第十三話 領主になる準備と事件
「この度、領主に拝命させていただきました、サチ・キトウです。よろしくお願いします」
「駄目ね!」
「う~ん、安直……かな?」
元コミュ障がここまで言えただけ十分マシだと思うんだ。
現在六月。外は雨が降っていてじめじめ、屋敷の中は私の領主としての宣言が下手すぎてぐだぐだ。
領地化することが決まってから、まず木造の小屋を、石造りのちゃんとしたものに建て替えて、役所兼領主の屋敷とした。資料やらなんやらを置くのに場所が必要だったし、領地のシンボルを作らなければならなかったからだ。
ちなみに、私が王宮にすぐに帰れるように魔法陣もある。
「そういえば、交易路の整備の方はどうなってるの?」
この空気を変えたくて、話題をそらす。
交易路の整備は、国の予算から捻出してもらえることとなった。
ただし、あくまで一時的に、であり、整って通行税を取れるようになったら、国に返さなければならない。つまりは借金だ。
予想では多くの国がこの交易路を使うことになるため、お粗末なものではいけない……という理由からの。
「順調みたいよ。なんか、雪男も雪女も頑張ってくれてるみたい。でも、一番戦力になってるのはトロールらしいわ」
「へー」
「それにしても、まさかドワーフまでついてくるなんてね」
私の領主としての宣言原稿(書き直させられてもう二十三回目)を見ながら、器用に会話するシャーロット。
マテオは、嬉々として現場の様子を見に行った。雨の日の防御服着る必要がないことが、最高にストレスフリーらしい。
「おかげで早く領地自体の整備も早く終わりそうだわ」
隣国の村民、数百名は、主に雪男と雪女……つまりは氷人に、数十名のトロールとドワーフ、エルフで構成されていた。
ドワーフの技術に、トロールの力、氷人の細かな作業、エルフの頭脳のおかげで、都市化が急激に進んでいる状態だ。
最初は何人か私が領主になることを反発してきた者もいたが、精霊の宝箱の管理者だからしょうがないことを伝えると、みんな急に大人しくなった。
「サチ様ー! こちらの書類のサインを……」
あとは、前に魔王に捕まった泥棒改めウェイルブが、知らない間にそいつらを絞めている。
おじさんかと思ったら、実はまだ二百三十歳。気苦労に餓えで老けて見えていただけらしい。(この世界での年齢は基本的に元の世界の年齢を十倍したもの)
領地に引っ越してきてからは、完全に若者だ。氷人基準での血色のいい肌、溌溂とした笑顔。
氷人は、種族的に、白い髪に白い肌、薄青の目で見分けがつきづらいけれど。
「はい、これでいい? ただ、ここの勤務時間の短縮ってできない? 交代制とかで」
「交代制とかですか……。ちょっと考えてみます」
「失礼しました」と言ってウェイルブが執務室を出ていく。
よく働いてくれるし、正式に領地と定められた後も何か役職についてほしい。
「ふぅん……。ま、及第点ね。これでいいと思うわ!」
「え? 本当に……? いいの!?」
「いいって言ったでしょ! さすがに二十三回推敲すれば十分よ」
厳しいシャーロットのチェックが終わった……それはつまり。
やっと領地を見て回れる!
「ほら、さっさと行ってくれば? 外に出たくてしょうがなかったんでしょ」
「……」
「って、もういない!? ちゃんと傘さしていきなさいよ!」
この三日間仕事だらけで、屋敷と王城を行き来以外、外に出れなかった。もちろん休憩はあったし、魔物労働基準法に則った仕事量だったけれど。
大きな伸びをする。
林だった土地は、整備されて石畳に。大通りを中心に、お店になる予定の空き店舗が並ぶ。
ちょっと路地に入ると、住宅街。
そのまま住宅街を抜けると、畑とか水車があるちょい田舎になる。
「あれ? もう仕事は終わったのかい? 領主様」
「うん。マテオは?」
「交易路の方の進み具合は確認してきたからね。温泉の方を見に来たんだ」
さすがは精霊の宝箱。とても土地が豊かだ。
最初に管理者になった場所の奥に、温泉。次に管理者になった土地には鉱山があった。
山に鉱山に川に海。全制覇だ。
ここまで早く立派に領地を整備できたのは、勿論領民の頑張りもあるけれど、自然の恩恵によっても大きい。
「マテオ様にサチ様!」
「進み具合はどう?」
特に温泉は、街まで引いてきて、大きな銭湯を作る予定だ。
エルフとドワーフの共同制作によって、もうすでに半分くらいまで温泉が引ける状態になっている。
