第3話 大切な存在
村長に話した。自分が異世界から来た事、国王の発言、とにかく知っている事全てを。
昼すぎには村の集会が行われた。突然王国の出兵のことを聞いた村人たちは激しく動揺している。
「逃げるか、もしくは戦うか。皆の意見を聞きたい」
村長がは問いかける。だが、村人たちの様子を見る限り、答えは決まっているようだった。
「逃げるに決まってるだろ!」
誰かが叫ぶ。途端、村人たちはそれに同調する。
「戦っても、勝てるわけがない。ウルナは100人程度の種族だ。そこから女子供を引いたら、戦える者は50人に満たない。」
「逃げて、逃げてもう一度最初からやり直そう!!」
まあそうなるだろう。聞けば、獣人は人間よりも身体能力が高いらしい。中でも、ウルナ族の人々は獣人の中でも戦闘能力にたけている。人間との素手の勝負ならまず負けることはないようだ。しかし、武装を加味すると話は別だ。完全武装した人間と、防具なしかつ弱い武器を装備するウルナ族。1対1で勝負しても、結果はわからないらしい。武装して、なおかつ兵数でいっても2倍、いや3倍以上になるであろう王国兵相手に勝てるわけがないのだ。
リュナが会議から走り去るのが見えた。追いかけても俺にできることはない。そんなことはわかっていたが、身体が勝手に動き出す。リュナは少し離れたところに立っていた。
「リュナ…」
「…ユウマ、アタシね、みんなが言ってるのが正しいってことはわかるんだ」
「…あぁ」
「でもね。…アタシ、悔しいの。この村まで、お兄ちゃんと同じように奪われちゃうんだなって思うと。どうしようもなく、悔しい。」
「…」
なんて声をかければよいのかわからない。自分の非力さを思い知る。俺は目の前の女の子一人すらも救うことができない。
「いつもそう。自分がもっと強ければって嘆いてる。そうすればお兄ちゃんも、この村も守れたのにって。」
「うん」
「ユウマ、アタシ、強くなりたい。大切なモノを守れるようになりたい。もうこれ以上、何も奪われたくないよ…」
その時、突如頭の中で声が響いた。
⦅条件が満たされました。ジョブ“導ク者”を開放します⦆
…?ジョブが解放された?条件ってなんだ?何ができるようになった?
とっさにリュナのほうを見る。すると彼女の近くにゲームのウィンドウのようなものが見えた。よく見ると、そこには彼女のステータスが書いてある。
『個体名:リュナ
種族名〔状態〕:ウルナ族〔ウルナ〕
ジョブ:狩人
《スキル》
・身体強化(小)
[進化条件]
以下のモンスターの討伐
(ブラッド・グリズ) 』
…。これが“導ク者”の力か。ふむ。このウィンドウ、俺の意思で出したり消したりできるな。ん?進化?これは…!!
「…リュナ、俺の言うことを信じれば、君は強くなれるかもしれない。」
「…?」
そりゃそんな反応だよな。よし。
俺はすべてを話した。異世界から来たことから自分の持つスキルのことまで。彼女は真剣に話を聞いてくれた。
「進化の条件は、ブラッド・グリズの討伐。とても危険だ。でも、それでも君が強くなりたいというのなら、俺は協力する。」
「…。ユウマ。アタシ、強くなりたい。強くなって、みんなを説得して、王国と戦いたい!!」
元教師として、大人として、止めなければいけない立場なのはわかる。だが、俺は見てしまったのだ。強くあろうとする彼女の涙を。聞いてしまったのだ。兄を奪われ、村までも奪われようとする彼女の想いを。ならば俺は、一人の男として彼女に協力しよう。もし、彼女の命に危険が迫ったのなら、俺が命に代えても…。
村の会議から、3日がたった。王国の出兵は8日後である。村人たちは、本格的に王国から逃げる準備を始めたようだ。俺とリュナはというと…
「全然いないな、ブラッド・グリズ」
「レアな魔獣だからね。でもまさか3日探し回っても見つからないなんて…」
リュナは自分のやるべきことが決まり、元気を取り戻しつつある。が、やはり間に合うかどうかが心配なようだ。まあ仕方ない。そろそろ見つけないとまずいのはその通りだしな。
と、その時、ウサギの群れが前からすごい勢いで襲い掛かってくる。いや違う、俺達には目もくれずに通り過ぎていった。
「な、なんだ?」
「ホーンラビットだ!何かから逃げてる?…ッ!?まずいっ、隠れて!!」
リュナの言葉に、とっさに木陰に隠れる。少し時間が経ち、静かにのぞいてみる。アイツだ!背を向けたブラッド・グリズが見える。ホーンラビットを捕食しているようだ。
しばらくするとリュナが立ち上がった。右手には小刀を持っている。
「行ってくるね」
「お、おい」
止める間もなく、ブラッド・グリズに向かって走り出した。すさまじい速さだ。これがウルナ族の力か。
「身体強化!!」
そう叫ぶと彼女のスピードはさらに上昇する。最高速度に達した彼女はブラッド・グリズに切りかかった。
バシュッ
グルァァァ!!!
