第九話 JK勇者、ニート生活終了のお知らせ
少ししてから、魔王は息を吐きだすようにして、話始めた。
「今のこと……、絶対他人に言っちゃ駄目だからな。身の安全が欲しければ。俺ももちろん漏らさないようにする」
「はい?」
何がそんなにやばいのかさっぱり理解できない。
確かに151個は多いだろう。けれど、異世界転移者ということを考えれば、まったく不思議じゃない。ラノベとかアニメの人間はみんなそんな感じだし。
「普通の人族や魔族のスキル量は生涯で20だ。各国の宮廷魔術師、上位魔人で、30。魔王クラスでやっと50だ。ちなみに歴代の召喚された勇者も魔王クラスと同等か、それ以下だ。151って……、覇者クラスだぞ」
「え……?」
「理解できないだろうが、つまり君はこの世のだれよりも強い可能性が高い。今は強くなくても、じきに強くなっていく。どうせ、普通のスキル以外もあるんだろう?」
普通のスキル以外……、あの、最強スキルとか、例外スキルとかのことだろうか。……バリバリに持っている。
しかし、バレたらめんどくさそうな感じがする。
どうやって嘘をつけばいいかを考えていると、魔王は水を一口飲んで、
「言いたくないなら言わなくていい。どうせ後でわかるだろうしな」
と言った。まったく持ってその通りだ。
ちょうどシーフードカレーが運ばれてくる。
魔王が、さっそく食べようというので、スプーンを持って準備万全。
「本日の美味し糧に感謝して」
「いただきます」
スパイスの匂いが…。これぞカレーの魅力。
一口食べて、辛旨。二口食べて、シーフード。
イカやアサリ、小振りのホタテがゴロゴロ入っている。
こりこり、ぎゅもぎゅも、もにゅもにゅとした歯ごたえとスパイスの調和が最高。
これはスプーンが進む。
ちらりと、魔王を見ると、やはり綺麗な所作で食べている。
なのに、なぜかついている口元のカレールー。もはや、ここまで付くとは呪いの一種としか思えない。
「口、ついてますよ」
「え? ああ、すまない」
指摘するとやっと気づいたようで、慌てて口を拭っている。
しっかりしているようで、抜けてるなぁ……魔王。
そんなこんなで二人とも食べ終わって、食後のコーヒー。
「「ずずっ……」」
ほっこりまったり、幸せ。
ミルクを入れたコーヒー。まろやかだ。
「実はいうと、ここからが本題なんだ」
突然魔王が言う。
けれど、カレーの後にコーヒーを飲んでのんびりしている時なので緊張感はなく。
「なんですか?」
「学校に行くか、村長になってくれないか?」
「は?」
ガッコウニイクカ、ソンチョウニナルカ?
何言ってるかさっぱり理解できない。
「こちらから勝手に召喚しておいて、申し訳ないのだが、何か役職がないといろいろと都合が悪いんだ」
「例えば?」
「国民……、というか世界のほぼ全ての者が、勇者は世界を変えるものと考えている。そんな中、一人だけ働かないというのは、批判を生むだろう。もともと、勇者の生活は、民の税によって賄われているからな。最初は俺の生活費から削ってはどうかと言ったのだが、これ以上生活費を削ったら王としての威厳がなくなるから却下とリーナに言われてしまった……」
「というと?」
「このままの生活をしていたら、暴動が起きる可能性がある」
はぁぁぁぁぁぁぁ。マジか。
どうする? 私。
学校は……、正直に言って行きたくない。断固拒否だ。そりゃ制服は着てるけど、学校に行きたくて着てるわけじゃない。
かといって、村……。そんな、コミュ障の私ができるわけない……。
ん?
コミュ障……、会話……、魔物の国……、魔物会話耐性?
