第44話 試作
試作品が完成した。
でも、重い。重すぎて持てない。
屈強な兵士であればなんとか一人で持てそうな重さであるが、私には無理だ。
口径は魔石砲のように大きいのに、銃身の長さは肩幅程度しかない、ずんぐりとした“銃”である。
次は試作した魔石銃に魔石と銃弾を入れ、試射。
最初は弱めの魔力で試射するが、徐々に魔力量を増やしていき、壊れるまで実験するらしい。
しかし、実際の様子を私は見れない。
というのも、こんな危ない実験を大学ではできない。
大学から数時間ほど内陸部へ魔動車で移動したところにある、国防省のシズルノギ演習場で実施するのだ。
毎夏、一般見学も可能な軍の総合魔力演習が開催される演習場である。
国内最大だけあって、強力な魔法攻撃の演習も可能である。
しかし、通常は一般人の立ち入りが禁止されている。
プロケラ先生たちは特別な立ち入り許可を得るための3日間の研修を数年前に受けているが、私はそのような研修を受ける時間がなかった。
研修会は年に1回程度しか開催されないようだし、そもそも仮に特別許可が得られたとしても移動時間すらもったいない。
現場には1泊2日の予定でプロケラ先生とアートルム先生が行くことになった。
その間、私はさらなる小型化、軽量化の方策について検討することにした。
なにせ、私が得意としているのは魔法鍛錬。
できれば銃身を鍛造で作り、そのときに魔法鍛錬もしてしまいたい。
鋳造はどうしても巣と呼ばれる内部に微細な空洞が発生するため、そこから破壊が進んでしまう。
鍛造であれば銃身をかなり軽量化できるだろうから、銃身を長くして威力も強くできるだろう。
そのためには魔石銃の口径、つまり魔法陣の直径を小指の長さ程度にして欲しい。
それを想定し、まずは図面を引いてみることにした。
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プロケラ先生とアートルム先生が演習場から帰ってきた。
結果は『第2級の魔物なら倒せる』程度の威力だった。
やはりまだまだのようだ。
プロケラ先生は第5級の魔物が倒せるレベルを目標に掲げている。
魔石砲であればそれは可能だが、『一人で持てる重さ』というのがこのプロジェクトの肝、絶対条件である。
ちなみに、魔物の強さはA級、B級、C級という区分で、A級が最も強いと以前は定義されていた。
しかし、A級よりも強い魔物が発生するようになったため、S級が作られた。
そして、さらにS級よりも強い魔物が発生したため、ランク付けが複雑化するという事態になってしまった。
そこで、逆に第1級を最も弱い魔物と定義し、次いで第2級、第3級……とするよう改訂されたのであった。
これだと仮にさらに強い魔物が出てきても分類可能だ。
相対的な強さを表現するだけならば、これまでのようにA級が最も強いという定義でも良かった。しかし、このように絶対的な強さを示すには上限を定めない定義が望ましいということだろう。
このような命名法一つをとっても人類の知恵が詰まっている。
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2回目の試作はやはり鋳造ではなく、鍛造で作ってみたい。
口径は引き続き握り拳程度の大きさだが、次は鍛造工房に依頼することを前提にして設計した。
銃身の長さは1回目の試作では肩幅程度であったが、それをもう少し伸ばすことができた。
もちろん、本当はもう少し口径を小さくしたい。
アートルム先生の魔法陣の小型化に進捗があれば……いやいや、愚痴を言ってもしょうがない。研究開発というのは成果が出ないこともあるのだ。
小型化を想定した図面は当面お蔵入り。
まずは鍛造を想定した図面で勝負だ。
ただ、製作の見積書をもらおうと問い合わせをするのだが、その加工を引き受けてくれる鍛造工房が見つからない。
最近の機械鍛造では金型を使って製品を作っている。
しかし、このような大口径の筒状の製品を鍛造で作るには金型では無理で、職人の技術が要求される。
職人であれば機械鍛造でも金型なしでなんとかしてくれそうだが、職人の数が最近急速に減ってしまったようだ。
それに魔法鍛錬までお願いしたいので、『ややこしい話はご免』と言った具合に話すら聞いてもらえない。
どうしたものか。そんなことを引き受けてくれそうな職人さんは――
ん??
そうだ!
ラルクさんにお願いしたらいいんじゃないだろうか?
魔法鍛錬もしてくれるし、技術も一流だ。
早速、ラルクさんに事情を記した手紙と設計図を送った。
『至急』との印もつけて。
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しばらくして、ラルクさんから手紙が届いた。
『2週間で製作可能。費用500万リブラ』
とのことだ。
……た、高い!
ただ、他に引き受けてくれそうな工房のあてはない。
プロケラ先生に相談するしかない。
先生の居室にお伺いすると、
「これで目標は達成できると思うかね?」
と聞いてきた。
「わかりません。本当はもう少し口径を小さくして、銃身を伸ばしたいです。ですが、この口径を前提にするなら、これが私の考えられるベストです」
変なハッタリを言ってもしょうがない。正直に答えた。
先生は設計図をしばし凝視し、
「よしっ! わかった。できることはどんどんやってくれ!」
と、あっさりと発注の決断をした。
……えっ? いいの? もっと問い詰めたりしないの?
もちろん許可を頂けるのはありがたいのだが、こんな大金が動く決断をあまりに簡単にされたことに拍子抜けだ。
それにしても、こんな大金を投じた試作品が失敗作だった場合、私はどうなるんだろう?
この図面で大丈夫なんだろうか……?
どこかで強度計算を間違っていなかっただろうか?
誰も再確認してないぞ?
そもそも、本当に自分のベストを尽くしたのだろうか?
急に恐ろしくなってきた。
胃の中にジュッと酸が滲むのを感じた。自らで胃に穴を開けそうだ。
しかし、私の表情の変化を見て取ったのか、プロケラ先生は急に大声で笑い出した。
「はっはっはっ! そんな心配な顔するな! 全力でがんばったんだ。責任は俺が取る。それが俺の仕事だ。カイちゃんは次の手を考えておいてくれ。今回は失敗でもいいさ!」
そう言って先生は私の背中をバンと音がするように叩き、
「研究は楽しいもんだ。もっと愉快に研究しろ!」
といって私を励ましてくれた。
そして、さらに何度も私の背中をバンバンと叩いた。
……うっ、い、痛い。
「あ、ありがとうございます!」
先生に精一杯のお礼を言い、先生の部屋を早々に退散した。
……ちょっと荒っぽい先生だけど、頼れる先生だな。
よし、じゃあラルクさんに試作の依頼だ!
今度こそ成果を出すぞ!




