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第27話 インターン:刀剣工房

 刀剣工房はすぐ近くにあった。

 建物の中からはカン…カン…という金属を叩く音がする。

 初めてこの音を聞けば大きな音だと思うだろうが、さきほど機械鍛造の音を聞いた後だと明らかに小さい音だとわかる。しかも一つの金鎚(ハンマー)で作業しているのだろう、間欠的な音である。


 ミッターさんはずかずかと遠慮せず中に入っていくので、私もそれに続く。

 すると、職人が熱した刀を金鎚(ハンマー)で叩いているのが見える。


 「ラルク! お客さんだぜ。なんとセン大の博士様だ。お前がいつも言ってること、本当かどうか確認してくれるってよ! ちょっと見せてもらうぜ」


 ……ええぇ!! さらにややこしくなってる?


「い、いや、まだ博士では――」


 と言いかけたところで、


「好きにしろっ!」


 とラルクと呼ばれた職人はこちらをチラリともせずに怒鳴り声で応え、作業を続けた。


 誤解を解きたいところだが、真剣に作業をしている職人に声をかけることの方が(はばか)られた。作業が一段落するまでそっと見学しておこう。


 もう一人の職人が熱せられた金属塊を押さえ、まず小さな金鎚(ハンマー)で叩き、ラルクさんへ叩く場所を示す。そこへラルクさんが大きな金鎚(ハンマー)を振り下ろし、相鎚(あいづち)を打つ。


 ……確か、鍛錬(たんれん)という工程だったな。


 昔、教科書で習ったことを思い出す。

 大きな音が部屋中に響くが、さきほどの機械鍛造ほどの迫力はない。


 ラルクさんは大粒の汗を流しながら金鎚(ハンマー)を一生懸命何度も振り下ろしているが、形状変化は少しだけで、加工に時間がかかることが想像される。


 これは確かに生産性が低そうだ。

 ノスタルジーを感じさせる伝統技術としては価値があるが、こと現代においてそれ以上の価値は――。


 ……ん?


 金鎚(ハンマー)が金属にあたった瞬間に火花が飛び散るのだが、どうも火花の様子が変だ。単純に金属の破片が飛び散っている訳ではないようだ。


 も、もしかして、魔法!?


 実験室で何度も見てきたからわかる。

 これは確かに魔法付与によるものだ。

 よく見たらラルクさんは小さな声で何かブツブツ言っている。たぶん魔法を詠唱しているのだろう。


 でも、なんでそんなことをするのだろうか?

 魔材に魔法を付与すると内部組織から破壊されることは魔材力学では常識だ。

 それがたとえ弱い魔力量であってもだ。


 それをこんな何度も何度も魔法付与していたら、そのうちこの魔材は内部崩壊するはず――。


 しかし、しばらく見ていてもこの魔材は痛む様子が無い。

 それなりの魔力量で何十回と叩いているのに。

 どうやら魔法は土系のようだが、この魔材は何だろう?


 疑問ばかりが沸いてくる。


 金属の塊は徐々に刀の形になってきた。


 ラルクさんは金鎚(ハンマー)を小さなものに替え、さらに形を整えていく。

 この間もずっと魔法を付与しているから、体力的にも魔力的にも相当つらいはずだ。


「そろそろどうだい? 何か言ってやったらどうだ?」

 ミッターさんがしびれを切らしたように声を発したが、私はまだまだ見ていたい。


「すみません、最後までしっかり見たいです」


「そ、そうか……」



 しばらく見入っていると、ほぼ最終的な刀の形になった。


 ラルクさんは刀に粘土のようなものをつけ、熱いままの刀を水の中に一気に入れた。“焼き入れ”だ。刀が水の中でゴオオォー! と大きな音を立て、水蒸気が発生する。


 そして水の中から取り出した刀をさっと布で拭き、その刀身をゆっくりと吟味した。


「ふぅーーーー」


 深いため息をして、最後にやっと私たちを見た。どうやら一段落したようだ。


「で、どうだったんだ?」


 ラルクさんが訊いてきた。


「すみません、わかりませんでした」

 今の素直な感想だ。


「ああ、そうだろうよ。学者さんにはわからねぇだろうよ」


 ……ん、ちょっと(しゃく)(さわ)る言い方だ。でも落ち着け。


「たぶん魔法――、それも土系の魔法を付与されていたと思いますが、それがなぜなのか――」

 私はわかっている範囲のことを伝えた。


 ラルクさんの眉間にしわが寄ったが、何も言わない。

 とにかくわからないことを聞いてみよう。


「その刀は何という魔材を使っているのでしょうか?」


「……モグナイトだ」


 えっ!

