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第17章 成人式と同窓会 その1

 年が明けて、1月になった。今年の1月は成人式があるため、祐希は年次休暇を申請して、田舎に帰省する予定だった。正月休みにも帰省していたので、全く久しぶりな感じがしなかったが、成人式では中学、高校の仲間たちに会えるのである。さすがに、この季節に車で帰省するのは怖かったので、長野駅から電車に乗って、まずは直江津まで北上し、そこから今度は一路西に向かった。


 ほんの10日ほど前に乗ったばかりの雷鳥に乗って北陸を横断する旅である。ときおり窓から見える日本海は相変わらず波が高く、寒々とした景色だった。空はどんよりと曇り、上空の雲がゆっくりと流れているのが見えた。見慣れた、冬の北陸の空がそこにはあった。雷鳥で敦賀まで行き、そこから小浜線に乗り換えた。敦賀から小浜までは、約1時間の旅だった。地図でみると、それほど離れていないように見えるのだが、なんせ新幹線も開通しておらず、しかも乗り換えが多いため、案外時間がかかるのである。


 小浜駅には、同じ中学に通っていた友人が車で迎えに来ていた。彼とは小学校からずっと同じ学校だったが、高校は別の高校に進学していた。友人の名前は村本といった。


 村本「祐希、おかえり。といっても、正月に会ったばかりやもんな。」


 祐希「啓介(村本)、悪いな、平日なのにさ。」


 村本「いや、大丈夫や。俺は学生の身やし。お前こそ、よう休みとれたな。」


 その日は、1月14日、木曜日だった。会社は通常どおりの平日だったが、明日の地元での成人式に出席するために、課長に頼みこんで、なんとか有給休暇を取得することができたのだった。会社の県外出身者は、帰省する者もいたが、職場の理解が得られない部署もあり、帰省したくてもできない同期も何人かいた。


 村本は祐希とは違う高校に進学し、県内の国立大学に進学した。とはいえ、小浜から通学するのは大変なので、福井市内にアパートを借りていた。村本、西村(恵)と祐希は、同じ中学の同級生で親友同士だった。村本と西村は同じ高校に進学し、大学にも進学していた。西村は東京の大学に、村本は福井の大学に進学したのであった。一方、祐希は地元の職業系の高校に進学後、今の会社に入社した。


