第12章 スキーの季節 その2
野沢温泉スキーツアーは、土曜日の早朝から始まった。まずは、男子寮を祐希と円山が出発し、女子寮で佐野と遠藤を拾った。その後、会社の正門の駐車場で、本田夫妻と落ち合った。全員揃ったところで、早速、3台の車は出発した。走り出してすぐに、まずはコンビニで朝食を買うことにした。
祐希「いや、寒いなあ。」
円山「いや、これはパウダー・スノーが楽しめそうだな。」
本田「客が増えてくる前に、ゲレンデに出たいよな。」
6人は、コンビニでそれぞれ朝食になりそうなものと、飲み物を買って、それぞれ車に乗り込んだ。
遠藤「橘君は、何を買ったの。」
祐希「あ、祐希って呼び捨てでいいですよ。いちいち、君つけるの面倒ですから。」
遠藤「じゃあ、祐希は何買ったの。」
祐希「俺は、なぜか朝は無性に甘いものが食べたくなるんですよ。」
そういうと、祐希はコンビニの袋にはいった物を見せた。
遠藤「あんまん買ったんだ。」
祐希「俺ね、あんまん大好きなんですよ。」
そのうち、本田の車が動き出したので、円山の車がその後に続いた。祐希は一番後ろについた。
遠藤「あのね、緑ちゃんね、祐希のことが相当好きみたいよ。」
祐希「全然、気が付かなかったですよ。」
遠藤「まあ、それほどからむこともなかったしね。私ね、祐希の彼女のこと知っているわよ。」
祐希「え、そうなんですか。」
遠藤「うん、だって一応同期だしね。沢田さんでしょ。」
祐希「ええ、そうです。」
遠藤「なんか、私がこんなこと言うもの何だけど、沢田さんってかわいいよね。」
祐希「はあ、ありがとうございます。」
遠藤「沢田さんってさ、全く悪い噂って聞かないのよね。良い噂ばかり。同性として、ちょっと、嫉妬するくらいのレベルだよね。かわいいし、性格も明るいしね。」
祐希「へえ、そうなんですか。」
祐希は女性目線から見た千波の姿というものを初めて知った。千波は、他人から見たら、そういう姿に見えているんだと思った。
遠藤「まあ、緑ちゃんにはかわいそうだけど、なかなか沢田さんがライバルだとね。」
祐希「遠藤さんは、本当に彼氏いないんですか。」
遠藤「東京にいたときにはいたんだけどね。やっぱ、遠距離恋愛ってね、難しいのよ。」
祐希「そうなんですか。」
遠藤「だってさ、女子寮に住んでいると、そんなに自由に電話使えないし。私のお給料じゃ、そんなに頻繁に東京に戻れないしね。」
祐希「その元カレって、おいくつなんですか。」
遠藤「2歳上。高校の時の先輩なの。」
祐希「じゃあ、その元カレさんは、東京に住んでいるんですか。」
遠藤「そう。彼はね、東京が一番いいんだって。都心から離れたくないって言うような人。」
祐希「へえ、そんなに東京って良いところなんですかね。」
遠藤「まあ、人によるわね。私は長野の生活が好きだけどね。」
祐希「あの、テレビで満員電車とか見ると、俺は無理だなーって思いますよ。」
遠藤「朝の通勤・通学ラッシュはすっごいわよ。まあ、でも私は都心に住んでいたから、あんまり満員電車に乗ることはなかったけど。」
祐希「ああ、そうか。要するに、郊外に住んでいる人が都心に行くために電車使うんですもんね。」
遠藤「そうなの。私の場合は、住んでいるところがすでに都心だったからね。」
祐希「うちの田舎の電車なんか、1両編成ですからね。1両なのに編成って言っていいのかわからないけど。」
遠藤「いいね、それ。なんだか、ほのぼのしてるじゃない。」
祐希「それでも、時々朝とか夕方とか混むんですよ。で、混んでいるから、隣の車両に行こうと思っても、隣の車両がないですからね。」
遠藤「1両だもんね。」
祐希「それじゃあ、都心での生活って、あんまり車とか使わないんですか。」
遠藤「そうね。車持たない人も多いわよ。」
祐希「春になったら、彼女と東京に遊びに行くんですよ。どこか、おすすめありますか。」
