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第39章 東京お上り旅行 その1

 千波「来たねー、東京。」


 祐希「いやー、すごい人だな。」


 千波「だって、東京駅だからね。」


 祐希「おい、あのお土産屋さんのお菓子見たことあるよ。」


 千波「ああ、ひよこね。みんな東京行くと、あれ買ってくるんだよね。もっと、他に土産物ないのかねって思うよ。」


 祐希「俺さ、なんかこの人混みに酔いそうだわ。いったい、どこからこんなにたくさんの人が湧いて出てくるんだよ。」


 千波「祐希、だってここは天下の東京だよ。さあ、行くよ。」


 祐希「行くよって。どうやって、ここからホテルまで行くんだよ。」


 千波「電車に決まっているじゃんか。」


 祐希と千波は有給休暇を利用して、二人で東京に来ていた。以前から計画していた、東京巡りを行うためである。


 祐希「最初のホテルって上野だったっけ。ここから遠いのかな。全然、東京の地理がわからねえよ。」


 千波「東京駅から上野駅は、すぐだよ。山手線ですぐに着くから。」


 祐希「そうなの。本当に俺はどこにいるのかさえわからねえわ。千波の後に付いていくから。」


 千波「いいよ。私はだいたいわかるから。」


 千波は祐希の前を歩き、山手線のホームに行った。祐希はわけがわからず、彼女のあとをついていくだけだった。祐希はこれが人生で3回目の上京だった。最初は中学校のときの修学旅行、2回目は入社式に出席するためだった。千波は東京には何度か来ているようであり、祐希よりは東京の地理がわかっているようだった。今回の旅行では、上野動物園と美術館、東京タワー、そしてディズニーランドに行くことになっていた。もう典型的なお上り東京旅行だった。ようやく上野駅に到着し、改札を出て、歩いて予約してあるホテルに向かった。


 祐希「つうかさ、俺たちが乗ってきた電車って上野を通らなかったか。」


 千波「そうなのよ。よく考えたら、上野で降りればよかったのよね。まあ、時間はたっぷりあるから大丈夫よ。」


 まだ時間は午前中だった。今日は平日だったため、都内はビジネスマンであふれていた。ホテルには無事に着いたのだが、まだチェックイン時間には早かったため、荷物だけフロントに預けて、外出することにした。ここまでは予定通りだった。


 千波「よし、これで身軽になったね。」


 祐希「いや、東京は暑いね。汗だくだくだよ。」


 千波「ちょっと、喫茶店とかで休んでいく。」


 祐希「そうだね、なんか冷たいもの飲みたい。」


 千波「なんか、祐希、テンパってるね。大丈夫。すっごい汗かいてるよ。」


 千波はハンカチを取り出し、祐希の額の汗をぬぐってくれた。そして祐希の顔を下から心配そうに見上げてきた。


 千波「ちょっと、フロントで休もうか。」


 千波の提案で、ホテルを出る前に、ホテルのフロントのソファーでしばらく休憩することにした。


 祐希「今日はどこに行くんだっけ。」


 千波「上野だから、見るところいっぱいあるよ。アメ横で買い物できるし、動物園もあるし、それに美術館とか博物館もあるし。祐希はどこに行きたいの。」


 祐希「動物園は暑くないか。美術館とかどう。」


 千波「そうねー。じゃあ、このあと喫茶店に行って、そのあとに美術館に行こうか。」


 祐希「いいね。それでいいよ。」


 千波「なんかさー、人混みであたふたしてる祐希って、かわいいよね。」


 祐希「だってさ、俺って筋金入りの田舎者だしさ。俺からしたら、長野市だって大きい町だよ。」


 千波「さてと、そろそろ行く。もう落ち着いたかな。」


 祐希「そうだね。だいぶ落ち着いてきたよ。」


 二人はホテルを出て、最初に目に入った喫茶店に入った。店内には、会話の邪魔にならない程度の音量でジャズがかかっていた。席は半分くらいは埋まっていたが、空いているテーブルがあったので、そこのテーブルについた。すぐに若い女性がメニューを持ってきてくれた。


