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第五話 クリソベリル王国の五大幹部

 ちょうどカレンが戻ってきて、皆で食堂に向かった。

 ああ、晩御飯はなんなのだろうか。お昼にあれだけ食べたのに、もうお腹が空いている。

 魔王城のご飯……なんて恐ろしいんだ。このままでは太ってしまう。

 なんて考えている間に食堂についた。

 魔王が、忠実に後ろを歩いていた、カレンやキルト、羽の生えたじじに言う。


「さて、カレン、キルト、ベルゼブブ、今日は仕事を早く終わりにしていいぞ」

「「ということは……、ご飯一緒に食べていいんですか!?」」

「ああ、もちろんだ」


  カレンとキルトが同時にそう言って、お互いの足を踏みあいながらも喜んでいる。羽の生えたじじは「ふふっ。相変わらず、魔王様は寂しがり屋で」と言って笑っている。


「フランケンシュタイン、お前はどうするんだ?」

「わしは~、研究室に戻りますよぃ」

「わかった。今日はありがとうな」


 変な走り方でフランケンシュタインが、廊下を走っていく。

 つかみどころのない人(?)だなぁ。

 全員がどうするか決まったところで、席に座る。


「今、来ました」


 椅子がフランケンシュタインの分を抜いても1個多いと思ったら、リーナの椅子だった。

 どうやら、【スキル 思念伝達しねんでんたつ】で、魔王が呼んでいたらしい。

 仕事以外の連絡は思念伝達で行っているのだとか。

 全員が席に着いたところで、カトラリーと飲み物が運ばれてくる。


「「わぁ~~~~!」」


 今日の晩御飯は、バターロールパンに、スープ、ステーキ、サラダらしい。

 美味しそうすぎる。

 もう、厨房の方からバターの匂いが……鼻を抜けて。このパンは絶対ふかふかだ。

 カトラリーだけ置いてあるのが余計に腹に響く。

 そして、まず私以外の全員にワインが注がれる。


「それじゃあ、本日の美味しかてに感謝して」

「「いただきまーす」」

「いただきます」


 大切だからもう一度、”私”以外はみんなワインを飲んでいる。

 どうせ私は未成年ですよ。

 年齢を教えた覚えはないけど、多分見た目でわかっているのだろう。私の席には、ワインに似た色のぶどうジ ュースがちゃっかり置かれていたのでそれを飲む。

 濃くもすっきりとしたぶどうジュース美味しい!


「さっちゃん。もう知っているだろうが、一応正式な形で紹介をしよう」


 ワインを片手に持ったまま、魔王が言う。

 正式な形……? どういうこと?


「まずは、カレン。カレンは魔王付きメイドでもあるが、実際は我がクリソベリル王国の五大幹部の一人だ。うちの隠密おんみつ部隊の隊長でもある。普段は天真爛漫てんしんらんまんだが、仕事になればちゃんとするから、大目に見てやって欲しい」


 五大幹部……。結構凄い立場の人だったんだ。

 カレン自身は人の話など聞かず無心にワインを飲んでいるけれど。


「次にキルト。キルトも魔王付き執事だが、同様に五大幹部の一人だ。そして我が王国の騎士団長……とは言いつつ、副団長に任せっぱなしで俺が指示しなくても、よく俺の傍にいるな。カレンと一緒にいる時は喧嘩っ早いが、戦闘になれば誰よりも冷静で合理的だ。考えられないだろうがな」


 そしてまた、キルトも浴びるようにワインを飲んでいて、話を聞いていない。

 魔王がいうには、「鬼神は基本的に無類の酒好きでな。その代わり酔いから冷めるのも早いから安心してくれ」らしい…。


「そしてリーナ。彼女は宮廷魔術師筆頭だ。同じく五大幹部の一人だな。小さく見えるが、これでも千年は生きている大妖精と魔法使いのハーフだ。妖精と人のハーフは、親から生まれるのではなく、親の融合によって生まれるから、自我が生まれてからの年齢の区別は難しいくてな。親の年齢を実年齢とすることが多い。怒るとえげつないから怒らせないほうがいいぞ」

「つまりは千年越えの婆って言いたいの? 怒らせるとえげつないってどういうこと?」

「いや、そんなことは言ってない! 誤解だ!」


 融合って…、想像するのやめよう。グロそうだし。

それにしても無表情で怒りを醸し出すって怖い。見た目ロリなのになぁ。

 ほかの人よりも座面の高い椅子に座ってるロリっ子妖精に怯える魔王って。

 ぶどうジュースをグビっと飲みながら観察する。


「最後にベルゼブブ。五大幹部のまとめ役で、先代から仕えてくれている一番の古株だ。悪魔族の中で二番目に偉いのだが、なぜか昔からうちの国にいる。王の側近であり、俺の幼少期の世話係でもあるな」


