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第14章 同期、清田 その1

 結局、同期会もどきの飲み会には、30名ほどの参加者があり、かなり盛り上がった。やはり、佐野の酒豪ぶりは本物だということがわかり、彼女は同期の間ではかなり有名人になってしまった。


 その数週間後のその日は金曜日だった。祐希は定時までに仕事が終わらず、残業をするはめになってしまった。明日の土曜日は千波とのデートがあるため、出来れば少し早く帰宅したかった。おまけに、会社の大食堂で夕食を食べそこねたため、午後7時ごろにはかなり空腹になっていた。仕方が無いので会社の道路向かいにあるコンビニに軽食と飲み物を買いに出かけることにした。祐希のほかには、北見と滝田が事務所に残っていた。


 祐希「俺、ちょっとコンビニに行って、何か買ってきますけど、何か必要なものありますか。ついでに買ってきますよ。」


 滝田「あ、俺も一緒に行くよ。今日の徹夜は、俺と北見さんだから、夜食も買っておきたいし。」


 祐希「そうか、今晩は北見さんと滝田さんの徹夜の順番でしたね。」


 北見「ああ、悪いけど、これ買ってきてよ。」


 北見は祐希にメモとお金を渡した。


 祐希「北見さん、またですか。恥ずかしいのはわかりますが、俺にエロ本買いに行かせるのいい加減勘弁してくださいよ。」


 北見「ついでじゃねえか。頼むよ。」


 滝田「北見さん、その後輩にエロ本買いに行かせるのは、悪い癖ですよ。」


 祐希「俺だって、恥ずかしいですよ。」


 北見「な、これが最後と思って、頼むわ。」


 北見の悪い癖である。コンビニでエロ本を買うのが恥ずかしいため、何かと理屈をこねて、後輩に買いに行かせるのである。だいたい犠牲者は滝田か祐希だった。


 滝田「全く、しょうがねえな。」


 祐希「そこまでして入手したいですかね。」


 滝田「うちの課は、なんかむっつりスケベばかりだよな。」

 祐希「福田さんとかもねー。典型的なむっつりですよね。」


 滝田「まあ、下っ端は辛いよな。」


 祐希は隣の部署の通路を通って、彼の部署のある建屋の外に出ようとした。隣の部署では、同期の清田が一人で残業をしていた。


 祐希「おい、清田、ひとりか。」


 清田「ああ、橘、おつかれ。」


 滝田「祐希、俺、先に行っているからな。」


 祐希「あ、すぐ行きますんで。」


 清田「そうだ、橘、同期会やったんだって。」


 祐希「清田も来ればよかったのに。」


 清田「ああ、あの日も休日出勤しててさ。」


 祐希「お前、ちょっと仕事頑張りすぎじゃないか。」


 清田「俺さ、昔から要領悪くてさ。今日も課長に怒られるし。」


 祐希「そっかー。なあ、今度、飲みに行こうぜ。たまには憂さ晴らししねえとな。」


 清田「ああ、そうだな。ありがとう。」


 祐希「あ、そうだ。今からコンビニ行くけど、何か買ってこようか。」


 清田「いや、大丈夫、ありがとう。」


 清田は何か暗い表情をしていた。祐希は何かその表情が妙に気になった。


 清田「橘、俺さ、この仕事向いてないのかもって思ってさ。」


 祐希「そっか。まあ、あんまり自分を追い詰めないほうがいいぜ。」


 清田「ありがとう。俺ももう少ししたら帰るわ。」


 祐希「そうしろよ。帰って、ちょっとゆっくりしろよ。」


 清田は祐希達と同じ年の同期だった。かなり大人しい性格で、あまり目立つほうじゃない男だった。それに、かなり人見知りも激しいようで、あまり周囲と打ち解けるような性格ではなかった。ただ、なぜか祐希には心を開いてくれているようで、時々こうやって会話することがあった。祐希は急いで、会社の正門を出て、滝田の待つコンビニに向かった。


 滝田「あいつ、同期の清田じゃねえか。」


 祐希「そうですよ。滝田さん、あいつのこと知ってました。」


 滝田「まあ、年は離れているとはいえ、一応あいつも同期だしな。」


 祐希「なんか、あいつ疲れているみたいでしたよ。」


 滝田「清田の部署とか、山下の部署は特に人使いが荒いからな。また、うちの課はあいつらの課よりもマシだよ。」


 祐希「まあ、そうですよね。」


 滝田「おい、エロ本売り切れてるぜ。」


 祐希「うわ、北見さん発狂しますよ。逆に面倒くさいですよね。」


 滝田「天罰だよ。後輩にエロ本を買いに行かせるからだよ。」


 祐希「さっさと買い物済ませて、戻りましょうよ。」


 滝田と祐希はそれぞれ軽食と飲み物を買って、会社に戻ることにした。


 滝田「しかし、寒いな。長野の冬って寒いよな。」


 祐希「確かに、長野の冬は結構きついですよね。」


 滝田「お前の田舎よりも寒いのか。」


 祐希「体感では、5℃くらい寒いと思いますよ。」


 滝田と祐希が会社に戻った時には、清田はすでに事務所からいなくなっていた。もう帰宅したのだろうと思った。その後、祐希は事務所で北見と滝田と一緒に食事をしながら休憩をとった。


