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3 特殊スキル

夕陽が沈む頃、零は手のひらに収めたダイヤモンドの原石をじっと見つめていた。

その透明な輝きは、どこか彼の胸に残る戦場の記憶を照らし出すようでもあり、同時に新たな道を示す光のようにも見えた。

彼は無言で立ち上がり、原石をそっとテーブルの上に置いた。


「ただ掘り出すだけじゃ、この石の魅力は伝わらないよな」

零の言葉に、ハルが「にゃあ」と応えるように鳴いた。

その仕草がまるで「やってみればいいじゃないか」と言っているようで、零は苦笑した。


翌日、零は加工を試みるため、地球から異世界にコピーした加工場へと向かった。

この加工場は彼の特殊スキルによって生み出されたもので、地球の技術を模倣し現代的な機械を使える環境が整っている。

「まさか、こんな形でスキルが役に立つとはな」

零は軽く肩をすくめながら、機械を点検していく。


彼が目指すのは宝石職人になることではなく、ただ掘り出した石の美しさをそのまま引き出してみたいという好奇心からだった。

「どうせなら、自分で掘ったものを最後まで楽しみたいよな」

誰に言うでもなく呟いたその声が、加工場の無機質な空間に小さく響いた。


零は慎重に作業を進めていった。

まずは原石の表面を研磨して、内部の状態を確認する。

AIが出力するカットの提案を参考にしながら、レーザーで細かく形を整えていく。


研磨機の音が静かに響く中、彼は戦場では決して感じることのなかった達成感を覚えた。

「こんなに集中するのも久しぶりだ…」

額に滲んだ汗を拭いながら、零はふと手を止める。

その時、ハルが足元で丸くなりながら、彼を見上げていた。


「ハルも見たいのか?ほら」

零がそっと持ち上げた加工途中のダイヤは、まだ荒削りながらもその美しさの片鱗を覗かせていた。

ハルは興味深げにそれを見つめ、再び「にゃあ」と声を上げる。


最終的に、零が掘り出した原石は、滑らかで透明な輝きを放つダイヤモンドとして仕上がった。

ただし、彼にとってその完成は目的ではなかった。

「これで十分だ。こうやって掘り出して、ちょっと加工するくらいが丁度いい」

零は完成したダイヤを手に取りながら、満足そうに微笑んだ。


彼にとって採掘や加工は、戦いのない静かな日常を彩るための一部に過ぎない。

かつて戦場で鍛え上げたスキルをこうした形で活用することができる日々が、ただ穏やかで愛おしかった。


その夜、零は完成したダイヤを棚の上に飾り、ハルと共に夕食をとっていた。

「こうして何かを作るのも悪くないな。ハルもそう思うだろ?」

ハルは彼の言葉に満足げに喉を鳴らし、食事の続きを楽しんでいる。


新しい生活の中で、零は少しずつ次の挑戦を考えていた。

彼はさらなる採掘に挑む中で、新しい出会いや発見を通じて、採掘者としての楽しさを深めていく。

零の穏やかな日常は、まだ始まったばかりだった。



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