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第30章 下世話な人たち その2

 運命の日がやってきた。土曜日の朝から、世界一しょうもないことに付き合わされることになった、祐希と滝田は自分達の運命を呪うしかなかった。朝になると北見と滝田が祐希の部屋に彼を呼びに来た。北見はなぜか、頭にハチマキをしていた。昨夜は福田に出題するための資料の作成で夜遅くまで作業をしていたようで、目が血走っていた。なぜか、滝田の目までもが血走っていた。おそらく、北見の徹夜に付き合わされたのであろう。


 祐希「その、福田さんに見せるエロ問題はできたんですか。」


 北見「おう、できたぞ。お前も見てみるか。」


 北見が見せてくれたのは、ある雑誌のカラー写真の見開きページだった。そこには、白い紙がほとんど全面に当てられており、ちょうどその女優の胸の部分だけが、小さく丸く切り取られていた。ようするに、その女優の胸だけを見せて、福田がその女優の名前を当てるのである。祐希は、軽いめまいを覚えた。この貴重な土曜日を、俺はこんなことのために費やすのかと思うと、正直言って、発狂しそうだった。


 祐希「これを作っていたんですか。」


 滝田「もうね、死ぬかと思ったわ。30枚作ったからね。いろいろと雑誌のページを吟味して、それからそれに合わせて紙を切ってさ。」


 祐希「で、どうやって勝敗を決めるんですか。」


 北見「30枚勝負だ。30枚で勝負がつかなかったら、再戦をするか引き分けにするかどちらかだ。」


 もう、祐希は逃げたかった。これから、北見の車で、福田の住んでいるアパートに向かうのである。福田のアパートに行くのも嫌だったし、そんなアホな対決に立ち会うのも嫌だった。


 祐希「俺、行かなきゃいけませんか。」


 北見「橘、俺はお前を男と見込んで頼んでいる。俺の生き様を見ていてくれ。」


 何が生き様だよと思った。祐希のなかでは、アホらしい気持ちと、早く終わらせたい気持ちが同居していた。だがしかし、もう逃げられる状況ではなかった。滝田はすでにあきらめの表情だった。それは、まるでイボ痔で入院した患者が、いよいよ手術直前になって悟る、あのあきらめの境地のような表情だった。祐希はイボ痔にはなったことはなかったが、以前彼の親戚のおじさんが、あの手術前の恐怖を語っていたのを思い出した。おそらく、おじさんが手術前に抱いたあのあきらめの境地とは、こういうものだったのかもしれないと思った。その後、おじさんは手術は無事に終えたものの、麻酔が切れた後のあの鈍い痛みは一生忘れえないだろうと遠い目をして語っていた。それはまるで、肛門にも心臓があるかの如く、手術痕にドクンドクンという鈍い痛みがしばらく残ったというものだった。


 祐希「わかりましたよ。もう、本当に北見さんはしつこいですね。」


 北見「橘、ようやく腹をくくったか。それじゃ、お前ら行くぞ。いざ、陰毛の館。」


 祐希はほとんど泣きそうだった。せっかくの土曜日をこんなくだらないことに付き合わされなければならないなんて、なんという不条理な世界だと思った。


 北見の車で、福田のアパートまで行った。福田のアパートも会社からは、それほど離れているわけではないので、10分程度で到着した。北見は、分厚い資料の束を抱えた滝田と祐希をしたがえて、福田の部屋の前まで行き、呼び鈴を鳴らした。しばらくして、福田が無言でドアを開け、目で中に入るよう促してきた。こんな恥ずかしい姿を千波には絶対に見せられないなと思った。いや、同期の連中に見られ、今から始まる闘いに立ち会ったなどということがバレたら、ここ1年くらいは笑いのネタにされそうである。


 福田のアパートの中は、聞いていた様子とは違って、比較的きれいに整理整頓がなされていた。ただ、やはり空いている壁面には、びっしりと棚が設置されており、ビデオテープがぎっしりと並べられていた。また、大きな本棚があるのだが、ものの見事にあっち系の雑誌がぎっしりと並べられていた。


 福田「まあ、座れよ。なんか飲むか。」


 北見「福田さん。ちゃんと準備はしたんですか。」


 福田「おう、なかなかのネタを仕込んであるから、手応えのある問題ばかりだ。」


 祐希「福田さん、ビールもらっていいですか。」


 滝田「あ、俺も。」


 福田「冷蔵庫にあるから、勝手に出して飲んでいいぞ。1本出したら、そこにあるビールを入れておいてくれ。」


 祐希「ありがとうございます。」


 祐希は冷蔵庫から缶ビールを2本出すと、滝田に1本を渡した。滝田もこんなところで、こんなことしている暇があったら、東京に帰りたかっただろうなと思えた。祐希と滝田は、昨夜彼らが作った資料を居間のテーブルの脇に置いた。福田もすでに資料は作成済みのようで、ゴミ箱には切り抜いた紙のゴミが入っていた。いよいよ決戦の時ということで、北見も福田もやや緊張した面持ちになってきた。そして、滝田の合図で、まずは先攻・後攻をじゃんけんで決めることになった。


