SS:ママは悪くないのに・・・
「んもー! まただー!」
朝。
ぼくは腹が立っていた。なぜかというと、パパがぼくのおやつを盗み食いしたからだ。だーい好きなお菓子だったんだよ。丸くてたこ焼きみたいに甘じょっぱくてサフサフしたやつ。
「いっつもいっつも、食べようと思ったら無い!」
だらしのないパパ。このままだとなんか悔しい。堪忍袋の緒が切れたぼくは、復讐を決意した。パパは着替え中だ。ボクはもう作戦を立てている。さぁ、始めるぞー!
「パパ。腋毛ボーボーだね」
「ん。なんか変か?」
「うん。ちょっと臭い」
「臭い、か……? 母さんみたいな腋臭じゃないんだからそんな風に言わないでくれよ」
予想通りパパは、スプレータイプの消臭剤を探している。ぼくは色も形も似ている消臭剤と整髪剤を入れ替えてある。さぁ、ひとフリでもふたフリでもして、脇がガッチガッチになれば良い!
「おっ。こんなところに良い物が!」
「!」
パパの視線の先を見た。あ。あれは、ママの香水!
パパはそれを躊躇なく自分の脇に直接噴きかけた。ラベンダーの香りが部屋中に広がる。く、臭い……ママ以上の……腋臭の上位互換みたいな激臭がする。
でも、本人は自覚がないのか、ぼくに近づいて訊いて来る。
「なぁ、ケイスケ。良い匂いだろ?」
「……う、うーん」
「あぁ良かった!」
ぼくは返答に悩んでただけなのに……。
「――――ちょっと、この香りは何!?」
ママがリビングからやって来た。右手には包丁を持っている。刃には青ネギが数個くっついていた。パパは、「な、何でもない!」と、咄嗟に香水を隠したけれど、やっぱり臭いでバレてママからこっぴどく怒られた。
「反省なさい!」
「す、すまん……」
人の物を盗るのは良くないよね。まぁ、本人もしっかり反省してるみたいだし、お菓子のことは良いか。パパは香水の臭いを取るためにシャワーをしている。ママは片付けが終わったみたい。汗だくになりながらぼくに、
「ちょっと消臭剤でスース―してくる。ケイスケは換気しておいて!」
そう言うと、香水の部屋に、むせながら入っていった。ぼやーんとしながら、ぼくは自分の部屋の窓を開けようとする。そのとき、香水の部屋からママの悲鳴が聴こえた。
「――――あ!」
ぼくはイタズラのことを思い出してしまった。その日。ママはガッチガッチの腋毛と腋臭でパパを見送った。パパは白目をむいている。ぼくは、何も知らないふりをした。