第1話 異世界転移とハズレスキル
俺の名前は天野悠馬。教師を務めている。小学校で3年、中学校で4年、そして現在、高校に来て2年目だ。え?まだおっさんじゃねえよ!お兄さん!
さて、今日も生徒たちをビシバシ指導して…
「天野先生!わからない問題が…」
「せんせー、聞いてよ!うちの彼ピが…」
「先生、モンドラやってるってマジ?フレンドなろ…」
カッコつけてたのに...
「今先生忙しいからあとでなー」
こんな感じだが俺の担当する生徒たちはほとんどがいい子たちばかりだ。本当に。
しかし、中には例外もいる。それがこいつらだ。
「お前ら3人は放課後、教室に残れ。話がある。」
放課後。お叱りの時間である。こいつらは昨日、生徒指導の吉田先生に暴行を加えたらしい。
「何故残らされたかはわかるよな」
「口割りやがったか。脅しといたんだが。」
こいつは晴翔。この3人組のリーダー格の男だ。これまでも、傷害事件など数々の事件を起こしている。最低最悪の不良である。
「ハルト、だから言ったろ。弱いやつはすぐ口割るんだよ」
匠。ハルトと仲が良く、常に一緒に何かしらの問題を起こしている。正真正銘の問題児だ。
「おい、なんてことを…」
「ねぇ、私関係なくない?早く帰りたいんだけど」
こいつは花蓮。ハルトと付き合ってるらしい。表立った問題は起こさないものの、負けず劣らずの性悪だ。同級生達からの評価はすこぶる悪い。
「カレン、お前も近くで見てたんだろ。吉田先生、入院することになったそうだ。自分たちがなんてことをしたのかわかってんのか!!」
「いい加減うざかったんだよ。教師ってだけででけぇ態度取りやがって。お前も調子乗ってるとぶっ…」
ハルトが声を荒げたと思ったら、突然教室が光り、すさまじい音が響く。
「なんだこれは…。お、おいお前たち、身体が…」
「なんだこれ!ふざけんじゃね…」
うわぁぁぁぁぁぁ
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「…んせい!先生!!」
委員長。彼女は俺の受け持つクラスの生徒だ。
「あれ、どうして?」
「教室に忘れ物取りに戻ったら、突然光が…」
「そうだっ!すごい光と音が…あれ、どこだここ?」
見たことがない場所にいた。とても現実とは思えない。言葉に言い表せないが、現実ではありえないほどに神々しい場所だ。
「…あいつらは?」
近くには3人も倒れていた。
「おい、お前たち、しっかりしろ、おい、おい!」
「うるせぇよ」
よかった、3人とも目を覚ましたようだ。全員、現状に困惑し、固まってしまっている。唯一の大人として、俺が何とかしなければな。よく見たら奇妙な服装の連中に囲まれている。
「あのー、ここってどこですか?」
...
「光ったと思ったらここにいたのですが??」
...
返事はない。はぁ、ここまで無視されると心に来るな。
ギギィっと音がした。門、いや大きな扉が開いた。その瞬間、周りの連中が一斉にひざまずく。入ってきた男は、ゆっくり、ゆっくりと王座に腰掛け、声を発する。
「オルディ=グランディウム。王である。」
彼のそのオーラが、疑う余地もなく本物の王であることを直感させる。
「お主らが、使者で違いないか。」
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“ジョブ”とは、生まれながらにしてすべての人間に与えられる能力らしい。異世界から召喚した人(この世界では使者と呼ばれるらしい)はこの“ジョブ”が強力な人が多いようで、この国は優秀な人材を求めて、召喚の儀式を行ったとのことだった。
「…。ではこれより、ジョブ鑑定を行う。」
鑑定士らしき男がタクミに近づく。鑑定士は何やら呪文を唱え始めた。そして、
「こ、これは…、“剣聖”!!」
おぉという声が聞こえる。名前からして良いジョブなのだろう。王様も満足げである。
…
タクミは大男だ。こんな奴に剣なんか振らせたら勝てる奴いるのかな。
次は花蓮の番だ。同じく鑑定士が呪文を唱える。
「おぉ...、“聖女”です!!」
これにもすごいどよめきが起きた。それにしても聖女か、カレンがなぁ。
「私にふさわしいわ」
カレンが高らかに笑う。知らない人たちの前で…。すごいなこの娘。
次は委員長だ。彼女の説明はまだだったな。名前は北川涼香。彼女は他の3人とは違い、成績優秀で、品行方正である。ちなみに何の委員長も務めていない。委員長というのは昔からのあだ名らしい。
さて、本題に戻ろう。鑑定結果が出た様だ。
「ま、“魔帝”、スズカ様は“魔帝”です!!」
ほう、これまた凄そうなスキルだ。さすが委員長だな。
…ペコリ。
委員長、まだこの空気に慣れていないようだ。強力なスキルをもらった今も、少し気分が悪そうである。
次は、ハルトか。こいつが強いジョブなんか持ったら最悪な事に使いそうだ。だが、この流れは...