 祐希「あ、そういえば、円山の部署にいる遠藤さんって知ってます。」


 滝田「いや、そんな人いたっけ。」


 北見「男、それとも女性。」


 祐希「俺の1歳上の女の人です。彼女も東京出身だって言ってましたよ。」


 滝田「そうなの。でも、あんまりうちの事業所に東京の人はいないよな。」


 祐希「滝田さんは、東京のどこなんですか。」


 滝田「二子玉川だよ。世田谷区の。」


 北見「そっか、滝田は東京だったもんな。」


 結局、その日は午後9時過ぎまで残業して全ての作業を終えた。北見と滝田は明日の朝まで会社に残るため、祐希は一人で会社を後にした。外は、かなり冷え込んでいて、路面は氷でつるつるだった。空気は澄みわたり、空には雲一つない夜空だった。以前、遠藤が言っていたように、空には星が無数に輝いていた。寮に戻ると、すでに山下は帰宅していた。祐希は急いで風呂に入り、部屋に戻った。


 祐希「今日さ、清田に会ったよ。」


 山下「ああ、清田ね。俺はあいつとほとんど話したことないわ。」


 祐希「あいつ大人しいもんな。なんか、お前と同じで、いつも仕事に追われている感じだよ。」


 山下「うちの部署は人使いが荒いんだよ。多分、清田の部署も同じようなもんなんだろう。」


 祐希「なんか、今週もバタバタしてて、一週間ってあっという間だよな。」


 山下「まあ、さっさと寝るか。」


 翌朝は、千波を迎えに行くために、朝の7時には起きて支度をした。山下はまだ布団に包まって眠っていた。祐希は、山下を起こさないように、静かに着替えを済ませ、部屋を出た。千波のいる女子寮に着いたが、まだ千波の姿は見えなかった。車を道路脇に停車させて、しばらく待った。そして間もなく千波が寮から出てきて、祐希の車に乗り込んできた。


 千波「おはよう。しかし、寒いね。」


 祐希「しかし、長野の冬は寒いよな。」


 千波「福井も同じようなもんじゃない。」


 祐希「いや、長野のほうが全然寒いって。」


 千波「そうなの。まあ、私は長野以外のところに住んだことないからね。」


 祐希「で、どこ行く。」


 千波「どこ行くって、映画見に行くって言ってたじゃんか。」


 祐希「おお、そうだった。ダイ・ハードを見るんだった。」


 千波「ねえ、いつものところでモーニング食べようよ。」


 祐希「そうだね。じゃあ、そうしよう。」


 祐希は、いつもモーニングを食べにいく、例の国道沿いの喫茶店に向かった。あまり天気は良くなく、空は曇っていた。もしかしたら、午後あたりから雪が降り始めるのかもしれない。その日は、映画を見たり、ゲームセンターに行ったりして、久しぶりの2人の時間を楽しんだ。