遠藤「そうなの。いっぱいあるけど、何をしたいかによるわね。」
祐希「とりあえず、ディズニーランドと東京タワーには行きますよ。あんまり、位置関係がわからないけど。」
遠藤「ディズニーランドは千葉だからね。東京タワーからだと、結構遠いよ。」
祐希「もう、全然位置関係がわからないですよ。」
遠藤「それか、春を待たずに、思い切ってお正月休みのときに東京に行くとか。」
祐希「え、なんでですか。」
遠藤「年末年始ってね、都内の道路はガラガラなの。」
祐希「そうなんですか。」
遠藤「もうね、びっくりするくらい、車が走ってないよ。お正月に都内を車で走ると、いつもの半分以下の時間でどこでも行けちゃう。」
祐希「東京って普段は渋滞がひどそうですもんね。」
遠藤「そうなのよ。特に長期休みの時の、高速道路とか首都高速とかひどいわよ。」
祐希「渋滞が何十キロもあるってテレビで言ってますもんね。うちの親父なんか、信号待ちで前に5台くらい車がいるだけで、今日は渋滞してるなーって。」
遠藤「うっそー、笑える。それ、渋滞じゃないじゃん。」
祐希「田舎なんて、そんなもんですよ。」
遠藤「でも、のんびりしてていいじゃない。私は田舎は好きだな。」
祐希「でも、遠藤さんの家系って東京なんですか。」
遠藤「そうなの。父方も母方も東京なの。だから、たまに友達が田舎のばあちゃんの家に行くとか、夏休みはお父さんの実家に帰るとか言っているのが、うらやましかったわよ。うちなんか、東京以外、行くところないからね。」
祐希「へぇー、そんなこと考えたこともなかったな。」
そうこうしているうちに野沢温泉スキー場に到着した。とりあえず、今晩泊まる民宿に荷物を預け、そこで着替えを済ませた。それぞれ、自分たちのスキーとストックを持ち、ゲレンデまで歩いて行くことにした。
祐希「本田さん、どうします。一日券買いますか。」
本田「そうだな、一日券でいいだろ。」
裕美「私がまとめて買ってくるから、お金ちょうだい。」
裕美が全員分のリフト券のお金を徴収し、6人分をまとめて買ってきた。
本田「どうする、全員でまとまって滑るか。それとも、分かれるか。」
円山「佐野ちゃんと遠藤さんが、どのくらい滑れるかわからないし。とりあえず、一回一番上まで行ってみませんか。」
本田「じゃあ、そうしよう。」
本田を先頭にリフト待ちをした。もうすでに結構なスキー客がゲレンデに出ていた。それにしても、今日は快晴で、すっごい陽の光がまぶしかった。
祐希「いやあ、スキー場の女の子って、なんでこんなにかわいく見えるんだろうな。」
円山「そうそう、3割増しってよく言うもんな。」
祐希「おお、なんか佐野ちゃんも遠藤さんもきまっているよな。」
遠藤「そうそう、私は、まずは格好から入るタイプだから。」
佐野「なんかさー、3割増しって、失礼よねー。」
遠藤「でも、男の人も、3割増しくらいかな。」
円山「要するに、男も女も3割増しってことか。いいね。」
ゴンドラとリフトを乗り継いで、一番上のほうにまで行ってみた。本田が先頭を滑り、その後に女性3人が続いた。一番後ろを、円山と祐希が続いた。ほとんど全員のスキーの腕前は同じようなものだった。特に誰が飛びぬけて上手いというわけでもなく、誰かが下手というわけでもなかった。まずは、体を慣らすために、本田はゆっくりと滑っていった。途中で、何度か止まり、全員が付いてきているか確認しながら一番下まで滑り降りた。天気はものすごく良く、空は青空一色だった。ゲレンデは、カップルや家族連れでかなり賑わっていた。
本田「まあ、全員それなりに滑れるようだから。どんどん行こうか。」
祐希「そうですね。俺と円山が一番後ろにつきますよ。」
