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第25話 インターン:魔鉱山の開山

 朝、事務所前に行くとそこには装甲魔動車が3台停まっていた。そして、その周りには重武装した兵士が十名近くいる。歴戦の剣士に魔術師といった風貌だ。


 本当にこの集団だろうか?

 まるで戦場に行くみたいじゃないか。


 しかし、その集団の中心にはあのスパルフさんがいる。


 やはりこの人たちと一緒に行くのだ。


「カイ! 遅いぞ!」

 

 スパルフ所長の大きな声がした。


 「も、申し訳ありません!」


 急いで駆け寄ると、早速朝のミーティング始まった。


「今から出発前のミーティングを行う。本日はγ(ガンマ)6地点の開山作業に向かい、進捗確認を行う。また魔物排除のため先遣(せんけん)された警備隊(ガード)のための補給物資搬入も行う。日没までには戻るため、素早く行動するように。メンバーは指揮役の私・スパルフと、警備隊(ガード)が9名、技師が1人、そして初心者(ルーキー)が1名である。万一の際には初心者(ルーキー)の保護を最優先で考えるように。では安全注意事項を伝達する」


 そういうと、魔物と遭遇した場合の体制など、細かな指示をテキパキと出していく。

 

 ……ほ、本当に安全なのか? 大学にいたら絶対にできない経験であることは確かだが、ここで死にたくはない。一応、最優先で守ってくれるようだけど――緊張で体が硬くなる。


 それにしても、この傭兵のような人たちは警備隊(ガード)と呼ばれているようだ。警備隊(ガード)と呼ぶにしては屈強な兵士たちのように見えるが。


 警備隊(ガード)の人たちは慣れたもので、肩の力も抜いてリラックスしている。


 そして、最後は警備隊(ガード)の人たちが二人一組になり、

「武器よし!」

「防具よし!」

治療薬(ポーション)よし!」

「ご安全に!」

 と相互に装備を指差喚呼(しさかんこ)してミーティングは終了となった。

 

 どうやら『ご安全に!』というのは挨拶の一種のようだ。


 

 ミーティングが終わると全員が3台の装甲魔動車に分乗し、出発である。

 私は2台目の装甲魔動車にスパルフさん、技師、そして1名の警備隊(ガード)と乗ることになった。残りの警備隊(ガード)は前と後ろの車に分乗し、私たちを護ってくれるようだ。


 装甲魔動車は順調に森を切り開いた山道を進むが、やはり落ち着かないのでスパルフさんに聞いてみた。


「まるで戦場に行くみたいですが、本当に戦闘になったりするんでしょうか?」


「はははっ! そりゃ山奥に行けば魔物はいるにきまってるじゃろ。ただ安心せい、この警備隊(ガード)たちは軍の正規兵をヘッドハントして雇った熟練のものたちじゃ。第6級の魔物でも倒せるぞ。さすがに第7級がきたら逃げ帰るしかないが、逃げるぐらいならできるぞ」


 そうか、どうりで歴戦の兵士のように見えたわけだ。


 それと、もう一つ聞いておきたいことがある。これは技師の方に聞いた方がいいかもしれない。


「あと、初歩的な質問で申し訳ないのですが、そもそも鉱山の存在はどうやって調べるのでしょうか?」


 すると、技師の方は答えてくれた。

「魔物は魔力濃度の濃い場所が好きなんだ。だから、魔物が集まっている場所は魔力濃度が高い、つまり魔鉱石や魔石がある可能性が高いんだ」


 「なるほど、つまり魔鉱石の鉱山を開山するときは魔物との戦いが避けられない、ということでしょうか?」


「その通り。そして、魔力濃度の濃い場所ほど魔物は強化される。だから良い鉱山ほど開山時は大変なんだよ。強い魔物が鉱山を守っているからね。それに最近は鉱山もどんどん奥地へと移っているし。楽な仕事じゃないよ」


