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第42章 東京お上り旅行 その3

 その日の朝の目覚めは昨日とは違って爽快だった。夢にうなされることもなく、朝までぐっすりと眠れた。千波もよく眠れたようで、二人とも昨日の疲れはすっかりと解消されていた。二人とも顔を洗い、歯を磨き、着替えを済ませて、1階のラウンジへと降りていった。お腹も空いていたため、朝ごはんもおいしく感じられた。


 祐希「千波のパジャマかわいいよな。プーさんだっけ、あの熊の絵かいてあるやつ。」


 千波「そうそう、熊ってかわいくない。」


 祐希「まあ、ずんぐりむっくりだしね。」


 今日は、この後すぐにチェックアウトをして、ディズニーランドへと向かうのである。祐希はそこまでの行き方がよくわからなかったが、千波は完全に把握しているようだった。


 祐希「ディズニーランドまでの行き方とかわかるの。」


 千波「まあ、一番簡単なのは、東京駅まで行ってから京葉線かな。」


 祐希「それじゃ、1回乗り換えで行けるってことだね。」


 千波「そうだね。今日は土曜日だから、結構ディズニーランドも混むと思うよ。」


 祐希「行ったことないから、どんなところかわからないな。千波は行ったことあるの。」


 千波「友達と2回行ったことあるよ。まあ、女子だけだったけど、楽しかったよ。」


 祐希「俺でも楽しめるのかな。外は暑いしさ。」


 千波「疲れたら、休めばいいよ。あんまりガツガツ行かなくていいから。」


 祐希「わかった。熱中症にならないように、水分補給だけはしっかりとしないとね。」


 千波「人気のアトラクションとかだと、2時間くらい待たされるわよ。」


 祐希「2時間かよ、すげえな。」


 千波「まあ、仕方ないわよ。」


 祐希「明日は長野に戻るから、最後の東京観光だな。」


 千波「なんかさ、あっという間だったね。でも、今日のホテルは楽しみだ。」


 朝食をゆっくりととったあと、荷物をまとめて、1階のフロントに行き、チェックアウトを済ませた。すでに外はかなり暑くなってきており、人通りも多くなってきていた。二人は歩いて、上野駅まで行ったあと、そこから山手線で東京駅に向かった。東京駅から京葉線に乗り換えである。


 祐希「なんか、さっきからずっと地下通路を歩いているけど、ぜんぜんホームにつかないね。」


 千波「なんか、京葉線のホームって遠いよね。さっきさ、500メートルって出てたわよ。」


 祐希「500メートルって、それ歩いて乗り換える距離じゃないよな。いったい、どうなってんだろう。」


 千波「まあ、京葉線を乗り入れられる場所が東京駅近くにはなかったのよ。」


 まわりには、あきらかにディズニーランドに行くであろう、祐希たちと同じような人たちも大勢歩いていた。家族連れ、カップル、友人同士のグループなど、みんな思い思いの恰好をして、楽しそうにお喋りしながら、その長い通路を歩いていた。約20分歩いた後、ようやく京葉線のホームに到着した。そこからは、舞浜駅まで乗り換えなしである。電車の座席や窓ガラスなどは、ミッキーマウスのデザインがところどころに見られた。もうすでに、ここからディズニーランドの世界が始まっているのである。


 まずは、ホテルに向かい、荷物を預かってもらった。まだチェックインの時間には早いため、荷物だけホテルに置いて、そのままディズニーランドに向かった。1日パスを購入し、中に入った。祐希にとっては、初めてのディズニーランドだった。そして、そこは本当に非日常の夢の世界を具現化したような世界だった。どの建物も意匠にこだわり、そこで働いているスタッフの衣装も童話の世界に出てくるようなデザインだった。入口から店舗が並ぶアーケードを通り抜けると、目の前にディズニーランドの世界が広がった。暑さも忘れるくらいに、圧倒的な別世界がそこには存在していた。


 祐希「すっげー。お城があるじゃんか。」


 千波「どうする。何か興味のあるアトラクションとかある。」


 祐希「いや、全然、知識がないから、千波に任せるよ。」


 千波「ちょっとは事前学習してきてよ。」


 まずは、千波の提案で、「イッツ・ア・スモールワールド」の列に加わった。少々待たされたが、この人混みなら仕方ないかなと思えた。小さな船に搭乗し、場内の水路を進んでいくのである。まわりには、人形が多数配置されており、世界中の国の様子が再現されていた。音楽も流れており、しかも中はかなり涼しく快適だった。ここは、小さな子供でも楽しめるように工夫されていた。ある意味、小さい子供向けのアトラクションとは思われたが、祐希にとっては初めてのディズニーランドのアトラクション経験だった。