 祐希「お腹空いてない。」


 千波「いいよ、何か食べる。」


 祐希「軽く食べようか。ほら、サンドイッチとかあるよ。美味しそうじゃんか。」


 二人はタマゴサンドイッチと飲み物を注文した。祐希も千波も、アイスコーヒーを飲むことにした。


 祐希「千波って、何回くらい東京に来たことあるの。」


 千波「どうだろう。私、こっちに親戚がいるからさ、子供のときも何回か来たことあるわよ。でも、10回くらいかな。」


 祐希「そっか。俺は関東には全く親戚とかいないからな。でも、中学校の時の仲のよかった同級生が2人いるけど。」


 千波「そうなんだ。福井の人ってだいたい高校を出たら、関西に行くようなイメージがあるけど。」


 祐希「そうだね、ほとんどの人は進学でも就職でも、関西か名古屋にいっちゃうね。」


 千波「長野人はだいたい東京に行っちゃうけど、何年かしたら戻ってくる人が多いね。やっぱり、長野人って基本的には長野が好きなんだよ。」


 サンドイッチとアイスコーヒーが運ばれてきた。店内には、ビル・エバンスの曲が静かに流れていた。


 祐希「いや、俺は東京には住めないね。毎日、こんな人混みにまぎれて一生過ごすなんて無理だわ。」


 千波「そりゃ、東京の人だって好きでこんな人混みの中に暮らしているわけじゃないわよ。」


 祐希「俺さ、アメリカ行く前に、東京で研修するじゃんか。なんか先が思いやられるよ。」


 千波「おいおい、アメリカ行く前に、もうめげそうなのか。東京滞在は、期間限定だから大丈夫だよ。それに、毎月、私が君を癒しに来てあげるから。どう、この美女が癒してあげるのよ。頑張れるでしょ。」


 祐希「もう、頑張るしかねえよな。」


 千波「ところで、英語の勉強はしてるの。宮下部長から教材もらったんでしょ。」


 祐希「やってるよ。だいぶね、英文読むのが苦にならなくなってきた。案外、英語は平気かも。」


 千波「でも、実際に現地に行ってみたら、また想像よりも違うかもよ。」


 祐希「行ってみないとね。でも、なんだっけ、トーフルってテストがあるらしいけど、そのテストはいけるかも。」


 千波「なに、そのトーフルって。初めて聞くけど。」


 祐希「なんかね、英語のテストの名前なんだって。なんか、外国人留学生はそのテストの点数を提出しなきゃいけないんだって。なんかね、600点以上とか言われたけど、それがどの程度のレベルなのかさっぱりわからない。」


 千波「でもさ、大学の授業についていける英語力が要求されるわけだから、それなりに難しいんじゃない。でも、祐希なら大丈夫よ。」


 祐希「まあ、1発で点数取りたいね。まだ受けたことないけど。」


 二人は喫茶店でサンドイッチを食べたあと、会計を済ませて外に出た。喫茶店を出るときに、美術館への行き方を教えてもらった。


 千波「なんだ、美術館ってすぐだったね。こんなに近いとは。」


 美術館は喫茶店からすぐの場所にあった。広々とした敷地に美術館と博物館が点在していた。


 千波「美術館もね、何個かあるんだよね。西洋美術館とか上野の森美術館とか。」


 祐希「本当だ。すごいね。どこが見たい。」


 千波「そうねー、西洋美術館に行ってみようか。」


 祐希「オッケー。じゃあ、そこに入ってみよう。」


 祐希がこんなに大きな美術館に入るのは生まれて初めてだった。入場券を2人分購入して、美術館の中に入った。美術館のなかは、空調がほどよく効いており、段々と体の熱気が収まってきた。たっぷりととられている展示スペースの壁面に絵画が何枚も展示されていた。場内は、それなりに人がいるのだが、みんな静かに絵の鑑賞をしていた。当たり前だが、西洋美術館というだけあり、西洋の絵画が展示されていた。絵画の下のほうには、作者の名前と制作年、それと簡単な説明文の書かれたプレートがついていた。祐希でさえ、聞いたことのあるような芸術家の作品も展示されていた。


 千波「たまにはこういう所でのデートもいいわよね。」


 祐希「すっごいきれいな絵画だよな。なんか、すごい興味が出てきたよ。」


 千波「地方にいるとなかなかこういう絵画を見る機会がないからね。」


 二人はゆっくりと館内の絵画を鑑賞した。時々、疲れたときは館内の空いているソファーに腰をかけ休憩をはさんだ。


 祐希「なんか、豊満な女性の絵画がいっぱいあるよな。」


 千波「いやね、なんかいやらしい目で見てるでしょ。これは芸術なのよ、わかる。」


 祐希「そうだよ。そんな変な目で見ているわけじゃないよ。」


 千波「でも、涼しくていいよね。ここ出たら、お昼食べようよ。」


 祐希「動物園はどうする。」


 千波「せっかく来たんだから、行ってみようよ。」


 祐希「いいよ。俺さ、修学旅行で来たよ、上野動物園。」


 千波「そっか、中学校の修学旅行が東京って言ってたよね。」


 祐希「そうそう。だいたい、福井県内の中学校は修学旅行は東京とその近辺だよ。」


 千波「私は、京都、大阪、奈良だったわ。」


 祐希「それは、うちらの小学校のときの行き先だね。」


 千波「そっか、小浜だったら、隣が京都だもんね。」


 祐希「そうなんだよね。関西は近いからね。」


 二人はゆっくりと美術館を見てまわったあと、外に出た。一度、美術館や動物園があるエリアから出て、上野の大通りのほうに出た。そして、目に入った蕎麦屋で昼食をとることにした。