 羽の生えたじじ……もといベルゼブブさんは視線に気づくと、胸に手を当てて、頭を下げた。

 こちらも頭をペコリと下げる。

 ん? 最後? 五大幹部ってことはもう一人いるはずだ。なのに四人しか紹介されていない。


「四人しか紹介されていないですけど、五大幹部じゃなくて四大幹部じゃないんですか?」


 魔王は苦笑いをしながら、


「それがあともう一人の奴は、今この国にいないんだ。帰ってきたら紹介するから待ってくれ」


 と言った。

 五大幹部とはいえ、仕事は大変なんだなぁ。

 ちょうど料理が運ばれてくる。てっきり、フルコースで出てくるのかと思ったら一気にすべて来た。


「一個一個持ってくるのは使用人にとっても大変だからな」


 驚いているのを見かねて、魔王が教えてくれた。

 日本人として西洋のテーブルマナーとかに疎いのでとても助かる。


 まずはお待ちかねのパンを……。

 おぉ。ちぎるとふわっと蒸気が。温かい。

 口に入れるとバターの塩気とロールパンの柔らかさ、パンのふわふわ食感。

 ああ、美味しい。


 この穏やかな黄色。コーンスープか。

 まずは一口飲むと、さらさらとしたスープの甘みが口の中に。

 まろやかな味の良きことよ。


 ステーキはナイフで切ると肉汁じゅわぁ。

 ソースにつけて食べる瞬間がたまらん。

 ん゛~~~~。お肉の旨味がぁ~~~~。


 そして、合間に食べる野菜の新鮮さがとてつもなくいい。


「一応、紹介しておこう。俺は、ルシウス・クリソライト。この国を治めている魔王だ。よろしく頼む……って聞いてないな」


 ああ、美味しい。異世界最高。この国のシェフありがとう。めっちゃうまい。

 魔王のことなんてどうでもよく、私はおいしい食事に舌鼓したづつみを打っていたのだった。


「……ん゛ん゛。そろそろ本題に入ろう」


 魔王の一言によって、全員の意識がご飯から話に変わった。

 魔王は、深く息を吐いてから、話始める。


「とりあえず、この世界について話していくとするか。


 ——三日月を横に倒したような形のこの世界は、三つの区分に分けられる。地を二等分した左側が魔界、右側が人間界、上空の孤島すべてが天界となる。


 天界は唯一天空にあるため、人間界や魔界とは毛色が違い、基本的には関わってこない。ただし、年に何度か、種族の境なく、断罪と称して人や魔物をさらう。その後、戻ってくることも戻ってこないこともあるが、記憶は抜き取られており、攫われたものは何も覚えていない。

 この神族から返されることを帰還きかんと呼ぶ。人族は攫うのが神族ではなく魔族だと思っているため、魔族から救ってくれる神族を主とし、あがめている。


 こうしてこれまでに起きた人族対魔族の戦争の数は数えきれないほどに及ぶ。

 そんな中で最終兵器として人族が生み出したのが、勇者召喚の儀式であった。

人族は異世界人を兵器として扱ったが、魔族は違った。交渉してもらう人材として扱った。これがよりことをややこしくし、今は世界全体で休戦となっている。


……つまりは、彼、馬場鹿太郎は人間から徹底的に魔族が悪だと教えられている可能性が高く、こちらの話を聞かないのは、彼の性格だけではないはずだ」


 壮絶そうぜつな世界事情と共に、この世界の闇を見たような気がした。

 魔王は下を向いていた顔を上げて、話し出す。


「そうしてここ二年前から、あの勇者が度々(たびたび)こちらを襲撃(しゅうげき)してくるんだ。しょうがないから、倒して傷を回復させ、途中の危険性のない草原に帰している。今回でちょうど十回目だ」

「はぁ?」


 いや、しんみりした空気から一転、つっこみ祭りなんですけど。

 さすがに私も頭を抱える。

 夜勤のメイドさんが、食べ終わった食器を片付けてくれて、またブドウジュースとワインだけのテーブルになったところで、こっそりとため息をつく。


「普通に国に帰せばいいんじゃないんですか? なんでわざわざ草原に置いてくるんです?」

「役立たずとして帰らせては勇者がかわいそうだろう?」

「じゃあ、そのまま勇者を人質に相手国と対話を図れば……」

「人質だなんて、そんな非魔族的なことはしない」


 だめだ。優しすぎる、この魔王。しかも私が言うことにいちいちきょとんとしている。

 というか、非魔族的ってなんだ。非人間的みたいな感じなのだろうか。

 魔王は珍しくきつい目をして、どこでもないどこかを見つめて言う。


「俺は、絶対に誰も傷つけない。傷つけさせない。そんなこと、もう二度とあってはならないから」


 薄々気づいていたけれど、どうやら武力行使ぶりょくこうし系は、使いたくないらしい。

 その言葉を聞いてここにいる幹部はみんな微笑む。

 しかし、素朴な疑問が頭に浮かぶ。


「でも、人間が休戦を無視して、この国を襲ってきたらどうするんですか?」


 キルトとカレンが答える。

 酔っているせいか、笑いながら。


「一国くらいなら大丈夫だ。魔王様は()()()()()()()しているからな」

「そうそう、スキルランクももうすぐカンストだしね」


 どうやら、この能天気魔王は最強のようだ。

 魔王が魔王たるもの当たり前だという顔をしていることがすべてを物語っている。


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