第七話 スキル取得
カレンは空間スキルでどこからともなく、二つの棘棍棒を取り出す。
そしてニコニコと笑いながら、言うのだ。
「さて、遊ぼうか! 安心して、棘棍棒には結界があってあるから、ダメージは0だよ!」
言い終わるか終わらないか。背後にはカレンの姿が。
目に見えない速さで、棍棒を振り下ろそうとしていた。
「うわっ!……あっぶない」
しかし、バク転をして神回避。元の世界にいた時と比べてなぜか体が軽い。
そのまま勢いをつけたまま、宙に浮いている私の元へ、一瞬で飛ぶカレン。
だめだ。倍速で動かなきゃ間に合わない。
【スキル 倍速認識を取得】
目のレンズに映る。
私が次避けたら、カレンは右から来る。
次はどんな攻撃がくるか、わかったと同時に、最初の攻撃を避けた後、左へ避ける。
その通りになった。相手よりワンテンポ速く動けるスキルのようだ。
「いいねぇ! じゃあ、私も倍速で動こうかな!」
目に見えて動きが速くなる。倍速でも認識が間に合わないっ!
避けるのだけで、精一杯。攻撃ができないなんて論外すぎる。
【スキル 逃避攻撃を取得】
バク転をしたとともに、手をついたところに雷が走る。
カレンは反転してそれを避ける。
なぜ雷の攻撃なのかよくわからない。
だからと言って、【世界の本棚】で調べるのは、めんどくさい。
簡易化すればいいのに!
【簡易化を実行中】
「危ないよ?」
すぐそばに回り込まれていた。棘棍棒がこちらに来る。これでもおそらく手を抜いているのだから、驚きだ。
間一髪のところで【逃避攻撃】を仕掛け、距離を置く。今度は、炎だ。
【例外スキル 世界の本棚の簡易化が完了。スキルランクが30に上がります】
【例 アクセス ○○の本】
【告 代償として魔力を消費しました】
よし!
(アクセス 逃避攻撃の本)
【逃避攻撃 逃避行動を取りながら、自分の触れた場所にトラップや攻撃を仕掛けられるスキル。どの系統になるかは、当人が指示することで限定できる。攻撃の規模は個人による。指示がない場合はランダムで攻撃。レベル70以上が所持している率が高い】
簡易化して調べやすくなったのと、目線だけでめくれるようになった本はとてもありがたい。激しく動いていても、目線から消えないのも使い勝手がいい。
【世界の本棚】が簡易化できるのなら、【倍速認識】は効率化できるんじゃないだろうか。
【スキル 倍速認識の、ランクアップ条件である時空耐性をすでに取得済みなため、解放。時間軸認識速度上昇に効率化。スキルランクが20に上がり、レアスキルに覚醒】
明らかに目の前の時間の進みが変わったことを感じた。
私の行動が速くなったことにカレンも気づく。
「おっ! いい感じ。じゃあ、そろそろ私も全速力で行かせてもらおうっと!」
私とカレンは、同じ時間軸にいる。
ここからが本当の遊びなのだろう。
「お手柔らかによろしく……」
「うんっ! やっと喋る余裕出てきたんだ~ !よかった!」
と言いつつも相変わらず容赦がない。【時間軸認識速度上昇】を使ってるのに、もうそばにいて、棘棍棒が今にも当たりそうだ。けれど……。
「スキル 逃避攻撃。アイススピア」
床に手を触れ、バク転し、避けるとともに、攻撃する。
私が触ったところには二十メートルくらいの氷の先が尖った柱ができる。
しかし、それを棘棍棒で軽く殴っただけで粉々にするカレン。
やばい。このままだと殺られる。いや、死ぬことはないんだけど。
なにか。状況にあった攻撃を教えてくれるスキルないの!?
