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第十二話 どうやら私は領主になるらしい

 私は王城に戻ってきた。

 こういうのは早めに報告した方がいい……ということでシャーロットとマテオが、すぐに報告書を用意してくれた。仕事ができる二人だ。

 というわけで、執務室へ。


「ああ、さっちゃん。おかえり。村はどうだった?」

「その件なんですけど……、これ、シャーロットとマテオからです」

「もう二人と仲良くなったんだな。よかった、よかった……って、は?」


 器用に会話しながらも報告書に目を通す魔王。しかも読むのが異様に速い。

 速読ってやつなのだろうか。

 そして地味に気になるのは、机の上にある大量の書類。大きな判子。散らばったインク。

 めちゃくちゃ忙しい魔王の生活がうかがえる。


「これは……、各省庁の長たちと話さないことには決められないな」


 たった十秒で五十ページはある報告書を読み終わった魔王は、困った顔をしてそう言った。


 講義の中でベルゼブブが教えてくれたが、この国は、表向きでは王政だが、実際は議会政治らしい。なぜこんな状態かというと、魔族の中には、力こそすべてという輩もいるため、魔界では共和国に名を改めてしまうと、他国から攻められる可能性が高くなる。けれど、

「だからと言って、すべてを王が決めてしまうのは悲しいだろう。民がいてこその国なのだから、民が政治の方針を決めるのも当たり前だ」

 と魔王本人が即位したときに、この仕組みに改正したそうだ。

 だからまだまだ政治は不安定だし、人間界は勇者を送ってくるしで、大変らしい。


「明日緊急会議を開いて話してみよう。……国際関係にまで発達しそうな案件だな」


 この国で王は、各省庁からの意見をまとめ、民からの承認を得た上で施行を宣言する役割。そして、責任を負う代わりに、政治に参加もさせてもらっているが、権限は各省庁の長と同じしかない。つまりは議長兼天皇って感じだ。


「魔王様。だからと言って、徹夜は駄目ですからな」

「……わかっている」


 目が泳いでいる魔王。どうやらベルゼブブには頭が上がらないようだ。

 

「カレンはどうだ?」

「どうやら、少々手間取っておりまして」

「そうか……。あ、すまないさっちゃん。もう帰って大丈夫だ」


 そういうと、魔王はまたベルゼブブと話し始めた。

 お仕事、お疲れ様です。



 翌日のお昼頃。

 私はいつも通り講義を受けていたのだが、魔王がクッキーを持ってやってきた。

 ちなみに今日の講義から領主についても学び始めた。つまりは……。

 もう慣れた。この流れ。


「あそこは領地化することになった。領主を頼む」

「でしょうね」


 さすがにあの大きさを村とは言えない。人口的には村以下だけど。


「もともとは隣の領地の中の村の一つに加える予定だったんですよね?」

「ああ、そうだ。しかし、ここまで大きい土地になると……」

「さすがに村扱いはできないと」

「そういうことだ」


 困った顔で魔王が頭を掻く。

 見た目的にはまだまだ若いのに苦労ばっかりで……、見ていて不憫。

 いつか過労で倒れそう。

 

「……大変言いずらいのだが」

 

 魔王が頭を抱えている。厄介な臭いがする。


「オブシディアン帝国の村民を引き取ってくれないか?」

「へ?」

「この間出かけた時の泥棒が住んでいた村の民を、領地で引き取ってもらいたいんだ」


 すまない……と言いながら、魔王は頭を抱えっぱなしだ。

 あまりにもこれは予想外。

 話を聞くとどうやら、あの泥棒の住んでいる村は土地が瘦せていて農業に向かないうえに、冬の寒さが厳しく、年々森の動物も減っているらしい。しかし、民が違う土地に移住しようにも移住する当てがない。そして国全体的に凶作の年。

 あの泥棒の件も合わせて、オブシディアンの魔王に問い合わせたら、

「別にどうでもいい。その泥棒もそっちで好きにしてくれて構わん」

 とのことだった。

 そんな返答にうちの国の魔王……ルシウスは、怒り狂った。

「そんな扱いを民にするなんて最低だ、この糞野郎。俺がその民を引き取る! 代わりに関所の件を承認しろ!」

 と言い放ち、関所の件の了承を得た代わりに、約数百名の民を引き取ることになった。


「オブシディアン帝国ってどんな所なんですか?」

「雪国だ。夏は暑いが、冬は雪の降らない日がないほど寒い。あそこの魔王はな……いや、なんでもない」

「へぇー」


 魔王は深い深いため息をつく。

 雪国の村の民……。どんな魔物なのだろうか。雪女とか雪男だったら、こっちで住めないと思うんだけど……。

 まあ、ちょうど労働力は欲しかったし、別にいいか。


「この通りだ」


 魔王、二度目の土下座。プライドはないのか。プライドは。

 ベルゼブブが、そっと自分で自分の目を覆っている。いや、いつも通り叱りなよ。


「俺のフォローをさせてしまって大変申し訳ないが……」

「わかりました、わかりましたから顔を上げてください」


 うっ。なんなんだ、そのハチ公とかみたいな眼差しは。


 こうして、私は領主になった。

 村長になる予定から、領主になることになるって……仕事の規模も責任も全然違うんですけど。

 一応私、十六歳です。

 

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