 じゃんけんは、北見が勝利し、先攻を選んだ。そして、ほとんど白い紙でかくされたエロ本のページを福田の前に出した。紙は女優の胸の部分だけが見えるように、きれいに切られていた。


 滝田「はい、制限時間30秒です。」


 福田はじっくりとそのページの胸の部分を見ていた。そして、静かに答えた。


 福田「小林みゆき。」


 福田はすぐに女優の名前を答えた。福田の顔には余裕の表情がうかがえた。


 滝田「福田さん、正解です。」


 福田「北見、こんなサービス問題でいいのか。これじゃ、俺に勝てねえぞ。」


 祐希にはよくわからなかったが、福田にしてみれば、これは相当簡単な問題だったようである。


 北見「くそっ。さすが、福田さんだな。」


 福田「この乳の形といい、この小ささといい、『小林みゆき』しかありえねえだろ。おまえも、まだまだケツが青いのぉ。」


 滝田「じゃあ、次は福田さん、問題を出してください。」


 福田は、用意してあったエロ本をながめながら、どれを出そうか迷っているようだった。そして、ようやく一枚のエロページを北見の目の前に出してきた。それも、胸の部分だけが見えるように、残りの部分は紙で隠されていた。


 福田「まずは、これで軽くもんでやるよ。ほれっ。」


 滝田「それじゃあ、北見さん、回答時間30秒開始です。」


 北見の目に少し迷いが見られた。どうやら、回答をひとりに絞り切れていないようだった。とはいえ、北見も相当な猛者であるため、ある程度の目星はついているようだった。


 北見「沙羅香。」


 北見はふり絞るような声で答えた。


 滝田「北見さん、声が小さくて聞こえませんでした。もう一回言ってください。」


 北見は意を決したように、さきほどよりか大きな声で答えた。


 北見「沙羅香。」


 少し間が空いたあとに、滝田が答えた。


 滝田「北見さん、正解です。」


 北見は少しあせったようであった。福田は依然として、余裕の表情だった。


 福田「この、ホクロを見てみろ。こんなのサービス問題じゃねえか。」


 北見は少し悔しそうだった。


 北見「くそ、麻生瞳の胸にもホクロあるからなー。これ、結構きわどい問題ですよ。」


 祐希には二人の高次元の闘いにまったくついていけていなかった。この人達は、ホクロの位置までしっかりと記憶しているのかと思うと、驚愕であった。その後、二人の攻防は一進一退で進んだ。ほとんど二人とも正解していたが、北見が一問だけ誤った答えを言い、点差は1点となっていた。福田は結局29問目までパーフェクトだった。


 福田「北見、おまえにしては良くやった。次の問題に俺が正解をしたら、俺の負けはなくなる。」


 北見は、最後に渾身の一撃を放った。最後のエロ本の写真に出ていた乳はしわしわで大きく垂れ下がっていた。そして、その写真を見たとたん、福田の表情が一気に変わった。


 滝田「それでは、福田さん、お答えください。」


 滝田がストップウォッチで制限時間をカウントしだした。祐希が見る限り、その写真に写っている乳はあきらかに若い女性のものではなかった。おそらく、50代、あるいは60代くらいの女性のものではないかと思われた。北見は最後の最後に、どえらい変化球を放ってきたのであった。


 福田「これは、熟女系か。しまった、そうきたか。」


 あきらかに、福田は動揺していた。北見は最後になって、福田の弱点を鮮やかにあぶりだしたと言ってもよかった。そう、福田の最大の弱点、それは熟女系であった。


 福田「ん・・・・。」


 福田の顔に焦りの表情が見えてきた。制限時間切れが迫ってきていた。


 滝田「はい、制限時間です。」


 ここで初めて、福田に土がついた。そう、千秋楽の一番で、全勝優勝が消えた横綱のようなものだった。あとは、北見が最後の問題に正解すれば、引き分けに持ち込むことができた。福田は悔しそうな表情を浮かべながら、最後の問題を北見の前に出した。北見はその乳を見たとたん、安堵の表情を浮かべた。


 北見「八神ケイトです。」


 滝田「正解です。」


 結局、29対29のスコアで引き分けとなった。福田は悔しそうな表情を浮かべながらも、北見とともにお互いの健闘を称えあった。二人は、立ち上がり熱い抱擁を交わした。そこには、真剣勝負を終えた男同志にしかわかりえない、確かなおたがいへの尊敬の感情が見て取れた。福田と北見の目に、熱く美しい涙があふれてきた。美しい男同志の友情だった。


 勝負が終わり、北見、滝田、祐希は福田のアパートから引き上げることにした。3人とも北見の車に乗り込み、寮へと戻ることにした。


 北見「いやあ、危なかった。でも、福田さんにも死角があったってことだな。」


 滝田「熟女系はさっぱりって感じでしたね。」


 祐希はアホらしくて、会話に加わる気にもなれなかった。


 北見「でも、これじゃあ、俺も福田さんも収まりがつかねえな。ちょっと次回の対戦に向けて、俺ももう少し勉強しねえと。」


 祐希は再戦があるのを知って、ゾッとした。さすがに滝田も、北見のその言葉にドン引きしているようだった。


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