 そんな話をしていると、急に車が止まった。

 山道がなくなったようだ。


 「よし、降りろ! ここからは歩くぞ!」


 スパルフさんが声をかけると、警備隊ガードたちは大量の食料や治療薬(ポーション)の入った背嚢(リュック)を背負った。


「えっ! 現場まで道がないんですか?」


 私は思わずスパルフさんに聞く。


「当たり前じゃろ! 新しい鉱山になんで道があるんじゃ?! それこそおかしいじゃろが」


 ……うーん、言われると確かにその通りだ。でもこれは想像よりも大変だな。


 すると、既に5台前後の装甲魔動車が停まっていることに気付いた。

 たぶん先遣(せんけん)された警備隊(ガード)のものだろう。


 私たちはそこから2時間ほど獣道のような山道を歩き、やっと『現場』に到着した。

 それにしても、普段から大学まで歩いて通っていて良かった。これとは比較にならないが、毎日坂道を歩いていたのでなんとか隊列についていくことができた。


 ---


 『現場』と呼ばれたそこは、魔物との戦いが終わった後であった。

 ところどころに巨大な焦げ跡があり、強力な炎系魔法が放たれたことがわかる。


 そして傷だらけとなった警備隊(ガード)たち20人程度を発見した。

 剣士や魔術師といった風体(ふうてい)をした集団は一様に疲れ果てたように見えるが、テントを中心に円形の陣を作り、魔物の襲来に備えている。

 

 ……こ、これが魔物との戦闘か――。私はただただ恐怖でその場に立ち尽くしていると、


「おお、増援が来たぞ!」


 と私たちに気付き、元気のある者たちが集まってきた。


 スパルフさんは

「よおがんばった! 負傷者は休んでおれ! 体力のある警備隊(ガード)治療薬(ポーション)の配布を手伝え!」


 と次々と指示を出していく。


 そして、先遣(せんけん)された警備隊(ガード)の隊長らしき人と話を始めた。おそらく報告を受けているのだろう。


 私はまだこの状況を飲み込めず、機敏に動くスパルフさんや警備隊(ガード)の動きを呆然と見ていた。


 すると、


「おい、お前は新人(ルーキー)か?」

 と傷だらけの警備隊(ガード)が声をかけてきた。


「まあ、そのう……」

 私は混乱して状況をうまく説明できない。


 しかし、その警備隊(ガード)は話を続けた。

「すまねえな、たぶん4頭ぐらい暴風蟋蟀(グリュッルス)――第5級の魔物を逃がしちまった。第6級の炎龍(ブレイズドラゴン)がいたからな。爆火炎風(ブラストフレイム)を避けるので精一杯だったんだ。また元老院から怒られるだろうが、許してくれ」


 ……ん?


「……ど、どういうことですか?」


「知らねえのかよ、逃げた魔物は強い魔力のあるところへ引き寄せられる、つまり街へ行く確率が高いってことだ。最近の街は魔動車や家庭用の魔道具とかで魔石を使いまくってるから、魔力濃度が高いだろ」


 えええっ! 街を襲う魔物ってここから来ているの?

 それに街の魔力濃度が上がっているとはどういうことだ?


「スパルフさんは元老院を黙らせるのが自分の仕事だって言って俺たちのミスを怒らねぇが、苦労してるみたいだからな。かなり現ナマを使って黙らしているらしいが、いつまで持つか。そもそも、魔物が強くなってきているのに警備隊(ガード)の数が少なすぎるんだ。なんで本部(ヘッド)の連中はここに予算を割かねぇんだ。売り上げも急増して儲けまくってるのによ――ああ、すまん、新人(ルーキー)に言ってもしょうがないわな。まあうまくやってくれ。ご安全に!」


 そう言って警備隊(ガード)治療薬(ポーション)をとりに歩いていった。


 ちょ、ちょっと待ってくれ。情報が多すぎる。意味がわからない。


 でも、何か聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。

 元老院に現ナマ?


 これってもしかして汚職ってやつ?


 私は博士課程の研究課題を探しにきたのに、社会課題を見つけてしまったのか?

 どうしたらいいんだ?

 どこかの新聞社に告発すべきなのか?


 でも実地研修(インターンシップ)の守秘義務については昨日確認されたばかりだ。自分から『知りえた情報を漏洩しない』と宣言したではないか。


 それを早速破っていいのか?


 それに、あくまで一人の警備隊(ガード)の話で合って、証拠と言える物は何もない。


 戦場にはじめて触れたという混乱と、さきほどの話で何も考えられない。

 疑問ばかりが頭の中をぐるぐる回る。


 ただ、この現場はあまり長居しない方が良いように思える。

 予定を早めて次の実地研修(インターンシップ)先に行くことにしよう。






 現場を見せて頂くと、たまに『見てはいけないもの』を見てしまったり、『気付いてはいけないもの』に気付いてしまうことがあります。技術者倫理について学んでいても、“正しいこと”の実践は本当に難しいです。

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