第31話 学生部会・国際会議の発表練習
開発した魔法陣について報告する論文は無事に国際魔法陣誌《International Journal of Magic Circle》へ投稿された。『無事に』とはいっても、これからが本番。査読が問題なく終えることを祈った。
そして、後輩たちの卒論・修論発表会、魔材学会研究発表会と恒例の年度末の行事が続いた。
途中、先生からは『来年度は研究費の心配はなさそうです。魔研費の基盤Bで申請していた4年の研究プロジェクトが採択されました。博士研究員を雇用するほどの予算はありませんが、実験費用は確保できましたよ』との朗報もあった。
どうやら先生は基盤Aからいったん撤退し、基盤Bへの挑戦に方針転換したようだ。基盤Bは3から5年の研究プロジェクトで、予算は総額500万から2000万リブラの規模。ただたいていは申請額に対して決定額は2割程度減額されるため、最大規模の予算を申請しても4年だと年間400万リブラ程度の研究費となる。
これだと実験費用は賄えるが、さすがに博士研究員の給与を出すのは厳しいだろう。
いずれにせよ、文字通り研究室の基盤的な予算が確保できてよかった。
基盤Bも採択率は3割を切るらしいので、さすがアダマース先生、といったところだ。
---
----魔材学会研究発表会----
今回の学会はこの国の西側にある都市、ヒロセルマにあるヒロセルマ大学で開催された。
ヒロセルマ大学はヒロセルマの街はずれ、東端にあり、交通アクセスがイマイチである。しかし、その分キャンパスの敷地は広く、中に池や川があるほどだ。2年前に魔材学会が開催されたキュウセニル大学のキャンパスのイメージに近い。
ヒロセルマ大学は宮廷大学には分類されないが、研究力には定評のある王立大学である。
この大学の学生は入学時に強制的に改名させられ、その名前で在学中は過ごすという不思議な風習があるらしい。ただし、滞在中にその噂の真偽のほどを確認することはできなかった。
学会での自らの研究発表や、他の発表に対する質問もだいぶ慣れてきた。学会参加は本当に楽しいものだと実感できた。
また、トオヴェルロ大学のジャスくんといった同世代の研究仲間と再会し、一緒に夕食をとったりもした。
知り合いの学生や研究室の後輩を誘ったりしていたら想定外の大人数になってしまい、食事をする場所を探すのが大変だった。
ジャスくんは
「来年はせっかくなので他の研究室の学生も呼びかけて、もっと計画的にしませんか? 実は魔材学会の学生部会を立ち上げたいと思っているのですが、カイさん、発起人の一人として名前を頂けませんか?」
というものだから、
「もちろん!」
と快諾した。
私はこのような人を束ねる仕事は苦手だし、そもそも学生部会を作ろうという発想すらなかった。はっきり言って社交性はない。しかし、このような活動の大切さを理解した。
--
今回の魔材学会で何より研究室のメンバーを喜ばせたのは、ユリシカくんの学生優秀発表賞受賞であった。昨年の研究発表会で散々な目にあったが、見事にそれを払拭させる発表だった。
共著者として私の名前も入っていたので、一応、私も受賞者ということになった。ただ、これは明らかにユリシカくんの成果である。
嬉しい話題もあり、非常に充実した研究発表会であったが、残念だったのはマリさんがいなかったこと。キュウセニル大学はヒロセルマ大学に近いため、きっと参加するに違いないと思っていたのだが。会場にいないだけでなく、どの発表の共著者にも名前がなかった。
相変わらずキュウ大の教員名簿にも名前はなく、本当にキュウ大で働いているのかも心配になった。
---
新年度になり、博士課程2年となった。
恒例のアダマース先生による魔材学への愛溢れる独演会がゼミで開催されたころ、応用魔材国際会議の採択結果が返ってきた。
『貴殿の発表を口頭発表として採択します』
なんと……口頭発表になってしまった。
アダマース研究室からは魔材温度を考慮した魔法付与の強度模擬実験についても発表申し込みしていたのだが、これも口頭発表として採択された。こちらの発表の登壇者は修士2年となったケレエタさんである。
そのため、まずはゼミの時間に発表練習をすることとなった。
いつもの研究進捗発表であれば慣れたものであるが、国際語でとなると勝手が全然違う。
まずはセリフをすべて国際語に翻訳した原稿を作る。発表時間は20分で、うち5分が質疑応答の時間。そのため15分相当の原稿となると、意外と長い。作成に丸一日かかってしまった。
----
そしていざゼミでの発表練習。
結局、私はほぼ原稿を棒読みする形で国際語での発表を終えた。
先生は
「最初はそんなものです。何度も練習をして、慣れるしかないです。がんばってください」
と、発表内容ではなく私の語学力に対するコメントをした。
発表時は『おおよそ《approximately》』を『約《about》』にしたり、『しかしながら《nevertheless》』を『しかし《but》』にしたりするなど、自分で読みやすい言葉に置き換えるといいですよ、といった具合に、単語や構文についていくつか細かな助言も頂いた。
魔材の魔法鍛錬という画期的な発見の発表だと思うのだが、その発表内容よりまずは国際語をなんとかしろ、ということなのだろう。
自身の発表が終わり、椅子に座ると一気に疲れが出てきた。学部4年のとき、初めてゼミで発表したときの気持ちを思い出した。気が付いたら脇の下が汗びっしょりだ。
……後輩から『国際語が下手な先輩だな』と思われているだろうな
そんな無言の雰囲気を感じた。
そして、次はケレエタさんの発表練習。
私も共同発表者として名前を入れて頂いているので、しっかり聞かないと。
すると、彼女は流暢な国際語で突然プレゼンをはじめた。
発音がうますぎて聞き取れないほどだ。
その美しさにほれぼれしつつ、自らの無能さを恥じた。
私はなまり丸出しのド下手な国際語での発表。それに国際語での原稿が離せない。
……う、う、う……、恥ずかしい――。
国際語での発表練習を自分でしよう。
そう決心し、夜中、誰もいないディスカッションルームで発表練習を繰り返すことにした。
《現在の業績》
査読付き論文:1件(+投稿中1件)
国内学会発表:9件(うち、筆頭4件)
受賞:1件




