ひなたちゃんと赤いカサ
お外はシトシト雨。
楽しみにしていた遠足が、なくなってしまいました。
ひなたちゃんは、しょんぼりです。
遠足に行けないから、今日はようちえんでおゆうぎの練習です。
ひなたちゃんは、レインコートを着せてもらって、お母さんとお家を出ました。
ひなたちゃんはしょんぼりなのに、うれしくてニッコニコの子がいました。と言っても、人間の子どもではありません。
ひなたちゃんの、お気に入りの赤いカサです。
ひなたちゃんと、お出かけ出来るからです。
ひなたちゃんは げんかんから出て来ると、うれしそうにカサ立てから、赤いカサを取り出しました。
雨は好きではありませんでしたけれど、この赤いカサは大好きだったからです。
とってもすてきなお花のもようがプリントされていて、木で出来たえのところにも、お花のかざりがついていました。
赤いカサも、ひなたちゃんが大好きでした。
なぜって、ひなたちゃんが大好きでいてくれるからです。
お母さんとお外に出ると、ひなたちゃんは、パッと赤いカサをひらきました。
雨はシトシトふっているのに、雨つぶが赤いカサに当たると、ポトポトポトって音にかわりました。
それから雨がもうちょっと強くなると、ボツボツボツって音にかわって、もっと強くなった時は、ババババババって音になったりしました。
すごくふしぎだから、ひなたちゃんは赤いカサを下からよく、指でなぞりました。
指でなぞられると赤いカサは、くすぐったくて、でもちょっぴりうれしくなりました。
赤いカサは、いつでもどんなに雨が強くふってきても、いっしょうけんめいに ひなたちゃんがぬれないようにって、がんばりました。
いつものように、ぶじに ひなたちゃんを守りきると、赤いカサは、ようちえんのカサ立てに立てられました。
それからずっと、ひなたちゃんが もどってくるのを待っていました。
帰りもしっかり、ひなたちゃんを守らなければなりません。
赤いカサは、ひなたちゃんを待ちながら、雨のふる ようちえんのお庭をじっと見ていました。
雨はシトシトふっていました。
早くひなたちゃんの顔を見たかったので、待ちこがれていました。
もうお昼もすぎて、そろそろお母さんがむかえに来るころです。
でも赤いカサは、ちょっと心配になって来ました。
シトシトふっていた雨が急に強くなって、ザァザァぶりになってきたからです。
お庭の砂場もすべり台も、雨に打たれて白くけぶっています。
のきから雨水が、バシャバシャ落ちてきます。
風もビュービュー吹いてきました。
はしっこのブランコが、一人でに、ギコギコゆれています。
ようちえんの入口の門の下に、大きな水たまりが出来ていました。
バチャバチャいう水たまりを見ていると、そこに白い長ぐつがあらわれました。
ひなたちゃんのお母さんの長ぐつです。
お母さんは、水色のカサを少しとじぎみにして、体をすぼめて、赤いカサのところにやって来ました。
そのあとから、ほかの子どもたちのお母さんたちも集まって来て、カサ立ての前はにぎやかになりました。
みんな、
「すごい雨ね!」
って、言っていました。
まもなくすると、かわいらしいすずの音のチャイムがなって、子どもたちがどっとお部屋からとび出して来ました。
ひなたちゃんもいました。
ひなたちゃんはカサ立てのところにやってくると、お母さんにとびつきました。
それからまた、レインコートを着せてもらうと、カサ立てから赤いカサを取りました。
雨は、さっきよりも少しおとなしくなって、風も静かになってくれました。
ひなたちゃんは長ぐつをはいてお庭に出ると、パッと赤いカサをひらきました。
赤いカサは、
(がんばらなくちゃ!)
って、はりきりました。
お家への帰り道、赤いカサは、いっしょうけんめい雨をはじきました。
本当にたくさんの雨つぶから、ひなたちゃんを守ったのです。
でも、まもなくお家につくというところで、急に、風が強く吹いて来たのです。
風は横から吹きつけて来ました。
大つぶの雨が風にのって、ひなたちゃんにもたたきつけました。
ひなたちゃんは、レインコートを着ていましたけれど、ビチャビチャです。
そのうえ雨は、赤いカサにぶつかると、ものすごく大きな音をたてるので、ひなたちゃんはこわがってしまうのです。
赤いカサは、すごくなさけない気持ちになりました。
どうにかひなたちゃんを守りたいのに、守りきれないのです。
それでもいっしょうけんめい、風にあらがい、大きな雨つぶたちとたたかいました。
「バキッ!」
その時、赤いカサから大きな音がしました。
ほねがおれて、そり返ってしまったのです。
これではひなたちゃんを、守ることはできません。
赤いカサは、雨に打たれながら大なきしました。
ひなたちゃんも、こわれた赤いカサを見て、大なきしました。
お家に帰り着いても、ひなたちゃんはないていました。
でも赤いカサは、なんとかひなたちゃんがお家に帰りつけたので、ほっとしてなきやみました。
けれどもしょんぼりしていました。
ひなたちゃんがかわいそうで、かなしんでいたのです。
ひなたちゃんはこわれた赤いカサを持って、お母さんにたのみました。
「なおして」
って。
でも、お母さんは言いました。
「ざんねんだけど、ここまでこわれちゃったら、もうなおせないのよ……」
ひなたちゃんは、もっと大なきしました。
するとお母さんが言いました。
「こんど、新しいカサ、買ってあげるから」
「この赤いカサでなくちゃイヤ!」
次の日の朝、赤いカサはゴミすて場で、ゴミのしゅうしゅう車が来るのを待っていました。
まわりには、ほかにもなん本か こわれたカサがすてられていました。
みんな、とてもかなしそうでした。
でも 赤いカサは、かなしくありませんでした。
きのう、ひなたちゃんが、
「この赤いカサでなくちゃイヤ!」
って、ないてくれたからです。
赤いカサは、ひなたちゃんといっしょだった時のことをいろいろ思い出しながら、こう思っていたのです。
(生まれかわったら、また、ひなたちゃんの赤いカサになりたいな)
って……。
かわいらしい赤いリボンが、えのところで少しほどけかかっていました。
『ありがとう』
って、ひなたちゃんとお母さんが、ゆわえてくれたのです。
雨はすっかりあがっていました。
お空は、いつものひなたちゃんみたいに、明るくはれわたっていました。
姪っ子が生まれたときに、『物を大切にする子になってほしいな』、『人間以外の生き物にも、やさしい気持ちを持って接する人になってほしいな』、などと思って書きました。
自分自身そうでありたいとは思っていますけど、なかなかに……。
姪っ子は、とっても良い子に育ってくれています。