 祐希「まあ、なんとか休み取れたよ。一生に一回のイベントだっていうのに、会社も今年成人式の社員には自動的に休みを与えるとかさ、少しは配慮して欲しいよな。」


 つい、愚痴のひとつも出てしまう。それでも、祐希は休みがとれただけマシだと思った。


 村本「恵も帰ってきているぞ。」


 祐希「わざわざ、東京から帰ってきたんか。まあ、あいつは大学生やし、俺らよりかは時間の融通がきくんだろうな。」


 村本「昼飯は食ったんけ。」


 祐希「いや、まだだけど。」


 村本「どこかで食ってくか。」


 祐希「そうだな。美味い魚が食べたいよ。なんせ、山奥に暮らしているんでな。」


 村本「そっか。俺って長野って行ったことないけど、そんなに山奥って感じなんか。」


 村本は車を発進させた。ゆっくりと駅前の道を出て、街中に向かった。


 祐希「いや、長野市はこことは違って、大きい街だよ。ただ、なんていうか、陸の孤島って感じかな。」


 村本「いつもの定食屋でええやろ。」


 祐希「ああ、そこでええよ。」


 村本「陸の孤島か。でも、一回は行ってみたいな。そのうち、俺も遊びに行くわ。」


 祐希「ああ、俺がいろいろと案内してやるよ。いいところだよ。そうだ、イナゴを食わせてやるよ。」


 村本「イナゴって、あの虫やろ。」


 祐希「そうそう、そのイナゴの佃煮があってさ、それが案外うまいんだよ。」


 村本「いや、他に美味いもんあるやろ。わざわざ、イナゴ食わんでも。」


 5分ほど車を走らせた後、村本はいつもの定食屋の駐車場に車を入れた。二人は車外に出て、店の中に入った。すでに昼食時間のピークは過ぎており、客は3人しかいなかった。


 祐希「俺は、刺身定食かな。」


 村本「じゃあ、俺もそれで。」


 二人は、同じものを注文した。


 村本「恵が会いたがってたわ。今晩、飲みにいこかって。」


 祐希「3人でか。」


 村本「そうそう、3人で。いつものとおりやんか。」


 祐希「ええけど、どこ行く。」


 村本「あの、梅原なんかどう。」


 祐希「ああ、あそこなら間違いないな。」


 二人は昼食を済ませたあと、村本が祐希を実家まで送ってくれた。


 村本「6時半で予約してくから、現地集合な。」


 祐希「恵にはお前から連絡しといてや。」


 村本「おお、わかったよ。」


 祐希は実家の玄関をあけて、家の中に入った。母親と妹が家にいた。


 雅子(母)「祐希、おかえり。」


 直美(妹)「お兄ちゃん、おかえり。」


 祐希「かあちゃんただいま。直美、元気してたか。」


 妹はまだ幼稚園の年中さんなので、かなり年が離れている。弟は部活でまだ帰宅していなかった。祐希はしゃがんで、直美を抱きしめた。


 祐希「なんか、バタバタやわ。正月に帰省して、また長野に戻って、ほんでまた帰省やろ。」


 母「ほんでも、よかったやん。休みとらせてもろて。」


 祐希「やな。」


 夜になるまで、祐希は自分の部屋で休むことにした。妹が部屋に入ってきたので、少し遊んでやった。午後6時過ぎになり、母親に待ち合わせの店まで車で送ってもらった。店内に入ると、すでに村本が来ていた。


