第〇話 覇者の番
昔々の異世界で、
疎まれものの竜と魔女がいた。
強大すぎる力は皆にとって脅威だった。
生まれ育った国を追い出され、彼らは悲しみに暮れていた。
二人はある森で出会い、そして話をした。
『世界はなんて暗いのだろう』
闇の中にある世界は、寛容さを失っているのだ。
嗚呼、今朝悲しい顔をして自殺した人を知っている。
日々の食事に困り、己が身を子に捧げた親を知っている。
つい先日生まれた子が死にかけているのを知っている。
ポツリ……ポツリと竜が言う。
ゆっくりと、ゆっくりと、魔女がうなずく。
絶望を見てきた二人は、静かに敵を見つめた。
元々、力を持ちながらも言う通りに国を追い出されたのだって、優しすぎたからだった。
拒否する力を持っていたのに、他人が好きすぎたのだ。
けれど、闘い続ける理由を、彼らは見つけた。
心優しき二人には、十分すぎるほどの闘いつづけるための理由だった。
……たった二人で闇と闘った。
暗闇は、晴れたように見えた。
けれど、晴れていなかった。
最後の最後まで闘い続けた二人は、力尽きていて。
限界だった。
そうして死に際に、覇者の番はこう言い残した。
———我が子に幸あらんことを。
それは、不確かで、人によって違うけれど、魔法のような言葉。
『 』
竜と魔女は、ずっとそれを求めていたのでした……。