【最強スキル 参謀を世界の本棚とのリンクによって、取得】
早速使ってみよう。この際、何スキルかはもうどうでもいい。戦闘経験のない私にはこのままだと不利だ。
(最強スキル 参謀)
【参謀 戦略の作成が完了。オートモードに入ります】
【スキル 逃避攻撃によるアイススピア】
自分の体が勝手に動く。
迫りくるカレンの攻撃をよけながら、さりげなく道のように床に手を触れ、氷の道を作る。
【例外スキル 破壊神を行使】
ちょうど真ん中に来たところで、床に軽く拳をぶつけると、強固な床は割れ、強大な波動を生む。
さすがのカレンも吹っ飛ばされた。そして、私も反動で飛ばされる。
これは迂闊に使えないスキルだ。軽くぶつけただけなのに、この威力。
【スキル 身体強化を行使】
【スキル 時間軸認識速度上昇の上限を解放。スキルランクが25に上がります】
身体強化によってより速くなった体と共に、時間軸認識速度上昇の上限が解放されたため、一瞬でカレンの後ろに回り込む。
【例外スキル 子飲神を行使】
カレンの背中に手をかざし、周りにあるオーラを握りしめる。
そして、最低限動ける魔力だけを残し、【子飲神】によって魔力を吸い込む。
激しい音を立てて、海色のオーラは私の手に吸い込まれていく。
吸い込み終わって拳を開くと、結晶化された海色の魔力が手から零れ落ちた。
魔力の大幅な減少によって、カレンがへたり込む。
「っ~~。もうっ! 降参!」
カレンからの降参を受けて、遊びは終わったのだった。
【参謀】も終了した。
「割られてたら、もう無理だけど、割れてないし、これなら食べられそう」
突然、カレンが結晶化された魔力を食べ始めた。
びっくりして二度見してしまう。
「それにしても……、さっちゃん強いよー。魔法なしだったとはいえ、さすがにこんな負け方するなんて思ってもいなかった! 何個スキル取得したの?」
「いや……、そんなことより、それ、食べていいの?」
今まさにカレンが食べている結晶化された魔力を指さして尋ねる。
食べながら、カレンが教えてくれる。
「粉々になっていなければ、元の体に戻すことは可能だよ! それにしても、魔力を吸い取って結晶化なんて、世界で過去を合わせても両手くらいしかいないと思う」
「……すごいの?」
「うん。すごいよ!」
まあ、異世界転移あるあるのちょっと強い程度だと思うし、普通か。
最近だと脇役までものすごく強いし。……アニメの中では。
それにしても疲れた。もう疲れない体が欲しい。
【スキル 疲労無効を取得】
おまけみたいな感じで新しいスキルを取得した……。
これで、今回取得したスキルは、普通のスキルが二個、レアスキルが一個、最強スキルが一個になったわけだ。
合計で四個か。
「おーい。ちょっと覗きに来たが、どうなって……は!?」
魔王がお茶を持って第三訓練場に来た。
が。
鬼神が暴れても壊れない第三訓練場が大破、五大幹部のカレンは疲れてへたり込んでいるというところを目撃して、固まってしまった
その後正気に戻り、大きなため息をつく。
「あのなぁ……」
呆れた顔に手を当てて、私とカレンの前に座り、怒るわけでもなく諭してきた。
後先考えずに強き者が技を出してはいけないとかなんとか。
ごめんなさいって……。
「疲れているだろうと、お茶を持ってきたんだが、持ってきて正解だったな。カレンはその結晶化された魔力を溶かして飲むといい」
すっかり冷めきってしまったお茶を簡易スキルで温め直し、お茶を汲んでから立ち上がると、なにやら時間軸をいじって破壊された第三訓練場の後処理をしていた。
どこまでもご迷惑おかけしました。反省してます。
「カレン、そろそろ回復したか?」
魔王がそう聞いた。
カレンはちょうどお茶を飲みほし、元気いっぱいに立ち上がった。
「はい!」
「仕事の話がある。あとで執務室まで来てくれ」
「かしこまりました」
作業を終わらせたらしい魔王がこっちへ向かってくる。
破壊された第三訓練場は綺麗に元通りだ。
さすがは魔王。
訓練場を出ようとしていた魔王がふと振り返る。
「これから、城下町を視察するつもりなんだが、予定がないならさっちゃんも一緒に来るか?」
予定……、行き当たりばったりな始まったばかりの異世界生活にある方がおかしい。
さっきまでは休みたいと思うほどの疲労に襲われていたけれど、【疲労無効】を手に入れたことでその必要もなくなり……。
一言で言って、暇だ。
強いて言うなら、お腹が空いたくらい。
しかし、陰キャの性質的に、引きこもりたいし、外出るの嫌だ。
そんなことを考えてるなどまるで知らない魔王がこんなことを言う。
「ついでに城下町でランチにしよう。おすすめの食堂があってな。食後のコーヒーがうまいんだ」
食後のコーヒー?
そう、それは私の好物の一つ。
この時点で私の脳内秤は、お出かけ側に傾いた。
「行きます!」
欲のままに即答したって、いいじゃないか。人生楽しんでなんぼだ。