 村本「おう、祐希、こっちや。」


 祐希「あれ、恵は。」


 村本「もうすぐ来るやろ。あいつ、いつも遅刻してくるが。」


 祐希「そやな、うちらだけで始めとくか。」


 村本「ビールでええやろ。」


 村本が生中を2杯注文し、祐希が刺身盛りと天ぷら盛り合わせを頼んだ。間もなく、ビールが運ばれてきたので、とりあえず2人で乾杯した。


 村本「長野って、やっぱ寒いんけ。」


 祐希「寒い。なんか、こっちよりか5℃くらい寒い感じする。」


 村本「そっか。仕事は、順調なんけ。」


 祐希「もう、慣れたわ。職場の人らも、ええ人ばっかやしな。」


 村本「まあ、祐希は人づきあいも上手いしな。」


 祐希「いや、ほんなことねえけどな。普通やって。」


 村本「ほんでも、なんかもったいねえな。お前こそ、大学に行くべきやと思うけどな。今からでも遅くないし、大学に行けや。」


 祐希「いや、なかなか経済的にしんどいし。なんか、奨学金もろても返さなあかんやんか。それは、奨学金やなくて、学生用の借金やしな。」


 村本「言えてる。金貯めて、それから大学行けばええやんか。」


 ふと気が付くと、村本の後ろに西村が立っていた。村本は全くその気配に気が付いていなかった。祐希は西村がいることに気が付かないふりをした。


 村本「まあ、いっぺん考えてみれや。」


 とその瞬間、西村が村本の肩に手を置いて、驚かせた。


 西村「うわっ。」


 村本「おおっ。おめえ、なんやって。びっくりするやろが。」


 祐希「おう、恵、まあ座れや。東京からやと長旅やったやろ。」


 西村「そやでー。どう、私、結構あか抜けたやろ。」


 村本「アホか。なんも変わってえんわ。」


 祐希「ほや、そんまんまやわ。」


 西村「そっかー。でも、祐希と啓介もそのまんまやん。」


 村本「俺はかわりようがないやろ。今でも福井県民やし。」


 西村「いやいや、福井市在住やん。大都会やんか。啓介にしたら、大出世やわ。」


 祐希「それのどこが出世なんや。意味わからんわ。」


 西村もビールを注文した。村本と祐希は、2杯目を注文した。


 祐希「やっぱ北陸の魚は美味いわ。冬の魚は脂がのってて美味いわ。」


 村本「恵は、東京で何食ってるん。なんか、美味いもんあるんか。」


 西村「東京は、高いばっかりで、あんま美味しいもんないわ。」


 祐希「で、どうなん、東京での学生生活は。」


 村本「そうそう、お前はこの小浜市から出た、久しぶりの東大生やで。みんな、大注目や。」


 西村は地元の高校を卒業したあと、東京大学に進学していた。


 西村「なんか、東京ってところに憧れて、今の大学に行ったけど、なんか別にって感じやわ。」


 祐希「そうなん。なんか、すっげー華やかなイメージあるやん。うちら田舎者やし。」


 村本「そうそう、六本木とか、渋谷とか。俺は行ったことないけどな。」


 祐希「俺も、行ったことないわ。そもそも都会に興味ないしな。」


 西村「なんか、大学もさー、私みたいに地方の高校からぽつりと一人だけ来てるって子は少なくて。」


 祐希「そらそうやろ、福井県だけでも数人くらいやろ。」


 村本「なあ、東大生ってどんな人らなん。」


 西村「あのねー、がり勉、ナルシスト、すでに燃えつきてます、その他もろもろって感じやな。」


 祐希「なんじゃそりゃ。あー、でもナルシストっているかもな。」


 西村「いるわよー。なんか、すっごい勘違いしてるっていうか。俺はおまえら平民と違うんやみたいなさ。」


 村本「でもさ、祐希なんか高校出てさ、ちゃんと働いて税金も収めているわけやろ。そもそも国公立の大学なんか、学生からの授業料だけやなくて、税金で運営されてるわけやし。それなのに、なんか俺はお前より偉いやろみたいなのはおかしくねえか。」


 祐希「まあ、うちの会社にもおるわ。なんか、学歴至上主義みたいな。」


 西村「なんかね、こう上から目線の人が多いっていうか。なんか、馴染めんわ。」


 村本「もしさ、祐希が入試受けてたら、行けたやろ。」


 西村「うん、行けたと思う。だって、中学校時代に、唯一成績で勝てなかったのが、祐希やし。私は、いっつも学年で2位やったし。」


 村本「そやったな。なんか努力ってなんやっていうくらい、祐希は成績良かったもんな。勝てる気がせんかった。」


 祐希「もう、昔のことやんか。お前らは、ちゃんといい大学に入ったんやし。俺は嬉しいけどな。それに、今の職場も気に入っているし。」


 西村「祐希のお父さんがあんな事故に巻き込まれなかったら、今頃一緒に大学生してたのにな。」


 村本「恵、もうそれは言うなって。」


 祐希「いいよ別に。気にしてねえし。まあ、お前らはしっかりとお勉強してくれや。」


 いつの間にか、恵が料理を頼んでいたらしく、どんどんとテーブルに料理がやってきた。


 村本「おい、恵、こんなんいつ頼んだんや。」


 西村「いや、テーブルに来る前に、カウンターで頼んどいた。食べたいもんようさんあるしな。」


 テーブルの上には、刺身盛り合わせと天ぷら盛り合わせのほかにも、焼き鳥、肉野菜炒め、揚げ出し豆腐、サイコロステーキ、サバの塩焼きなんかが並んだ。


 村本「恵は相変わらずの、食い意地やな。」


 祐希「恵ってようさん食べるのに、ぜんぜん太らんもんな。不思議やわ。」


 村本「そうそう、痩せの大食いやって。」


 西村「やっぱ、東京と違って何食べても美味しいわ。しかも、安いし。」


 恵は、相変わらずの食いっぷりだった。恵はとにかく食べることが好きなうえに、好き嫌いが全くないのである。とにかく、あっけにとられるほどの気持ちのいい食いっぷりなうえ、ものすごく美味しそうに食べるため、見ているほうもなぜか嬉しくなるのである。


