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隻眼の戦乙女  作者: ラリックマ
平和は突如として崩れ去る
9/11

バケモノ

 私と私の妹の体は、昔っから少し人とは変わっていました。


 まず一番おかしいのは、食事を取らなくても良かったことです。パンやミルクなど、普通の人が食べる食べ物を胃の中に入れると、私たちはすぐに吐き出してしまうのです。


 あと、人よりも五感が優れていました。普通の人なら見えない距離にあるものが見えたり、人から漂う微かな匂いを感じとれたり、遠くの音を聞けたりと、何かと常人離れした子供でした。


 でも私は、そのことを他人にひけらかしたりせず、むしろ隠し通しました。それは昔、私がママに酷いことをしたからです。


 私は生まれてこの方、親の愛情というものを知らずに育ってきました。ママはいつも、黒髪で顔つきがママに似ている双子の妹であるサキナばかりを可愛がって、白髪でお母さんとはあまり似ていない私には目もくれないのです。


 それどころか、私には日常的に酷い言葉を浴びせたり、暴力を振るったりしてきました。


 どうして私ばっかり? って、常にそんなことを考えていて、ずっと妹のサキナを恨めしいと感じていました。

 

 なんで私ばっかりこんなに虐げられなくちゃいけないのか。どうしてよりにもよって私なんだ?


 どうしてママは、私のことをそんな、憎むような酷い視線を向けてくるんだ?


 いらいらいらいらと、なんて表せばいいのかわからないドス黒い感情が芽生えて、遂にその感情がある時爆発しました。

 

 それは、いつも通り私が配給のミルクをママの元へ持って行こうとした時のことです。


 ぼろ家である我が家は、あまり丈夫ではないのです。歩くたびに、ぎしぎしと壊れそうな音を奏でる我が家の床。

 

 そんな我が家の床が、よりにもよってミルクを持っているとき、しかもママの目の前で崩れたのです。


 バキィと痛々しい音を出して床は片足分抜け落ちてしまい、私はその場で転んで床にミルクを撒き散らしました。


「あ……」

 

 咄嗟のことに謝罪の言葉が出てこず(ほう)けていると、ママは鬼のような形相をして私の胸倉を掴み、思いっきり頬を叩きました。


 なんどもなんども強く頬を叩かれ、口の中に鉄の味が染み渡りました。


 なんべんもなんべんも酷い言葉を浴びせられ、私の心はズタボロになりました。


 なんで私ばかり、なんで私だけが。


 そんな時、私の中の何かがプツンと切れる音がして、気がついたら叫び声と同時に、私の胸倉を掴んでいたママの両腕を握り潰していました。


 ぎゃあああああと痛ましい叫び声をあげるママに、私はなんてことをしてしまったんだろうと冷静になります。

 

 無残に潰れた両腕を目視して、私は自分の体が心底怖くなりました。


 なんなんだ私は? どうしてこんなにも人とは違うんだ? バケモノのような自分の体が怖くなった私は、その日以来、人前では常人のように振舞おうと決意しました。


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