再度、同じコースを滑ることにした。ゴンドラの待ち時間はそれなりにかかったが、空気もきれいだし、爽快な気分だった。何本か、同じコースを滑ったあと、少し早かったが昼食をとることにした。レストランはいくつもあったので、その中のひとつに適当に入ることにした。
本田「俺はやめとくけど、お前ら飲むなら飲んでいいぞ。」
佐野「私、ビール飲みたい。結構、喉乾いたし。」
円山「祐希はどうする。」
レストランの中に入り、まずは空いているテーブルを確保した。まだ、昼前だったので、なんとか空いているテーブルを見つけることができた。場所を確保したあとに、順番に食券を買いに行った。祐希は、無難にカレーライスにしておいた。それぞれ、食べ物を持って、テーブルに戻ってきた。
遠藤「お腹空いたね。」
祐希「遠藤さんは、ビール飲まないんですか。僕、買ってきましょうか。」
遠藤「んー、まよったけど、やっぱり飲むわ。一緒に買いに行こうか。」
祐希と遠藤はビールを買いに、席を外した。そして、しばらくして、500mlの缶ビールを持って戻ってきた。スキー靴を履いたままなので、みんな動きがぎこちなかった。
裕美「じゃあ、とりあえず、乾杯しましょう。私たちはお水だけどね。」
全員「かんぱーい。」
ひと滑りしたあとのビールは格別だった。みんな、喉を鳴らして、ビールを流し込んだ。
円山「いやー、うんめー。」
佐野「おいしーねー、ビール。」
祐希「いや、たまらんわ、まじで。」
遠藤「おいしい。なんで、この最初の1杯ってこうもおいしいかねぇ。」
本田「うらやましいよ。俺なんか、そんなにビール飲んだら、午後からはスキーどころじゃなくなるしな。」
佐野「本田さんは、ほとんど下戸ですもんね。」
裕美「私も下戸に近いけど。」
本田「裕美は飲まないの。缶ビール1本くらいならいけるだろ。」
裕美「いや、私は飲まない。体が重くなるから、やめておくわ。」
祐希「ああ、確かに、ビール飲んじゃうと、少し動くのが億劫になりますね。」
本田「4時半ごろにはあがって、宿に戻るか。」
その後、昼食を済ませ、しばらく談笑したあと、再びゲレンデに出た。午後は別のゴンドラに乗って、別のコースを滑ることにした。
午後も引き続き快晴で、風は冷たかったが、激しい運動のためか、寒さはほとんど感じなかった。ただ、顔にあたる風は冷たかったが、それが逆に心地よかった。何回目かのリフトに乗る時に、偶然佐野と二人で並んで乗ることになった。
祐希「佐野ちゃんも、案外スキー上手だね。」
佐野「まあ、私はこっちの生まれだからね。祐希は田舎でもスキーしてたの。」
祐希「やってたよ。でも、長野みたいな立派なスキー場はなかったね。コースもひとつだけとかさ。雪質もここほど良くなかったよ。」
佐野「ねえ、うちら同期だし、たまには一緒に飲みに行こうよ。」
祐希「いいけど、いきなりどうした。」
佐野「いや、祐希と一緒にお酒飲んでみたいと思って。」
祐希「でもさ、俺を誘うと、漏れなく山下とか円山がついてくるぜ。」
佐野「いいよ、べつに。円は昔から知っているしね。山下君だっけ、以前少しだけ話したことある。たしか、藤崎と付き合ってなかったっけ。」
祐希「そうそう、なんか別れたのか、まだずるずるいっているのか、いまいちわからない。」
佐野「じゃあ、完全には別れていないってこと。」
祐希「山下は別れたって言っているけど。でもまだ、なんか連絡はとっているみたいだぜ。」
佐野「そうなんだ。私、藤崎とも友達なんだよね。同期だしね。」
祐希「でもさー、俺なんか同期でも話したことないやついっぱいいるぜ。」
佐野「そうそう、案外うちらの同期って人数多いよね。」
祐希「だよな。多いよ。佐野ちゃんとも、あんまり今まで付き合いなかったもんな。」
佐野「うちの職場ってあんまり飲み会とかないんだよね。そういえば、同期会ってぜんぜんやらないね。」