ステータスをもう一度確認すると、確かにそう書いてある。
「村ってどんなところなんですか?」
「妖精の宝箱と言ってな。妖精が隠している場所が世界にはいくつかあるんだが、つい最近うちの国でそれが見つかったんだ。つまり、その土地の妖精がいなくなり、管理をやめたということになる。しかし、妖精が管理していた場所は、普通の魔物では管理できない」
「村民とかって……?」
「国から二人、派遣させているだけで、ほかはまだ誰も住んでいない。ちなみに温泉があるぞ」
温泉……、そう、それは現代っ子の私が他人との関わりを恐れて、入りたくても入れなかったもの。
温泉かぁ。少し頭の中の天秤が村のほうに傾く。
「あと、シルク鳥の名産地と近いな。海もあるから、海産物も取れると思うぞ」
シルク鳥……、海産物……、じゅるり。
こうして天秤は完全に村のほうに傾いた。
「私、村長になります」
この謎宣言と共に私のたった三日の無職生活は終わったのだった。
————そうして数日間、私は執務室のとなりの部屋にて、村長になる前の講座を受けることとなった。
羽の生えたじじ……ベルゼブブさんが、丁寧にわかりやすく教えてくれた。
例えば、資金面のやりくりの仕方とか、村の整備とか、村長の役割についてだとか。
おかげで理解も早く、苦痛と思わなかった。それに、派遣されている者は優秀らしく、いざとなったらサポートするという話だった。
「勉強ははかどっているか?」
「あー、はい。一応。ベルゼブブさんの教え方が上手いので」
そういうと、魔王は得意げな顔になって、なくなりかけてたお茶を注いでくれた。
魔王が、お茶なんて注いでいいのだろうか? しかも無駄に上手い。
「なんてったって、ベルゼブブは大学で教鞭をとるほどだからな」
「大学の教授なんですか?」
「いや、臨時講師だ。ずっと昔からやっているらしい」
なるほど。わかりやすかったはずだ。
けど、魔王。側近が褒められてうれしいのはわかるけど、ずっとその顔やめてほしい。
自分がイケメンだということをわかっているのだろうか? 心臓に悪い。
顔が二次元レベルにかっこいい魔王が得意げな顔とか、アニオタなら堕ちるよ。私は堕ちないけど。
「ベルゼブブから、全部の講義が終わったと聞いているのだが、そろそろ村に行ってみるか?」
「それは構わないんですけど……」
「なんだ?」
「私が住むところってもうあるんですか?」
魔王が、きょとんとした顔になる。
「言っていなかったか? 別に生活場所が変わるわけじゃないぞ」
「へ?」
てっきり、村にそのまま住むのかと思っていた。
講義中の地形についてだと、ここから約五十キロくらいあるし。
「寝泊りはできるだけ、こちらでしてほしい。安全面というのもあるしな」
なるほど。そういうことか。確かに、整備も終わっていない土地で寝泊りは危ない。
しかし、こちらが理解したのと反対に、今度は魔王が考え事をしている。
「?」
「いや……、さっちゃんは精霊召喚に興味はないか?」
精霊召喚。よくRPGとか異世界ものであるな。
獣系だったら、ふわふわもふもふし放題か。ベッド変わりにもできるんじゃないだろうか。
「やってみたいですけど、何でですか?」
「移動が楽だったり、いざというときに情報を伝達できたり、したほうが村長としてこれからやっていくのに良いと思ってな」
「確かにそうですね」
というわけで早速召喚場所にやってきた。
まだ一週間しか経っていないけど、懐かしい。私が召喚された場所だ。
付き添いでリーナ、精霊が暴れた時のためにキルトがいる。
最近カレンが隠密部隊の仕事の方でいないので、別のメイドの人が面倒を見てくれている。なんの仕事をしているのやら。
「じゃあ、こう言ってね。我が魔力を糧として、大いなる精霊の加護を 精霊召喚」
「我が魔力を糧として、大いなる精霊の加護を 精霊召喚」
めちゃくちゃ棒読みなのに、魔法陣は朱と金の色を帯びて、大げさに光り、そして収まった。
と思ったら、目の前に現れたのは大きな黒いもの。ナニコレ。大きすぎてよくわからない。
足元の方を見ると、かぎ爪だとわかるので、鳥だろうか。
「形態を変えることもできるから、やってみれば。大きさを言うだけでいい」
「普通の鳥のサイズになれ」
そういうと、目の前の黒いのはどんどん小さくなった。
やっと、足が三本で目が金色のカラスだということがわかる。かわいくないな。
「八咫烏……、古の神鳥……初めて見た」
「俺もだ……」
みんな呆然としているが、私だけみんなのノリについていけず、ぽかん。
カラスが急かすようにつついてくる。痛い、やめろ。
「名前、付けなきゃだけど、何にするの?」
「え……」
考えていなかった。昔から名付けは大の苦手だ。
ダサくたって知らないからね。私に召喚されたのはお気の毒だとは思うが、我慢してほしい。
「じゃあ、クロで」
「は?」
「カラス、名前はクロに決定したよ」
その後の周りからの説得も空しく、名前はクロに決定。
こうして人が乗れるサイズにしたクロに乗って村に向かった……のだが。
「君は太陽のように美しい……ふっ!」
「私はあんたなんて認めないから!」
これはどういう状況なのだろうか。
村に着くなり、びっくり。
突然ナンパしてきた全身防備してる吸血鬼に、しょっぱなから喧嘩売ってきた小悪魔。
これは前途多難だ。