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第24話 インターン:魔鉱石の採掘

 早いもので、夏休みになった。

 前期の間はほぼ後輩の学生指導と例の共同研究に時間を当てており、自分の研究はほとんどしていない。研究室運営に関してはだいぶ自信をもってできるようになってきたが、肝心の博士論文の内容がまだ無い。


 早々に投稿論文を1本確保したのはいいものの、さすがに修士論文と同じ内容を博士論文の主な内容にはできないし。


 アダマース先生は実地研修(インターンシップ)に行けばきっと研究テーマが見つかるとおっしゃっていたが、本当だろうか。かなり心配である。


 そういえば、『あのニイナさんのためにやっていた実験のこと、まだ覚えていますか? これについてもしっかり考えてきてください』と念を押されたっけ。


 まあ、これについては実験を再開できる予算が確保できたので、実地研修(インターンシップ)が終わったらルリミニウム金属の試料(サンプル)を購入し、もう少し丁寧に実験データを収集してから考えよう。


 そんなことを考えているうちに、私は最初の実地研修(インターンシップ)先であるガレンコア工房のカーサカ事務所に到着した。


 ガレンコア工房は世界有数の魔石や魔鉱石の採掘をしている工房である。

 そして、カーサカは山の中にある鉱山都市。とてつもない山奥にあるにも関わらず、多くの人で賑わっているのにびっくりした。周辺の鉱山から運び込まれる魔鉱石を精錬し、魔材を製造する大きな工房があるからだろう。大量の魔鉱石を荷台に積んだ大型魔動車がひっきりなしに道を走っている。

 また、完全武装の兵士が多くいることにも気づいた。いや、装備がマチマチだから、正規軍の兵士ではなさそうだ。たぶん魔物が多く出現するため、傭兵や冒険者が多くいるのだろう。


 いつもの平和な街とは違うことに気付き、思わず緊張する。


 私は立派な事務所の門をくぐり、受付らしき所に行く。

 事務所の中は山奥とは信じられないぐらいに高価そうな美術品や絵画が陳列してあり、気圧されそうになる。


「こんにちは。センカディン大学のカイ・ウェントスと申します。ここで実地研修(インターンシップ)をさせて頂く予定です。マグヌス・スパルフ所長はいらっしゃるでしょうか?」


 私はそう言って、アダマース先生からの紹介状を渡した。


 受付にいた男性の方は


「よくいらっしゃいました。話は伺っています。こちらへどうぞ」


 と言い、私を部屋へ通してくれた。


 通された部屋には体格の良い白髪の男性がいた。身なりの良さから、おそらく地位の高い人だと想像できる。


 受付の男性は『ご安全に!』という言葉を残して退室していった。


 ……ん? どういう意味だ? 何か危ないことが今から起こるのか?


 しかし、それを確認する間もなくその老人が話しかけてきた。

 「長旅ご苦労じゃった! カイくんかな。先生から話は聞いておる。マグヌス・スパルフじゃ」


 微笑みながら所長は挨拶した。

  

 ……良かった! ちゃんと実地研修(インターンシップ)ができそうだ。もしこの山奥で放り出されたら途方に暮れるところだった。


「はじめまして、センカディン大学の博士課程1年のカイ・ウェントスです。実地研修(インターンシップ)を受け入れてくださり、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」


 まずは挨拶をしっかりする。現場ではとにかく大きな声で挨拶。これを忘れるなと先生から言われていたのを思い出した。


 「まあそんな硬くならなくてよろしい。セン大からは何人も技師としてウチにきてもらっているからの。さ、遠慮なく座ってくれたまえ」


 そして、さきほど受付にいた男性がお茶をだしてくれた。


 改めて部屋を見渡すと、机の上には地図があり、青や赤の小さな魔石がキラキラ光っている。


「ありがとうございます。ところで、これは何ですか?」


 気になるので早速聞いてみた。


「それは鉱山の位置を示している地図じゃ。青が採掘活動中。赤は未開拓の鉱山。そして黒は採掘が終わり、閉山(へいざん)した鉱山を意味しておる。確かキミは魔鉱石の採掘に関心があるんじゃったな? ならばどこか青色の鉱山に行くのが良いじゃろう」


「はい、ぜひ採掘がどうやって行われているか、現場を知りたいです」


 すると、一か所だけ白く点滅している魔石があることに気付いた。


「この白い点滅は何ですか?」


「それはちょうど開山(かいざん)のための作業をしている鉱山じゃな。まだ本格的な採掘活動が始まっておらんから、見学に行くにはちとばかし早いじゃろな」


 ……開山の作業? なんだかそちらの方が気になる! そもそも魔鉱石の鉱脈(こうみゃく)ってどうやって発見するのだろう?


「そうなんですか……ですが、その開山の作業というものにも興味があります。そちらを見学させて頂くことはできないでしょうか? おそらく、あまり機会のないものでしょうし……」


 ダメもとで聞いてみた。


 スパルフさんは少し考えた後、

「んんん……。実は明日からワシがそこに行く予定なんじゃ。確かにそう機会があるわけではないからの――絶対にここで知ったことを口外しないと約束できるかの?」


 ……お!? どんな機密情報が隠されているのだろう? 余計に興味がわく。


「もちろんです! 実地研修(インターンシップ)知りえた情報を漏洩しない、という誓約書は提出してあります。守秘義務はしっかり守ります」


「よし! わかった。じゃあ明日の朝、もう一度ここに来い。そしたら連れてってやろう」


 やったっ!! 心の中で喜ぶ。


「ただ、その格好はダメじゃ。ウチの安全服を貸してやるから、それを着てくるように。それと、明日までにこれを読んでおくんじゃ」


 そういうと、私に『現場安全管理教本』と書かれた小さな冊子を渡した。


「わかりました!」


 私はできるだけ大きな声で返事をした。


「よろしい。では明朝じゃな!」


 そういうと、私に退室を促した。



 ----


 その夜、私はガレンコア工房が手配してくれた宿舎に泊まった。


 宿舎には安全服と称する服が届いていた。

 しかし、これは服というよりも防具に近いものである。冒険者をしている魔術師などが着るようなもので、物理的な攻撃だけでなく魔力への耐性もある高価なものだ。


 そして、安全服と一緒に“安全靴” “安全帽”と称した魔材で作られた靴と帽子も届いていた。


『現場安全管理教本』を読むと、『現場では就寝時も含めて許可がない限り安全服を脱がないこと』といった記述もある。


 現場はどの程度危険なのだろうか?


 心配になるが、所長と一緒に行動するのだ。

 さすがに老人である所長に危険が及ぶようなことはないだろう。


 そう信じてついていこう。






 インターンシップは現場を知る良い機会ですよね。私が学生だった頃は就職活動との関係は薄く、純粋に研修として受け入れてくださったような気がします。今はほとんど就活のような状態ですよね……。


 ちなみに『ご安全に!』という挨拶の存在を知ったのもインターンシップのときでした。建設業や鉱業、鉄鋼業、電力などいろんな業界で使われていますね。

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