 祐希「やっぱ、東京って蕎麦屋が多いよな。福井と同じだよ。」


 千波「長野も蕎麦だね。」


 祐希「千波にも、おろし蕎麦を食べさせてあげたいよ。なかなか県外では見かけなくてさ。」


 千波「ああ、あれ美味しいらしいよね。一度、食べてみたいわ。」


 祐希「まあ、いつか食べさせてあげるよ。あの、辛み大根が県外では手に入らなくてさ。」


 二人は、天ぷら盛り合わせとざる蕎麦を頼んで、腹ごしらえをした。


 祐希「なんか、つゆの味が濃いな。」


 千波「そう、ちょうど良くない。」


 祐希「んー、俺には濃いかも。蕎麦自体は美味しいんだけどね。」


 千波「そうだね。蕎麦は美味しいね。」


 祐希「なんかさー、来年の今頃は、どこで何をしているんだろうな。」


 千波「あんまり考えないの。なんとかなるわよ。ゆくゆくは私もあっちに行くんだし。それに、あっちにもうちの駐在員がいるんでしょ。」


 祐希「ああ、渡米したときは、迎えに来てくれるらしい。」


 千波「祐希、二人でいれば頑張れるよ。私だって、できることたくさんあると思うし。」


 祐希「そうだな。千波が来てくれるのは、本当に心強いよ。」


 千波「でしょー。私だって、やるときはやるからね。」


 その後、二人で動物園に入った。祐希は中学生以来の上野動物園だった。場内を歩いていると、あの中学生だったころの思い出がよみがえってきた。千波は、なぜか大きな動物が好きなようで、象やきりん、カバ、サイなどのエリアでは、ずっと動物の様子を凝視していた。


 祐希「つうか、でかい動物好きなのか。」


 千波「そう、大好き。なんかさー、象とかってこんなところに閉じ込められて、一体どんなこと考えているんだろうかとか考えちゃう。」


 祐希「象が日本で最初に上陸したのは、小浜市って知っていた。」


 千波「え、そうなの。なんで、小浜に象がきたわけ。」


 祐希「なんか、インドネシアの王様が日本の将軍に象とか孔雀とかを送ってくれたらしい。そして、その船が到着したのが、小浜港なんだって。」


 千波「すごいじゃん。ぜんぜん、知らなかったわ。」


 祐希「まあ、小浜に来たのは、アジア象だから、今目の前にいるアフリカ象より小さい象だけどね。」


 千波「ふーん、そっかー。」


 動物園を見物したあとは、ホテルに戻って、チェックインを済ませた。キングサイズのベッドがひとり部屋の真ん中に設置されていた。外は暑かったため、二人ともとりあえずシャワーを浴びることにした。


 千波「ねえ、シャワー浴びたら、ちょっと休んで、それから飲みにいこうよ。」


 祐希「そうだな。なんか、いっぱい飲み屋があったな。」


 千波「そうだね。いっぱいあったから、どこか適当に入ればいいんじゃない。」


 その夜は、二人で居酒屋で夕食を済ませた。そして、コンビニで飲み物を買ったあと、再度ホテルに戻って、再度シャワーを浴びた。ちょっと外に出て動くだけで汗だくになってしまうのだ。東京の夜はなかなか気温が下がらず、二人にとってはすごく暑く感じた。


 千波「疲れたね。おなかいっぱいになったわよ。」


 祐希「そうだね。もう寝る。」


 千波「ねえ、しないの。今日さ、生理前だから、すっごいそういう気分なんだけど。」


 祐希「よく、生理前はしたくなるって言うけど、それって女の人はみんなそうなの。それとも、千波だけそう感じるの。」


 千波「女の人は全員だと思うよ。先輩たちも聞いたことあるけど、みんなそうだって言ってた。」


 祐希「そうなんだ。やっぱり、女と男は違うよな。」


 千波「まあ、男の人はいつでもやりたいんでしょ。」


 祐希「基本的にそうだね。」


 その日は疲れていたが、逆にそれがゆえに、二人とも相手を激しく求めていた。お酒も入っていたせいか、いつもより激しく抱き合った。祐希はとても満たされた気分になった。千波は祐希の胸の中に顔をうずめて、静かに呼吸をしていた。心地よい疲れが二人の体にまとわりついていた。


 祐希「千波、すっごい良かったよ。」


 千波「ねえ、もう一回しよう。」


 祐希「ちょっとだけ休ませて。」


 千波「もう早くして。」


 二回目が終わった後は、祐希は一気に眠くなった。そして、いつの間にか深い眠りに落ちていた。とにかく、体が泥のようにずしりと重く感じた。そして、ベッドに沈み込んでいくのを感じることができた。だが、その後からの記憶は無くなっていた。


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