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着付け師とその助手

作者: 綸子

12月28日。


仕事の収まったほろ酔いの勤め人を尻目に、私は自宅へ向かって歩きながら自分のスマホにかかってきた「先生」からの電話をとった。


「理沙ちゃーん、こんばんは、風邪引いたりしてなぁい?」


いつも通りのふわふわした先生の声がする。


「こんばんは。今の時期に風邪なんて冗談でもやめてくださいよ先生。」


私は出来るだけ早く電話を終えようと一息に言いきった。


「元気そうねぇ。よかったわ。」先生は本当にほっとしたという調子でそう言ったあと、


「でもね。無理がきくからって、あまり根詰めちゃだめよぉ。」と、いつになく真面目に付け足した。



「一生懸命なのは理沙ちゃんのいいところだけれど、こないだのお稽古のとき、ちょっと様子が変だったでしょう。」


「こないだのお稽古」の直前に、先輩方からの注意を受けていっぱいいっぱいだった自覚のある私は、押し黙る。


いつもふわふわニコニコしているのに、先生はこういう勘というか、人の心の動きに敏感だ。


「お仕事、終わったんでしょう。今日はもうおさらいなんかしなくていいから、ちゃんと食べて、お風呂につかって、良いハンドクリームたっぷり塗って寝ちゃいなさい。」


最後に指先のケアの心配までされてしまった。


「ありがとうございます。…ご心配おかけして、すみません。」

私がやっとそれだけ言うと、先生は、


「大事な相棒の心配するのは当たり前でしょ?だからね理沙ちゃん、しっかり休んで、年始のお仕事もよろしくね。」

そう言って、電話は終わった。


自宅に帰り着いた私は、狭いワンルームを更に狭くしている着付け練習用のトルソーの前に立った。


その後ろにある大きめの姿見に、トルソーごしに、疲れた顔の自分が映っている。


(こんな顔で着付けされたら、怖いよね…)


さっき電話で先生に心配された指先を見る。


最近、ケアがおざなりだったからか、ささくれができたりして見るからに乾燥している。こんな手で仕事をして、お客様の持ち物に万が一血でも付いてしまったら大事だ。


私は大きく息を吸って、長ーく吐いた。


成人式まであと2週間を切っているが、今日は1度だけ流れをさらったら寝てしまおう。指先のケアもしっかりして。


尊敬する先生に、助手ではなく相棒と言ってもらえた事を大切にしたい。


決戦の日を目前に、私は決意を新たにすることができた。

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