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すず   作者: かな
9/36

えまのドレス

王さまからすずのことを一任されたえまは、次にすずに会えるのを、今か今かと心待ちにしていた

いつもならまた1週間あと、けれどそのときは3日も置かずに、またすずと会うことができた

「すずちゃん!」

えまは待ち遠しくて、すずが墓地に参る前に声をかけてしまった

すずは驚きながらも、えまさん、と口にする

笑おうとはしているが、元気はない

「どうしたの? すずちゃん。寝不足?」

「あ…いえ、個人的な悩みごとです…」

えまは何だろうか、と考えながらも、

「聞いても良い話?」とすずに聞いた

すずは疲れたように微笑みながら、もちろんです、と答えた

そこで墓参りもそこそこに、えまとすずは、えまの自宅へと向かった

出迎えたみみに、えまは無言で軽く手をあげて首を振る

えまは応接室でなく、自分の私室にすずを案内した

ここの方が小ぢんまりとしていて、話しやすいかと思ったのだ

すずは、促されるまま椅子に腰掛けた

「あの…えまさんのところにも、王太子殿下の招待状って届いてますか?」

にも? とえまは思いながら、ええと頷く

「すずちゃんのお屋敷にも届いたのね」

「届いた、というか、街に出かけていたときに受け取って来られたんですけど…」

それで…と、すずは口ごもる

押し黙るすずに、しばらく考えてから、えまは分かった! と手を叩いた

「すずちゃんも綺麗な格好がしたくなったんでしょ?」

にこにこと、えまはすずに笑顔を向ける

すずは、え…と…と少し恥ずかしげにして、

「えまさんの話してくださった華やかな世界が羨ましくなってしまって…」

と、モゴモゴと呟いた

えまは、いいのよいいのよ、とにこにこ頷く

「女の子だもの、誰だって憧れるわよね」

えまの頭には、その昔、今は亡き主人と暮らした屋敷のことが思い返された

気のしれた方々との小さな集まりでは、お互いの使用人たちも参加させていたこと

夕食後に集まる、飲み物と軽い食事くらいの簡単な集いにして、日が変わらないうちに片付けも終われるように考えた

社交辞令のように使用人から言われる、羨ましいの言葉を、えまなりに解釈した結果だった

使用人たちは使用人たちで考えて、お皿にペーパーナプキンを敷き、ビスケットやクラッカー、サンドイッチなど、片付けがラクで汚れない工夫をしていた

思わず懐かしさに口元を綻ばせて、えまはすずの手を取った

「若いときの使わないドレスがあるわ」

えまはすぐにみみを呼んで、自分の衣装部屋を見せてくれた

黒い衣服ばかりのそこは、衣装部屋というには小さそうだったけれど、みみは手慣れた様子で奥から鮮やかなドレスを幾着か取ってきた

「懐かしいわ」

「今でも充分お似合いになると思います」

みみの言葉に、えまは思わず苦笑いをした

似合った、としても相応しくない、と

「すずちゃん、今日は見るだけだけど、次に来るときには着せてあげるわね」

すずは、こくこくと頷いた

黙ってその様子を見守るみみに、えまは面白がって、あなたも着てみる? と笑いかけた

みみは、はにかんで、宜しければ…と嬉しそうに身体をくねらせた

女の子はみんなこういうのが好き、とえまは思っている

一度着れば、その窮屈さも分かって、自分の持てる範囲で可愛らしい服を見つけて着飾るようになる

えまは今まで見てきた使用人たちの、そういった謙虚さがひどく好きだった

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