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第28話 魔材強化仮説の検証

 実地研修(インターンシップ)が終わり、センカディンに帰ってきた。

 山奥の避暑地のような場所から戻ったものだから、残暑が体にこたえる。


 まずは研究室に行き、貴重な経験をさせてくださったアダマース先生にお礼をし、そして成果を報告することにした。


 先生はいつものように研究室に籠っていた。


 私は喜び勇んで同系魔法付与による魔材強化の可能性について先生に報告したのだが、『やはりそうでしたか』との反応で脱力してしまった。


 ……えええ! 先生は知っていたの!? 自信の仮説だったのに――。


 そのことを先生に訊くと、

「いやいや、そこまではわかっていませんでした。ただ、魔材に同系統の魔法を付与する実験をしていると、誤差が大きいケースがあると感じていたのです。なので、これは誤差ではなく何か原因があるのでは、と以前から少し疑っていたのですよ。幸いにもウチでは魔力強度と魔力深度を測定できますから、もしそれが変数(パラメータ)なら測定できますしね」


「そうでしたか……となると、ニイナさんの実験結果が出た時にはだいぶ目途が立っていたということですか?」


「何かありそうだとは思いましたが、目途というものはないですよ。それに、壊れにくくなるだけで、通常よりも強化されるとは想像していませんでした。もしこれが本当なら大きな発見です。何れにせ、まだその現象を確認したわけではありませんから、実際に魔材が強化されるか実験してみましょう」


「わかりました。早速実験をしてみたいと思いますが、どの魔材でやりましょうか?」

 本当はラルクさんの製品を買ってきてそれを試験してみたかったのだが、目玉が飛び出るほどの金額だったので諦めたのだ。


「カイさんはどの魔材がいいと思いますか?」


 あ、きた。先生の逆質問だ。少し懐かしい。


「そうですね……ラルクさんの工房ではフェルミナイト金属でも魔材強化をしていたので、フェルミナイト金属はどうでしょうか。これが一番試料(サンプル)の価格が安いですから」


すると、先生はフフフッと笑った。

「いい判断です。実験にも金銭感覚がついてきましたね。現象を確認するだけなら安価な魔材でいいでしょう。それに広く流通している魔材ですから、魔材強化による社会への貢献も大きいことになるでしょう」


 なるほど、単に安価というだけでなく、社会への貢献も考えて実験対象を選ぶんだな――。



 ----



 そして、ひたすら実験をする生活が再開した。


 しかし、魔材強化の証明には『魔力深度と魔力強度がコントロールできない』という課題が重くのしかかった。

 せっかく異常値が出る実験ができても、それを再現できない。さらに、通常よりも強化できるのはおそらく相当ピンポイントな条件が必要なのだろう。破断に至るまでの回数が通常よりは増えるが、それでも破断してしまうのだ。


 そこで、まずは魔力深度と魔力強度をコントロールするための魔法陣開発に挑戦した。


 魔法陣の専門書を読み漁り、何度も試行錯誤する日々が続いた。



 ----



 実験に並行し、『魔物は濃い魔力濃度を望む』『魔力濃度が濃いほど魔物は強くなる』という話が本当か図書館で確認した。これに関しては簡単に『正解』との答えが出た。専門書と言わず、一般の書籍にも書いてある事実のようで、知らなかった私が無知だったようだ。


『ざんねんなまもの(・・・)事典』という子供向けの本にも『魔石が発する濃い魔力濃度につられて簡単に捕獲されてしまう第1級の魔物』といったお話があるほどであった。


 また、『大気中の魔力濃度が増加している』というのも事実だった。海外の研究者が大気中の魔力濃度を計測し、その事実を報告していた。


 魔力学の第1法則、魔力保存の法則から考えたら当然のことだが、それを測定している研究者がいることにびっくりした。


 ただ、魔物が強くなるほどの魔力濃度には(けた)が足りない状態だ。つまり、大気中の魔力濃度増加が魔物の強化に影響を及ぼしているとは考えられない。


 最悪の事態にはなっていなようで安堵した。




 ----

 ---数か月後---


 センカディンに雪が降るころ、魔力深度と魔力強度がコントロールするための魔法陣が完成した。


 先生は『これだけでも十分に価値ある成果ですね。ぜひ論文投稿しましょう!』と評価してくださった。ただ、まずは魔力による魔材強化という仮説の検証だ。


 いつもの実験装置に新たに開発した魔法陣を追加すると、実験装置はさらにごちゃごちゃして不格好になった。しかし、実験装置に見た目なんて関係ない。というか、個人的にはこのごちゃごちゃ感がある方が実験装置らしくて尊い気分になる。


 そしてフェルミナイト金属の試料(サンプル)をセットし、氷系魔法を付与していく。


 試料(サンプル)が破断したら魔力深度と魔力強度を再調整し、より破断しにくい条件を探していく――。


 非常に地味で時間のかかる作業であるが、徐々に破断するまでの回数が増加していくものだから、興奮がとまらない。寝食を忘れ、実験に打ち込むというのはまさにこのことだろう。



 そして数日後、とうとうその時はきた。


 何度魔法を付与しても魔材が破断しなくなったのだ。


 き、きたーーーーーーーーーーーー!


 誰もいない実験室だから、遠慮なく大声で叫んでしまった。

 そして、魔力深度などの実験条件をしっかり記録しておく。これまで試行錯誤したすべての実験条件は記録してあるが、興奮して一番大切な実験条件を記録仕損(しそこ)なったら一大事だ。


 しかし、まだ本当に魔材が強化されているかは試験してみないとわからない。


 幸いにも共通試験室の引張試験機は空いていたので、一般的なフェルミナイト金属とどの程度強度が違うのか早速比較してみる。


 試験機に試料(サンプル)をセットし、両端から徐々に引張荷重をかけていく。

 荷重の値を示す指針が目盛板の上を徐々に動いていく。


 ……頼むから、耐えてくれ!


 心の中で試料(サンプル)を応援する。


 すると、試料(サンプル)は一般的なフェルミナイト金属が破断する値を超えたあたりで破断した。


 強度は約2割増しと言ったところだろうか。


 うっし!!! ちゃんと強化されている!

 期待していたほどは強化されなかったけど……


 魔材強化に成功したという喜びと、もっと強化されていて欲しかったという若干の失望感が入り混じった感情。


 しかし、いずれにせよ実験は成功だ。

 まだ1回試験しただけだから、調整すればもっと強化されるかもしれない。それに他の魔材だと強化される度合いも違うかもしれない。


 二つに破断された試料(サンプル)を手に取り、これは一生の宝物になると確信した。普段なら破断した試料(サンプル)なんてダライ粉(ごみ)箱にポイっと捨てるものだが、これは違う。


 大切にその破片をポケットにしまった。


 それにしても、魔法による魔材強化。

 これを何と命名しようか?


 魔材を魔法で鍛えているから、『魔法鍛錬』かな。

 今、世界でこの現象をここまで知っているのはおそらく私だけだろう。

 命名は現象を発見した人の特権かもしれない。


 発見の喜びにひたりながらベッドに入った。


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