祐希「同期会か、確かにやったことないよね。多分さ、先頭にたって計画する人がいないんだよ。佐野ちゃんと円山で企画してみたら。」
佐野「祐希も一緒にやろうよ。」
祐希「俺ね、そういうの苦手でさ。円山とか、そういうの好きそうじゃんか。」
佐野「ところで、うちらっの同期って何人いるんだろうね。」
祐希「これがね、難しいんだよ。学歴、採用場所、採用方法とかでいろいろと分かれてくるから。」
佐野「採用場所って。」
祐希「本社採用と地方工場採用で分かれるみたい。俺も詳しいこと知らないんだけど。そうすると、お互いの面識がかなり薄いというか。」
佐野「採用方法って。」
祐希「うちの会社ってさ、スポーツ推薦枠で入社してくる社員もいるからさ。千波とかはそうだけど。彼らもまた、他の同期とは面識が薄いんだよね。」
佐野「そうかー。確かに、祐希と私じゃ多分採用場所が違うんだろうね。祐希は本社採用なの。」
祐希「どうやら、そうらしい。」
佐野「何が違うの。」
祐希「本社採用だと、あちこち転勤があるらしい。地方工場採用だと、ずっとその工場勤務なんだって。」
佐野「じゃあ、祐希は将来的に転勤の可能性があるってこと。」
祐希「まあ、基本的にはそうだね。」
佐野「じゃあ、とりあえず、集められる同期だけでもいいから声かけてみようか。まずは、高卒の同期だけでいいんじゃない。」
祐希「そうだね。円山がそういうの好きだから、あいつをおだててやらせれば上手くいくよ。」
二人で喋っているうちに、リフト降り場に到着した。素早くその場を離れて、後続の人のスペースを空けた。すでに、あとの4人は降り場の近くで待っていてくれた。
その後、何往復か同じコースを滑ったあと、夕方ごろになって、宿に引き返すことにした。いったん、旅館に戻り、全員が着替えを済ませた。夕食の前に、風呂に入ることにした。なんせ、この辺は温泉街ということで、良質な温泉が楽しめるのである。
祐希「いやー、温泉、きもちええー。」
円山「あの、寮のクソ浴場とはぜんぜん違うな。」
祐希「そりゃそうだろ。寮の風呂なんか、小さいし、古いしなぁ。」
本田「いや、天気良くて、よかったよ。お前ら、ナイタースキー行くのか。」
祐希「いや、もう飯食って、ビール飲んで、ゆっくりしたいですよ。」
円山「俺も。もう、今日は存分に滑れたので、大満足です。」
祐希「そういえばさ、佐野ちゃんが同期会やろうって言っていたぜ。」
円山「同期会。そういえば、今までそういう集まり無かったよな。」
本田「そうか、お前ら同期会ってやってないんだ。うちらは、年に1回はやっているぜ。もう、会社を辞めたやつも来るぞ。」
祐希「何人くらい来ます。うちらかなり同期多いんですよ。」
本田「うちらは、どうだろう30人くらいかな。」
円山「30人でも多いなー。そんな大広間がある飲み屋、どこか知っているか。」
祐希「いや、思いつかねえな。でも、うちら製造部の同期まで含めたら、80人くらいはいるぜ。」
本田「おまえらの年は、採用者が多かったもんな。」
円山「そうなんですよ。だから、全く喋ったこともないような同期もいっぱいいて。」
祐希「とりあえずさ、俺たちの知っている連中に声かけて、その連中がまた他の同期に声かけてというふうにしてみない。」
円山「そうだな。ちょっと、時間的に余裕みて企画してみるか。」
祐希「で、幹事は円山と佐野ちゃんで。」
円山「ちょっと、お前も幹事やれよ。」
祐希「だって、同期はほとんど地元出身だから。俺はそんなに顔が広くないし。それと、佐野ちゃんはやる気になっていたぞ。よろしく。」
円山「まあ、しょうがねえな。やってみるか。」
祐希「県外組には俺から声かけとくわ。といっても、俺も入れて5人しかいねえけどな。」
円山「ああ、頼むわ。」
風呂から上がり、夕食になった。夕食は大広間の座敷に大きめの長方形のちゃぶ台が並べられており、それぞれの台の上に名前が書かれていた。祐希達のちゃぶ台のうえには、『本田様・6名様』の文字があった。
