第十一話 精霊の宝箱の管理者
(【アクセス 最強スキルの本】)
【最強スキル 一億人に一人しか取得できない世界に一つしかないスキル。ユニークスキルとは違い、所有者が死亡しても消滅せず、世界の本棚が選ぶ次の所有者に引き継がれる】
なるほど。これはシャーロットが驚くのも無理がない。
面倒なことになりたくなくて、気づかないふりしてたけど。私って、勇者超えるほどの規格外なチート所持してるんじゃ……。
いやいや、異世界転移者だし! 普通だ、フツー。
脳内会議が始まりそうなレベルだったので、強引に勘違いだと思い込んで済ませる。
「あー、うん。持ってるけど、異世界転移者だから。普通だよ、普通」
「ふ、ふーん。まあ、余計な詮索はしないわ! 誰にだって言えないことあるもの!」
シャーロットは、どうよ! 私お姉さんでしょ! みたいな感じで、こっちを見てそう言った。
はっきり言って助かる。
小説とかで、チート主人公を読むのは面白いけど、自分がなるとしたら話は別だ。
「ごめんよ!! 遅れてしまって……って、え?」
せっかくまた完全防備したのに、急いで来たらすでに敵は倒されていた……という状況のマテオ。
心中お察しいたします。
「このクマを森に戻したら、早く今後の村の予定について話しましょ」
「そうしよう」
というわけで、呆然としているマテオを置いて、私とシャーロットはさっさと戻ろうとする。
またもや、シャーロットの発明品、簡易転移装置でクマは近くの林の奥に飛ばしておいた。
小屋に入って、お茶も温めなおして話を再開する。
「まだ入れていない土地ってどのくらいあるの?」
実はいうと、この土地の大きさについてはよくわかっていない。精霊の宝箱だったせいか、土地があやふやなのだ。
妖精の宝箱となった場所は、条件が揃わないと入れなかったり、突然消えたように見えることもあるらしい。そこで、調査も兼ねて派遣させたはいいものの、それでも入れない場所が未だにある。
「そうね…。あと、四か所くらいかしら。そこまで大きくはないと思うのだけど」
「そこを解除したとして、資金はどうする? 国から出るお金だけじゃ足りないと思うけど」
「それなら、僕にいい案があるよ」
やっと、復活したらしいマテオがいつの間にか話に参加していた。
いい案とは一体?
マテオは地図を広げる。そこには、三日月型の土地と諸島が一緒に描かれていた。紅玉皇国、オブシディアン帝国、ファイヤーアゲート諸島……。ほかにも三つの国名が書かれている。
所々黒で塗りつぶされている場所もある。
クリソベリル王国の隣は、魔界側のオブシディアン帝国と、人間界側のマホガニー連邦国だ。
マテオは、クリソベリル王国内の黒で塗りつぶされている土地を指さす。
「ここが、今僕たちがいる精霊の宝箱だ。そして両隣には隣国の関所。意味が分かるかい?」
「?」
「つまり、通れないから迂回しなければいけなかった土地が開いたということになる。交易路を整備して、通行税を取れば、資金は簡単に手に入るということだよ」
ふむふむ。なるほど。
感心していると、シャーロットが机を叩く。
「だーかーらー、まずは土地がどのくらいかわからないと、どうやって報告書作っていいか、わからないじゃない! そんな資金なんて後で考えましょ! さ、行くわよ!」
悲報、マテオ、本日三度目の完全防備。しかも、さっき脱いだばっかり。
通行税をかけるとなると、関所が必要なわけだから、魔王に申請しなきゃならないな。
悲しそうな顔して着替えているマテオを後目に考える。
そんなこんなで、マテオが着替え終わったので、一つ目の入れない場所へ。
どうやら森のようだ。
「まずはここ! ここだけはどうしても通れなくて……ね?」
シャーロットが入ろうとすると、術式が展開され、元の場所に戻される。
マテオが入ろうとしても同じだ。
「へえ。面白そう」
というわけで、さっそく入ってみる。
【警告 精霊の宝箱跡地です。これ以上進むためには、管理者となる必要があります】
【告 サチ・キトウは条件を満たしています】
なるほど……。条件ってなんなんだろう。満たしてるみたいだからいいけど。
……んで、条件満たしてるのはわかってけど、なり方って何?
