口「私は、ちょっとこういうノリにはついていけなくて。」
千波「そう。私はこういうの大好きだけどね。めっちゃ、応援しようと思っているけど。」
野口「え、じゃあ、千波さんは反対しないんですか。」
その時、女性店員がお茶を二つ持ってきて、注文を取っていった。ふたりとも、色彩弁当というものを頼んだ。いろいろなおかずがついていて、ご飯もそれほど多くないメニューだった。女性向けに考えられたようなメニューだったが、千波が以前ここに来た時にはこんなメニューがあったなんて、全く気がつかなかった。
千波「祐希が立ち会いしてくれって言うから、すぐにオッケーってしたわよ。」
野口「そうですか。私はなんか嫌だな。」
千波「確かにね。山ちゃんのあの剛毛に、パンチパーマじゃ、ほんと見た目やばい人になっちゃうわよね。でも、見てみたいかも。」
野口「そっかー。千波さんが反対なら、一緒に阻止しようと思ったのに。」
野口は明らかに嫌そうな顔をしていた。出来れば、山下にそんなバカな勝負は止めるように仕向けたかったようだが、当てが外れたという感じだった。
千波「野口さん、男ってね、時々ああいう女には理解不能なことをやろうとするのよ。」
野口「ですよね。私、全然、理解できなくて。何が楽しいんですかね。」
千波「そういう理解できないところも含めて、山ちゃんを受け入れてあげなきゃいけないんだよ。」
野口「そんなもんですか。」
千波「逆に男にしてみたら理解できないような女の行為とかもあると思うよ。」
野口「例えば。」
千波「祐希が良く言うんだけど、なんで女って化粧するのって。」
野口「だって、好きな人にきれいって思われたいから。」
千波「それに、やっぱり同性からの目もあるしね。」
野口「そうですよね。」
千波「でも、男ってそれが不思議みたいよ。」
そのうち、食事が運ばれてきた。
千波「おいしそうじゃん。お刺身もあるし、お肉もあるし、お得だね。」
野口「でも、千波さんの言うとおりかもしれないですね。そういうおバカなところも全部含めて、その人を受け入れてあげるってことですよね。」
千波「そうそう。山ちゃんなんか、かわいいもんじゃない。そういうおバカなところもさ。なんか、誰かを傷つけるわけでもないしさ。」
野口「もし、祐希さんが、バリバリのパンチパーマになったら、デートとかどうします。」
千波「もう、全然平気。腕組んで歩いてあげるわよ。」
野口「千波さんって、なんかどっしりと構えているっていうか、なんか動じない性格ですよね。」
千波「だって、あいつの中身が変わるわけでもないしさ。一生に一度の経験って思えば、それはそれでいいと思うけどね。記念写真とか撮ろうかな。」
野口「まあ、でもなんかどうにでもなれって思えるようになりました。」
野口は千波に話したことで、少しは気が楽になったようだった。確かに、嫌そうではあったが、彼女の中では腹は決まったというような感じだった。
そして、いよいよ運命の日がやってきた。それは、週末の日曜日の午後だった。ボーリング場には、祐希、山下、円山、そして千波と野口が集まった。女性二人は立会人としての参加だった。
円山「さてと、お前ら軽くもんでやるから、かかってこいよ。」
山下「円、あとで泣き入れても知らねえからな。」
祐希「もう、ささっと済まそうぜ。」
千波「祐希、勝っても負けても、どっちでもいいからね。」
祐希「負けてもいいのか。いやいや、勘弁してくれよ。」
野口「山下君、絶対に勝ってね。」
ルールは、2ゲームの合計得点で勝敗を決めることにした。そもそも、3人ともはっきり言って、ボーリングはぜんぜん上手くなかった。
祐希「円山の最高スコアってどんなもん。」
円山「150くらいだったかな。」
祐希「山下はどう。」
山下「俺は150はいったことないな。」
祐希の最高スコアは145だったが、それもかなり前の話である。そのときは、まぐれでターキーを出すことができた。でも、そんなまぐれが今日出るとは思えなかった。そして、いよいよ運命の1ゲーム目が始まった。