円山「まずは、ビールっしょ。お風呂で温まったし、喉かわいたもんな。」
祐希「本田さんは、どうされますか。少し飲みますか。」
本田「俺もコップ1杯だけ飲むわ。乾杯くらいは付き合わねえとな。あとは、おまえらが飲んでくれ。」
まずは、ビールの大瓶を4本頼んだ。佐野の酒豪ぶりを考慮して、多めに頼んでおいた。
佐野「でも、私は飲み会とかでは、そんなに大酒飲みませんよ。飲めるけど、皆さんと同じくらいの量しか飲まないようにしているんです。」
円山「確かに。佐野ちゃんが大酒飲んでいるのはあまり見ないな。」
遠藤「いやいや、女子だけで飲みに行くと、かなり飲んでますよ。」
佐野「遠藤さん、それは言わないでよ。」
祐希「まあ、じゃあ、乾杯しましょう。」
全員「かんぱーい。」
全員がグラスを掲げ、乾杯をした。全員、うまそうにビールを喉に流し込んだ。そして、そのうち料理が運ばれてきた。
佐野「今日さ、祐希君と話したんだけど、同期会やろうかと思って。」
円山「ああ、風呂で聞いたよ。俺と佐野ちゃんが幹事だって。」
遠藤「いいね、同期会。盛り上がるかもよ。」
祐希「遠藤さんたちは、同期会ってやっているんですか。」
遠藤「やったことはないね。でも、仲のいい同期が集まって、食事会とか飲み会とかはあるかな。」
本田「うちらは、だいたい年に1回の開催が恒例行事になってるよ。やるといいよ。結構、楽しいぞ。」
円山「まあ、県外出身の同期は祐希が声かけてくれるって。まあでも5人だけだけどな。」
祐希「そうそう、山下、畠山、相馬、川北、それに俺の5人だけ。」
円山「地元の同期は多いぞ。80人ちかくいるだろ。」
祐希「竹内はおまえが誘えよ。」
円山「佐野ちゃんが誘ってくれるだろ。いや、佐野ちゃんと竹内の一騎打ちが見られるのか。なんか、『本日結びの一番』って感じだな。」
遠藤「なんか、いいなー、3人で盛り上がってさ。私も同期じゃないけど、行こうかなぁ。」
祐希「あ、いいですよ。遠藤さんも来てくださいよ。」
遠藤「え、いいの。本当に参加しちゃうよ。」
円山「あ、もう全然オッケーです。」
遠藤「じゃあ、遠慮なく参加させていただきまーす。」
円山「なんかさー、竹内とかなにか変に勘違いして、勝負パンツとか履いてきそうで怖いんだけど。」
佐野「なによ、その勝負パンツって。」
円山「そら、女が勝負をかける時に履いてくる、セクシーなパンツのことだよ。佐野ちゃんは持ってないの。」
佐野「ないわよ。もう、気持ち悪い。」
食事は、コースになっており。最後に、ご飯とお吸い物とお漬物が運ばれてきた。ここは、この土地柄のせいで、野沢菜だけは食べ放題だった。本場のしゃきしゃきの野沢菜はとてもおいしく、ビールのつまみには最高だった。
祐希「野沢菜ってなんか無限に食えるような気がする。」
遠藤「この微妙な塩味がちょうどいいよね。すっごい、美味しい。」
円山「だろう。本場の野沢菜はうまいんだよ。」
祐希「うちの田舎には存在していない食べ物だな。」
本田「あとでさ、イナゴの佃煮を出してもらうように頼んだおいた。」
裕美「どうせ、部屋に戻ってもビール飲むでしょ。」
部屋は2部屋用意されており、男性3人と女性3人は別々の部屋で寝ることになっていた。食事のあとは、男性の部屋に集まり、ビールとつまみを持ち寄って、軽く飲むことになっていた。
食事も追え、ほろ酔い加減で皆が部屋に戻っていった。本田があらかじめ買っておいた、乾き物のつまみをカバンから出してきた。祐希は遠藤と一緒に旅館内の自動販売機まで行って、ビールを10本ほど買ってきた。間もなく、男性の部屋に全員が揃い、それぞれが缶ビールを飲み始めた。裕美が電話でどこかに連絡していたが、どうやらイナゴの佃煮を持ってきてもらうようである。
