第45話 ステージゲート
ラルクさんの工房から試作品が届いた。
すぐさま魔法陣を組み合わせ、プロケラ先生とアートルム先生が演習場へと向かった。
私は祈るようにして演習場へと向かう二人を見送った。
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期待をもって二人を送り出したものの、結果は残念なものであった。
確かに改善こそされたものの、『第4級の魔物なら倒せる』程度の威力にしかならなかった。目標未達だ。
すでに季節は夏へ移りつつある。
初夏の爽やかな風に反し、研究室は重苦しい空気に支配された。
必死になって次の策を考えるが、もう打つ手がない。
改善案が出てこない。
私は以前設計した口径が小さい魔石銃の設計図をプロケラ先生に見せた。
進捗の無いアートルム先生を非難するようなので、先生に見せるのは躊躇していたのだが、もう今となっては検討できるものはすべて出すべきだろう。
すると、
「すごいじゃないか! これができたら完璧だな」
と喜んでくれた。
「しかし、まだこのサイズに使えそうな魔法陣は存在していません」
現段階ではハリボテと同じである。
「いや、それはそのうちアーちゃんがやってくれるだろう。まずは実物を作ってくれ。魔法陣が小型化したらすぐに使えるようにしておこう。ようやった!!」
ということで、早速製作することになった。
ちなみにプロケラ先生はアートルム先生のことを普段はアーちゃんと呼んでいる。
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しばらくして、無事に試作3回目の魔石銃が納品された。
ちなみに今回は銃身が長いため加工が難しいと言われ、600万リブラもした。
念のためプロケラ先生に確認したが、案の定、一瞬で『どんどんやってくれ!』とのいつものセリフが出た。
だんだん金銭感覚がマヒしてくる。
この魔石銃も試射では壊れるまで試験される。
ただ、アートルム先生の魔法陣小型化は悪戦苦闘していた。
もう既に季節は夏。
当初想定されていた成果を出す時期だ。
プロケラ先生は、
「しょうがない、カイちゃんの魔石銃を論文化してくれ。理論的には第5級の魔物も倒せるから、IFの高い国際学術誌でもいけるだろう」
と判断した。
「し、しかし、実際に倒した訳ではないですから、IFの高い国際学術誌は難しいと思いますが……」
本音を言えば、明らかに無理だと思う。
「いや、運が良ければ通るさ。ステージゲート通過には学術的成果が必須だからな。まずは“魔法材料”に投稿かな」
といって、プロケラ先生は譲らなかった。
プロケラ先生は基本的に細かいことに口を出さないし、自由にさせてくれる。現場の裁量は大きい。『責任は俺が取る』といって、失敗しても一切他人を非難しない。
ただ、方針だけはプロケラ先生が決定する。それは絶対だ。
先生の方針を変えるには不採択になったという事実が必要なのだろう。
しょうがないので、私は国際語で論文を執筆し、無謀と思いつつ著名学術誌である“魔法材料”へ投稿した。
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結果は予想通り不採択であった。
同様にいくつか他の著名学術誌に再挑戦したが、やはり不採択。
そりゃ実物を作ったとはいえ動作確認すらできていないのだ。
それで『完成した』といっても説得力は弱い。
編集委員による門前払いでの不採択を積み重ねるだけで、既に夏は終わろうとしている。
プロケラ先生はとうとう諦め、魔術公開図書集への投稿を認めてくれた。
“PLOM ONE”は研究の重要度を重視せず、その研究手法と結果を後世に残す価値があるかどうかを査読の判断基準にしている、ちょっと変わった国際学術誌。
研究の重要度は後世の人たちが決める、といった考え方なのだろう。
研究手法と結果に新規性・魔学的妥当性があるかが評価される。
私はPLOM ONEであればこの論文を拾ってくれそうな気がしていた。
あまりインパクトファクターは高くないが、IFがあるだけで十分だ。
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秋が終わるころ、無事に魔石銃の設計に関する論文が受理された。
ただ、あまり喜びはない。
プロケラ先生はこの成果だけで審査に臨むのだ。“探索研究”で大きな成果を出した、“本格研究”へ進む価値のあるプロジェクトだと主張しないといけない。
この審査はステージゲート審査と呼ばれる。最初は比較的多くのプロジェクトを採択するが、研究開発の各段階で審査し、徐々にふるい落としていく。
“探索研究” として採択された研究は10件あるものの、“本格研究”へ移行できるのは3件程度。かなり厳しい審査となる。
プロケラ先生は既に実験の現場から離れた人であるが、審査資料やプレゼン資料作りは職人のようにうまい。
しかし、そのプロケラ先生をもってしても資料作りの筆が進まないようだ。
四苦八苦している様子が見て取れる。
先生が無謀にもIFの高い国際学術誌に拘っていた理由はよくわかる。
……ここでの研究も1年で終わりかな――。
研究成果が出ない以上、しょうがない。
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そう諦めつつあるとき、アートルム先生が大成果を挙げた。
魔法陣の超小型化に成功したのだ。
精度の良い光学レンズを何枚も重ね、魔法陣を縮小して転写するという技術である。魔法陣の描画は紙にインクで描く手法ではなく、魔力で金属表面に非常に小さい溝を掘るといった手法が採られている。
アートルム先生が硬貨のような金属片を見せてくれる。表面はツルツルである。
しかし、アートルム先生は顕微鏡でその表面を拡大し、紙に転写したものを見せてくれた。うっすらとだが魔法陣らしきものが確認できる。溝の深さがほんの僅かであることがわかる。
紙だとインクが滲んでしまい、小さく描画するとすぐに線と線がくっついてしまう。短絡した魔法陣は暴走する。それをこのような方法で回避するとは……
この手法を使えばより複雑な魔法陣でも実装可能だろう。
相当な性能向上が見込める。
アートルム先生に脱帽だ。
これで試作3回目の魔石銃がハリボテでなくなった。
早速アートルム先生は演習場へと向かい、その有効性を実証してきた。
『余裕で第5級の魔物を倒せる威力だった。第6級も行けるかもしれない!』
とのこと。
報告を聞いたプロケラ先生も大喜びし、急ぎ、論文化した。
これは原著論文ではなく、速報として投稿。
速報は一般的に査読期間が短い。
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そして、これはなんと“魔法材料”に掲載された。
“魔法材料”はIFが40前後あるとてつもないIFの高い国際学術誌である。
これでステージゲートへ向けた成果は完全に揃った。
先生にかかればこの成果はさらにすばらしく見えるようにプレゼンされるだろう。
「よし、次の5年間で第7級と戦える魔石銃を作るぞっ!!」
プロケラ先生は鼻息荒く、資料作りに取り掛かった。
あとはステージゲート審査の本番を迎えるだけだ。
《現在の業績》
査読付き論文(国際誌):4件(うち、筆頭3件)
査読付き論文(国内誌):筆頭1件
国際会議発表:2件(うち、筆頭1件)
国内学会発表:18件(うち、筆頭6件)
受賞:1件