(アクセス 精霊の宝箱跡地管理者の本)
【精霊の宝箱跡地の管理者 場所によって異なるが、基本的にレベルが80以上であること、精霊を使役していることが条件とされている。管理者になるには、大地に手を置き魔力を同化させなければならない。大地の守護者を認定することができる】
世界の本棚の言う通りに大地に手を置く。
置いた瞬間、温かい何かが手を伝って流れ込んできて、胸らへんで消えた。
目の前に現れたのは、地図。真ん中に大きな石碑があるようだ。
「さっきから、何やってるの?」
「管理者にはなれたのかい?」
「多分、なれたと思う。ただ、大地の守護者? を認定しなきゃいけないみたいだから、森の奥の石碑まで行かなきゃ」
というわけで、みんなで石碑まで向かったの……だが……。
いつまで経ってもつかない。道は合ってるはずなのに。
「ねえ! 本当に石碑なんてあるの!?」
「ある……はずなんだけど」
確認する術がない。あの地図も一瞬で消えてしまったし。【疲労無効】だから、疲れはしないけど、歩くのめんどくさい。
歩かなくても、移動できる方法ないかな……。
「あんた、何か精霊とか使役してないの?」
へばっているシャーロットが言う。その後ろで、できるだけ日陰を歩いているマテオ。
そういえば、ついさっき精霊を使役したことを思い出した。
どこに行ったのだろう。ここに着いてから姿を見ていない。
とりあえず呼んでみよう。
「おーい、クロー」
上空から烏が一羽、こっちに飛んでくる。
このかぎ爪、クロで間違いない。
「三人くらい乗れる大きさになって」
周りの木々をメキメキと倒しながらもクロが大きくなる。
その姿にシャーロットとマテオは唖然。
「君の……精霊なのかい?」
「え、うん。どうぞ乗って」
二人が乗ったことを確認して、クロが飛ぶ。
言う通りに動いてくれる。何も考えずに使っていたけれど、言葉がわかるのだろうか。
森から石碑まで、約7km。これで半分ということは、おおよそ14㎞くらいの森か。もう樹海だな。
石碑を見つけたということで、クロが急降下……ちょっと待って!!!
「ギャーーーーー」
降りた頃には私はぶるぶる震えていた……というか半泣きだ。
別に高いところは怖くないけど、急降下となると話は別だ。
怖い。嫌だ。怖い。
フリーフォールとかバンジージャンプとか大の苦手な私。
あと、お化け屋敷とか嫌い。いざというときに攻撃できないのに驚かされ続けるって怖い。
「うぅぅ……」
「大丈夫かい?」
「うん……」
マテオが心配してくれる。シャーロットはアトラクションみたいで楽しかったらしい。クロにもう一回! とキラキラした目で言っている。私以外の言うことを聞くつもりは無いようで、クロは知らんぷりして、私を心配そうに見てくる。
「これね……。ひどく古いわ」
そこにあったのは巨大な一枚の石碑。苔むしていて、よく見ると魔法陣が描かれている。
とりあえず、手を当ててみると、さっき大地から流れてきた魔力が、石碑に吸い込まれていった。
(管理者をサチ・キトウに上書きします)
直接脳に声が伝わってきてびっくりした。これは世界の本棚の声なのか、石碑の声なのか。
透き通るような女の人の声だ。
(石碑の守護者設定が完了しました)
完了した瞬間、光の粒が地面から湧き上がる。粒は弾けては消え、弾けては消え。
石碑の周りに結界が展開されたようだった。
「どうやら終わったみたいだね」
「早く、次行きましょ! 次!」
異世界ではよくあることなのだろうか。二人はこの光景を普通とでも言うように、ここを立ち去ろうとする。
けど、私にとってはとても幻想的な光景だった。
その後の四か所も同じように管理者の上書きをして、小屋に帰ってきた。
他国の人が勝手に入れないように、シャーロットの発明品、結界展開装置を使って。
シャーロットが言うには、「これはねえ! サンプルが魔王様の魔力だから強力よ!」とのことなので、安全らしい。
「「「……」」」
もう夕方だ。王城を出てきたのは正午だったのに。
帰ってきて全員黙り込む。
「村長って言われてきたんだけど」
「知ってるよ」
「ねえ、マテオ。村ってこんなに大きかったかしら」
「いいや、こんな王城四つ分も大きくないね」
「中庭も入れての?」
「もちろんだよ」
私はどうやら、村長ではなく、領主になりそうだ。
思ったより……土地が大きかった。