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9 町への恩返し

夕暮れ時、町の広場に零の姿があった。

町の人々が行き交う中、零はいつものように静かに立っていたが、その周囲には温かな雰囲気が漂っていた。彼が市場に持ち込んだ宝石のアクセサリーや、掘り当てた温泉の話題で、町全体が活気づいているのだ。


「零さん、あなたのおかげで毎日が楽しいわ。」

ある女性が笑顔で話しかけ、手首には零が加工したブレスレットが輝いていた。

その声に零は軽く頭を下げながら答えた。

「それなら良かったです。宝石も温泉も、たまたま運が良かっただけですよ。」

謙虚な返答に、女性はさらに笑顔を見せる。


その様子を近くから見ていたハルが、念話で声をかける。

「ねえ零、素直に『俺が掘ったんだ』って言えばいいのに。」

「そういう性格じゃないんだよ。それに、運が良かったのも事実だろ?」

「でもさ、本当はあなたが頑張ったからみんな喜んでるんだよ。」


ハルの言葉に零は少し照れくさそうに微笑むと、ふと広場を見回した。

温泉の効能に癒される人々や、アクセサリーを手に嬉しそうに話す姿が目に入る。

町の平和な光景に、零は少しだけ胸の中に温かなものを感じた。


その夜、町の人々が温泉を訪れる光景があった。

零が掘り当てた温泉はすっかり町の名物になっており、美容効果の高い泉は特に女性たちに大人気だった。

温泉から帰る人々の顔には満足げな笑みが浮かんでおり、その評判はますます広がりつつあった。


広場の隅でその様子を眺めていた零に、町の老人が声をかけた。

「若いの、あんたは本当に町の恩人だよ。この平和な日々を守ってくれてありがとう。」

零はその言葉に驚き、慌てて手を振った。

「いえいえ、そんな大層なことはしていません。ただ掘っていただけです。」

「ふむ、それが大事なんだ。何気ない日常を支えるってのは、案外誰にでもできることじゃない。」


老人の言葉に零は少し考え込み、静かに答えた。

「…そうかもしれませんね。これからもできることを続けていきます。」


夜遅く、零とハルは町の外れにある自宅に戻っていた。

星空の下、ハルは軒先に座りながら念話で零に語りかける。

「ねえ零、町のみんな、すごく幸せそうだったね。」

「ああ。俺も、あの笑顔を見るのは嫌いじゃない。」

「ふふ、素直になったね。でもさ、私たちのやってること、結構すごいことだと思うよ。」

零はハルの言葉に静かに頷き、夜空を見上げた。彼の胸には、この平穏な日々を守りたいという思いが少しずつ芽生え始めていた。


「まあ、これからも掘り続けるさ。ハルと一緒にな。」

ハルは嬉しそうに尾を揺らし、「もちろん!」と答えた。



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