円山の1投目は8本。そして、2投目で残りの2本を倒した。スペアである。
山下の1投目は5本。そして、2投目はガター。
祐希の1投目はストライク。
試合は刻々と進んでいった。ストライクやスペアが出るたびに、歓声があがり、場が盛り上がった。そして、最終フレームになった。そこまでのスコアは、円山125、山下115、祐希128だった。結局、円山が132、山下が134、祐希が140で終わった。
祐希「あぶねー。いやでも、思っていたよりもストライクとれたわ。」
円山「くっそー。次で逆転してやるからな。」
野口の表情は依然として固かった。そして、2ゲーム目が始まった。祐希は、円山よりも8ポイント上回っているため、多少は余裕があった。だが、山下と円山はかなり接戦になっていた。
円山の1投目はガター。2投目、なんとスペア。
山下の1投目はストライク。
祐希の1投目は5本。2投目は3本。
そして、2ゲーム目の最終フレームに突入した。山下と円山は130で同じスコアだった。祐希は、128で少し負けていた。ただし、祐希は9フレーム目がストライクだったため、このままいけば勝ちが確定である。結局、円山が143、山下が141、祐希が145で終わった。合計ポイントで、円山と山下が同スコアになった。
祐希「あっぶねー。パンチパーマは免れたぜ。」
千波「同スコアの場合、どうするの。二人ともパンチパーマするの。」
野口「いや、二人とも免除にしましょうよ。」
山下「同スコアの場合どうするか決めてなかったな。」
円山「どうする。」
祐希「もう、パンチパーマはいいでしょ。十分、楽しめたしさ。」
山下「いやいや、ちゃんと決着つけないと。」
千波「山ちゃん、いいねー、男らしくて。」
野口「千波さん、やめてくださいよ。」
祐希「じゃあ、もうじゃんけんでいいじゃんか。」
円山「そうだな。それじゃあ、じゃんけんで。」
結局、じゃんけん1発勝負で勝ったのは山下だった。
山下「よっしゃー。」
円山「まじかよー。これ、本当にやるんか。」
祐希「円山、あきらめろ。お前にはこれからパンチパーマをかけてもらう。しかも、自腹だ。」
円山は祐希と山下に連行されて、例の理髪店に連れていかれた。そこで、ぐりぐりのパンチパーマをかけられた。店主曰く、「こんな本格的なパンチパーマをかけたのは、久しぶりだなー。」とのことだった。野口は少しほっとしたような表情だった。そして、千波は相変わらずのはしゃぎようだった。こいつは、悪い女だなと祐希は思った。
そして、数日がたった。祐希はいつものように、オフィスで仕事をしていた。
竹内「ねえ、円山ってさ、なんなのあの髪型。なんかの罰ゲームなん。」
いきなり竹内が聞いてきた。
祐希「おお、気がついたか。なかなか似合ってるだろ。」
竹内「もうさ、会社中の女子でめっちゃ話題になっているんだけど。」
祐希「どう話題になっているんだよ。」
竹内「だって、パンチパーマって絶滅したんじゃないの。」
祐希「してねえよ。あいつは、国の天然記念物なんだよ。ちゃんと、いたわれよ。」
竹内「もう、今日初めて見たけど、最初誰かわからなかったわよ。もう、めっちゃうけるんだけど。」
祐希「ボーリングで負けたんだよ。」
竹内「どういうこと。」
祐希「山下と、俺と、円山でボーリングでかけたんだよ。で、負けたやつがパンチパーマ自腹ってことで。それで、円山が負けたってわけ。」
竹内「なによ、それ。そんな楽しいイベント、私も呼んでよ。」
祐希「富永課長が少しうれしそうだったけどな。俺以外にも、パンチパーマがいるって思っているんじゃないか。」
竹内「どうせなら、眉毛も剃ってもらえばよかったのに。」
祐希「お前も、ひどいこと言うな。」
竹内「今日、出社してくるときに、正門で守衛さんに止められたらしいわよ。」
祐希「まじでか。」
竹内「そうそう。社員証見せたらしいけど、全然写真と違うとか言われてたらしいよ。」
祐希は少し円山が気の毒に思えてきた。そのうち、職務質問とかされるんじゃないかと少し心配になってきた。