 祐希「なんか、案外楽しかったよ。中は涼しかったしね。」


 千波「次は、ちょっと過激なやつに行こうか。「ビッグ・サンダー・マウンテン」なんてどう。」


 祐希「なんかよくわからないけど、それがお勧めなら行ってみようよ。」


 千波「そうね。でも、ちょっと待たされると思うよ。」


 その後、ビッグサンダーマウンテンとスペースマウンテンに連続して乗ったのだが、あまりにも待ち時間が長いため、かなり疲れてきた。アトラクション自体は楽しいのだが、たかだか5分程度で終わってしまうアトラクションに、2時間くらいは待たなければいけないのである。


 千波「そろそろ、お昼にしようよ。まあ、ちょっと遅いけどね。」


 祐希「そうだね。しかし、すごい人混みだよな。」


 千波「日本全国から来るからね。ねえ、疲れた。」


 祐希「いや、まだ平気だけど、千波はどう。」


 千波「私は大丈夫よ。多分、二人で次にディズニーランドに来られるのは、いつになるかわからないからね。」


 祐希「でも、アメリカにもあるでしょ。」


 千波「そうだね。アメリカでも行ってみようか。まあ、いつになるかわからないけど。」


 本当に、その日はカンカン照りと言っても過言ではないような快晴だった。空には雲ひとつなく、しかも風もほとんど吹いていなかった。たしか、ここは海岸に近かったはずだが、浜風みたいな風もなかった。ただ、広大な敷地にたくさんのアトラクションがあり、たくさんの人々が集っていた。陽を遮るものが無いため、体感温度はかなりのものだった。おそらく、冬は冬で、今度は浜風が吹いて、その風を遮るものがないため、相当寒くなるのだろうと思えた。ここは、出来れば春先か秋に来るのが一番良いのかもしれない。


 二人は遅い昼食のため、ハンバーガーが食べられる店に入った。


 祐希「食べ物も、結構高いね。」


 千波「仕方ないわよ。ここは、お弁当の持ち込み禁止だしね。」


 祐希「そっかー。そんなに何回も来れないね。うちら、貧乏会社員だし。」


 千波「交通費もかかるしね。でも、年に一回くらいは、自分へのご褒美でいいんじゃない。」


 千波はこの暑さにも関わらず、かなり元気だった。


 祐希「千波は元気いいよな。俺は、この暑さにやられているよ。」


 千波「そう、そんなに暑い。私は冬の寒さよりも、夏の暑さの方がまだ耐えられるけどね。冬はここには来られないね。」


 祐希「しかし、千波ってこんな時でも、メイクしてくるよな。別にすっぴんでも、十分かわいいのに。」


 千波「なんかね、私はメイクしないと落ち着かないのよ。」


 祐希「女は大変だよな。俺なんか、石鹸でガシガシ顔とか洗っちゃうけど。」


 千波「そんなことしたら、お肌がえらいことになってしまうわよ。」


 祐希「そうか。でも、最近は男性用の洗顔剤とかも売っているよな。」


 千波「そうだよ。そういうの使いなよ。今度、私がいいやつ買ってきてあげるよ。」


 祐希「いいよ。もったいないし。」


 そのレストランで腹ごしらえをし、十分涼んだあとで、再度外に出ることにした。空には、飛行機が何機か飛んでいるのが見えた。それと、1機のヘリコプターがあわただしく東のほうへ飛び去って行くのが見えた。祐希は、レストランで飲み切れなかった、超特大のカップに入ったコーラを持ちながら、千波と歩いた。


 祐希「このさー、夏の青い空の下で飲むコーラって美味いよな。」


 千波「そうそう。すっごい美味しいよね。わかるわー。」


 午後は最初に「スプラッシュ・マウンテン」に並んだ。こちらもかなり長時間並んだが、なんとか乗ることができた。水が飛び散って、その分清涼感があったが、これもあっという間に終わってしまった。


 千波「ねえ、そろそろホテルに戻って、チェックインしない。」


 祐希「そうだね。夕方までホテルで休もうか。」


 二人は、アーケードで少しお土産を購入したあと、ホテルに戻ってチェックインを済ませた。その後、しばらく部屋で休憩することにした。


 千波「ねえ、夜のパレードがあるみたいだけど、行きたいな。」


 祐希「いいよ。何時から。」


 千波「7時だったと思う。」


 祐希「じゃあ、それを見てから、夕食にしようか。」


 千波「じゃあ、それまで部屋で休もうか。」


 夜は再度場内に入り、パレードを楽しんだ。ここは本当に非日常の空間だった。祐希はあまり遊園地というところには来たことがなかった。実家の近くにはそういった施設もなかったし、それほど経済的な余裕もなかったからである。こんなきらびやかな世界が自分の住む国にあるということが、ある意味信じられなかった。確かに、人為的に作られた仮想の世界であることはわかるのだが、こんなにも没入感を感じさせる場所だとは思ってもいなかった。ディズニーランドの存在自体は当然知っていたが、どこか遠くの自分には縁のない世界の話という意識しか持っていなかった。だが、こうやって実際に来てみると、自分が今まで知らなかった世界がそこにはあった。そう、まだまだ日本には、というか世界には祐希の知らない世界がたくさんあるのである。