 モグナイト金属!


「モ、モグナイト金属ですか! モグナイト金属は土系ですよね? 土系の金属に土系の魔法を付与するんですか? 同系統は抵抗力があると言っても魔法を付与したらそのうち破壊されますよね? 何で壊れないのですか? しかも決して微量ではない魔力量だったのに――」


「ふん、お前らにはわからんだろう。教えるつもりはない」


 お前らって――もしかしてミッターさんと同じ一味と思われている?

 いや、それ偶然だから……。人は第一印象が大事っていうけど、最悪の出会いをしてしまったようだ。


「そうですか……では、またお邪魔させて頂くことはできないでしょうか? この技術をどうか研究させてください! お願いします!」

 とにかくこの現象をもっと見てみたい。


 私の真剣な眼差しを信じてくれたのか、ラルクさんは少し考えた後、

「……好きにしろ」

 と許可をくれた。


 よし!


 カーサカ精錬工房で実地研修(インターンシップ)をする間に、何日か休んでここに来よう。


 ----




 あれから何度かラルクさんの工房で作業を見学した。


 相変わらず詳細は教えてくれないため、その理論的背景はまったくわからない。しかし、氷系のフェルミナイト金属には氷系の魔法を付与していたので、どうも魔材と同系統の魔法を付与しているようだ。


 一心不乱に魔材を鍛えるラルクさんを見ながら思案する。


 同系の魔法付与。

 そんな実験をしたことあったっけ?


 ん?


 確かルリミニウム金属は氷系の魔材。

 それに氷系魔法を付与するのがニイナさんの実験だった!


 そうだ。あのとき、特定の魔力深度で特定の魔力強度の魔法を付与すると、妙に破断に至るまでに時間がかかった。

 

 これが関係していそうだ。


 ただ、何れにせよ実験では試料(サンプル)は破断した。つまり、強化されることはなかった。


 でも、ラルクさんは『強化される』と言っている。確かに、相当の魔力量を何度も付与しているのに、刀は崩壊していない。この刀が通常の魔材よりも強いかどうか、試験してみないとわからないが強化されている可能性がある。


 もしかしたら、よりピンポイントで魔力深度、魔力強度を指定すると、魔材が強化されるという現象なのだろうか?



 ---


 作業が一段落したようなので、この仮説をラルクさんにぶつけてみる。


「さあな。魔力深度やら魔力強度やら、そんな言葉は俺は知らない」


 回答はそっけないものだった。残念。


「ただ、俺はそれを共鳴(きょうめい)と呼んでいる」


 !!


 魔材の持つ固有の魔力深度と固有の魔力深度に合わせた魔法のことを共鳴と呼ぶのだろうか?

 それとも他に変数(パラメータ)があるのだろうか?

 いや、波長のような全く別の概念だろうか?



 新たな疑問がどんどん湧いてくるが、もし本当に魔材の強化ができるなら画期的なことだ。


 こ、これはすごい研究テーマになるんじゃないのか?


 できる限り他にもラルクさんに教えてもらおうとしたが、『親父から教えてもらって、感覚で覚えた』『魔材の気持ちに合わせればいいんだ』という回答を得るのが精一杯で、理論的背景は一切わからなかった。



 しかし、これはアダマース先生からの課題に部分的には応えられそうだ。そして、何より博士論文の研究テーマになるほど、面白い現象かもしれない!


 ラルクさんは『研究したいなら好きにしろ。発表してもらってかまわない』と言ってくれているし。


 早く図書館に戻り、先行研究の確認がしたくなった。



 今は家からでも大学図書館にVPN接続して論文検索・閲覧ができるので本当に便利になりました。


 昔は図書館で分厚い論文集を手でめくり、先行研究の確認をしていました。関係しそうな論文を見つけたらまずコピーなので、コピー代だけでも結構な金額になりました。時間もかかるし見落としミスも発生しやすいし、今考えるとよくやったもんだと思います。もちろん論文投稿は郵送なので、それだけでも時間がかかりました。


 ただ学生時代に電子化の波がきて、一気に楽になりました。今は学会の論文集もどんどん電子化してます。ちなみにJ-STAGEというサイトで多くの国内の学術誌が閲覧できます。


J-STAGE

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja/


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