第3話 イタズラ少女の記憶の果て
壊れたロルロボの姿は、まるで砂が風に吹かれるように、パラパラと消え去っていった。
その瞬間、ツキは何かが落ちたような気がしたが、ロルロボの犠牲に心が揺れていた彼女は、その感覚を忘れかけた。
「行こう、ツキ!」
ヒナタは決意を胸に、前へ進もうとしていた。
「あ、うん!」
ツキは慌ててヒナタの後を追った。地球への手がかりは掴めないままだが、止まってはいられない。私たちには、ロルロボの想いを引き継いで先に進む義務があるのだから。
二人が歩き続けると、道が複雑に変わり始めた。まるで生き物のように曲がりくねった通路が増え、知らず知らずのうちに迷路のような空間に迷い込んでしまった。
「ここ、どこ…?」
ツキが不安そうに呟く。
「なんか…歩けば歩くほど迷子になってる気がするんだけど!」ヒナタも困惑していた。
何度も行き止まりに突き当たり、ある場所では突然クラッカーが発射され、別の場所では床が濡れていて滑りそうになったりと、イタズラのような仕掛けが彼女たちを惑わせ続けた。
「くそー、誰かが仕掛けたみたいな感じだね!」
ヒナタが笑いながら言った。
二人が何とか迷路を抜け出そうと歩いていると、突然「いてっ!」という声とともに、一人の少女が目の前に飛び出してきた。彼女は自由奔放で、イタズラ好きそうな笑みを浮かべていた。
「ごめんごめん!今のイタズラは失敗しちゃったみたいだね!」少女が笑顔で言った。
「え?あなたは…?」
ツキが驚いて問いかける。
「私、ヒル。ここで遊んでるんだ!」ヒルは悪びれる様子もなく、にこやかに答えた。「あ、迷路の抜け方知りたい?私が教えてあげようか?」
「え、ほんとに!?」
ヒナタは嬉しそうに尋ねた。
ヒルが迷路の先を指し、「こっちよ!」と言って軽やかに歩き出した。二人はヒルの後をついて行くが、どこまで歩いても道が変わり、全くゴールに辿り着けない。
「えっと…ヒル、さっきもこの場所通らなかった?」ツキが首をかしげる。
「あ、そうかな?まぁ、気にしない気にしない!」ヒルは楽しそうに笑いながら、さらに奥へと進んでいく。
「でもさ、本当に出口あるの?」
ヒナタが少し心配そうに言うと、ヒルは振り返り、「もちろん!ちょっとだけ遠いだけだよ。もうすぐだから!」と返すが、その言葉にはどこか軽さがあった。
さらにしばらく進んでも、目の前に広がるのは同じような風景ばかり。道が変わるたびに迷路の奥へ奥へと引き込まれていく感じがした。
「ちょっと待って、また最初の場所に戻ってない?」ツキが疑問を口にする。
「え、そ、そんなことないよ!たぶん…」
ヒルは少し焦った様子を見せながら、急いで歩き始めたが、二人はこの状況に疑問を抱き始めていた。
「ヒル、本当にこれで合ってるの?」
ツキが慎重に問いかけると、ヒルの足が止まり、彼女は静かに肩を落とした。
「だって…もっと遊んでほしかったんだもん。」
ヒルは涙を浮かべながら、震える声で言った。
「え…?」
ツキもヒナタも驚いた表情を浮かべた。
「ごめんね。ずっと一緒に遊んでほしかったの…寂しかったんだ。」ヒルは涙をぽろぽろと流し始めた。
ツキはどうすればいいのか分からなかったが、そっとヒルの肩に手を置いた。「寂しかったんだね…でも、そんなことしなくても一緒に遊んであげるよ。」
ヒナタも「そうだよ!私たち、いっぱい遊ぶから!」と明るい声で言った。
その後、ツキとヒナタはヒルと一緒に遊び、迷路の中で笑い声が響き渡った。
しかし、遊んでいる最中に突然、ヒルの姿がかすかに揺れ、少しずつ消えていくのに気づいた。
…あたしはイタズラが大好きだ。
だってイタズラをすると、こんなあたしの事も、見てくれ、叱ってくれるからだ。
嬉しいなぁ嬉しいなぁ。
楽しい楽しい。
…はぁ、こんな時間がずっと続けば良かったのになぁ。
まま、まま。
本当はそう呼びたいけど、私はちょっと我慢をする。
このほんの少しの時間だけでも楽しかったから。
…だから、
笑顔で、
……さようなら。
「ヒル?」
ツキが声をかけたが、ヒルは微笑んだまま何も言わず、静かに消えていった。
まるで、微笑みで感情を隠しているようだった。
気がつくと、迷路もなくなり、二人は元の場所に立っていた。
「…ヒルは?」
ヒナタが不安げに尋ねたが、ツキは優しく答えた。「きっと、もう寂しくないよ。」
二人は少しの間、黙って空を見上げた。
しかしなんだろう。
ロルロボといいヒルといい、私たちと関わった人達は消えていく…。
これには何か意味はあるのだろうか。
なんなら、この世界はそもそも私達の為に作られたのだろうか。
それぐらい都合が良いような気もした。
そんな事を考えながら、再び旅を続けるために足を進めた。