かい
かいは慌てた様子で、城へと戻ってきた
えまへ報告書を届けた帰り、えまのところにもやってきた招待状のことを聞こうと思ったのだ
「かい、私がまりの娘を気にしてる、って兄上にお話したの?」
王宮から届けられた手紙には、すず及びすずの義母たちを招待した。
すずには、そこで会うことができるだろう、とあった
かいとしては、寄宿舎にすずがいるもの、と思って、何とはなしにおばさまが姪っ子と会いたがってるなんて話をしたに過ぎない
「騎士団の仲間にぽろっと…」
かいは否を認めたが、まさか言ってはいけないとは思わなかった
「すずちゃんがいなくなれば、遺産は義母のものなのよね…」
ぼそり、とえまが呟く
かいはそれを聞いてギョっとしたが、まさか、と思わず笑った
笑ったあとで、すずと名乗ったあの女の子のことを思い出した
「寄宿舎にいることになってるから、手をかけるとしたら卒業した年だと思うけど…」
えまは、事も無げに物騒なことを口走る
「だってまさか、どこの寄宿舎にもいないとは思わないじゃないですか」
かいは、まりの娘は簡単に見つかって、簡単にえまと会えると思っていたのだ
まさか、あのすずがまりの娘かもしれない、なんて…
まさか、義母といえども、姫の娘を使用人のように扱うなんて…
「私は、ただすずちゃんを何とかしてあげたいの。まりの娘でも、娘でなくてもね」
まりは、この招待にすずが応じられるならいいけど…と、ため息を吐いた
確かに、王宮からの招待を蹴るなんて、ありえないことだ
そこで事情を説明しようと、かいは慌てて城へと戻ってきた
血の繋がりはあるとはいえ、ただの一兵卒な自分に会ってくれるかも分からなかったが、謁見を申し込むと意外とすんなりと会うことができた
「えまが何か言っていたか?」
正式な謁見の間ではなく、執務室に通されると、王は、書類に目を通しながら聞いた
かいは、えまのお陰で会えたのか、とやるせなく思いながら、恭しく、えまとすずのことを述べた
王は、すずに事情があって招待に応じられないかもしれないことを聞くと、少しだけ書類を見る手を止めた
「なるほど」と感情もなく口にして、なるほどなるほど、と天を仰いだ
そして、まぁ代理でも立てれば良かろう、と、また書類に目を走らせる
「代理、ですか?」
「義母たちだけが来ることをいぶかしまれるなら、代理を立てて幾人かに挨拶をさせれば良い。それで、来た。ことにはなるだろう」
王さまは、すずのことはえまに任せる。と、かいのことを一度も見ることなく話を終わらせた
かいは、またえまのもとへ戻りながら、自分は一体何なのだろう、と思った
すずのこととも、ただの遠い親戚くらいに気にかけていないようだった
かいはただ、数多の兵卒と変わりなく、数多の国民と変わりないのだな、と思った
えまの家に着いて、すずのことはえまに任せる、と聞いたと言うと、えまは嬉しそうな顔をした
仲の良かった妹の娘だ。あのすずは違うかもしれないが、出来ることはしてあげたい、とえまは言う
「かいには1日でいいから、すずちゃんがどんな暮らしをしてるのか見てきてほしいの」
かいは承知して、王太子の誕生会のことも話した
えまはパッと顔を輝かせて、それならと頷く
「すずちゃんがまりの娘だって、その日までに分かればいいのよね。分からなくても一応連れていけば分かるものね」
すずが来れば、あのすずはまりの娘ではなくて、すずが来なければあのすずがまりの娘。
そんな単純なことかなぁ、とかいは思いながらも、すずがすずでないのか、と考えていたら混乱してきた
「とりあえず、私はもう戻りますから」
「ありがとう、かい」
えまは、ギュっと無邪気に甥っ子の手を握った