「出ました!!ハルト様のジョブは…“勇者”です!!!!」
やっぱりな。すさまじい歓声が上がる。王もいつの間にか立ち上がっていた。それほどにまでに強力なジョブなのだろう。
「よっしゃー!!さすが俺様だ!」
ハルトが勇者って...大丈夫なのか?
「今回の使者達はすさまじい。伝説のジョブばかりだ。さあ、早く次の鑑定を行え。最後はどんなジョブであろうか。」
なんか、王様めちゃ期待しちゃってる。が、嫌な予感するの俺だけだろうか。勇者、剣聖、魔帝、聖女が出た。あと、何が残ってるんだ?4人でバランス取れすぎている気がするんだが。
まあ、鑑定は受けるしかないしな。何とかなるだろう。
「よろしくお願いします」
「ユウマ様ですね。では鑑定させていただきます」
「むむ、むむむ、ん?なんだこれ??」
「どうした早く言え。我を待たせるな」
「申し訳ありません。もう一度、確認させていただきます。」
「早くしろ」
「は、はい。うむ、やはり間違いない。出ました!“導ク者”です!」
...ん?ミチビクモノ?導く者?なにそれ。異世界モノで聞いたことないんだけど。
「ミチビクモノ?それは確かか?」
「はっ。何度も確認いたしましたが、間違いないようです。」
「ふむ…。おい、お主」
「は、はい..」
「お主は何ができるんだ?」
「…すみません、わかりかねます..」
.....
静寂が辛い。
そして
「ギャハハハァッ」
静まり返った場を終わらせたのは、アイツだった。
「アマノォ、さては、ハズレジョブだなぁ!?ザマアねぇ。いつも偉そうに説教垂れやがって」
「ハルト、お前...」
「お前?お前だぁ?俺は勇者様だぞ。口の利き方がなってねぇなぁ。俺様が直接躾けてやろうか?」
「フフッ。ハルトやめてあげて。せんせーも狙ってハズレを引いた訳じゃないんだから笑」
「そうだぞ、ミチビクモノ?も何か強力なジョブかもしれんだろ笑笑」
…こいつら
「先生...」
「おい、そこまでだ。喧嘩なら後にしてくれ。今後のことについて話したい。」
王の話を要約しよう。
この国は現在、領土拡大を目標としているが、思うように進んでいないらしい。その原因は、国の周囲の異民族たち。一つ一つの種族は大したことなく、戦争で負けるのはありえないが、種族数が多く、攻略に時間がかかりすぎる。そこで、俺たち使者を召喚し、早々に排除しようと考えた、とのことだ。
ただ、少々引っかかることがある。
「...でだ。早速12日後に一般兵達が出兵する事になっておる。相手は獣人だ。最近、税の納めが悪いからな。まあ他種族への見せしめになるだろう」
「あの、少しお聞きしたいことが...」
ジロリッ
「...なんだ」
こ、怖い。だが、
「その獣人達は、何か悪いことをしたのでしょうか?例えば...」
「…いや、特に。」
「でしたら、一方的に攻撃するのは違和感があるといいますか、もう少し平和的に…」
「やつらは人間ではない。蛮族共は存在自体が悪であろう」
「いや、しかし...」
「お主、ハズレジョブを持つ身でありながら、我に異議を唱えるか。…もうよい。おいっ」
衛兵たちが近づいてくる。え、ちょっと待って、何なんd..
ドスッ
鈍い音とともに腹部に激痛が走る。殴られた!?まずい、気が遠のく。
「先生っ!!」
委員長が駆け寄る。心配してくれているのか、ありが...
バタッ
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「うわぁっ」
目が覚める。ここはどこだ?森の中だ。何が起きた?確か...衛兵に殴られて...追放された!?まじか、まずいぞ。身一つで森から脱出する術など持ってない。いや、普通の森ならできるかもしれない。しかし、ここは異世界だ。元の世界の常識が通じるとは思えない。
グルルルゥ
なんだ?音、いやうなり声か?後ろを振り返る。と、そこには...熊だ。いや熊よりも一回りも二回りも大きい。熊の形をしたバケモノ。だが、まだこっちに気づいていない。木陰に隠れる。
「マジかよ…」
そうだ!ジョブ!導ク者!発動!!!
....
何も起こらない。ハズレジョブ...。嘘だろ、まさかこんな最後なのか...。結婚して子供育てて、80くらいで静かに迎えるはずの最後が...
バケモノが近づいてくる。
もう無理だ。南無阿弥陀仏、なむあみだ...
ガサガサッ
バケモノの奥から音がした。途端、矢が飛ぶ。見事バケモノに命中した。
「グルァァァ」
バケモノは矢が飛んできた方向に走り去っていく。
「助かったぁ...」
「おじさん、大丈夫?立てる?」
女の子だ。年は20ほどだろうか。灰色の髪、整った顔立ちに、鍛えられ引き締まった身体。第一印象としてすでにおてんばを予感させる女の子。だが、だがしかし、それ以上に...
「犬耳...」
「オオカミだよっ!!」
...これが俺と、リュナの出会いだった。
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