すぐに来てくれたのは、責任者の二人だ。
ドワーフの方は、普通にちっちゃいおじさんで、エルフの方は、白くて長い髪に、エルフ耳。青い目の長身美女。
「いやー、シャーロット様の発明品、自動温度調整機のおかげでスムーズですよ」
「ええ。温泉の熱と氷人の能力を利用しているから低コストですみますし」
ここでも役に立つシャーロット。ただのツンデレじゃない。温泉を引くって話をしたら一日で作ってくれた。天才すぎる。
しかも部品は鉱山で取れたものを使ったから量産可能だとか言ってた。
「なら良かった。あと何日くらいで、銭湯まで引けそう?」
「あとー、一週間くらいですかね?」
「そうね。私もそう思います」
ただ、どうしてもとてつもなく大きい岩のせいで配管を邪魔されているらしく、私の腕力と握力でぶち壊してきた。これでよし。
とりあえず、それ以外は順調そうなので、次は海の方へ行く。
土地的に考えると、王都に近い方に、交易路と領主の屋敷があり、進んで右に温泉と樹海。左に鉱山、川。そのまま正面に進んで海という感じだ。
領地が安定してきたら、漁業もやろうと目論んでいる。今のままだと、領民も足りないし。
「そういえば、この海ってなにか住んでる魔族とかいるの?」
「いるよ? ただ、協力してくれるかどうかはわからないけどね」
「どうして?」
マテオが顎に手を当てて、決めポーズしながら細かいことまで教えてくれる。
ありがたいけど、見た目がうざい。
マテオの電話が鳴る。
「なんだい? ああ、シャーロット嬢。……今かい? 今は海だけど……わかったよ」
どうやらシャーロットからの電話らしい。
なにやら緊急事態が発生したみたいだ。マテオの顔が青ざめていく。
「急用だ! 屋敷に戻らなくては! 一人で大丈夫かい?」
「え、うん。何があっ……」
気が付くと、もういなくなっていた。
おそらく、蝙蝠の姿になって飛んでいるのだろう。
「何があったのやら」
深く考えずに、そのまま鉱山に向かおうとしていた、その時だった。
「っつ!?」
首筋に殺気を感じた。
「スキル 逃避攻撃。レイン」
相手に傘を投げつけ、隙を作り、逃避攻撃を発動する。
レインは、振っている雨を集約して、水の柱を作る技だ。レインの水圧によって、敵は押しつぶされるはずだった……のに。
間一髪で避けられた。敵はなにやらぶつぶつと呪文を唱え、雷雲を発生させる。
けれどその雷を避けたところで、後ろに人がいることに気づく。
死ぬ。
本気でそう思った。
「っ!」
痛くない。代わりに魔王が攻撃を受けていたから。
なんで?
考えている間も、鮮血が、魔王……、ルシウスの服を染めていく。
ルシウスは、負傷した腕を押さえながらも形勢を整えようと、まずは一人、首筋を叩いて、確実に気絶させる。
「最強スキル 慈悲神」
この場にいる私とルシウス以外が、全員気絶する。
「……」
「単なる熱失神だ。雨も降っているし、命にかかわることはない」
「……何が起きてたの?」
「とりあえず、詳しいことは安全な場所に戻ってからだ」
屋敷に戻ってくると、シャーロットとマテオが駆けつけてきた。
会議室にはリーナとキルトもいて、全員で状況を話し合う。
マテオは死ぬほど謝り倒しているし、シャーロットは敵を結界装置で閉じ込めていた。
リーナが回復魔法で、ルシウスの怪我を治している。
「……つまり、マホガニー連邦国が、この領地のことと、魔王側が勇者を召喚したことに気づいた。それで、襲ってきたということだ」
「連邦国側には、召喚魔術が使えるものがいるみたい」
「やっかいだな……。カレンとも連絡がつかないままです」
「今のところ、領民に被害は出ていないのが幸いだわ」
私は話を聞くことしかできなかった。
ルシウスを中心に、リーナやキルト、シャーロットが状況報告をする。
「おそらく調査と確認、あわよくば殺そうとしていたようだな」
「屋敷に侵入してきた者はおとりということだね」
「その可能性が高いだろうな」
このまま、領地にできるのだろうか。こんなに危ない状況なのに。
昨日まで、全然考えていなかった。他国から攻められる可能性なんて。
「だが、ここは予定通り領地化する」
ルシウスの発言にここにいる全員が驚く。
「安心してくれ、俺が話してくる。元々、連邦国側から話し合いの通達はあった。カレンの身も心配だしな」
……なんだろう、この胸騒ぎは。
魔王が強いのはわかっているのに。