すさまじいうめき声が聞こえる。どうやら左目をつぶしたようだ。化け物はかなり苦しんでいる!その後も体格の差をものともしない、すさまじい連撃を行う。すごい!さすがリュナだ。
数分が経過した。ブラッド・グリズがボロボロになり、茶色の毛が血で赤く染まっている。あと数撃で決着がつくと思われた、その時…
ズルッ
「しまった!!」
あまりに一瞬の出来事だった。それが、ホーンラビットのモノか、ブラッド・グリズのモノかはわからない。リュナが、血だまりに足を滑らせてしまったのだ。
ドゴッ
鈍い音がした。ブラッド・グリズがリュナを殴りつけた音だ。リュナは背後の木まで吹き飛ぶ。体長3メートルを超える化け物に殴られたのだ。彼女は動けない。一歩、二歩。ブラッド・グリズが彼女に近づく。勝利を確信しているようだ。ゆっくりゆっくりと近づく。
「ヤメろーッ!!!」
気づいたら俺は化け物に体当たりしていた。びくともしない。俺が吹き飛ぶ。立ち上がり、石を投げつける。化け物はものともせずに、リュナに近づく。クソっ。俺は足止めすらできないのか。ひたすらに、ただひたすらに石を投げ続けた。すると、
グルァァァァァ
右目に命中したようだ。もがき苦しんでいる。が、すぐに回復してしまった。怒り狂ったブラッド・グリズがこちらに突進してくる。こりゃ死んだな。…最後だ!!
「リュナーー!!お前は逃げろーー!生きて帰るんだ!!」
グルルルルァァ
腰が抜けて動けない。最後までダサいなぁ、俺。
「身体強化!」
ザシュッ
俺の目の前でゆっくりと化け物が倒れる。リュナが起き上がり、とどめを刺したらしい。
「ユウマ!大丈夫?」
「あ、あぁ」
「よかっ…」
バタッ
「…!おい、リュナ!しっかりしろッ!リュナ!!」
「スゥー、スゥー」
焦ったが、眠っているだけのようだ。仕方ない、そのくらいの死闘だったのだ。
背負って村に帰ることにした。リュナは今日本当によく頑張った。“自分の大切なモノを守りたい”か。こんな小さい身体で、すごい娘だなぁ。ただ、自分のことも大切にしてほしいものだ。だって…
「リュナはもう俺にとって大切な存在だからなぁ」
前の世界の教え子たちと同じだ。自分や自分の家族と同じくらい大切な存在。そんな存在にリュナもなっている。
村につくと同時に、リュナは目を覚ましたようだった。
「ありがとう…。」
「あぁ、大丈夫だ。こっちこそ助けてくれてありがとうな!」
「うん…」
…?なんか歯切れが悪いな。心なしか顔も赤いようだ。
「リュナ?大丈夫か?顔が赤くなっているが…」
「ッ!!それは…ユウマが、変なこと言うから…」
「え?」
「…何にもない!!」
そういうと彼女は駆け出して行った。
「ちょ、ちょっと待ってくれよー」
リュナのステータスについて、“進化条件”の部分が“達成済み”に変化していることを確認した。時間が遅くなってしまったので、明日の朝、進化を行うことになった。進化とは、どのような感じなのか。今から楽しみである。
『個体名:天野悠馬
種族名〔状態〕:人族〔人間〕
《スキル》
・導ク者(導きの数:0人)
[進化条件]
… 』
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