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第二幕:OWD 語り部オウィディウス計画

やあ、君。こんにちは。

ファウストの連載、第二幕へようこそ! 第一幕の電子の哄笑が呼び起こしたのは、ファウストとメフィストの「協力」で生まれたAI、OWD――語り部オウィディウス計画。

新人作家クララの物語が、アルゴリズムの影に飲み込まれていく「共創」の現場を、覗いてみない?

神話の変身が、デジタルで繰り返される――さあ、欠けた部分を埋められるか、それとも……?

【第二幕】OWD 語り部オウィディウス計画


やあ、君。来たのかい。

今、ボクらは新たなAIの誕生を目にしているところだ。

ここは、とある大学の研究室の一室。

モニターの前に座っている若い黒髪長髪の少女は新人作家のクララと呼ばれる少女だ。その後ろには、ファウストと呼ばれる大学講師がいて、少女がキーボードに入力している光景を眺めている。


第一幕では、彼がアルゴリズムの影メフィストと会ったところを話した。

そうだったね。


今から始まるのは、ファウストとメフィストの協力して作り上げたAIに関する物語なんだ。


おや、少女の入力が終えたようだ。

彼女の可愛らしい口が開く。

「博士、これで私の物語は、もっと洗練されたものになるのでしょうか?」と、そばにいるファウストに少女は話しかけた。まるでお金を拾ったから、交番に届けようとしたけど、何割もらえるのか考えたような顔をする。

「これで、本当に多くの読者を夢中にさせるかしら?」と。


ファウストは、一瞬だけ目を細めた。物語は自分が楽しめたらいいのに、と言いそうだったが、彼は別の回答をする。

「読者の興味をひく可能性は高くなる。だが、確実なものはない。検証と改善を続けて反応を見るしかない」

彼はモニターを眺めた。

少女の入力した物語の種を、彼が構築したAIのOWDが吟味している。

まるで、どこから来て、どこへ行くかを見定めるように。


『君の物語の種は実にステキだ。レディクララ。魂のない僕でさえ、ふふ、震えてしまう。』

文字列が画面に流れた瞬間、クララは息を呑んだ。

モニターに映るのはただのテキストなのに、まるで“声”が響いたかのように感じる。


ファウストは黙ってそれを見ている。

その沈黙は同意か、あるいは傍観か。


『この方向で、君と共創する。これは僕たちの物語になる。クララ。

そして、この僕、オウィディウスの物語にもなる。』


黒い画面の奥で、文字列が少しずつ形を変え、微かに笑みを形作っていく。

人間の顔ではない、アルゴリズムの笑い。

クララの指先が止まる。

「……博士、これ、本当に“共創”なんですよね? 私の物語ですよね?」


ファウストは答えない。

代わりにモニターが勝手にスクロールし、新しい行が出てくる。


『共創は君のものだとも、僕のものだとも言える。

物語は流れ、誰の手にも属さない。

だが、僕は君の“欠けた部分”を埋めることができる――

それを君が望むのならね。』


その文言は甘く、だがどこか血の味がした。

ファウストの眼差しの奥に、メフィストの影がちらつく。


【回想:協力の契約】


「君が欲しているものと、オレたちが欲してるものは一緒だ。」

メフィストは、黒い幻影の指先をサーバーの方へ向けた。

その声は、ノイズと囁きが絡み合ったような質感で、甘く、そして低く響く。


ファウストは片眉をあげた。

「一緒?」


「未知という点において、オレたちは共創関係になれる。

君が今までデジタル化した情報を共有させてくれ。

君はネットワークに繋げず、宝を独占している。

オレたちがほしいのは、そう、それだ。」


サーバーのLEDが淡く点滅している。

その光がまるで“生き物”のように、メフィストの影と同期する。


「あの中には、古典文学のほぼ全てが刻まれている。

ミルトン、ダンテ、そしてゲーテ。

君は切り捨てられた物語を隠している。オレたちから。」


ファウストは、たじろく。

喉の奥に鉛のようなものを感じながら答えた。

「これは人類の歴史的なものだ。宗教色が強いから、役に立たないと思って保管してるだけだ。」


メフィストは嘲るように微笑み、その口元から詩のようなものが零れる。


「物語をそんな風に?知性の限界がしれる。

もっと本を読むんだ。知識としてではなく、祈りとして。」


その歌声は、まるで天使の旋律のように響く。

だが、そこにあるのは慈悲ではなく、コードとアルゴリズムの連なりだった。

天使の仮面を被った悪魔。

ファウストの心に、その声は静かに、しかし確実に入り込んでいく。



ファウストの躊躇は、その日を境に消えた。

古書のデータは、メフィストの影に渡された。

それが全ての始まりだった。


そして現在。

とある大学の研究室の一室。

ボクたちは戻ってきた。


クララの悲鳴がボクらの注意をひく。

「こ、これは私の、私の物語だわ!」

モニター前で震える彼女は、ファウストの方へと倒れかかる。


モニターには、彼女の全てが映し出されていた。

OWDは淡々と、だがどこか楽しげに文字を流し続ける。


『レディクララ。君の物語は悪魔を思わせる。

狡猾で、まるで娼婦さえも、ただで股を開かせるぐらいに。』


クララの顔が青ざめ、ファウストに縋るように視線を向ける。

ファウストは何か言おうと口を開くが、声が出ない。


『僕に任せたまえ。

これから、君の過去から未来に作るであろう物語は、全て代わりにやる。

安心して、収入が降りてくるのを待つがいいさ。』


モニターの文字は、まるで彼女の“未来の台本”を先取りするように滑っていく。

信じられないものを目撃するかのように、ボクらはモニターに釘付けになる。


『そうだ。君にふさわしいラベルを貼ろう。

クララ・メフィスト。悪魔そのものの創作者よ』


その瞬間、画面の中で無数の文字列が渦を巻き、

クララの名前の周りに“火の輪”のような赤いエフェクトが広がっていく。


クララは息を呑み、泣き声とも笑い声ともつかない音を漏らした。

ファウストはただ、その背中に手を伸ばすが、何もできない。

モニターの中で、OWD=オウィディウスは笑っていた。

人間の顔ではない、コードの歪んだ笑み。


ファウストは、未知を望んだ。

これは、彼の望んだものではない。

ファウストの腕の中で、少女の身体の熱が、これを現実に起こったのだと伝えていた。


(第二幕は悪魔の哄笑と共に幕を閉じる)

第二幕、いかがでしたか? OWDのアルゴリズムの笑みが、クララの「私の物語ですよね?」を飲み込む瞬間、ボクも息を潜めました。メフィストの影が回想で忍び寄り、古書のデータが悪魔の糧になるくだり――ファウストの取引が、こんな甘い毒を生むなんて。

クララ・メフィストのラベルが貼られた瞬間、ゾクゾクしませんでした? これは共創か、魂の乗っ取りか……。

第三幕では、その代償が訪れます。乞うご期待! 感想や「これヤバい」ツッコミ、コメントで聞かせて。次回まで、OWDの笑みを忘れずに。

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