 祐希「俺さ、この恵の食いっぷり見てるの結構好きかも。なんか、こいつほんと美味そうに食うやんか。その顔を見ているだけで、こっちまで嬉しくなるわ。」


 村本「そうそう、恵ってさ、なんか美味いもん食ってるときって、すんげえアホみてーな顔して食うもんな。笑けてくるわ。」


 西村「その、アホみてえな顔って何よ。」


 恵と村本はビールをお代わりしていた。


 祐希「おまえら、相変わらずペース速ええって。」


 村本「また、祐希の割り勘負けやな。悪いな、いつも。」


 西村「ところで祐希、彼女できたんでしょ。」


 恵がいきなり真顔で聞いてきた。


 祐希「ああ、長野の人で、俺の1歳上。」


 西村「そう、おめでとう。いいな、祐希は。私も彼氏欲しいな。」


 村本「東京なんか、ようさん男おるやろ。入れ食い状態やろが。」


 西村「そら、数は多いけど、なかなかこれっていう人はねー。」


 祐希「恵ならすぐできるやろ。正体さえ隠してれば。」


 西村「なによ、その正体って。わたし、何も隠してえんし。私って普通やん、見た目も性格も。」


 村本「いや、見た目は結構いけてるほうやで。性格も俺はいいと思うけどな。」


 祐希「恵の弱点は、弱点がないところなんだよ。あんまり完璧すぎるのも、なかなか難しいぞ。」


 西村「そうかなー。結構、おっちょこちょいだし。それってさ、近寄りがたいっとこと。」


 村本「まあ、うちらはさ、そりゃガキのころからずっと仲いいから、何も思わんけどな。初対面やと、やっぱ結構そのハイスペックに引いてまうんかもしれんな。」


 西村「じゃあハイスペックなのに、なんで祐希は振り向いてくれないの。」


 西村はかなり酔ってきていた。顔がかなり赤くなってきていたが、結構気持ちよく酔っているという感じだった。


 村本「始まったよ。あのさ、恵はさ、多分俺が思うには、自分より優秀な人じゃなきゃ嫌なんだよ。周りに、おまえよりも賢いっていったら、祐希しかいなかったんだよ。」


 西村「そうよ。そのとおり。村本よくわかってんじゃん。でもね、それだけじゃないよ。やっぱ、祐希って優しいしさ。」


 祐希「あかん、目が座ってきた。そろそろお開きにしたほうがええな。」


 西村はまたもやビールを追加で頼もうとしていた。


 村本「お前、何杯目や。もう、いい加減にしといたほうがええって。」


 祐希「まあ、明日もあるし、そろそろお開きにするか。」


 なんとか恵がビールを追加注文するのを引き止めた。


 村本「あ、俺、姉貴に迎えに来てもらうから、電話してくるわ。お前らも送っていってやるよ。」


 そう言うと、村本は店のカウンターにある電話に行ってしまった。


 西村「ねえ、祐希。東京に来る用事とかないの。」


 祐希「今のところ、ないなー。でも今後、出張とか行かされるかもな。」


 西村「じゃあさ。東京に来るときは連絡してよ。私があちこち連れまわしてあげるから。」


 祐希「そんなあちこち連れまわすほど、東京に詳しくねえやろ。」


 西村「そうそう。でも、祐希と一緒に行ってみたいところがたくさんあるからさ。」


 祐希「はよ彼氏作って、その彼氏と行けや。」


 西村「それがさー、いい男いないのよー。」


 また始まったと祐希は思った。恵の口癖である『いい男いないのよー』だった。その後、会計を済ませて、外に出た。少し酔いを醒ましたかったのである。その後、村本の姉が車で迎えに来てくれた。明日は成人式である。


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