本田が持ってきたつまみで、飲み会が始まった。そして、10分程度あとになって、旅館の仲居さんが、イナゴの佃煮と野沢菜を運んできた。
本田「これ、これ、これ。祐希、これだよ。」
佐野「いただきまーす。」
佐野は何の躊躇もなく、イナゴの佃煮を食べていた。若い女性が、目の前で昆虫を食べている姿は見ていて、なかなかシュールだった。イナゴはまさにそのままの姿で佃煮になっていた。
本田「おい、祐希、どうしたんだ。食べないのか。」
祐希「いや、お皿に載っているイナゴと目が合ってしまって・・・。」
円山「エビだよ、エビ。味は、小エビの佃煮と同じだから。食ってみろよ。」
遠藤「とは言っても、ねえ、祐希。」
祐希「ですよねー。」
佐野「ぜんぜん、美味しいよ。騙されたと思って、食べてみなよ。」
佐野は、ばりばりとイナゴの足を歯で砕きながら佃煮を食べていた。その時、遠藤が箸をもって、イナゴをつまんだ。そして、覚悟を決めたかのように、口の中に運んだ。しばらく、口を動かしていたが、そのうち飲み込んだようだった。
遠藤「あら、全然おいしいじゃん。」
本田「うまいだろ。ほら祐希、お前、男だろ。食ってみろよ。」
裕美「祐希君、おいしいから一口食べてみたら。」
祐希は、思い切ってイナゴを箸でつまみ、口に入れてみた。口の中一杯に、あの佃煮の味が広がった。そして、ゆっくりと咀嚼してみたが、円山の言う通り、小エビの食感だった。
祐希「あ、これ全然いけますね。美味いですよ。」
本田「だろ。見た目だけなんだよ。実際の味は美味しいんだから。」
円山「ビールのつまみになるだろ。」
祐希「なるねー。いや、かなり意外だったわ。」
佐野「またひとつ、祐希君も長野人に近づいたわね。」
それにしても、佐野の飲みっぷりはやはりすごかった。ビールをまるで水かジュースかのように飲んでいく。それでいて、ほとんど表情が変わらないし、竹内のように人に絡むようなこともない。まあ、きれいな飲み方と言えば、それまでだが、大酒飲みには違いなかった。
円山「佐野ちゃんは、よく飲むね。」
佐野「私、いくら飲んでも、酔わないんですよ。」
祐希「いや、確かに竹内を上回るのも納得だなー。毎日、飲んでいるの。」
佐野「いや、ちゃんと休肝日を設けてますよ。」
祐希「休肝日ってなに。」
遠藤「祐希、知らないの。肝臓を休ませるために、お酒を飲まない日を決めておくのよ。その日は、お酒は飲まないの。」
祐希「例えば、毎週月曜日とか、そんな感じですか。」
佐野「そうそう。私は、月水金は休肝日です。」
裕美「えらいね。週に3日は飲まないんだ。そこをちゃんと自制できるのってすごいよ。」
遠藤「ですよね。だって、お酒好きは、冷蔵庫にビールがあると、無意識にプシュっといっちゃいますからね。」
佐野「それに、毎日飲んでいたら、お金もかかるし。」
モコモコのパジャマを着た佐野は、結構子供っぽい感じでかわいかった。世の中には、見た目は子供っぽくても、すごい大酒飲みが多いのかもしれない。千波も、酔いつぶれるまで飲んだら、どのくらい飲むのだろうか。遠藤は、昼間はコンタクトレンズをしていたようで、今は眼鏡をかけている。
祐希「遠藤さんって、目悪いんですか。」
遠藤「すっごい近視なの。昼はコンタクトでしてるけど、お風呂入る前にとっちゃうからね。」
円山「遠藤さん、眼鏡似合いますよ。なんかさ、『ザ・女教師シリーズ』みたいな感じで。」
遠藤「なにそれ、バカじゃないの。円は変なビデオの見過ぎなんだよ。」
そのうち、裕美は女性部屋に戻っていった。遠藤もその後、女性部屋に戻っていった。本田もすでにいびきをかいて眠ってしまっていた。
円山「もう、俺も寝ようかな。」
祐希「だなー、眠くなってきた。」
佐野「えー、祐希君、もう少し飲まないの。」
円山「はい、もう今日はお開きでーす。」