 そう考えると、自分の田舎を離れたことで初めて知る世界が今までもたくさんあった。長野という福井とはまた別の日本の地方に移り住んだことで、新たに知ったこととか、新たに経験したこともたくさんあった。例えば、長野県内にはたくさんの全国的に有名なスキー場がたくさんあるし、軽井沢のような有名な避暑地もある。それらは、福井にいたときには経験できないような機会を与えてくれる場所でもあった。千波と知り合って、異性を本格的に知ることになったのも、彼にとっては初めての経験だった。異性と男女間の関係になることも初めてだったし、こんなに本格的に異性と交際することも初めてだった。なんか、自分が思っているよりも、遥かに早い速度で人生が進んで行っている、そんな気がしていた。


 その日はたっぷりとパレードを楽しんだあと、ホテルで夕食をとった。祐希と千波にとっては、かなりの出費だったが、この新しい経験が出来たことを考えると、まあ妥当な出費と思えてきた。いつか、お金のことを気にすることなく、ここに来られるようになりたいと思ってきた。そして、まだ彼の目の前には、やらなければいけないことがたくさんあった。


 千波「ねえ、東京見物はどうだった。」


 夜のベッドの中で、千波が聞いてきた。


 祐希「楽しかったよ。すっごい、なんか新しいことばかりでさ。」


 千波「いいよね。こういう二人きりの旅行とかさ。」


 祐希「ディズニーランドは、また来たいね。でも、今度はもっとゆっくりと来たいな。3泊4日とかさ。そして、お金のことを気にしないで、思いっきり楽しみたいね。」


 千波「じゃあ、お仕事頑張らなきゃだね。」


 祐希「そうだね。」


 千波「祐希なら大丈夫だよ。東京でもアメリカでもやっていけるよ。私も頑張って支えるつもりだから、二人でさ、頑張ろうよ。」


 祐希「ありがとう。まあ、俺は一人じゃないってことだ。千波がいるから、なんかできそうな気がするよ。」


 千波「会社だってさ、祐希ならできるって判断しているから、こんなすごいチャンスくれているわけだから。全然、大丈夫だよ。」


 祐希は千波を抱き寄せて、キスをした。


 祐希「千波って、すっぴんでもぜんぜんかわいいのに。」


 千波「すっぴんは、誰にでも見せるものじゃないからね。」


 祐希「なるほどね。」


 祐希は、ゆっくりと千波の体を撫でていた。


 祐希「千波の体って、柔らかいよね。なんか、男の体ってゴツゴツしているけど、女って柔らかいよな。」


 千波「女は猫なのよ。」


 祐希「ああ、わかる。猫の柔らかさと似ているかも。あと、気まぐれなところとか。」


 千波「そういうこと。」


 祐希「肌も白くて、つるつるだし。なんか、青白い血管が透き通って見える。」


 千波「私、結構色白だもんね。いいでしょ、透明感があってさ。」


 祐希「でも、なんで俺なの。他にたくさん別の男もいるのに。千波ならもてるだろ。」


 千波「なんでって、付き合ってって言ってきたの、祐希からじゃない。」


 祐希「まあ、そうだけど、なんでかなって。」


 千波「なんかわからないけど、最初に会ったときに、なんかこの人と付き合うんだろうなって思ったの。」


 祐希「そうなんだ。いや、実は俺もそう思った。この子は俺の彼女になるだろうなって。」


 千波「もうね、決まっていたのよ。こうなることは。あなたが、どういうスペックの男だとしても、最終的にはこうなっていたのよ。」


 祐希「俺が、どうしようもねえクズ男でもか。」


 千波「そういうこと。もう、これは決まっていたのよ。だから、その流れには逆らわないことよ。」


 千波は、じっと祐希の目を見つめていた。


 千波「祐希が今の会社に入って、私と出会って、恋に落ちて、そして一緒にアメリカに行くの。これは、最初から決まっていたのよ。」


 祐希「そうかー。でも、悪い流れじゃないよな。」


 千波「良い流れよ。私は多分ね、アゲマンなのよ。」


 祐希「アゲマンって何。」


 千波「一緒にいる男性を出世させるツキを運んでくる女性のこと。」


 祐希「じゃあ、千波と一緒にいると、お前がツキを呼び込んでくれるってことか。」


 千波「まあ、多分ね。」

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