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すず   作者: かな
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すず

「すず」

「すず…」

優しい声がする、柔らかな声音で喋るその方たちは薄い霧の向こうだ

何度も見た、何度も助けられた、そして今日も…

すずはうっすら、と涙を乗せて目を開いた


やはりこれは夢であり、夢でなく…

破れたカーテンの先、隙間の空いた鎧戸から漏れる朝の光

薄暗い室内には、古く使われなくなった家具が積まれている

そっ…と慎重にベッドから足を降ろす


「んぅ…」と、息を吐きながら伸びをする

庭で飼っている鶏たちが少し騒がしい

いつものことだけれど、他の人が起きる前に、とすずは手早く身支度を済ませた

ここはただの物置小屋で、今はすずの部屋

すぐそこに井戸もあるし、庭向こうには屋敷がある

庭にはこの小屋と、台所が面していて、今のすずにとってはそれなりに都合がいい

すずは庭先に出ると井戸で顔を洗い、誰も起き出さないうちにと、いくつかの葉物を収穫する。そして卵も

急いで朝食の支度を整えて、誰も見ていないうちに自分のを済ませてしまう

家人はあれやこれやと用事を考え、あれやこれやと何癖を思い付く

すずを庇ってくれていた使用人は、今は誰もいない

「すず」

「すず…」

夢の、優しい声を思い出す

何度も、何度も…

大丈夫、大丈夫だとすずは自分に言い聞かせた


「バタン!」と乱暴に扉が開く音がする。

いつもながら品のない、とすずは庭先でその音を聞く。

食器の鳴る音は、水を撒いていれば気にならない、と皆の朝食時、いつもすずは菜園に水をやっていた

また「バタン!」と音がすれば、食器を片づけに行く。それだけのこと

時折、「すず! すず!」と甲高い音がして、いくつかの繕い者、洗い直しの洗濯などが追加される


この家はあなた達のものじゃないのよ、とすずは思うけれど、どうしようもない

すずにとってあの人たちは家族ではないし、あの人たちにとってもすずは家族ではない

すずの母は、すずが物心つく頃に亡くなってしまったし、父はほんの2年ほど前に他界した

今ここにいるのは、父が再婚した義母とその娘たち

この家は、すずが成人していればすずの物だったはずが、今は義母に任されてしまっている

あの人は、すずを養育する、という名目で、すずが成人するまでの庇護者としてここにいるに過ぎない

ただ、それを分かっているのか、いないのか、我が物顔で振る舞ってばかりいる


すずは、この家を少しでも保とうと努力している

義理の姉妹たちに、汚れた衣服をコソコソ嗤われても

「すずじゃなくて、煤よ」などと言われても

すずには、ここの主人は私だという自負があった

それでも、顔を突き合わせれば嫌味を言われれば良い気はしない

泣きたくもなる。だから、歌にダンスに…と彼女たちが家族睦まじくしている間を縫って家を整えていた

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