 祐希「夜は寮から歩いて飲みに行くか。それとも今日は実家に帰る。もし実家に帰るなら、このまま送っていくけど。」


 千波「飲みに行こうよ。どこ行く。」


 祐希「久しぶりに、小澤さんの店でいいか。」


 千波「まあ、無難だね。じゃあ、私だけそこで降ろしてよ。祐希は車を停めてきて、歩いて来て。」


 祐希「オッケー。先に飲んでいていいよ。」


 千波「急いできてよ。ひとりで飲んでいると、寂しい女と思われちゃうし。」


 祐希「おう、ダッシュして行くわ。」


 祐希は寮の駐車場に車を停め、そこから直接歩いて店に行くことにした。ぱらぱらと雪が舞い降りてきた。祐希は、足元に気を付けながら、早足で店に急いだ。


 千波「祐希、こっち。カウンター席しかなかったけど、いいよね。」


 祐希「いいよ、2人だし。」


 千波「じゃあ、何か注文しようか。」


 小澤「あれ、祐希君、いらっしゃい。あのさ、さっき、会社の人が来てさ、なんか清田君って社員が行方不明になっているって言って、ここに探しにきたよ。」


 祐希「え、清田がですか。」


 千波「誰その人。」


 祐希「俺の同期でさ、すっごい大人しいやつがいるんだよ。」


 小澤「なんか、すっごい慌ててたぜ。」


 千波「ちょっと、山ちゃんか、円に連絡してみたら。なんかあったかもしれないじゃん。」


 祐希は昨夜の清田の表情を思い出した。なぜか、妙に嫌な胸騒ぎがした。


 祐希「ちょっと、寮に電話してみるわ。千波、ちょっと待ってて。小澤さん、電話ありますか。」


 小澤「トイレの前に、緑の電話があるよ。」


 祐希は電話の前に行き、急いで財布から10円玉を何枚か取り出し寮の番号を回した。寮の管理人が電話に出たので、清田の件で何か聞いていないか聞いてみた。


 管理人「ああ、橘君か。なんか、清田君が遺書みたいな走り書きを自宅に残して、行方不明になっているみたいで、みんなで手分けして探しているみたいだよ。」


 祐希「円山とか、山下は寮にいませんか。あいつらなら、もっと何か知っていると思うんですが。」


 管理人「円山君と山下君は、さっき慌てて一緒に出て行ったよ。円山君の車で探しに行ったんだと思うよ。」


 祐希「わかりました。ありがとうございます。」


 祐希は、ダメ元で会社の代表番号に電話してみた。今日は土曜日なので、電話は守衛所につながった。


 祐希「第一製造技術課の橘です。どなたか、総務部の方は出勤されてますか。」


 守衛「はい、お疲れ様です。清田君の件ですか。総務部の社員が何人か出てきてますよ。電話、回しますね。」


 守衛所から総務部に電話がまわされた。間もなくして、電話に女性が出た。


 女性「総務部です。」


 祐希「あの、橘です。あれ、その声は、池田さん。」


 池田「ああ、祐希君。大変なのよ。清田君が自宅に遺書を残して、行方不明なの。今ね、会社の人たちに協力してもらって、あちこち探しているのよ。」


 祐希「警察には連絡されたんですか。」


 池田「もちろん、警察も捜索しているわよ。祐希君は、清田君がどこにいるか何か心当たりない。」


 祐希「全くわからないですね。でも、俺も探しに行きますよ。」


 池田「一回、会社に来てくれない。わかっていることを伝えるから。」


 祐希「わかりました。」


 そこで、祐希は電話を切った。店のカウンターに戻り、千波に事情を話した。千波は、すでに料理を何品かとビールを注文し終えていた。


 祐希「ちょっと、俺も探しに行くわ。千波、寮まで送って行くから、とりあえず店を出よう。」


 千波「私も行くよ。だって、祐希は方向音痴だし、道わかんないでしょ、」


 祐希「ありがとう。千波がいてくれたら心強いわ。あいつ、バカ野郎。変な気を起こしていなけりゃいいけど。」


 祐希「小澤さん、ごめんちょっと料理もビールもキャンセルで。」


 小澤「金はいいから、早く行ってあげな。」


 祐希「小澤さん、ありがとう。千波、ここで待ってて、車とってくる。」


 祐希は急いで、さっき歩いてきた道を急いで戻り、駐車場から車に乗って小澤の店に向かった。小澤の店で千波を拾い会社に向かった。小澤が気を利かせて、おにぎりを千波に持たせてくれていた。会社の正門前の駐車場に車を停め、千波と二人で総務部に向かった。そこには、総務部長、課長、そして課員が3名出勤してきていた。そこで、情報収集をしているとのことだった。そこには、さっき電話に出た池田もいた。


 池田「祐希君、ごめんね、お休みのところ。あら、沢田さんも一緒。」


 祐希「お疲れ様です。ちょっと、事情がまだよくわかっていなくて。」


 千波「お疲れ様です。」


 宮下(総務部長)「橘君、悪いね、休日の夜だというのに。清田君が遺書を残して、行方不明だということは知っているよね。」


 祐希「はい、池田さんから電話で聞きました。」


 池田「今ね、連絡がついた社員を総動員して、清田君を探しているの。」


 祐希「俺も探しに行きます。車で来てますので、どこでも行きますよ。」


 宮下「会社の周辺と清田君の自宅周辺は、すでに人を回している。橘君は、清田君が卒業した高校の周辺を探してみてくれないかな。」


 千波「あ、私その辺詳しいです。」


 池田「そっか、沢田さんならあの辺の土地勘あるよね。」


 千波「ええ、私の高校からも近い場所ですから。」


 祐希「じゃあ、千波行こうか。」


 宮下「何かあったら、すぐに会社に電話してくれ。うちらは、今日は徹夜覚悟で頑張るから。それと、路面が凍っているかもしれないから、運転には気を付けろよ。」


 池田「安全第一でお願いします。」


 祐希「わかりました。何かあったら、電話します。」


 千波「祐希、行こう。」


 祐希「千波、道案内お願いね。」


 祐希と千波は車に乗り込んだ。祐希は千波の道案内で、清田がかつて通っていた高校周辺に向かった。


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